キヴォトスに迷い込んだので、全力で楽しんでみる 作:おすとろもふ
終点:砂漠
心地良い揺れを感じながら外を見ていた。
電車の窓から見える景色は、一面が緑一色になっていて眺めているだけでリラックスできる。
しばらく外の景色をぼーと眺めていると、スマホが震えたと同時に一件の通知が入った。
通知のアイコンを見ると、数瞬上に視線を上げた後、独り言を溢した。
「……あー、忘れてた。そういやブルアカ入れたんだったな」
電車に乗る前に、友達から勧められていたブルーアーカイブというゲームを興味本位で入れてみたのだ。
しかし、ブルアカというゲームが思った以上に重く、田舎の圏外を突っ切っていることもあってかダウンロードが遅い。
なので、画面を見るのをやめて意識から切り離していた。
長いダウンロードが終わったブルーアーカイブを開くと、色々な少女達が戦車に乗ったり話したりしている画面が映し出される。
「う〜ん……。世界観がわからん。なんで戦車とか銃出てきてんの……?」
最近のSNSを流し見することは多々あるが、最近は頭に輪っかの付いた少女達のイラストが急増していた。
往々にして銃を持っていたり、制服がボロボロになったり、謎の二頭身の怪物が顔芸をしていたりと、とにかく情報が交錯しているのだ。
そして、俺はゲーム画面に出てきた文字を押した。
TOUCH TO START
押した瞬間に出てきたのは長すぎるデータダウンロード。
その画面を見た瞬間、スマホを横に放って目を瞑った。
「やってられっか!始めるまで長すぎんだけど」
そう呟き俺は、意識が深く沈んでいく感覚に身を任せた。
……そういえば、いくら田舎といっても乗客が一人も乗ってないのは変じゃないか?
駄目だ、頭が回らない。
……寝よ。
……私のミスでした。
ですから……大事なのは経験ではなく、選択。
この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。
だから先生……どうか。
ジジッ
こちらも確認した。半泣きのセリカ発見!
ここは私達に任せて、先に行きなさい!!!
……ユメ先輩。
全く、可愛い後輩達のお願いだし、仕方ないなあ……。
ただいま
ジジッ
ジジッ
【我々は望む七つの嘆きを】
【我々は覚えているジェリコの古則を】
ジジッ
……そうだな。
言い表すならば、どう言おうか?
ここからは、既存のルートを辿れない裏ステージといったところか。
……あぁ。
世に不変は存在しない。
永劫は無く、変わり続ける……。
ジジッ
……だから面白い。
不変なものなど、つまらないじゃないか。
君が交わることで、物語は劇的に変化する。
楽しみにしているよ……。
ジジッ
ーまもなーーースーー
ーードスーく
微かに聞こえてくる車内のアナウンスに、意識を引っ張られる。
……なんだか意味不明な夢を見ていた気がするが、夢特有の起きたら忘れる現象が発動していっている。
未だ意識が半覚醒状態ということもあり、電車特有の揺れでまた意識が落ちそうになる。
だが、眠れない。
……暑いんだけど。
俺向かってたの南じゃなくて北なんだけど。
おかしい……。先程から目を瞑っているのに、一生直射日光が顔を照らしている。
流石に眠気も覚め、瞑っていた目を開けた。
「……は?はぁぁああああ!?」
俺は思わず叫びながら、電車の窓に張り付く。
窓の外の景色は、一面の山から一転して一面の海と、少し先に見える一面の砂漠になっていた。
いや、なんで?なんで起きたら海と砂漠が広がってんの!?
……その前に、俺が乗ってるのどこ行きなんだ?
普通に東北にある実家に帰ろうとしたら、なんで砂漠横断しようとしてんの?
