キヴォトスに迷い込んだので、全力で楽しんでみる 作:おすとろもふ
俺は現在、目の前で護送車に連行されていく容疑者「
「ヒッ……ヒッ……!た、たす!助けてくれッ!」
……先程までの人物と同じとは到底思えない。
聞いてみると、カスミは俺と同じ学年らしい。
そして、その圧倒的なカリスマ力で高等部のゲヘナ生達に「温泉開発部」というものを作らせ、源泉のある場所を爆破しまくるテロリストだとか……。
「うん。自業自得だな!"今度"会った時は温泉を案内してくれよ!」
……まあいつになるかは分からないけど。
しばらくは来る予定ないし。
「なっ!本当かッ!?……ハッハッハー!!そういうことならこの私に任せーーー」
「早く乗って」
「ヒィッ!!……ヒッ……ヒグッ……!」
調子に乗って高笑いをしていたカスミを、空崎ヒナが催促した瞬間にカスミの顔が再度ぐしゃぐしゃに萎んだ。
俺は、最高の笑顔を顔に貼り付けながら、アビドスに帰るのを待ち遠しにしていた。
早くアビドスに帰ってみんなに癒されたい。……こんな殺伐としたゲヘナを一刻も早く出たい。
あぁ、ホシノ先輩!ノノミ!シロコ!
今帰るから……
ピコン
「ん?」
突然ポケットに入れていたスマホが震え、通知音が鳴った。
俺は気になってスマホを取り出し、画面を表示する。
ホシノ:不在着信
ホシノ不在着信
ホシノ:不在着信
ホシノ:不在着信
ホシノ:ねえ
ホシノ:帰ってきたら覚えておいて
ホシノ:……謝っても許さないから
ホシノ:早く帰ってきて
あぁ……。
「終わったぁ……」
俺は、ただひたすらに天を仰いだ。
・・・・・・
その場で立ち尽くし、曇りなき青空を見ていると、空崎ヒナが声を掛けてきた。
「……さっきは協力してくれてありがとう」
「あー、いっすよ。成り行きで巻き込まれただけだったので」
俺が苦笑いで答えると、空崎ヒナはほんの少しの微笑みを浮かべ笑う。
この人と出会ってからずっと仏頂面だったが、初めて笑っているところを見た気がする。
日本ではあまり見られなかったが、白髪の美少女の笑顔というものは絵になるな。
……ふむ、可愛い。
「……それはそれとして、今日は妙に会いますね」
俺は思ったことを誤魔化すように、話題を変える。
すると、空崎ヒナは少し考えるような仕草をすると、徐に話し始める。
「……そうね。今日はよく会うね。でもそれはあなたが目立ちやすいから。……そのヘイローとかね。あと……あなたは巻き込まれやすい体質なのかもしれない」
空崎ヒナ……もう、ヒナさんでいいや。
ヒナさんは神妙な顔をしながら、そんなことを言う。
俺のヘイローが目立ちやすいってどう言うことだ……?ヘイローはみんなに存在しているはずだ。
そして、明らかに俺のヘイローなんかよりも、目の前のヒナさんのゴツいヘイローの方が目立つに決まってる。
「ど、どういうことっすか?みんなにもヘイローありますよね?……それに、明らかに俺なんかよりも目立つヘイローを持ってる人達が沢山いるはずですよ?」
俺の発言を聞いて、少し驚いた顔と共に深刻な顔を滲ませる。
「……そう。なるほどね。……あなたには、他の人にない能力がある」
「他の人にない能力?」
いや能力て!そんな、某レベルなんちゃらさん達がいる世界じゃないんだから。
……あっ、水操れるわ。
「そう。……大前提として、他の人達はお互いのヘイローを認識できない。そこにあるのは分かるけど、目視はできないの」
「……え」
どういうことだ?
他の人達にはヘイローは見えていない……?
じゃあ、何で俺のヘイローは他の人達から見えているんだ?
「え……でも、俺のヘイローは見えて……」
「……だから言った。あなたは目立つの。私達から見ても、不思議な存在。……何より気になるのは、あなたは今まで他の人達とのズレに気が付かなかったの?」
……たしかにそうだ。
今考えてみれば、俺は最初からズレていた。
このキヴォトスに来てから、まだ数日くらいしか経っていない。
だから、スマホの検索サイトで調べた程度の常識しか知らない。
それに、お互いのヘイローが見えないなんて情報は、そもそも検索候補にすら入れていなかった。
そして何よりも、俺は最初にこの世界に来た瞬間出会ったのだ。
……生きている人間が見えないはずの存在に。
さらに言えば、この世界に来た瞬間に舞っていた青い鱗粉だ。最初は全く気にしていなかった。そもそも、気にするものでもないと思っていた。
しかし、俺の中で前提が崩れた今、見える景色に存在するものが一気に違うものに見えてくる。
俺には確かに、俺しか見えていない景色が存在しているということだ。
「……まじか。それじゃあ、これまで見えてたものが本当に存在してるのかすら怪しくなってくるんだけど……」
俺は独り言をこぼしながら考え込む。
「……はぁ。あなたは最近、アビドスにお世話になっているそうね」
「え?そうだけど……いや、何で知ってんの!?」
ストーカーの方ですか?
