……それはまだ…道外流牙が黄金騎士を継承する前。まだ、彼は幼く牙狼の鎧が宮殿にて牙狼剣と共に安置されていた頃。
塔をくり貫いたような円柱状の空間に、中央の光の柱が降り立つ場所には孤独に佇む漆黒の鎧。未だ現れぬ来るべき継ぐ者を待ちわび、目の前の台座には牙狼剣が突き立てられている……
……その主無き剣に手を伸ばし、引き抜こうとする『少女』がいた。髪は長く、何処となく箒に似た彼女は牙狼剣を引き抜こうと精一杯の力を込める。しかし、キチキチとソウルメタルが台座と擦れてつかえる音ばかりで抜ける気配は無い。
そこへ、苻礼法師が現れ……少女の頬をぶち…鬼のような形相で怒鳴る。
「束!あれほど言っただろう!?女は魔戒騎士にはなれない!」
無慈悲で告げられた事実。それは少女の心に叩きつけられ、彼女は込み上げる慟哭と善が反転したような視線を己の父親に向けて去っていく…。
刹那に見た怒りの瞳と、怯えていた妹すら振り切って小さくなっていく後ろ姿は彼が最後に見た娘の………
EP『絶~No hope~』
「おい、苻礼法師!苻礼法師!?」
「…!」
揺さぶられて覚醒した意識は、ここが『あの時』から随分と経った別の場所……即ち、アジトの自分のデスクであると認識させた。見れば、タケルとアグリが血相を変えた顔でこちらを見ている。どうやら、タケルが古い記憶にうなされる自分を起こしてくれたのだろう。
「……すまない、眠ってしまっていたか。」
「おいおい、あんまり無茶しないでくださいよぉ?若くは無いんだから。」
「相変わらず、失礼な奴だな君は……まあ、一理ありますね。苻礼法師、あまり休まれていないようですが、このままだと身体に支障がでますよ?」
全く、老いぼれ扱いとは…歳はとりたくないものであると心の中で静かに自嘲する。目線をずらせば額縁の小さな写真……十数年前の微かにシワが浅い自分と幼い箒といった数人の子供たちと魔戒騎士の男や魔戒法師の女が写ったものがある。あの頃はいずれ…なんて、思っていたが。
「…………俺がしてきたことは正しかったのか…」
「「?」」
「なんでもない。もうじき、魔導ホラー探知機が完成する。待っていろ。」
無意識に声が洩れてしまったが、気をとり直して自分を老人扱いする若者たちの前に立つ。うっかり、椅子の上で一晩を過ごしてしてしまったために肩こりと随所の痛みに悩みつつもあることに気がつく。妙に静かだということに……
「流牙たちはどうした……?」
「ああ、流牙たちなら臨海学校ッスよ?だから、今晩の学園は俺達が守らねーといけねぇってこの間、話しませんでしたっけ?」
「…流牙がIS学園にいない。」
やけに静かだと思ったらそういうことか……確かに、以前に打ち合わせをしたと記憶を呼び起こす。しかし、彼は首を傾げる……IS学園は日本政府の管理する施設で、地続きではない孤島にあって専用モノレール以外は出入りは城壁もあって至難である。これは、そこらのホラーどころか魔戒騎士や魔戒法師たちにも言えるように仲介する者がいなくては侵入など無理。また、出るのも無理……
そんな場所から出る少ない機会……。IS学園という牢獄のような学舎から道外流牙が外に出る?
