「とっても速くて黒髪で短剣使いの女の子を見ませんでしたか!? 私の命の恩人なんです!」
扉を破る勢いで部屋に侵入してきた少女────アナの質問に、ロイとコウは自らの知っていることと、推測を伝えた。
「すごいすごい!! 特質持ちのトロールまで倒してしまうだなんて、さすがですね!!」
まるで自分事のように飛び跳ねて喜ぶアナに、ロイはケラケラと笑い、コウは何とも言えない表情を浮かべる。
「喜ぶのは良いんだが……俺たちはまだ、肝心なことを知らないぞ」
「肝心なこと……?」
ひとしきり笑ったロイは、眉をひそめ落ち着いた声でアナに話しかける。
「ああ。俺たちはまだ────あいつの名前を知らない」
「……ッ!!」
孔子が弟子に教えを説くかのように話を続けるロイと、なんだってっ!? と言わんばかりの表情をするアナ。
「……」
そんな2人を、『そこまで大袈裟に言うことか……?』と若干呆れた目で見つめるコウ。
「でっ、でも! 名前を知らないとこれから探すという時に困るじゃないですか!」
「……ん?」
そんな目線を感じ取ったのか、頬と耳を僅かに赤らめながらアナは弁明する。
だが、コウはその内容に引っかかりを覚えた。
「お嬢ちゃん、またあいつに会いたいのか?」
「もちろんです!」
当然のようにそう言い放つアナに、コウは顎に手を当てて考え込む。
本来、
もちろんパーティを組むか同じ地域に定住でもすれば話は別なのだが、あの幽霊とパーティを組むきっかけなど考えようがなく、当然住む地域など皆目見当もつかない。
「あー、お嬢ちゃん。……あいつとまた会うなんてことはお嬢ちゃんが思ってる以上に難しいことだと思う。だから────」
考え抜いた末に出した言葉がこれだった。
自分でも頼りない返事だとは思うし、アナを落胆させるような言葉であることは分かっている。
それでも余計な希望を持たせるくらいならばと思い、次の『諦めろ』という言葉を発しようとしたその瞬間。
「分かっています」
コウの心の中を読んでいるかのように、アナは答えた。
「分かってるって、そりゃ何をさ。あいつの素性は何も分からないんだ。探すにしても途方もない時間がかかる。だから────」
「それも、分かってます」
先程よりもはっきり、強く、宣言するように答えた彼女のその蒼い瞳には、強い決意が表れている。
「はぁ……こんな奴に諦めろと言ったところで、むしろその決意を強くするだけなんだよなあ……」
周囲には聞こえないほどの声量でコウはぼやき、決心した。
「分かったよ。お嬢ちゃんの決意は固いみてえだな……少しばかり力になってやる」
目線をロイに向けると、どこか期待した様子でこちらを見つめていた。
『お前もそっち側かよ』と言いたくなる口を閉じて、自分のやれることをやることにした。
だが力になると言っても、何もこの場から離れて自分の足で探しに行くわけではない────ただ、知っている人に聞けば良いのだ。
「本当に!? ありがとう、
「おい待て、俺はまだ二十代前半だぞ」
目の前の少女はかなり失礼だが、それはそうと部屋の奥で腹を抱えて笑う男は必ず後でシバくと、コウは心に固く誓った。