「私には沢山の情報網があるの。突然現れた人のことなんて、いち早く調べるに決まってる。……あなたがこれからアビドスに居るつもりなら、くれぐれも気を付けたほうがいい……」
「な、何をすか」
「あなたと話をして確信した。間違いなく、あなたは悪い人達に狙われる。いえ……それだけでは済まない程の価値がある。……だから、早く強くならないと命を落とすことになるかもしれない」
ヒナさんは、俺の目をはっきりと見つめながら忠告をする。
……この数日間で確かにキヴォトスの常識を色々知ったり、色々な人に出会ったりしてきた。
確かに、俺はこのキヴォトスで生徒でもないので地盤は危うい。
しかし、俺の足元は思っていた以上に不安定になっているらしい。
思い返せばD.Uの時のテロリストも、俺を人質にするとか言いながら人身売買しようとしていた。
……駄目だ。
思い返すと、様々なところで俺という存在が周囲から浮きまくっているのを感じる。
「……え、まじでどうしよ」
知らないうちにピンチになっていた。今後どうやって生活すればいいんだよ。
俺が今後のことを考えていると、ヒナさんが無表情のまま口を開いた。
「……今度、私の仕事が無い時に稽古を付けてあげる。……あと、
……うん。いや、色々と言いたいことが湧いてくるけど、その前に伝えなければいけないことがある。
「ありがとうございます!ヒナさん!そして、これからよろしくお願いしますッ!!」
「……ヒナでいいよ。あと、敬語もなしで。プライベートでも堅苦しいのは息が詰まる」
そう言いながらヒナさんは微笑んだ。
……やっぱり絵になるなー。
・・・・・・
あの後、ヒナさんとモモトークを交換してから、速攻でゲヘナ駅に直行し電車に乗った。
現在の俺には、一刻の猶予すら存在していない。
はやる気持ちを抑え、冷や汗を流しながら刻一刻と迫ってくるアビドス駅を心待ちにしていた。
先程ホシノ先輩のモモトークに、「ごめんちゃい⭐︎」と送ったらそれから一切の返信も来なくなった。
……多分、ガチギレしてる。
心配させないように、軽い感じで送ってしまったのが運の尽きだった。
そのまま、ただただアビドス駅を待ち続け、着いた瞬間に急いで電車から降りた。
そのまま改札を通り、アビドス駅の外に出ると、案の定ホシノ先輩がそこに立っていた。
ホシノ先輩からは、何か不思議エネルギーのようなものが沸々と湧き上がっていて、その激怒具合が測れる。
……そう、今日が俺の命日だ。
「ほ、ホシノ先ぱーーーガフッ!?」
俺がホシノ先輩に手を振りながら声を掛けた瞬間に、鳩尾に衝撃を受け吹き飛ぶ。
……う、嘘だろ!?何も見えなかったぞ……!?
先程まで俺が立っていた場所にホシノ先輩が立っており、その表情は憤怒の色に染まっていた。
そして、そのままホシノ先輩は倒れ伏す俺の元まで歩いてくる。
「……ねぇ。言ったよね?前にさ、私の前からいなくならないでって。……ミツハくん?言葉で理解できないならさ、もう身体に教え込むしかなくなっちゃうんだよ?あのさ、そろそろ本格的に首輪嵌めるから」
ひ、ひぃん!?
これまでの15年間で、感じたことがないほどの恐怖が俺の身体を突き抜けていく。
俺が震えながらホシノ先輩を見ていると、ホシノ先輩がポケットからスマホを取り出す。
「……一応言うけど、二人はミツハくんとの約束を守ったみたいだね。……でもさ、ミツハくんのスマホに入ってるんだよね。GPS」
……What?
GPSって、え?あのGPSですか!?
「い、いつのまにそんなの付けーーー」
「うるさいよ」
「ヒッ」
凄まじく鋭い眼光で睨まれる。
が、眼光で人が殺せるぞ……!!
「……とりあえず、こんなところで説教するのも目立つから、続きは校舎に戻ってからにするよ。……あと、今日は私も校舎に泊まるから覚悟しなよ?」
「は、はいぃ……」
これではまるで、飼い主に説教される犬じゃないか……!
その後、アビドスに帰った俺は他の二人が見ている前で公開説教(マジギレ)を受けた。