「……嫌な予感がする。」
「は?苻礼法師?」
「タケル、車を出せるか…?」
「いや、バイクならって……って、苻礼法師?ちょっと、どうしたんすか?」
突然、慌ただしくなるアジト……タケルやアグリも戸惑いを覚える中……
……デスクの写真にピキッと亀裂が走った。
まるで、苻礼法師が抱き寄せる2人の娘を引き裂くように…………
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「あーぅ……」
朝から早々、流牙の顔には真っ赤に火照る往復ビンタの痕があった。今はバスの中で、大半の女子生徒はこれからのビッグイベントにわくわくと胸を膨らませているのだが…裏腹に彼は理不尽に嘆いていた。気になった丁度、後ろの席にいたセシリアが流牙に問う。
「流牙さん、その頬の傷は……」
「リアンにやられた。」
「またですか。今度はどういった理由で?」
「朝起きたら、楯無さんが裸でベッドに忍びこんでて…そのあと、見つかって……」
「は、裸!?流牙さん、ボーデヴィッヒさんに続いて……!?」
「違うから、そういうのじゃないから。」
全く、彼女のいたずらにも困ったものであるくらいにしか流牙は考えていなかったが……セシリアは違う。明らかに楯無も流牙の恋レースに片足を突っ込みはじめてる…いや、乗り出していると察した。
(なんということでしょう。このセシリア・オルコット……次々と遅れをとるこの始末!まずいですわ……でも、しかし…今日は切り札があるッ!これで流牙さんもイチコロに……)
「まあ、眉間を撃ち抜かれなくて良かったよ。」
なんにせよ相変わらず、流牙の日常は騒がしい。リアンと鈴音はクラスが違うため、後発のバスだが同列には納得がいかないと頬杖をつくラウラに苦笑するシャル。前の席には担任の役割として千冬と真耶が……そして……
「…(何故、よりにもよって……)」
流牙の隣には嫌そうな顔をする箒が座っていた。座席の割り当ては一体、どうなってるんだと文句を言ってもバスが道路を走る今となっては今更だ。羨ましいという視線もチラホラとだが、正直なところ居心地が悪くてたまったものではない。
そんな彼女を感じたのか流牙が顔を覗きこむ。
「…箒?気分でも悪い?」
「いや、大丈夫だ。問題ない。」
「学園は大丈夫だよ。アグリにタケル…苻礼法師だけじゃなくて、生徒会長も味方についたんだ。今回は羽根をのばそう!」
「ああ……」
確かに、楯無は先の簪の件から味方につき余計な心労は減った。だが、箒の問題はそこではなく、自分自身だと流牙は知らない…。
……そして、このあとに羽根をのばすどころか最悪の事態がはじまりだすとも…
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臨海学校…
さんさんと降り注ぐ太陽の光の下に照り返す浜辺の砂浜。鮮やかな夏の青空に水着を着た美少女たちが次々と熱を帯びたビーチに飛び出していく……
ラウラと鈴音もまたその内で、水着に着替えた彼女たちは己の勝負水着を見せつけあっていた。
「へぇ?随分と冒険したじゃないラウラ?私と同じツインテールに黒ビキニなんて……」
鈴音はオレンジのお洒落で可憐なビキニに、活動的な彼女の雰囲気と似合っている……
「…む、貴様こそ、勝負の切り札のソレとみた。しかし、それで私の大人の魅力に勝てるかな?」
一方、ラウラは以外ときわどい黒ビキニに髪型まで変えてツインテール。こちらも、流牙を意識したものだが実はドイツにいる副官に助言をもらったのは内緒。
さて、お互いにグイグイと無い胸を突き出してさながら蟹か何かの喧嘩のようだが、そんな様を見ながらシャルが一言……
「あ!ああいうのって、日本のことわざで『ドングリの背比べ』って言うんでしょ?」
「デュノア、お前…たまに凄まじい毒を吐くよな……」
同行していた箒も、流石に彼女の毒舌には顔をひきつらせた。まあ、プロポーションの良いシャルや箒からすれば確かにドングリみたいな体つきだが……
