キヴォトスに迷い込んだので、全力で楽しんでみる 作:おすとろもふ
キヴォトスに来た頃に、俺は特になんの目標もなかった。
しかし、ユメ先輩と出会い、柴大将の美味しいラーメンを食べ、優しさに触れて目標ができた。
沢山の人と出会い、様々なことを経験する。
そして、全部終わって帰る時に「楽しかった!」と思いたい。
そんな、淡い希望と夢を抱いていた俺は、今絶望の淵に立たされている……いや座らされている。
俺は今、アビドス高校の教室にあったイスに、ロープとガムテープで縛り付けられている。
そして目の前では、俺の前で呑気に塩おにぎりを齧っているシロコがいる。
……何故シロコが目の前で食事をしているのかは、意味がわからないので置いておこう。
俺がこうなった理由は、昨日まで遡る。
・・・・・・
ゲヘナから帰ってきて2時間以上が経った。
そして俺はその間、ひたすら部室の床に正座していた。
ふと窓の外を見ると、既に陽が落ちており、アビドスの美しい星空が空を彩り始めていた。
「あ、あのー……そろそろ外が暗くなってきたと思うんだけど、一緒にご飯とか……」
「……許されると思う?」
「いえっ!思いません!!」
俺はお腹が空いたこともあり、目の前で既に2時間以上の説教をしているホシノ先輩にタイミングを見て声を掛ける。
しかし、さっきまで段々と表情が柔らかくなってきていたホシノ先輩の表情が、一瞬で鋭くなった。
スゥー……タイミングを間違ったみたい⭐︎
……正直、俺の目標を達成するには、今後もキヴォトスを回る必要がある。
そして、アビドスの面々をその都度連れ回す訳にもいかない。
ただですら迷惑を掛けているのに、これ以上の迷惑は掛けたくない。
……結局、俺がここまで心配されている理由は俺が弱いからだ。
「……ホシノ先輩。心配を掛けるのは、俺が弱いからっすか?」
俺は、正面にいるホシノ先輩の顔を真っ直ぐに見ながら言う。
すると、ホシノ先輩の目が少し見開くと、苦虫を噛み潰したかのような表情で言った。
「……ッ!?……そうだよ。ミツハくんは、戦闘経験のあるキヴォトス人に比べて弱い。……だから、私達が守らなきゃ駄目なんだ」
ホシノ先輩は、真剣な瞳を向け俺を守ると宣言する。
……だけど、俺はそんな守られるような存在にはなりたくないんだ。
自分と同じ歳くらいの子達に守られて、キヴォトスで怯え続ける日々……。
「……嫌っす」
「……ぇ?」
俺が絞り出すように否定の言葉を発すると、ホシノ先輩の顔から表情が抜け落ちた。
まるで、縋っていたものが唐突に目の前で崩れ落ちたかのような表情を見せる。
目の前のホシノ先輩の表情の変化を見て、多少の動揺はするがそれでも言わなければいけない。
「……ホシノ先輩。俺は守られるんじゃなくて、お世話になってるアビドスのみんなと肩を並べて戦いたい」
自分の心の中で、ずっと思っていたことを吐き出す。
……ずっと、それこそキヴォトスに来てから今まで、自分の無力さを嫌という程感じていた。
戦って自分で自分を守り、解決できる目の前の少女達に比べて、俺はずっと守られてばかりで自分では何も解決できていない。
……そろそろ、そんな自分に嫌気が差した。
「だ、駄目!私達がミツハくんを守ればいいし、それが君を失わないベストな選択なんだよ……!」
ホシノ先輩の顔に、少しづつ焦燥の表情が浮かび始める。
「俺は、このまま守られる存在に甘んじるつもりはないっす。……せめて、自分で自分を守れるくらいは強くなりたい」
「……っ!!うぅ……なんで!ミツハくんはユメ先輩が私に託してくれた後輩だッ!だから、私が責任を持って守らないと……!!」
ホシノ先輩は、顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。
……こう見ると、普段の言動や行動よりも年相応の高校生だ。
そして、だからこそ俺はみんなと肩を並べて戦いたい。
俺がホシノ先輩に声を掛けようとすると、別な方向から声が飛んできた。
「ホシノ先輩……それは違うと思う。ミツハは、今は弱いけどきっと強くなる。それに、私達が守るって言ってもこの生徒数だと限界がある」
シロコが、ホシノ先輩に諭すように言った。
そして、それに追従するようにノノミも発言する。
「……そうですね。どのみち、ミツハさんに強くなってもらわないと、このキヴォトスでは生きていけません。特に、ミツハさんは水を操れるという前代未聞の能力があります。悪い人達から身を守る手段は、いくらあっても足りないと思います……」
