オリジナルキャラクターが複数これから登場する事となります。お付き合いくださる読者の皆様には感謝を申し上げます。
「"冷えるなぁ"」
今日も今日とて書類作業。近頃は大規模な騒動が無く平穏無事で平和である。正月が過ぎ、2月に入って5日が経った。今日の日和は寒波の所為で、このシャーレのある地区も気温が5℃を下回っている。
山程あった書類の処理も今手元にある数枚でおしまいだ。
「先生、そろそろ休憩にしませんか?」
最後の一枚に手をつけたところで右隣にあるシャーレのお手伝い当番の席から声がかかった。
亜麻色の髪に百合の髪飾をし、背中にある一対の白い翼が特徴である彼女の琥珀色の瞳が"先生"を見つめていた。
彼女は桐藤ナギサ。学園都市キヴォトスでも三大校と呼ばれる学園の一つ、トリニティ総合学園に在籍する生徒の1人だ。そんな学校で3人存在する生徒会長の内の1人に名前を連ねている。
「"そうだね。お願いできる?"」
普段は落ち着き払い厳格な生徒会長として振る舞う彼女は、目尻を落として穏やかに微笑みを浮かべている。
「はい!それでは、少々お待ちください。」
ナギサも既に今日の仕事を終わらせていた様で、お茶にしようと言い出す機会を窺っていたのだろう…"先生"の返事ににっこりと微笑みながら弾んだ声で応える。
給湯室へと執務室を出て行くその背中では、お茶会の始まりに浮かれている心の内をフワフワと揺らされている白い翼が表現していたのだった。
時計を見ると15:00を表示していた。
「"雪だ…"」
なんとなしに窓の外を見遣ると大粒の白い雪が舞い、見慣れた都市の景色を白くぼやけさせていた。
暫く眺めていると自身の視界がぼやけているのは外で降る雪の所為だけではない事に気付いた。
「"…。"」
("ん〜?気が抜けたのか眠たくなってきた")
それを認識した途端に眠気を自覚したのか瞼が重たくなってくる。
ご機嫌なナギサを見送ってから一分も経たない間に"先生"の意識は微睡みへと沈んでいったのであった。
"先生"の視界は気付けば身に覚えの無いトリニティ風な内装のお屋敷の部屋を映していた。
「ーー?珍しいですね、先生が私のもとへいらっしゃるなんて。何か御用ですか?」
突然覚醒した意識が落ち着いた声がした方へと向く。その全く知らない声に「先生」と呼びかけられている事から、("これは"私"の記憶なのだろうか?")と"先生"は不思議と冷静になって考える。
すると、視界が"先生"の意思を介さずに声のした方へと移る。
まるで映画でも観ている様な感覚だ。
視界に椅子に座った1人の少女の姿が現れた。
一目観て目を惹いたのは背中にある白い翼だ。肩甲骨の辺りから生えており、畳まれているそれはナギサやミカより大きいと判る。
髪は結ったりも装飾などもされておらず、癖毛なのか軽くウェーブがかかった明るめの灰色の髪が翼の付け根を隠し、腰の括れの辺りまで伸びていた。
服装は、やはりトリニティ総合学園を思い浮かべるデザインのセーラー服を着ていた…が、セーラーカラーと胸当てのデザインが少し違っている。黒を基調としていて、アメジストを彷彿させる紫のラインが印象に残った。
("…やっぱりこの生徒、私は知らない。")
完全な記憶能力があるわけでは無いとはいえ、一瞬観ただけではあるがここまで特徴的な生徒を憶えていない事はあり得ない。
思わず思慮に耽っていると、'先生'が眼前の生徒に話しかけた。
「'いや、ーーーがあれからどうしているか気になってね'」
彼女に放った言葉がハッキリ声として聞こえなかったのに、この"私"と同じ'先生'が何を言ったのかは判った。
それを聞き届けた彼女はジト〜っとさせていた目を僅かに見開いた。
「態々ありがとうございます。私の方からご連絡申し上げればよかったでしょうか…気がきかずすみません。」
彼女は事務的とも取れる返事をするが、声色から申し訳なさそうな心情が読み取れた。この言葉遣いは彼女の素面なのだと、何故だか確信めいたものを感じる。
「'いいんだよ。私が勝手にしている事だからね。キヴォトスの皆はなんだかんだでそれなりに自立している子は多いし'」
そう言うと'先生'の視界は僅かに左下へと動き、小指から腕…長袖の中へと白い包帯が巻かれている右腕を捉えた。
「'まだその右腕の包帯は取れないんだね'」
胸の辺りが重苦しいと感じる、後悔している時に似た感情が"先生"を襲う。
「ああ…これですか。もう10月でエデン条約の調印式から数ヶ月経ちますが、私の身体は先生と同じくキヴォトスの産まれではありませんので…治りは皆さんと比べるとかなり遅くなりますね。」