そんな彼女らはお互いにまたビキニ。箒は白、シャルはオレンジと黒。その姿は周りの男性一般観光客たちも視線が自然にそちらへ泳いでいくほど眩しさを感じる。
「まぁ、皆様すでに先にいらしていたのですね。」
「あ、セシリア!おお、君も君で中々……」
「あ、あんまりジロジロ見ないで下さいまし、シャルロットさん。」
続いてやってきたのはセシリア。やはり、歳不相応クラスのグラマラスボディに青のビキニが爆発力をスパイスする。腰の布もまたオシャレだが、やはり……顔を赤らめる姿はあざとい。向こうがドングリなら、こちらはメロンだろうか……
うむ、人間とは平等ではないのは哀しきことかな。
「そういえば、流牙さんとリアンさんは…?」
さてさて、ここで大事なのは折角の水着を見せる相手と目下の最大のライバル。未だに姿が見えないのが気になるところ……先を越されたくはないが……
『あれ?さっきまでいたんだけど…』とシャルも辺りを見渡すも彼の姿は無い。
「まさか、もうすでに…!」
「抜け駆けなんてしてないわよ。」
「はひっ!?」
良からぬ予感がセシリアの頭をよぎったが残念ながら本人が背後にいたので否定された。リアンはブラウンのビキニで肩からはタオルを羽織っている。やはり、朝の件があったからか眉間にシワがよっている……怖い。
「り、リアンさん……いらっしゃったのなら驚かさないで下さいまし。」
「別にそんなつもりはないんだけど……ああ、流牙ならあそこのケバフ屋台よ。簪が一緒みたいだったわね。」
「「「!?」」」
しまった……敵は更識妹にあり。鈴音、ラウラ、セシリアは戦慄した……。うっかり、新参者に先手を譲るとはなんたる失態。このままでは出遅れてしまう。
「流牙ぁ……良い度胸じゃない?」
「嫁よ、私を差し置いて……」
「黙ってられませんわ!いざ、参りますわ!」
こうして、3人組は流牙を目指して走っていく。どうして、自称・正妻のリアンがみすみす見逃すのかを考えず……
シャルはそんな様子の彼女に問う。
「良いの、行かせて?」
「あー、うん。私は良いかな…」
「?」
歯切れの悪い反応は今一つ釈然としないが、すぐに3人はリアンが撤退した理由を知ることになる。それは……
「「「織斑…先生……」」」
「…なんだ、お前らも来たのか?」
屋台が並ぶ一角……流牙と一緒にいたのは簪だけではなかった。鬼の担任・泣く子も黙る織斑千冬。黒ビキニでグラマラスな彼女の隣には真揶が困った顔をしてケバフを抱えている。さらに隣では簪が『うっぷ…』と口許を抑えているではないか。
ヤバい……とてつもなく嫌な予感しかしない。
「ここらの屋台はうまいぞ。特にこのケバフは最高だな!」
油が濃そうな肉の塊を豪快にかぶりつき、うまそうにほうばるが…真揶と簪がブルッと震えたのは何故だろう。まだ泳いでいないのに悪寒がはしる……
「ちょうど良い、お前たちの分も用意してあるぞ。」
「「「え……」」」
すると、後方の屋台から流牙がやってくる……ケバフをはじめとした焼きそばなど、屋台に並ぶ食べ物を明らかに5人分以上はあろう量を腕にかかえて……
「さあ、遠慮するな食え!」
(セシリア、あれだけの量…カロリーいくらだと思う?)
(さ、さあ……1日のカロリー摂取基準をオーバーしているような…)
(いや、まず1人の量がどれくらいという問題が。)
少女たちにはこれらが油の塊にしか見えなかった。しかし……
「どうした?先生の驕りは食えんのか?」
「「「は、はいいぃぃぃ!?」」」
文句など言えるはずもなかった。
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「…たく、流牙ったら。」
その頃、リアンは独りで海の家にて席のうちの1つに腰かけていた。木造の長く海風に晒された建物で、多くの家族連れやカップル等で賑わっている…。その中でチラホラと見知った顔があるのはIS学園の生徒だろう。この臨海学校というイベントを惜しむことなく無垢に楽しむ様はリアンには眩しく見えた…。
……もしかしたら、自分もあんなように友達と他愛ないことを喋り…共に勉学へ励み、恋をして家庭をいずれ築いていく。そんな普通の人間の生活があったかもしれない。