俺は、あまりの異常事態に周りを急いで見渡した。
しかし、車内には乗客は一人もおらず、話し声一つ聞こえはしない。
それどころか、空気に少し青い鱗粉のような光が舞っていて、それを日の光が照らし、幻想的な空間を作り出していた。
「ははっ……」
思わず乾いた笑いが出る。
身体から力が抜け、俺は倒れるように席に座り込んだ。
『ご乗車ありがとうございました。まもなく終点アビドス砂漠、終点アビドス砂漠。お出口は左側です。落とし物お忘れ物ございませんよう、注意してお降りください』
……アビドス砂漠って何処だよ。
いやその前に砂漠を終点にするなよ……。
俺ここで降ろされてどこに行けばいいんだよ。
……駄目だ。ツッコミどころがありすぎる。
「……帰りの電車あっかな」
・・・・・・
凄まじい勢いで砂埃を撒き散らし、電車は去っていった。
俺が降ろされたのは、もう長らく使われていないことがわかる無人駅だった。
ホームの壁には、沢山のポスターや貼り紙が貼られていて、昔この場所が栄えていたことがわかる。
……もう意味がわからない。帰りたい。
俺は一先ず、日差しよけのあるホームで次の電車を待つことにした。
正直ここに居座るのも退屈だが、自分が何処にいるのかすらわからない状態で出歩くのは危険すぎる。
「……はぁ。まじでどこだよここ……」
「ん〜?ここはねー、アビドスだよ〜!」
「それがどこなのか分からないから、困ってるんだけどな?」
「ッ!?……うーん?もしかしてキヴォトスの人じゃないのかな?」
「……キヴォトス?」
なんだキヴォトスって。日本じゃないのかよ。
もしかして、電車で拉致された……?
でも、周りには人が居なかったし……。
……ん?
「ほぁあぁぁあッッ!?!?」
「わぁぁぁぁああ!?」
俺の悲鳴に共鳴するように隣の女性も悲鳴をあげた。
「いやだれ!?」
「え!?こっちのセリフだよ!?」
「え、えぇ……」
なんだこの人。誰かも分からん奴に話しかけて来たのかよ……陽キャか。
一先ず警戒しながら、目の前の女性を観察してみる。
水色のネクタイが特徴的な制服を着ていて、髪色は緑が混じったような水色?だ。そしてアホ毛が頭のてっぺんから飛び出ている。
そして、アホっぽい顔をしている。
「ねえ!今失礼なこと考えてなかった!?」
「何故バレた……?」
何故バレた。
「そんなことより、聞きたいことあんだけど」
「そ、そんなこと……??う、うんまあいいや!それで聞きたいことって何かな?」
「ここってどこなんだ?そんで、ここから日本に帰れる?」
現時点で大事なのはこの二つに限る。
そもそも、冷静に考えてみれば、何故俺の言葉が外国なのに通じてるんだ?この緑髪の女性は、恐らく外国人だろう。
しかし、翻訳機を通すでもなく俺の言葉が通じている。反対に俺もこの女性の言葉が理解できる。というか日本語だ。
何が起こってんだ……?
「うーん……まずここはキヴォトスっていう学園都市だよ!そして、砂だらけのこの街?……この場所はアビドス自治区の中のアビドス砂漠っていう場所だねー!」
「……なるほど。俺が今まで聞いた中でキヴォトスって場所は聞いたことが……?」
いや待てよ。
なんかアビドスといい、キヴォトスといい、既視感がある。それに、俺はこの目の前のアホ緑が着ている「アホ緑ってなに!?」制服を何処かで見たことがある。
……頭の中でずっと引っ掛かってたんだ。
「そして、君が日本?に帰れるのかどうかは分からないかな?ただ、この駅からはそこに帰るための電車は出てないよ〜」
「……やっぱりそうだよな」
……さっきから心臓が壊れそうなくらいにドクドク鳴っている。
思い出すのは、友達の話だ。
『なあ!見てくれよこれ!ブルアカのフィギュア!』
『へぇ、凄いクオリティだな。なんてキャラ?』
『これはな〜!ホシノたんだよー!!まっじで俺のマイエンジェル!』
『頬擦りすんなよ……顔がやばいことなってんぞ……』
『うへへ……ホシノたんーーいってぇ!?ホシノたんの髪が俺の頬に刺さったぁぁあッ!?』