珍しくノノミが真剣なトーンと表情をしている。
普段は、語尾に♤とか⭐︎とか付いているがここまで真剣なノノミは初めて見たかもしれない。
二人の発言を聞いたホシノ先輩は、顔を俯かせて動かなくなった。
俺達はそんなホシノ先輩の様子を心配しながら、話をする。
「……ミツハは強くなるアテとかあるの?」
「そうですね⭐︎やはり短期的に強くなる方法は、師匠を作ることだと思います!」
「……一応、これから稽古をつけてくれるって人は二人いるんだよな」
『……え?』
俺の発言に、俯いていたホシノ先輩を含めて困惑の声を上げるアビドスの面々。
……そういえば、こんな人と知り合ったとかは言っていたけど、細かい会話の内容までは話していなかった。
D.Uではネル先輩と出会い、今度ミレニアムに行く約束をしている。
今日のゲヘナでは、ヒナが暇な日に稽古をつけてくれるという約束をしている。
困惑した表情を浮かべていた三人の中から、いち早く切り替えたノノミが俺に聞いてくる。
「……えーと、その方達は信頼できる方なんですか?」
「二人とも強いし信頼もできるぞ〜」
俺とノノミが話していると、急に俺のお腹に衝撃が走る。
視界に映ったのは、桃色の髪に目のようなヘイローだった。
ホシノ先輩は、俺の死角を通って近づいて来たようだ。
「あ、え?ホシノ先輩……?」
「……私さ、ミツハくんからは、いつの間にかフラッと何処かに行っちゃいそうな雰囲気を感じてたんだよね」
そう言いながら、ゴソゴソとしながら何かを取り出すホシノ先輩。
そのまま、ホシノ先輩が俺の両腕を掴むと同時に、何かを使って縛られた。
「……えっと?ホシノ先輩?」
「……やっぱり、他の人には任せられないかなー?ミツハくんはこれから縛るから、あと外出禁止ね」
「ホシノせんぱーいッ!?考え直してほしいんですけど!?」
俺は、焦りながら行動と発言の撤回を要求する。
しかし、そんな俺の思いは虚しくホシノ先輩はシロコに声を掛ける。
「ちっとも懲りないミツハくんを縛るからさー、シロコちゃん手伝ってよ〜!」
「ん!!わかった!!ガムテープも使おう!!」
「シロコさ〜ん!?!?」
「……ミツハさん。諦めましょ〜♤」
どうしてこうなるんだよッ!!
・・・・・・
それから朝まで、縛られたままの生活を強要された。
当然、腕が使えないので水を操作して色々なことをしなければならなかった。
そして、そのおかげかは分からないが、水の操作が上達した気がする。
これが雨降って地固まるということなのか……?
それはそうとして、目の前で食事をしているシロコは一体なんなんだ!
「……シロコー?なんでここにいるのかな?」
「……ん。ミツハが脱走しないように監視してる」
「あー!そっかー!そんな心配しなくて大丈夫なんだけどなー?」
目の前のシロコは、俺を訝しむような表情をした後、また食事を再開した。
俺の意見は完全に無視である。
「そのー、これ解いてくれたりってー……」
「……ん?この音……ヘルメット団だ」
「え?」
シロコは耳をピコピコ動かしたかと思うと、窓際まで近寄り外の様子を見ながらそう言った。
……俺の言葉はまた虚空に消え去った。
えーと、ヘルメット団ってカタカタちゃんだよな?
「ヘルメット団って」
「アビドス高校を定期的に襲撃してくる不良集団」
「へぇ〜」
アビドス高校って定期的に攻められてるんですか?
……え?それ、ここも安全じゃなくね?
俺がこの状況に戦慄していると、シロコがこちらに振り向き真剣な表情をこちらに向ける。
「……今この校舎には、私とミツハしかいない。対して相手の数がここ最近で一番多い……。多分、生徒が少ない時間を狙われた」
「……え?それやばくね?」
「ん、超やばい」
現在、俺とシロコ以外の二人はそれぞれの用事で校舎から離れている。
ノノミは、まだアビドス高校に入学していないので、今日はアビドス中学校の卒業式に出ている。
確か、名前はネフティス中学校だっけか。
そして、ホシノ先輩は自治区のパトロールに向かった。
……この状況が相手に筒抜けなら、アビドス高校は決して安全な場所とはいえない。
「……ミツハ、ここにいて。私が全部倒す」
「いや無理だろ……」
「関係ない。どのみち、全員倒さないと占拠される」
え、負けたら占拠されんの!?
