ノーケルン────高い壁に囲われたその都市は、一年中雪に閉ざされており閉鎖的である。
閉鎖的とは言ったものの交易は活発であり、多くの冒険者が出入りしていることから、外部の人を拒んでいる訳ではない。
ではどこが閉鎖的なのかと言えば、やはりその気候と地形によるものであるだろう。
山と崖に囲まれたノーケルンには、外部に通じる道が二つしか存在しない。さらにその道も積雪次第では通行不可に陥ってしまい、外部との接触を物理的に絶たれることになるのだ。
それでもこの都市が廃れないのは、周囲の山から鉱物が豊富に取れることと人口が多いことにあるだろう。
交通の便こそ悪いが、都市内部の人々は豊かで治安も良い。────そんなノーケルンに、一つの危機が迫っていた。
「連続少年少女行方不明事件、ねぇ」
都市を外敵から守り、内部の熱を外に逃がさないように作られた壁の内外には、デカデカとそのようなことが書かれたポスターが貼られていた。
少年と少女────両者ともに接頭に美をつければ美少年と美少女である。
「この事件、絶対に解決してやるぞ……!!」
俺は少女らしい華奢な手をギュッと強く握り、固く決心した。
のだが。
「うーむ……」
シュタビリテートと違い、この都市はよそ者が侵入するには随分と厳しい構造をしていた。
冒険者協会に登録し、登録証を持っていさえすればすんなりと入れるのだが────
「ミステリアス美少女はそんなものに縛られない」
この一心を突き通した結果、この苦難が訪れてしまった。
当然後悔はない……が、それはそれとしてこんなしょうもない問題はいち早く解決しなければならない。
そんな時、聞き耳を立てていた対象である商人が呟いた。
「いやぁ、リッテンタロン家のご令嬢も大変だよなぁ。こんな一面雪まみれの場所で盗賊に誘拐されるだなんて」
なんてことはない雑談。先程の『連続少年少女行方不明事件』とは別件のものだとされているらしいが、確かに俺は勝機を見出した。
そのご令嬢を助けて恩を売れば、俺がこの都市に入れるよう便宜を図ってくれるのではないかと考えたのだ。
「これしかない……!」
完璧な作戦を思いつき、俺は心の中でガッツポーズをする……が、次の瞬間その商人は聞き捨てならない言葉を発した。
「なまじ顔が十分に良いだけ可哀想だよな。誘拐先でどんな扱いを受けることか……想像するだけでも辛いこった」
つまり────美少女が薄暗い空間に一人監禁され、多数の男共に乱暴されようとしていると?
「絶対に……絶対に止めなければ……ッ!」
美少女とは人類の、いや世界の宝である。
この辛く厳しい世界が産み落とした奇跡を、絶対に穢してはならない。
「その話、詳しく聞かせて貰えるかしら?」
考えるより先に体が動いた。
突然現れた俺に商人は酷く驚いた様子を見せたが、そんなことを気にしている暇は無いのである。
「私をこんなところに縛り付けて、何をするつもり?」
かつて鉱物の採掘に使われていた坑道に、一人の少女が拘束されていた。
エーデルワイスの花柄があしらわれたその純白のドレスからは、その少女の身分の高さが分かる。
「そりゃあもちろん、お前の身代金を要求してがっぽり稼いでやることさ。────リッテンタロン家の長女、
鼻息を荒くしている薄汚れた男が、そう答える。
「あっそう。どうせ私の護衛や兄様達が助けてくれるのだから、徒労に終わるだろうけれどね」
溜息をつき、呆れた様子でルイーゼは語る。
しかし男は下卑れた笑みを浮かべながら、とある物を見せつけた。
「なっ……!」
「わざわざ死体を持ってくるのも面倒だからな。ま、これだけでもお前の護衛がどうなったことかわかるだろう」
ルイーゼの目の前に置かれたのは、損傷の激しいいくつもの剣。それもただの剣ではなく、その全てにエーデルワイスの花形が埋め込まれていた。
一瞬、ルイーゼは悲痛な表情を浮かべたもののすぐに取り繕う。
「どうせすぐ貴方達は討伐されることになる。せいぜいそれまで勝ち誇っていることね」
挑発的な笑みを浮かべ、目の前の男を睨みつける。
男は惚けた様子を見せたが、それも少しの間だけである。
「ふーん。なら、それまで楽しませてもらおうか」
そう言って男はナイフを取り出し、少女に向けた。
「なっ、何をするつもり? 今ここで私を拷問したって何も言うことはないわよ!」
男を強く睨みつけながら唇をキュッと固く結び、何にも屈しないことを示す。
が、男はそれを見て笑うばかりであった。
「拷問? バカ言うなよ。お前は人質なんだよ、壊してたまるか」
「それなら、一体何を────きゃっ!?」
突如、男は持っていたナイフで一切の抵抗が許されない少女の服を切り裂き始めた。
「貴方……本当に最低ね」
男がこれからやろうとしていることを察した少女は、失望と呆れの目を向ける。
「まあまあ、使いがお前の家まで届くのには時間がかかるんだ。それまでちょっとくらい楽しませてくれよ」
男が話す間にも、ルイーゼの露出は増えていく。
とうとうドレスは服としての役割を完全に放棄し、下着までもが役に立たなくなり始める。
「いやっ! はなしてっ!!」
何とか逃れようとするも手足を縛る縄がしなるだけで、その間にも男は少女の体に触れ始めていた。
「やだやだやだっ!! やめてっ!!!」
もはやルイーゼからは先程までの強気な態度をした伯爵家の令嬢としての仮面は完全に消え去り、為す術なく恥辱を受け入れることしかできない。
少女の様子を見て、男はさらに興奮した様子を見せる。
「ひぐっ……なんでこんなにひどいことするの……? おねがいだからやめてよ……」
そんな懇願が受け入れられることはなく、男はさらに迫る。
ついに服が完全に破かれ、彼女にとっての『悪夢』が始まろうとしたその時────
「へっ……?」
うるさいほどに鼻息を荒くしていた男が突然倒れ、息を止めたのだ。
何事かと涙目で周囲を見渡すと、そこには黒髪の少女が鋭くもどこか優しげな目で見つめていた。
「大丈夫? お嬢さん」
目にも止まらぬ速さで拘束を外され、体を隠せるだけの最低限の布を被せられたルイーゼは、しばしの間その少女を見つめることしかできなかった。