事象の地平線にて少女(?)は踊る   作:白麻エル

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第7話 Q,美少女は何をしていても様になるのだろうか?

 

 陽が沈み、薄暗い月明かりが世界を照らす頃。

 俺は小高い丘から、灯が点々と散らばる町を見下ろしていた。

 

 『シュタビリテート』────あるいは眠らない町と呼ばれるこの地方都市は、魔法技術が発展しているおかげで様々な恩恵を受けている。

 

 例えば、町中に張り巡らされた魔導線から魔力を供給することによって、各家庭では火を使うことなく明かりを得られたり、物を温めることが出来たり……魔力が現実における電気と同じような扱いがされている。

 

 しかし特筆すべきはこの街を守る防衛機構だろう。

 

 比較的弱い魔物の侵入を検知すると自動で矢や魔法が放たれ、人の手が関わることなく撃退してくれる。

 強い魔物が侵入してきた場合は街中にサイレンが鳴り響き、冒険者がすぐ動けるような仕組みになっている……らしい。

 

 らしい。というのは、日中通りかかった商人たちの話を盗み聞き……ではなく、一方的に情報をもらったためである。

 

 

 さて、本来ならば闇夜に紛れて行動することを領分とするアルシオーネには、一晩中明かりに照らされたこの街は似合わない……と言いたい所なのだが、そうも言えない事情があった。

 

 

 この世界のほとんどの都市はシュタビリテートのような防衛機構を持たない。そのため、他の大都市では巨大な壁を作り、常に警備兵を配置している。

 そうとなると、さすがのアルシオーネでも侵入は困難を極めるのである。

 

 だがシュタビリテートならば、守りの大部分を防衛機構に任せているため、見張りの警備兵はほとんどおらず、木で作られたバリケードが最低限あるだけに留まっている。

 

 つまり、俺が忍び込む隙は十分にあるということ。

 

 

 ────ここしかない。俺の理想とするミステリアス美少女ムーブができるのは!

 

 

 

 

 

 

「うるっさいな……なんなんだこれは……」

 

 耳をつんざくようなサイレンが、辺り一帯に響き渡る。

 

「ロイ! 起きろ!」

 

 ロイと呼ばれた男は、眠い目を擦りながらゆっくりと起き上がる。

 

「おいおいコウさんよ、目覚ましにしちゃあ、随分と大袈裟なもんだな……まだ陽も登ってないじゃねぇか」

 

「んな呑気なこと言ってる場合か!? スタンピードだぞ!!」

 

「なっ……! それは本当か!?」

 

 スタンピード(魔物の氾濫 )という言葉を聞いたロイは、その場で驚き目を見張る。

 

「ああ、間違いない。早く準備をしろ、戦うぞ」

 

 先に行っとく。とだけ言い残し、コウは宿から飛び出して行った。

 

「スタンピード……このゲーム始まって以来、初のイベントか?」

 

 ランダムイベントなのか、それとも()()()()()に関わるイベントなのか……判別は付かないながらも、彼は自らの最善を尽くそうとしていた。

 

 

「うっわ、一体何匹いるんだか……」

 

 時たま放たれる炎魔法と、月明かりによって魔物の姿を視認ことができる……今目に見えている範囲だけでも、1000匹はいるだろう。

 

「ようやく来たか。既に街の裏手では直接やり合ってるぞ」

 

「もうそんな所まで……!?」

 

 確かに耳をすませば微かに、魔物の唸り声と冒険者の雄叫び、そして悲鳴が聞こえてきた。

 

「あっちに構ってる暇は無いぞ。こっちももう直に奴らにのまれる」

 

 あっけらかんと言い放ったコウだが、その額には汗が染み出ていた。

 

「ああ、わかってるさ。作戦は?」

 

「ナイトのお前には最前線で戦ってもらう。ウィザードの俺は打たれ弱いし近接攻撃手段が乏しいからな、後方からの援護に徹させてもらおう」

 

 セイバーの二次職にあたるナイトは、能力的には攻守共にバランスの取れた職だ。

 だがスキル的には守りに特化したものが多く、今のような防衛戦には適していると言えるだろう。

 

「まっ、つまりはいつも通りってことだな……でもよ、あっちは数が桁違いだ。そりゃお前と俺がいれば最初は優位に立てるだろうが、ジリ貧じゃないか?」

 

「問題ない。どうやらこの街には強力な魔物避けの能力を持つ魔法があるらしくてな。それさえ発動できれば、あそこでヨダレ垂らしながらこっちを見てくるやつらは帰ってくれるらしい」

 

「時間稼ぎってことか……天職だな。任せとけ」

 

 堂々とした足取りでロイは歩み始め、巨大なオオカミのような魔物が襲いかかってきた瞬間────パサリっとその首がはねられた。

 

「まじかよ……あんな木の幹みたいな首をいとも簡単に……」

 

 一足遅れてやってきた冒険者達の誰かが、そう呟いた。

 

「あいつ、結構強いんだよ」

 

 木彫りの杖を構えたコウが独り言のように答えた。

 

「だがあいつの本分は一人で戦うことじゃない────他と合わせて動くことだ」

 

 コウはどこか怯えているような冒険者達を一瞥し、話を続けた。

 

「安心しろ。いざと言う時はあいつが切り伏せるし、俺も援護する」

 

 だからお前たちは戦いに行けと、視線で送る。

 

「よっ、よし……行くぞ!」

 

 一人の青年が声を張上げながら駆け出す。

 

「リーダーが行くと言うのなら、僕達も従わないとねっ!」

 

 次に槍を持った少年が、青年の後を追っていた。

 

 自分もと駆け出した他の冒険者達は、先程までの躊躇いや怯えがなかったかのように戦い始めていた。

 

「俺もできる限りの事をやらせてもらおうか」

 

 ファイアキャノン、と詠唱が終わるのと同時に杖の先から魔物の群れに向かって火の玉が飛んでいった。

 

「この調子なら、魔物避けを発動する前に殲滅できるかもな……」

 

 フィールドでエンカウントする時とは格段に弱く感じる魔物達に、軽い冗談を口ずさむことすら出来る状況だった。

 

 

 ────だがそんな現状を、とある魔物の出現が一変させてしまった。

 

「トロール……!?」

 

 シルエットこそ人型ではあるが、大きさと雰囲気が人とは似て異なるボスモンスター────トロールが現れたのだ。

 

「厄介だな……これもスタンピードの影響か」

 

 チッと大きく舌打ちをしながらも、コウは戦術を考え始めた。

 

 

 

 

 

 





想定以上に評価をいただいていることに感謝するばかりです。

感想はゆっくり返していきます。

美少女
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