目の前のシロコは、突然窓から離れて距離を取ると、そこから走り出した。
……まるで、助走をつけるような走り方で開け放った窓に突進する。
「……え、嘘だろッ!?」
「……ん!!」
シロコが3階の窓から外に飛び出す。
そのまま校舎の壁を蹴り飛ばし、校庭に入ってきていたヘルメット団に空から真っ直ぐ突っ込んでいく。
「ッ!?なッ!!上だ!!」
「……は!?うっそだろ!?」
流石のヘルメット団達も、驚愕の表情を浮かべて空から迫るシロコに対して直ぐに迎撃体制をとる。
空から飛んで行ったシロコは、空中で体勢を変えて愛銃のアサルトライフルを構える。
そして、そのまま銃を乱射しながらヘルメット団達の中に着地した。
「……こんにちは。でも、突然の来訪にはアポイントをとるべき」
「ッ!!んなものとるかよ!!お前らさっさとこいつを蜂の巣にしろッ!」
「出来るならしてみるといい!」
次の瞬間、シロコは銃を目の前の相手に乱射しながら、その場から飛び退く。
そして、ヘルメット団達の中でも火力の高い後方のマシンガン部隊が、シロコに標準を定め銃撃を開始する。
「……狙いを定めるのが遅い!」
「……こいつッ!!」
シロコは、永遠と放たれ続けるマシンガンを回避するように、ヘルメット団の外周を回るように駆ける。
信じられないほどの脚力を使い、グングンとスピードを上げ続ける。
「ッく!団長ッ!!あたし達じゃ捉えきれないです!」
「……!!早すぎて弾が当たらねぇ!!」
そのまま、混乱状態のヘルメット団の一人に、シロコが先程までのスピードを乗せた蹴りを繰り出す。
当然、そんな一撃を回避できるはずもなく、近くにいた団員を巻き込んで吹き飛んだ。
「……えぇ、まじ?シロコ強すぎない?」
もちろん、強さではネル先輩やホシノ先輩のような化け物達には劣るだろう。
しかし、スピードに関しては出会ってきた人達の中でも、トップクラスに位置していると思う。
俺はそんなことを考えながら、シロコの蹂躙劇を眺めていると下の階から複数の足音が鳴り始めた。
……流石のシロコでも、一人で食い止めるには限界があるのだ。
このまま敵がここに到着すれば、俺はリンチを受けるだろう。
……やはり、このキヴォトスで生き残るには強くなるしかないのだ。
俺は早々に覚悟を決めると、机の中に入れておいたカッターを取り出し、水の手(ミニ)を使って縄とガムテープを切り落とす。
「……ふぅー。やっと解放された!」
縄とガムテープに縛り付けられたせいで、凝り固まっていた肩をほぐすように回すとそのまま教室の入り口を見る。
俺が視線を向けた先には、悠然とあるいは踏み荒らすように我が物顔で入ってくるヘルメット団。
「……やっと見つけたぞ?ミーツハちゃん?」
「お前を捕まえてけば、賞金1000万が貰えんだぜ?今回の襲撃に出した費用なんてあっという間に帰ってきちまう」
……なんで俺の名前がわれてんだよ。
それと、なんで俺が賞金首になってんの!?
「いやおかしいだろっ!!俺に1000万の価値とかねぇからッ!!」
「……ッハ!そう思いながら私達に捕まるといいさ!おっと、抵抗は無駄だぜ?お前の戦闘力は無いに等しいって書いてあったからなぁ?」
そう言いながら、
やはり、どこの世界でも弱いやつから狙われるのは鉄則らしい。
俺は、自分の立場と弱さに思わず苦笑いが出てしまう。
「……だよなぁー。俺、弱いしなー!」
俺は、笑いながら窓に近づく。
今日は生憎の快晴だ。
……ホシノ先輩がよくやってるように、屋上で昼寝するのもいいかもしれない。
もちろん、この戦いが終わってからだ。
そしてついに、後一歩で窓の外の位置まで着いた。
ヘルメット団達は怪訝な表情を浮かべながら、未だに口元をニヤけさせている。
完全にこちらを舐めている態度だ。
「……おい?何をする気だよ。お前はそこから落ちたら軽傷じゃ済まない筈だぜ?」
「だろうな……でもさぁ、ここじゃ狭いだろー?もっと、広く使ってこうぜッ!!」
どうせ戦うなら盛大にやってやる。
俺は、そのまま笑いながら窓の外に身を投げ出す。
……そして、俺の視界いっぱいに映ったのは、どこまでも青く透き通った空だった。