『……馬鹿だろ』
あいつが持っていたホシノたんとかいうキャラも、この目の前にいるアホ緑と同じ制服を着ていた。
「なぁ……もう一つ質問いい?」
「うん!もっちろんだよ!」
……そうだな。もし俺の考えが正しいならーー
「ここってさ、銃持つの常識な世界で、頭に輪っか付いてる人達がいる世界であってる?」
「おー!!合ってるね!あと、頭の輪っかはヘイローって言うんだよー?」
ッスゥーー……
終わったー。
・・・・・・
「そうそう!自己紹介してなかったよねー!私は
「同い年の可能性とか年上の可能性は考えなかったのか……?」
「雰囲気でわかっちゃうもんね〜!私高校2年生だからねっ!」
謎理論。
今俺たちは、ホームに立って会話というのも疲れるので、隣のユメ先輩とホームにあるベンチに座っていた。
「……俺は
「へえ!ミツハくんって言うんだ!いい名前だねー!」
「……うっせ」
「あははっ!照れてる!かっわいい〜!」
なんでだ……。手玉に取られている気がする。
これが年上の女性ってやつなのか……?なんだか包容力というか、なんというか。
「もぅ〜……ほんと可愛いなぁ」
「はぁ……んでユメ先輩はこんなとこで何してんの?」
「おっ!やっと私に興味出てきた〜?ふふんっ!教えてあげよ〜!」
ユメ先輩に話題を振ると、途端に調子に乗り始めた。
あと、胸を張るのはよくない。思わず目が引き寄せられてしまう。
……なんだこれ、戦略兵器?
ブルアカには、銃火器や戦車が頻繁に出てくるのは知っていた。
しかし、こんな戦略兵器まで存在するなんて、なんというゲームなんだ。
流行になるのも頷ける。
「まあ、私自身意味もなくここにいる訳じゃないんだ」
「そりゃな、こんな電車も滅多に来ない無人駅だしな」
結局、1時間近く経つが一回として電車が来ることはなかった。それどころか、アナウンス一つとして鳴らない。
そんなことを頭の端で考えながら、ユメ先輩の話を聞く。
「そもそも私はアビドス高校の生徒会長だったんだよ。でも、砂漠で死んじゃってね〜。……ほら、私の頭にヘイロー浮かんでないでしょー?眠ってるわけでもないのにね〜」
……は?
こいつは……ユメ先輩は何を言ってるんだ?
「い、いや……え?何言ってんだ?だって、ユメ先輩はそこにいてーー」
喋っている途中に気づいてしまった。
目の前のユメ先輩には、ヘイローどころか影もない。
ホームの奥にある鏡にも、俺以外は映っていなかった。
「……まじかよ」
「うん!大まじ!ちなみにここは、あの世と繋がる駅?みたいな所だと思うよ」
……じゃあなんで俺はここにいるんだよ。
電車で寝てる間に死んだのか……?
「……んー?ミツハくんは死んでないと思うよー?ヘイローだってあるし」
「……は?え?」
俺は、もう一度ホームの奥にある鏡を見ると、確かに俺の頭の上にはヘイローという輪っかが浮かんでいた。
「……やっぱり綺麗だなぁ〜。ミツハくんのヘイローって綺麗なお水みたい」
自分でも見てみたが、確かに水が輪っかになってる感じだ。
「なんかもう、驚きの連続で疲れたんだけど……」
「それじゃあ私の膝枕とかどうかな〜?」
「……遠慮しとく」
そんなの一生抜け出せなくなる泥沼だろ。誰が自ら飛び込むんだよ……。
……いやいっぱいいるか。
俺は、背もたれに身を預けて全身の力を抜いた。と同時にユメ先輩が悪戯を仕掛けてくる。
「んふふー!駄目だよ〜そんな無防備な姿晒して〜。お姉さんがイタズラしちゃうぞー?」
と言いながら、髪の毛を弄り出すのがこの梔子ユメという人間らしい。
「そういえば、ユメ先輩って他の人から見えるのか?」
「……見えないよ。これでも最初はずっと彷徨ってたんだよ。でも、みんなからは私の姿が見えないし、話しかけても返してくれない。何ヶ月もずっと一方的に話しかけ続けて、最後に辿り着いたのがこの場所だったんだ〜」
いや、おっも……。
色々言いたいけど、とりあえず
「どんまい」
「……え?軽くない!?」