「ロイと俺がまともに相手できるんなら、それほど苦労することはないんだが……」
チラリとロイの方を見ると、トロールの存在には気づいているものの、溢れかえるほどの魔物で精一杯のようである。
「せめて動きだけでも止めてくれれば、倒しようがあるんだけどなぁ」
しかし現実はそう上手くいかないようで、他の冒険者達も消耗するばかり。
自分が身を投げ打って戦うべき────そう思い立ったコウは、単身でトロールの元に突っ込むことにした。
「至近距離でファイアキャノンをぶつければ致命傷になる……はずだ」
自らの身体に『
「っぱ重ねがけは魔力の消費が大きすぎるな……チャンスは1回ってところか」
だが重ねがけとなると話は別────その消費量は二乗に跳ね上がる。
「あと少し……」
遠くからでもはっきりと視認できる巨体が、近づくにつれてさらに大きくなり────
「今っ! 『ファイアキャノン』ッ!!」
杖の先端がトロールの腹にめり込むほど肉薄したコウは、この一発で終わらせるという気合いを声に乗せて詠唱し、魔法を発動する。
そして炎の光はトロールの腹を貫く。
「なっ……!?」
だが、トロールが倒れ伏すことは無かった。
確かにファイアキャノンは直撃し、トロールの腹には所々炭化した火傷と共に、大きな穴が開けられていた。
しかし、それでも
「あいつ……特質持ちかッ!」
特質────ボスモンスター格の魔物が稀に持っているとされる特殊スキルである。
初見のプレイヤーを一時的に行動不能にする『威圧』や触れた武器や装備を著しく損傷させる『腐食』のように、その能力は多種多様に及ぶのだが……
「『鑑定』持ちがいりゃあ確実なんだが、こいつの場合は『超回復』ってところか?」
振り返って見れば、行動不能レベルまでに与えたはずのトロールの傷は、既に塞がり始めていた。
「首か、頭を狙うべきだったな……」
即死させなければならないところを、確実に当てられる安牌を取ったのが裏目に出たな。と恨めしくボヤく。
ニヤリと歪んだ笑みを浮かべたトロールは愚かにも自分に楯突き、手痛い一撃を食らわせてくれた矮小な存在を潰すべく、自らの巨大な拳を大きく振りかぶる。
「これ以上は限界、か……」
魔力は底を尽き、援護をしてくれる味方もいない。
もはや万事休す────コウは諦めて目を瞑り、トロールの拳が自分の体を押し潰す瞬間を待っていた。
が、その瞬間はいつまで経っても訪れない。
恐る恐る目を開けてみると、そこには『GAME OVER』の文字も、致命的なダメージを受けたという警告もなく────首と胴が泣き別れ、倒れ伏すトロールが映るだけであった。
「なっ!?」
ロイが助けに来たのかと思い、辺りを見回せども自分以外に人の姿はない。
「一体なんだってんだ……?」
攻撃魔法を使用したのなら、程度に差はあれど魔力の痕跡が残る。
トロールの首を一撃で刎ねる威力を持つのなら、尚更はっきり残ることだろう。
だとしても、トロールの首が自然に飛ぶことは絶対ありえない。
「……まるで幽霊でもいたみたいだ」
一度そう考え始めるとブルリと身体が震え、身の毛がよだつような感覚に襲われる。
「こいつの戦利品は……この状況で回収するのも気が引けるしな。とりあえず町に戻ることにしよう」
既に巨大な体は見る影もなく、光り輝くドロップアイテムが残るのみであったが自分が討伐した訳ではないこと、そして今この場にいるのかも分からない幽霊を恐れて、コウは町に戻ることにした。
「────」
視界の端を通り過ぎた、黒い何かを見なかったことにして。
美少女じゃ、なかった。
「ちくしょう……!」
最初は、路地裏でうずくまっているであろう可哀想な女の子を見つけて、『貴女は特別よ……』みたいなロールプレイをしようと思い、シュタビリテートに侵入した。
他の人に見られないように立ち回りつつ路地裏を徘徊していた時、いきなりサイレンが鳴り始めたのだ。
通報でもされたのかとおびえながらその場から逃げ出して、いざ街の外に出られたと思えばそこに現れたのは大量の魔物の群れ。
パニックになり悲鳴を上げながら剣を振り回している女冒険者を助けたり、腰が抜けて動けなくなっていた女の子を助けたりして、俺の中のミステリアス美少女満足度はうなぎ上り。その時ばかりはまさにテンションの最高潮とも言えたであろう。
だが最後の……最後のアレだけはいただけない!
最初、こう思ったのだ。
特徴的なとんがりハットを身に着け、無地の黒いローブを纏った魔法使いがトロールと戦い、ピンチになっている────これを助ければ、かなり良質な魔女っ娘成分を得られるのではないかと。
トロールの意識がその子に向いているのが功を奏して、俺の短剣がトロールの首を二回切りつけて首を落とすことができたところまでは良かった。
いざその顔を一目見ようと振り向いた時、俺の目に映ったのは『ショートの黒髪と黒目、そして若々しさを感じさせつつも険しい表情を浮かべる
そう、男だったのだ。
せっかく過去一イケイケで、かつウッキウキで敵か味方かもわからない雰囲気を纏いながら登場したというのに、そこにいたのは男だった。
そこで俺は萎えた。
先程助けた女の子たちも多くの人達がかかりっきりで居たため、それ以上関わりを持つこともできずもうどうでも良いやと思いながら、俺はシュタリビテートから去ることにしたのだ。
しかし……良いところまではいっていたと思う。だからこそこんな残念な結果で終わるとは無念である。
審美眼を磨いて出直さねばなるまい……