事象の地平線にて少女(?)は踊る   作:白麻エル

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第4話 ヒット&アウェイ戦法を使うまでもない

 

 

 

 敵の頭上に表示された名前は『パセティック』。

 本能的な恐怖に身がすくみそうになるが、今の俺はアルシオーネである。ミステリアス美少女は最強の原則に則ると無敵なのだ。

 

「貴方は……そういうことなのね。安心なさい。すぐにその可哀想な運命から解放してあげるわ」

 

 こういう場面において重要なのはロールプレイングである。

 決してロールプレイの仮面を被って恐怖を和らげたいからでは無い。

 

 

「その程度で私を倒せるとでも思っているのかしら?」

 

 右手で大剣を振り回し、左手に持つ盾で俺の体をひき潰そうとするパセティックの攻撃を間一髪で避けながらも、まるで余裕に満ち溢れているかのような態度を見せる。

 

 肉薄して急所を攻撃するには隙が無く、長期戦に持ち込んで隙を作ろうにもこちらの体力は初期値であるためこちらが必ず先に倒れることになるだろう。

 

 せめて一瞬でも隙が作れるもう1つの武器でもあれば……!!!

 

 当然、今持っているのは初心者剣のみ。これだけではパセティックを倒せるはずがない。

 だからこそ今この場では叶うはずもない願いだったが……俺は1つの発見をした。

 

 願いが届いたのか、今までの観察能力が無さすぎたのかは分からないが部屋の奥に窪みがあることを見つけ、全速力でその窪みへと向かう。

 

「貴方を裁くには、この剣では役不足ね」

 

 役不足────つまりこの剣はこいつを倒すのに不十分であるということである。

……たぶんこの意味で合ってるはず

 

 何はともあれ、この状態が続けば俺は必ず負ける。よってその窪みに何かあることに賭けるしかない。

 

 █████████!!!

 

「あら、剣先がブレてるわよ。そんな戦い方で私に勝てると思っているのかしら?」

 

 パセティックは後ろに回り込んで窪みへ入ろうとする俺に大剣の先を突き刺すように攻撃を仕掛けて来るが、速度に緩急を付けて体を横に滑らせることによってギリギリで回避した。

 

 体力節約のため既の所で回避することを繰り返していたが、そろそろ限界である。

 

 

 ██████████!!!!!!

 

 ちょっ!! 武器投げてくるのは違うだろ!?

 

 急いで大きく横に避けることで、パセティックに投げられた大剣を回避する。

 

 制御を失った大剣は吸い込まれるかのように俺が向かうはずだった窪みに勢いよく向かい、大穴をぶち開ける。

 

 開けられた大穴から見えたのは謎の空間。運が良ければここから地上まで直行できる隠し通路……あるいはパセティックを倒せるだけの隠し武器があるかもしれない。

 

「貴方のおかげでこんなにも通りやすくなったのだから、感謝の言葉が必要かしら」

「ありがとう……とは言っても、言葉は伝わらないでしょうね」

 

 騎士の見た目をしている割には獣のような雄叫びしかあげないこいつに言葉が伝わるビジョンは見えない。

 

 モンスターと会話ができるアイテムもあった気がするが……今はそんなことなどどうでも良いのである。

 一時的に武器を失い隙が出来たパセティックを横目に、俺は全速力で大穴へ走り抜ける。

 

 

 体力を使い果たす勢いで駆け抜けた大穴の先は、先程までの大小様々な岩が剥き出しとなっていたダンジョン内部とはまるで異なる、全てが無機質な白で彩られた研究室のような空間であった。

 

 そして特筆すべきは、いくつも並んだ何かを厳重に保管しているかのような硬い保存装置。

 

 その中の一つは先程の大穴が開いた衝撃によるものなのか、元々なのかは分からないが開かれていた。

 

「これは……」

 

