戦場は自分との戦いだ。憎悪が舞い散る死の連鎖、仲間達の悲鳴と死の熱気、敵からの死への片道切符…数多の死を乗り越えて前に進まなければならない。
魔法…それは大陸魔法協会が設立される前から知られている。平和な時代である時と違い、魔法を使用する者は魔族と同類とされ迫害された歴史がある。大魔法使いフランメによって魔法を世に知らしめるという禁忌を破らなければ、人類の魔法の発展は大きく遅れていただろう。
だが魔法が発展したところですぐに魔族に抵抗できるわけがない。魔族は生まれながらにして空を飛び、魔法を使い、人類では解析もできない魔法(呪い)すら容易く扱う化け物だ。何より魔法使いになれる人間は限られる、同じ土俵で戦うにしても人類の魔法が発展途中である時期では魔族の魔法に抵抗すらできずやられていた。
家族のため、仲間のため、国のため、戦場に立つ者たちはそれぞれの思いはあれど求める事は変わらない。生きたい・勝ちたい・負けたくない…希望を持ちたい。
「負傷者は後ろに下がれ!」
「隊長、も、もうッいてェ…」
戦場で部隊長とその部下たちが魔族との最前線で未だ戦っていた。部下の男性の一人は脇腹を負傷しているらしく血がにじんでいる。
「お前は帰ったら結婚するんだろ!式も準備してるって言ってたじゃないか!」
「あ、もう子供は7人いてデキ婚です。式の予約が取れなくてできてないだけです」
「よし!やり残した事はないようだな!」
戦場は地獄だ。上空から魔法で狙い撃ちされ、抵抗戦力も消耗し既に魔法使いの部隊は壊滅。
「レビーナすまない、子供たちを頼む」
「バイオット…サッカーチーム、あと4人だったな…」
「ミオーネ、28人目は無理そうだッ」
「結婚してんのかよ、俺以外の奴は…」
「隊長にもいい出会いがありますって」
「そうだな…小柄だがそれでいて家庭的で、俺を子供扱いできるぐらいの強さと優しさとバブみがある嫁さんに出会えるよな!」
「うわ…」
もはや一刻も早く撤退するしか彼らに生きる希望はない。だがそれを敵が許すはずもない…上空からの攻撃に備えた防空壕のようなスペース。そこに男たちは集まり、隙間から攻防を繰り返しなんとか凌いでいる状況である。
『そこにいる人間。今出てくれば命だけは助けてやろう』
「…隊長」
「騙されるな!魔族は嘘しか言わないっ!」
「で、ですがもう補給も」
補給線は既に絶たれ、反撃用の武具も消耗している…このような絶望的な状況を打開できる策はあるのか?いいやない…そして、このまま魔族の言うとおりに出れば殺される。約束を守る魔族なんていやしないのだ。
だがしかし!
『なにッガハッ!?』
『なんだこいつらッグあ!?」
外から突如魔族たちの悲鳴が聞こえだしたのだ。状況を確認しようと外を恐る恐る隊長と呼ばれた男が率先して顔を出すと…希望がいたのだ。
「間に合ってよかったよ」
来た…来た!勇者が来た!戦場に現れた青い髪をなびかせた美男子がいた!
「あまり長居はできないぞ」
「まったく、魔族の進行が激しくなる前に行きますよ」
「ヒンメル無茶し過ぎだよ…大魔族が近くにいるって伝えたのに」
勇者たちは現れた!戦士アイゼン、僧侶ハイター、魔法使いフリーレンを引き連れて!