勿論、今の自分はそんな生活をしているがあくまで仮の姿。本当は人々に知れず、夜な夜な魔獣ホラーと戦う魔戒法師・リアン。これが、本来の自分なのだから。だから、何気ない日常を謳歌する人々に目が…時折、羨ましく思う。
「どうした、浮かない顔をしているな?」
「あ、貴女は……」
そこへ、ふらりと現れて彼女の隣に腰を降ろしたのは見慣れた黒帽子。すぐに、SG-1隊長のエンホウだとわかった。だが、彼女は他の隊員と一緒に学園の警護をしているはずだが……
「あまり1人で離れないほうが良いぞ。」
「……あの、学園は…」
「学園は残留している隊員がいる……心配ない。それに、こういう場所はトラブルが多い。離れたほうが……」
考えれば、生徒たちが一般人と交わる機会が多く野晒しのここならセキュリティでガチガチの学園よりSG-1が必要になるであろう。さて、折角の忠告をもらったことだしリアンは手元のドリンクを飲み干し、その場を去ろうと……
「おんや~~??そこの彼女はひとりでござるかぁ?」
げ…。彼女は恐らくは自分にかけられたであろう酒臭い声に顔をしかめた。言った途端に…とはまさにこのこと。千冬と歳がかわらないくらいの青年がとろけてだらしない顔をして近づいてきた。ニホンザルのように顔が赤い……調子に乗って飲みすがた類いの者だろう。この酔っぱらいは目についたリアンに執拗に絡んでくる。
「節操も仲間できたござるが……生憎、他の連中は女連れで…。いやはや、ひとりものは寂しいもので寂しいでござるぅ、ヒック。」
うざい。許されるなら殴りとばしてやりたいところだが、まず無視を決め込む。ソッポを向いてやったが、同時に素早く視界にまわりこんできた。
「ヒック。名前を教えてくんださいまし。」
「…ッ」
……しつこい。いい加減、リアンも腹がたってくる。その傍らではエンホウが辺りを観察しており、酔った若いチンピラらしき男たちが数名ほど女性客たちに絡んでいるのが窺えた。その中には学園の生徒もいる…
「貴様、あれらはお前の仲間か?」
「よよ?ああ、そうそう…拙者の愉快な仲間たちでござるお。なあ、野郎どもッ!」
「「「「うぃ~~す!」」」」
返ってきたリアクションの数…4。成る程、仲間は4人か。周りの客に店員たちもだいぶ迷惑しているようで、海の家からこそこそと逃げ出したり…察するや一目散に回れ右する者たちまでいる始末。営業妨害なのは見るに明らかだ。
「警告する……彼女と貴様とそのお友達が絡んでいるのはIS学園の生徒だ。あと、この店の営業妨害行為をやめなければ即刻…実力をもって我々が排除する。」
「おお、怖い!オネーサンは警察官ですかな?拙者はミニスカポリスプレイが夢でして……」
「うるさいわね!あんたみたいな、酔っぱらいなんて興味ないのよ!」
エンホウは警告したが……とうとう、リアンが限界を迎えてしまった。すると、酔っぱらいは今までとは一変して鬼の形相になると激しく怒鳴りはじめる。
「なんだとクソガキ!?海の男をなめんじゃ……」
……まあ、次の瞬間には彼は宙を舞っていたが…
「へ?」
不意に背中からテーブルに叩きつけられた男はエンホウが自分を投げ飛ばしたのだと気がつくに暫くかかった。途端に、他の仲間が殴りかかってくるが、エンホウはヒラリとかわして腕を掴みあげるとそのまま頭をおさえながら捻りあげた。
「野郎ッ!」
「はっ!」
続いて、空き瓶を持った2人がエンホウに襲いかかったがリアンの蹴りが股間に当たり、先頭が倒れると後ろも躓いて倒れ…顔をあげたところを強烈なビンタを見舞われた。
「ひっ、ひい!?なんだ、コイツらサーカスからでも来たのか!?」
最後の1人は恐れをなして逃げ出したが……
「貴様か……私の生徒に手をだしたのは?」
「!」
…出口で仁王立ちする鬼・織斑千冬を前に絶望せざらえなかった。この時、あの酔っぱらいはこう言ったという……
「拙者、あの時にはじめて死相が見えたでござるぅ。」