彼女は右腕を持ち上げ、右手を動かして見せた。
傍に置かれていた籠に入った紅い林檎を手に取っている様子から動かないワケでは無い様だ。
籠が置かれた机には、刀と判る物が立て掛けられていた。
「この間、漸くお腹の方は取れました。だから、先生と比べても虚弱とはいえ…ちゃんと治ってきてはいますよ?」
穏やかな口調で諭す様に言いながら左胸の下の辺り、肋骨のある部分に左手を遣った。
「'よかった'」
「'無理していないか心配だったんだ。成り行きとはいえあの前も後も、百鬼夜行やミレニアムだったりで助けてもらったから'」
どうやら'先生'は、この生徒との関わりはトリニティでだけではないらしい。
「無理をする様な事は最近ではありませんね。アリウスでの一件以来は、主にナギサさんやミカさんにセイアさんにも気を遣っていただいているので。」
ティーパーティーの生徒会長の名前が出たと言う事は、彼女はティーパーティーの所属の生徒なのだろうか。調印式と言う単語も出ているので、今は一般生徒の様な服装をしているだけでティーパーティーの関係者なのだろう。
「'ナギサも、ミカもセイアも…夏を境に一層成長したなぁと感じるよ!'」
'先生'は暖かな心情でナギサ達の事を彼女に話す。
その話に時に頷いたりしながらも、慈愛を感じる微笑みを終始浮かべていた。
「アリウスの皆さんも、『ゼロからやり直す』のだと…志を新たにした力強い姿を魅せて下さっております。ミカさんも、とても嬉しそうに通っていますよ。」
暫く聞いているだけだった彼女は、アリウスとミカの話を挟んだ。ここで"先生"は気にかかった。そしてそれに対する'先生'の返しで"先生"は疑念を抱かざるをえなくなった。
「'サオリたちもーーーの事を心配していたよ'」
("サオリたち?")
「そうでしたか。また近々顔を出させていただきますね。」
思考の海に沈みかけていた"先生"の意識が彼女の声で引き戻される。
彼女は一瞬困った様な顔をしたが、直ぐに穏やかな微笑みを浮かべて、海が観える窓へと顔を右へ向けた。
「一夏の青春は、人を大きく輝かせるのですね。」
表情は視えないが、彼女は感動している様な声色で呟いた。
「私も少し元気を分けていただいた気分になります。」
彼女の頭が左へ向き、'先生'へと微笑みを向けた。
「'ーーーは、ー」
突然'先生'の言葉が読み取れなくなったと思ったら、視界がまた微睡んで目の前の彼女の姿が白い靄の向こうへと消えた。
「先生?…先生‼︎」
身体が僅かに揺さぶられ、晴れた視界にナギサの顔が映る。
「"ナギサ?ごめんね。寝ちゃってたかな"」
これからせっかくのナギサとのお茶の時間なのだから寝てしまうなど勿体無い。
「いえ、うとうとしていらっしゃったので…。」
不意に先程観た'夢'がフラッシュバックする。
「"ナギサ…"」
訊かなければと思い、真面目なトーンで名前を呼ぶ。
「はい、なんでしょう。」
突然の事に困惑した様子で、ナギサは僅かに翼を萎れさせる。
申し訳ないがここで訊かなければ忘れてしまう気がしたのだ。
「"刀を腰に提げている生徒って、トリニティに居たかな?"」
「刀?銃ではなく剣をですか…。いいえ、私の記憶には1人も思い当たりませんが。」
ナギサは首を傾げて、不思議そうに答える。
答えた後も「刀?」と小声で呟いていた。
「"おかしな事を訊いてごめんね。少し変な夢を見ちゃったみたい"」
ナギサにも心当たりが無いのなら、夢…だったのだろう。時計を見遣ると15:10を表示していた。
「ふむ。まさか先生もかつてのセイアさんの様な事に?」
また思考に耽りだすナギサを傍に…
机に置かれたお皿にのっているアップルパイから届く林檎の薫りが、すごく気になるのだった。
そんな先生の様子に気付いたのか、ナギサは顔を綻ばせて説明をし始めた。
「今回のお菓子は…良い薫りの林檎を見つけたので、アップルパイにしてみました。」
「"林檎の良い薫りがするね"」
芳醇な生地と林檎の薫りが食欲を誘う。
「先日、ミカさんやセイアさんにもお出しした時も『林檎の薫りが良い』と仰ってましたね。…さぁ先生、どうぞ。」
いつもの様に、ナギサとのお茶会が始まる。
気付かぬうちに舞っていた雪は止み、陽の光が差す雲の合間から青い空を覗かせていた。
先ずは、最後までお読みいただきありがとうございます。
オリジナルキャラクターの氏名は伏せておりますが、これから登場する彼女たちの設定…既に完成しています。ので、キャラぶれなどは一切無い様にしています。
出来れば、一枚絵も添えたかったのですが…今回は見送ります。また機会があれば追加したいと考えています。