事象の地平線にて少女(?)は踊る   作:白麻エル

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第3話 人類にとっての至高とは、美少女として生きることである

 

 心地良い陽の光と穏やかな暖かさ。現実ならば意識しなければ耳に入ることすらないであろう小鳥のさえずり。

 

 そしていつもと比べて格段に低く感じる目線と、そよ風が腰まで伸びる長い髪とスカートを揺らす感覚。

 

 ああ、これほどまでに生を喜んだ日があるだろうか。魂からの感動によって足が震えながらも大地を踏みしめる。

 

 しかしこのままただ突っ立っている訳にはいかない。一歩、二歩、三歩と足を前へ動かし人間の基本的な動作の1つ、歩行をしてみる。

 

 厚底のストラップシューズが草むらを踏み込むと同時に先程よりも強い風が吹き、ふわりとスカートが浮かび上がるのをとっさに手で抑える。

 

 ─────生来、ズボンを履いて生活してきた俺にとってスカートを履いたまま外を出歩くというのはとても新鮮な感覚。ましてや環境によって衣服が翻弄されるなど初めての経験であった。

 だがそこに男としての恥ずかしさなどは無く、あるのは美少女になれたという純粋な喜びのみ。

 

 へへへっ……と、この姿には到底似合わない下卑た笑みを浮かべそうになるも、そのような笑みはアルシオーネとしてのキャラに合わないと思い踏みとどまる。

 

 表情の変化は乏しい方が、よりミステリアス感のある美少女になれるのである。

 

 

 時が経ち、僅かに興奮が収まって来た頃。ここで一つ、俺は名案を思い付いた。

 

 せっかくMMORPGの世界で美少女になったのだ。武器を持ち、ポーズをとってみよう。

 

 そうと決まったのならば行動は早い。メニューを開いて最初に配布されているはずの武器を探してみる。

 

 インベントリを開いてみるとすぐに武器……と全く見覚えのないアイテムが見つかった。後者はともかく、前者については記憶の中にあるものとは少々違うように見受けられる。

 

 事前情報だとそれは色や装飾が付いておりファンタジー感のある剣だったはずなのだが、どういう訳か目に映るそれは余計な装飾や着色が一切なく、名前が文字化けしているシンプルな長剣であった。

 

 細かな違和感はひとまず置いておいて、この前ネットで見かけたポーズをとってみる。

 

 足を僅かに横へ開き、右手でグリップの根本部分を、左手はその先端部分をしっかりと握る。

 ほんのり口角を上げた不敵な笑みを浮かべた顔を左へ、そして顔と剣先が同じ向きになるように調整する。

 最後に手を目より少し上くらいの位置まで持ってくれば完成……

 

 

 ─────いや待て。まだこれにはもうひと手間加えられることに気が付いた。

 

 大体、ポーズをとるのであれば特有のセリフもあるのが普通である。

 

「あ、あ、あー」

 

 世界に轟くべき美声を少し低くして一言。

 

「貴方達に、明日を生きる資格はないわ」

 

 good voice

 

 見た目はもちろん、ポージングや声も文句なしの100点満点のはずだろう。二人称視点や三人称視点が存在しないことが惜しい。

 

 

 だが一つ、どうしても微妙だと思う点があった。

 

 それはこの剣である。

 

 

 見た目が極端に悪いと言いたいわけではない。でもこの剣はこう……あまりにもシンプルすぎるというか、覇気を感じないから誰がどんなポーズをしても映えないと思う。

 

 となれば、まずこのゲームにおいて起こすべき行動はミステリアス美少女(アルシオーネ)に合う武器を探すことだろう。

 

 ところで、インベントリの中に入っていた金色の紋章のような謎のアイテムについてなのだが……この紋章のようなアイテム全くもって使い道が分からない。これに関してはそもそも名前すら表示されないし、完全未知のアイテムなのだから使用用途くらいは書いといてくれても良いと思う。

 

 バグっているのか何なのかは知らないがこれについてはひとまず置いておき、ミステリアス美少女に似合う武器を探すため遠くに見える城郭に向かい歩を進めることにした。

 