 そこには、このファンタジーな世界観にとって少し異質な銃────とは言っても多くの人にとっては歴史の教科書で1回か2回見た程度であろう古いもの────が安置されていた。

 

caelum(カエルム)……良い名前ね」

 

 持ち手に彫られていたcaelumという文字。恐らくこの銃の名前を表しているのだろう。

 

 なお、この文字が何語かも知らなければ意味も分からないので本当に良い名前なのかは知らない。

 ガイコクゴムズカシイカラネ、ダカラショウガナイ。

 

 そんなことを考えている間にも、大剣を回収したパセティックが一歩踏み出すごとに地面が揺れるような足音を立てながらこちらへ向かって来ていた。

 

 

 弾と火薬は装填されている。実際に銃を撃った経験はないが、仕組みがシンプルなので撃ち方は何となくわかる。

 となれば何も躊躇う必要は無いであろう。

 

「やる気があって良いことね。でも貴方はこれで終わり────」

 

 緩慢な様子で一呼吸おく。

 

 パセティックがすぐ真後ろまで迫ってからようやく振り向き、冷静に照準を頭に合わせてから引き金に手をかける。

 

 引き金を引くことで撃鉄が解放され、受け皿の火薬が点火される。

 そのまま銃身の中へと繋がる火薬に引火し、数瞬後に大きな爆音と共に弾丸が発射された。

 

 硝煙により視界が不明瞭になるのも束の間。煙が晴れてからパセティックの姿を見ると、そこには兜に穴が空いていたものの平然と佇んでいた。

 

 偶然見つけた奥の手を用いても倒すことが出来ずこれにて万事休す────────とはならなかった。

 

 着弾の衝撃で兜がズレたことにより、パセティックの首元には俺が持っている初心者剣の重ね1つ分の隙間が出来たのである。

 

 素早く武器をカエルムから剣に持ち替え、首元の隙間に向かって斬りかかる。

 

「────ゆっくりお休みなさい」

 

 結果、想像していたよりもずっと簡単に首の隙間に刃は入り込み、パセティックは胴体と頭が完全に分離され倒れ伏した。

 

 うわっ、グロ展開か…? と思ったが、断面から流血する様子は見せないまま、インベントリにドロップアイテムが収納された通知が来たので確認しようとしたところ……

 

 《アルシオーネによってダンジョンガードナー『パセティック』が撃破されました》

 

 〈ダンジョンガードナー撃破によりステータスポイント300を獲得しました。割り振りますか?〉

 

 いきなりステータスポイント300も貰って良いのか!?

 

 もちろんこの場で割り振るに決まっている。やはり体力に振らなかったのは失敗だと思っていたところだったんだ。

 

 そう思い、『割り振る』ボタンに触れたその時────

 

 【このダンジョンは残り5秒後に爆破されます。転移陣から地上に帰還してください】

 

 嘘のような情報が目の前に現れてきた。

 

「転移陣までは……間に合わない!!」

 

 脱出するための転移陣はパセティックが元いた部屋の中央に出現したのだが、今のステータスではここから転移陣までは最低でも10秒掛かるだろう。

 

 もはや迷っている暇はなかった。全てのステータスポイントを速度に割り振り、全速力で転移陣へと走り────────

 

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ………」

 

 なんとか爆破前に転移陣の中に入り込み、地上に戻ってくる事が出来た。

 

「おいおい、勘弁してくれよ……勝利の余韻に浸る時間は無いのかよ……」

 

 キャラクターの疲労がそっくりそのまま伝わり、ゲームのはずなのに自分が全力で走ったかのように錯覚したが────

 

 

「まあでもひとまずは……俺の勝ちだな……!!」

 

 初の戦闘に勝利した昂り、そしてミステリアス美少女を遂行出来た喜びの余韻を、インベントリを開いて戦利品を確認することで感じることにした。

 





愛してください。好きと言ってください。

私にではありません。美少女(この作品)に、です。
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