「あ、貴方は確か!」
「ふっやはり僕たちはもう有名みたいだね」
「王様に無礼な行いをした勇者候補」
「…あー、あの場に?」
「出発前に処刑されかけた男だからな有名だよ!酒場で話してた兵士が笑いながら話してるのを聞いたハハハ…いやだが、助かったよ。もう死ぬかと思っていた、ありがとう!」
「ああ、どういたしまして…まさか、こんな場所でその事を知ってる人に会うとは思わなかったよ」
「まだ戦場なんだけど…また来たよ、どうやら大魔族もこっちに・・・ん?減ってる?」
「どうしたフリーレン」
「いや…大魔族の近くから順に魔力が消滅していってる…魔族同士で殺し合い?なんでッ上だよ!」
フリーレンは戦場で魔力を探っていた。魔族の位置を確認するために…するとなんということか!上空が光り輝いてるではないか!
「ヌっ落ちてくるか…違う…あれは…技?」
「随分と派手な演出ですね」
それにいち早く気が付いたのは戦士アイゼンの眼力だった!両手で相手の両腿をつかみ、相手の頭を自分の肩口に乗せて固定して落ちてきている!落ちて来たからこそ見えだした!黄金に輝く兜が光に照らされ辺りを黄金色へと輝き放ち続けている様に!それは戦場にとって意識を集中させるに等しい
「ッこれはもう一人の大魔族の魔法か!魔力が散らされてッ」
それにいち早く気が付いたのは魔法使いフリーレンだった!落ちて来た魔族達を囲むように四角結界、更にそれを囲むように丸い円状の結界も張られたのだ!
マハトバスター
アァァアアーーー!?
ガガン!と聞こえるほどの衝撃が大地に迸る!同時にボキボキと聞こえる嫌な音、それは掴まれていた魔族の全身という全身から聞こえた音だった…その数秒後、その魔族は塵へ返った…。それを確認した黄金の仮面の存在も起き上がる。
「…これでよかったのか」
その言葉を呟いて。
この先は戦場地帯となる。そう聞いたのはもう何度目かのマハトへの訓練時のことだった。シュラハトがマハトに教えていたのだ、同時に私へ伝えるために。
「そう、それで?」
「俺とアウラも参戦してほしいそうだ」
「いやよ」
「そうだな」
今更何を言うかと思えばこれだ。ありえない、ジャスティスアウラである彼女が人類と魔族の戦争に出る?それは審判者として、
「兜とマスクは付けたままでいいそうだ」
舐めているのか!アウラは激怒した、必ず、かの邪智暴虐の魔族に塩試合を申し込むと決めた!シュラハトは心を知らぬ、魔族故に誇りも知らぬ、そもそも魔族全体が知らぬ!
「俺とアウラがその戦場に出ることで俺の平穏は近づくと言っていた」
「そう!それに釣られて参戦するって言ったのかしら!」
「俺が戦場に出ればいつの日か丼のレシピを開発するらしい…この間言っていた牛丼のことじゃないのか?」
それは衝撃!アウラの動きは止まった…
牛丼!
アウラにとってその言葉は重い!思い!
駄目だぞアウラ!ジャスティスアウラよ!志はどうした!
「やってやるじゃない・・・私たちは偶然戦場に舞い降りたジャスティスな魔族よ!」
「そうか、ならよかった。俺の平穏が近づく」
「魔王軍への攻撃をするのよ?人類に攻撃しては駄目よ?」
「なぜだ」
「私たちがプロレス技かけたら死ぬでしょ!それにシュラハトは参戦しろって言ったけど、どっちの方かは伝えていない…そうよね?」
「そうだな」
「…あんたね!少しは関心待ちなさいよ!私が人類と魔族のことを真剣に考えてるのに!」
「純粋にどうでも良い」
やはり魔族か…自分の事を優先してしまった。これでは審判者の立場を捨てたも同然だ。
「…戦場に出てくる魔族は人間をどう思ってるかしら?」
「敵か食料だろうな。中には遊びとして持ち帰るらしいが俺は知らん」
「よし!なら負の遺産よ、後世にのさばらしちゃいけない輩よね!
「そうなのか?」
「そうよ!だからこれもジャスティスよね!」
「そうだな」
「私は私なりの答えを探した結果よ!」
なんか正義だからいいのかジャスティスアウラよ!マハトも興味なさげに相打ちを繰り返しているだけだぞ!