 

「ん…? あそこに見えるのは……ダンジョンってやつか?」

 

 体感で20分程度歩いた頃、木がまばらに生えているに突如現れたかのようにすっぽりと斜め下方向へとくりぬいたかのような洞窟を見つけた。

 

 まだスライム一匹さえ倒していないというのに、ダンジョンに潜るというのはあまりにも早計な考えだろう。しかしこれはゲーム。ならば……

 

「ミスって死んだところですぐ復活できるだろ! 物は試しだ。とりあえず入ってみよう」

 

 何事もトライ&エラーが重要である。とりあえずダンジョンのような洞窟に入ってみることにした。

 

 

 

 

「湿気でジメジメしたり冷え込んでいるかと思ったんだが、中は思ったより快適だな」

 

 洞窟と言えばもう少し不快な感覚を覚えると思っていたのだが、案外そんなことはないらしい。

 

「っと、目印を置き忘れたら戻れなくなるぞ……忘れずに置いとかないと」

 

 一々来た道を覚えることが億劫になるほど入り組んでいる洞窟内では迷わないようにするための目印が必須である。そのため、そこらへんで拾った木の枝や草を目印にして先に進む。

 

 いくつもの分岐した道や狭い洞窟内の奥へと進む途中、俺はとあることに気づいた。

 

 モンスターや敵どころか、虫の1匹も見当たらないのである。

 

 地下空間においてモンスターが出現する条件は主に2つ。洞窟がダンジョン化しているか、濃密な魔力が地下空間を満たしていること。

 つまりモンスターが湧かない=なんの変哲もない洞窟の方程式が成り立つ。

 

 よって、今探索しているダンジョンだと思っていたここはただの洞窟だったと解釈できる。

 

 そうとなれば急激に関心は薄れて来た。

 一度引き返してしまおうと決心したその時。

 

 

「うっわ……なんなんだここ……」

 

 道中散々見てきた荒々しい岩肌は、何者かの手が加わったかのかと疑いたくなるほど滑らかになっているだだっ広い空間にたどり着いた。

 

 そして、目の前に映るのはオーク専用と思えるほど巨大で儼乎(げんこ)たる装飾が施された門。

 

「でっかぁ……これ人の力で開けられるものなのか?」

 

 筋力にステータスを振っていないアルシオーネでは到底開けられそうにないのだが……

 

「ふんっ…ぐぬぬぬ………あれ、案外簡単に開きそうな感じ?」

 

 試しに軽く押してみると、重々しい見た目とは裏腹に簡単に開きそうな感触だった。しかし……

 

「これ絶対ボス戦始まるやつだよな」

 

 ここまで大層な門で区切られている空間なのだから強いボスの一体や二体くらいいるだろう。

 

 戦闘経験はない。スキルの使用方法も不明。持っているのは名前も分からない初期配布の剣のみ。

 どう足掻いても勝ち目は無い戦いだろう。

 

 だが正直なところ、ここまで来た道を引き返すのはとても面倒くさい。

 そしてこの世界はゲームである。

 

「一回死んで地上のスポーン地点で復活する方が早いんじゃないか?」

 

 デスペナルティがあるのかは知らないが……もしあったとしても序盤だし良いだろう。

 

「さあて、門を開けてしまおう」

 

 門を力いっぱい押し続けると、錆びた金具同士が擦れるような甲高い音を立てながらゆっくりと開かれる。

 

 

 

 

 

 

 ███████!!!!

 

 人一人が通るのに十分なほど門を開くと、黒曜石のような艶と一目見ただけで分かるほど剛性のある漆黒の鎧を全身に纏った身長3mほどの巨人が咆哮を挙げてこちらを認識した。

 

 

 これは……ミステリアス美少女ロールプレイをする良いチャンスなのでは!?

 

 

 





美少女とは、まさに輝きなのです。人類の新たなステージなのです。

貴方も、そんな存在に一歩近づいてみたいでしょう?
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