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さてさて、そんな大乱闘が繰り広げられているとは知らず……ケバフといった屋台の食事をたらふく腹に押し込まれた3人は白眼を向いてゲップをしながら白い砂浜に伏していた。
「……もう駄目。暫くは油っこいものはたべられませんわ。ゲップ…」
「セシリア、あんたは別に栄養溜めとく袋があるからいいでしょ……ゲプ…」
「嫁、教官……すまぬ、私は先に逝く……ゲプ……」
もう吐きそうな勢いだ……でも、流牙がいる間近で醜態を晒すわけには……
そんな彼女たちを放っておき、流牙は離れたベンチで満腹感にひたりながら幸せそうに昼寝をしていた。服装は水着ではなく、黒の魔法衣……皆が海へ向かう中…彼のみが海に近づかない。そこへ、簪が心配そうな顔をして覗きこむ。
「流牙……あんまり海、好きじゃない?」
「ん?違うよ。ほら、俺は『夜』のことがあるし……」
彼女の不安な予想を笑って否定し、起き上がる。夜とは即ち、魔戒騎士の仕事のこと…それに備えて体力を温存しているのだろう。そして、流牙は彼女の淡い青の水着に目を向けた。
「似合ってるね、その水着。」
「え!?あ、ああ、ありがとう…。これ、流牙に選んでもらったやつだし……」
「可愛いよ。」
簪の水着は先日、流牙と街に出た際に選んでもらったもの。気恥ずかしいところもありつつも、彼女は流牙の前でこれを着ることを楽しみにしていた。褒められれば、照れ屋な少女の肌はほのかに紅く色を帯びる…。
「流牙の水着も見たかったな……」
「それはまた今度ね。」
さぁて……その今度は何時なんて問うのは野暮だろう。叶わないなら仕方ない……簪はルンルン気分で海の友人たちの所へ戻っていった。
流牙も再び微睡みに戻ろうかと思ったが…意外な人物が入れ替わりでやってくる。
「箒…」
「……隣、空いてるか?」
大胆な白ビキニからは予想もつかない箒。流牙の周りにはリアンやセシリアといいプロポーションの良い女子はいるが、お堅いイメージの彼女がそんな水着を着るとは思わず、つい見とれてしまう流牙。やはり、出るところが出て締まるところが締まる女性のボディに目がいってしまうのは男の性……彼も健全な男子ということだろう。
「あまりジロジロ見るな……」
「あ、ああ。ごめん……つい…意外で……」
「うるさい。」
なんだろう……急にぎこちなくなってしまう。あわてて、目を反らす流牙にあえて目をあわせようとしない箒。思春期の1ページのようだが、箒の持つ彼を隔てる感情は決して友好なものではない。故に、意識の摩擦を感じているのは彼女のみだろう。
暫しの沈黙の後、箒がこれを破る。
「苻礼法師からの連絡だ。気をつけろ……だとさ。」
「そうか。それだけ……?」
「ああ……」
話が続かない。箒は逃げようと思ったが、いざ逃げようにもタイミングを見つけられない。また沈黙が流れはじめた時……今度は流牙が口を開いた。
「意外だね……」
「な!?水着のことは……!?」
「そうじゃなくて、俺……避けられてると思ってたから。」
言われてみれば…確かにこう流牙と距離を詰めて話す機会ははじめてである。箒も彼を避けていた節もあるからなのだが……流牙も気にしていたらしい。
「良いよね。皆、楽しそうだ。」
彼の視線は海で遊ぶ少女たちに向けられていた…。シャルがボールを持ってきて、復活したセシリアたちに簪が楽しそうに遊んでいる。
「ああやって見てると思うんだ。セシリアや鈴……簪たちを仲間に入れたことが本当に正しかったのかなって。」
「流牙……」
彼女らと裏腹に…笑顔の裏で彼は悩んでいた。自分と出逢わなければ、彼女たちは無垢なまま学園生活を謳歌できたはず……そして、いずれは流牙たちとは別の世界で幸せな生活を営むことができたはずだと。自分のような魔戒騎士はホラーからその幸せを人知れず守っていくのが使命だと……
「俺は黄金騎士だ。でも、タケルやアグリが居なきゃ学園を守ることもままならない。リアンや苻礼法師が居なきゃどうしようもない時もあった。でも、アイツらは元々が魔戒法師なわけじゃない。本当なら、俺が守らないと…戦わせちゃいけない人たちなんじゃないかって思うと……」