「じゃあ、マハトは黄金仮面としてキン肉バスターで落下して決めなさい。私の魔法で援護するから」
「そう…なんだって?」
空を飛ぶ魔族が突如として降りて…否!落ちて来たのだ!まるで翼をもがれた鳥のように!それを行ったのは黄金の兜を身に着けた一人の魔族!人々は警戒する、その中で特に警戒しているのは魔法使いフリーレンだった。
「七崩賢のマハト・・・まさか、戦場でまた出会うなんて」
片腕から感じた幻痛…かつてマハトによって黄金の呪い、『
ハワー!
…特徴的な掛け声と共に蹴り飛ばしたのであろうそこらの魔族と共にピンク髪が見えるこれまた不思議なマスクをした魔族もこちらに来た。内在する魔力量はマハトより劣っているが、肉体に魔力を回しているのが魔力探知でわかり、まるで魔力を隠すと違ったアプローチで誤認しかねない行為をしている魔族だった。
「あ、あのマスクは!もしやジャスティスアウラ殿か!」
兵士の隊長を皮切りにいつの間にか出てきた隊員たちがジャスティスアウラについて話しだした。曰く、人類を助けるために、曰く、正義の為に…魔族がそんなことするはずない。耳障りなまやかしだ。
「へえ…あの魔族が」
「ヒンメル、魔族は人間を騙すために」
「でも多くの者たちが彼女に助けられたんだろう?ここに来るまでにも吟遊詩人が歌っていたじゃないか」
私たちの言葉が聞こえたのか…魔王軍の魔族にチョップを叩きこみ消滅させてからこちらを向いた。
「そうよ、私がジャスティスアウラよ」
「…黄金仮面のマハトだ」
「ヒンメル、あれは七崩賢の一人マハトだ。もう片方も強いよ」
「俺は黄金仮面のマハトだ。七崩賢のマハトじゃない」
「私たちは助けに来たんじゃない、魔王軍でもないし、人類の味方でもない。勘違いしないでちょうだい」
「ではなんだと言うのだ」
辺りの魔族を殲滅していた戦士アイゼンと僧侶ハイターがマハトとアウラの後方を囲むように合流する。それに気づいていたマハトがアイゼンの問に答えた。
「平穏と丼のためだ」
「…なんだって?」
『な、なぜ大魔族様が我々を!』
『大魔族様!ご指示を』
「あの技をやるわよ黄金仮面」
「…やるのか、今ここで」
二人はこちらに声をかけて来た魔族達に近づいた!悠長に話していたがここは戦場!知らぬ間にアイゼンたちが殲滅していたが、生き残りがいたのだ。そして大魔族にすり寄った、この場で強い魔族の存在へと!しかしそれはうかつ!終わりへの片道キップだ!
アウラたちが動き出すと勇者たちは警戒するが、こちらに来ず魔族同士でヤル分には手を出さず傍観に徹した!それが合図となって、叫んだ魔族達の運命は決まった!
『え!な、なにを!?』
『お、お待ちを!?』
ジャスティスアウラが上を!黄金仮面のマハトが下を!両手で相手の両腿をつかみ、相手の頭を自分の肩口に乗せて固定して跳んだ!その状態で空中で黄金仮面の肩にジャスティスアウラが腰掛けた!さあ、あとは決めるだけだ!
この技を見た者たちは後に話を世に広げ、伝説の大技として語られる。その完成度、その一撃、その美しさ!戦士アイゼンでさえ、後に弟子となる者に技を伝授するほどの衝撃だった。
マッスルドッキング!
「あ、パンツ見えた」
一人の隊長の呟きは戦場に消えた。だが、彼は後にジャスティスアウラの追っかけとなる者の一人である。それは技に魅了されたのか、それとも別のなにかは知られる事はなかった。