少し前にも思ったことであるが、ミステリアス美少女を遂行する上で必要なのは武器である。
だからと言って『これしか有り得ない!』という武器がある訳では無いのだが……少なくともすっかり初心者剣として定着してしまったこのシンプルな長剣以外の武器が持ちたいものである。
では武器を調達するために街へと繰り出し、鍛冶屋を訪れるか?
否、よく考えてみればミステリアス美少女が白昼堂々と武器を買いに行くなどありえない。
ならばそこら辺にいるであろうプレイヤーから頂くか?
否、ミステリアス美少女は正義のヒーローでは無いが、しょうもない盗みや強奪は行わないのである。
あれもダメ、これもダメというのならばどうやって武器を手に入れるのかと誰もが思うだろう。
だがここに挙げていない方法で武器を獲得する術が1つある。
モンスターやボスからのドロップである。
例えばこの黒い短剣、あの体格からどうしてこんな物を持っていたのかは分からないが、れっきとしたパセティックのドロップ品だ。
「これとカエルムはなかなか気に入ってるんだよな~」
この短剣、鈍く黒光りしており触ると金属のように硬いのだが、それとは裏腹にとても軽い。そして持った感覚もよく馴染むため使い勝手がとても良い。
だが何より素晴らしい点が見た目である。
初心者剣と同様にシンプルな印象を受けるが、持ち手から刃先までの全てが黒で統一されているため闇に紛れるような立ち回り……つまり暗殺者的な戦い方に向いているのだろう。
寡黙で暗夜のような黒髪のミステリアス美少女にはピッタリの代物、と言えば素晴らしさが伝わるはずだ。
今のうちはこれで満足しているため武器の件は置いといて……次に重要なのは戦い方だろう。
ミステリアス美少女の戦いにおいて重要なことはただ1つに限られる。
それは適度に話をしながら常に謎を残すことを念頭に置くことである。
例として、ボスであるパセティックと戦った時には会話こそ通じなかったものの俺が一方的に話し、意味深な言葉を残していた。
相手が人であったのならば、会話を成立させながら戦いを続けて向こうを殺さない程度に倒す。
会話が通じない相手へのロールプレイングは正直言って自己満と見ているかもしれない誰かに向けているものなのだが……人を相手にするならば話は別。
せっかくミステリアス美少女を感じたというのにその場で死んでしまうとは人生の120%を損していると言っても過言では無い。
さて……そうとなれば殺さない程度に倒す戦い方の研究をしなけ「ねぇ、貴方がアルシオーネでしょう?」ればってこの人誰???
「ええ、そうだけれど……貴女は?」
何の迷いもなく唐突に話しかけてきたのは、オレンジカラーのポニーテールを結わえる小柄な少女だった。
「私の名前はウチコ。よろしくね、アルシオーネ!」
元気ハツラツを体現したかのような振る舞いをする彼女に俺は内心圧倒される……が、アルシオーネはこの程度で気後れしない。
「そう。……それで、私に何か用でもあるの?」
無表情のまま、まるで他人事のように話を続ける。
これだよこれ。今人生で一番ミステリアス美少女してる自信あるぞ。
「特にないよ」
あっけらかんと、ウチコはそう言い放つ。
うーむ、ならどうして話しかけて来たのか……というかなぜ俺の名前を知っているんだ?
「でも強いて言うのなら──────ちょっとだけ、貴方のことが羨ましく思っただけだよ」
ウチコは少しだけ視線を下に落とし、僅かに声色を暗くする。
「貴方がパセティックの攻撃を避ける時、まるで踊ってるみたいな……空を飛んでるような感じがして…………」
今度は視線を上に向け、雲がまばらに散らばる青空を仰いだ。
俺も続くように一瞬だけ空を見るがすぐに逸らし、ウチコに背を向ける。
「人々は自由に大地を駆け巡り、大海をも征してきた」
けれど、と続ける。
「人類が自力で鳥のように大空を飛ぶことはできなかったわ」
「だからこそ人は空を追い求める──────────そうでしょう?」
数秒間の静寂。その間、穏やかな風が草木を揺らす音のみが響き渡る。
内容は完全に適当だけど、これミステリアスムーブとしては満点でしょ!
ただ1つ言うなれば……ウチコに背を向けてるからどんな表情してるのかが読み取れない。
ちくしょう! せっかくここまで環境もお膳立てしてくれたってのに!!
「ふふっ、ふふふふ!」
「そう、だよね。人はやっぱり空を追い求める生き物なんだ!」
ウチコは面白がるように、だがどこか満足げな声色で先程俺が言った言葉をなぞる。
そんなに俺の言ったことが面白かったのだろうか…?
彼女のツボはまったく理解できないな……
「ねぇ。もう少しだけここにいてもいいかな? 私、貴方についてもうちょっと知りたくなったかもしれないんだ」
ウチコはゆっくりと足を動かし、俺の横にあった倒木へと腰掛ける。
アルシオーネについてもっと知りたいのか……良いだろう!
そりゃあもう謎が謎を呼ぶようなことを色々教えてあげようじゃないか。
「元々、私は貴女達とは違う存在なの」
「違う存在?」
ウチコはさっぱり理解できない様子で首を傾げる。
「そうよ。貴女が意識したことがあるかはわからないけれど───────」
「けれど?」
あえてここで話を止める。
考察の余地を残すことこそがミステリアスへの道なのである。
「いいえ、この話はまだ早かったわね」
「えー!」
ふふふ……この先は自分で考察することだな! 一定の結論を出したらまた来い!
さらに謎を深めるようなことを言ってやろうじゃないか。
「もしもこのことを貴女……いえ、貴女達が理解出来るようになったのならちゃんと教えてあげるわ」
なんか性格良さそうだし、どうせたくさん友達いるんだろ? そいつらもまとめてミステリアス美少女の虜にしてやるヨォ!
すっかりくつろいでいるウチコを横目に俺は歩き出す。
「次はいつ会えるかな?」
ウチコからの素朴な疑問に足を止めて思考を働かせる。
それは俺も気になるんだよな。でも馬鹿正直にまた会う約束なんてする訳にはいかないし……そうだ!
「この美しい空の下で貴女がやるべきことをし終わった後、ちゃんと話し合いましょう」
つまるところ、考察が終わったらまたここで集合な! ということである。
理解してくれると良いんだが……
「いつになるかは分からないけど──────必ずまた会いに行くね」
ヨシ!!! 考察してくれる人が居ないとミステリアス美少女は成り立たないからこの返事はとても嬉しい!!!
「……ええ。その時を楽しみにしているわ」
そのまま振り返ることなく、俺はとある方向へと再び歩き始める。
ミステリアス美少女はクールに去るぜ!
如何なる評価つけようと、美少女神様はあなた方を見て下さいます。