「…」
「…本当なら、俺はセシリアたちとは合うべきじゃなかったのかもしれない。」
……優しいな。知れば知るほど優しさが伝わってくる。箒は流牙という存在が何故、少女たちを惹きつけるか一端の理由を解った気がする。強さがあり、優しくもある…それが彼なのだと。
それでも、自分の心の奥底が警告する……この男を信じては駄目だと。根拠なき悪夢を根拠に、彼の善を全てを否定しようとしてくる。
本当なら、『そんなことはない!』と言ってやりたい。でも、胸が混沌として言葉がつかえてしまう。情けない……目の前に、真っ直ぐな瞳と心があるのに自分は向き合うことができないなんて。
「……一夏…」
「え?」
「うぇっ!?い、いやあのその!?!?」
そんな無意識なうちに出てしまった言葉。誤魔化そうとしたが、彼女は残念なことに器用ではなく……相手も悪かった。
「そういえばさ、前も俺に訊いたよね……一夏って?もしかして、箒の大切な人?」
「えぇえぇ!!?それは……!」
「まあ、落ち着いて。出来れば、教えてくれないかな?その人のこと……」
完全に隠しとおせる空気ではなくなった。焦って、どぎまぎとしていた箒だが……とうとう観念して自分の過去、『一夏』なる人物について語りだすのであった。
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・Side箒……
織斑一夏。
名字からわかると思うが千冬さんの弟でありたったひとりの家族で、私の幼なじみでもある。お調子者の面もあったが姉に似て、剣の才もあった。
アイツは幼い頃、ホラーに襲われ……千冬さんを守るために魔戒騎士を志した。そして、本格的に修行をするためにとある銘ある騎士の弟子となり、今までの生活を離れるにことにしたんだが……その時、私と再会の約束をしたんだ。
それから、……アイツは牙狼《GARO》を受け継ぐ候補にまでなったときく。でも、それっきり…アイツ自身も師や兄弟弟子たちも消息を絶った。
番犬所からの捜索も出されたが未だに見つかっていない……
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「それ、織斑先生は?」
「知らないさ。一夏が魔戒騎士を目指したことも……!それで行方知れずになったことも!」
箒は頭を抑えた……様子からして長い間、苦しんできたに違いない。
「私は最低だ!本当なら千冬さんに教えないといけないのに……今も怖くて黙っている。なんて言ったら良いかわからない!」
知るが故の苦悩……流牙はそんな彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫、きっと見つかるよ。信じよう…。」
「道外……」
彼は笑う。涙でにじみかけた瞳には眩しく……荒れる心に突き刺さるほどに……
「きっと、その一夏も箒が待ってくれてると思っているだろうし……その時は一緒に千冬さんと迎えてあげれば良いよ。そうだ、アグリやタケルに訊いてみよう!苻礼法師だって何か知ってるかもしれない……」
今、その優しさと笑顔は箒の心にとっては一番の凶器であった。近くにあるだけで、胸が抉られる………自分のあさましさを自覚させられるようで…。
……その時だった。
「箒ちゃああああぁぁぁぁぁあん!!!!!!」
「「!」」
シリアスな空気をぶち壊す叫びと共に、目の前に空からコンテナが降ってきたのは…
箒と流牙は咄嗟に飛び退き、身構えるとこの奇妙な箱の上からよっこらせと顔を出した女性。メイド服に機械的な兎耳らしきものをした彼女は箒を見つけるなりブンブンと手を振る。
「箒ちゅゃああああぁぁぁぁぁあんん!!ラブ・マイッシスターー!!!!束さんだよ~!」
「ホラーか!?」
「……いや、私の『姉』だ…」
「!」
……突如として現れた彼女。果たして、その目的とは……
To be continued…
魔戒法師の修行について指摘する感想がありましたが、それらはいずれ追及していきます。
次回から、福音パート(仮)に入っていくよ!
感想おまちしてます。