キヴォトスに迷い込んだので、全力で楽しんでみる   作:おすとろもふ

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Q.水って軟水ですか?硬水ですか? A.軟水です

 

3階の窓から飛び降りた俺は、強い風を感じながらどこまでも透き通った空を見ていた。

 

身体に浮遊感を感じているのが、どこか他人事のように思えてくる。

 

……しかし、このまま落ちればヘルメット団が言うように重症である。

 

俺は手に集めた水を、落ちる前にあらかじめイメージしておいた形へと変化させる。

 

フニョンと気が抜けるような感覚に包まれながら、そこに着地した。

 

「おぉ〜!まさか本当に出来るとは……」

 

水でイメージして作ったのは、巨大なクラゲだ。

 

クラゲの頭部分が柔らかくなっていて、落ちても全ての衝撃を吸収してくれる。

 

しかし、防御には使えないのであくまで着地用だ。

 

……弾丸なんてクラゲが止められる訳がない。

 

そもそも、イメージがなんでクラゲになってしまったのか。

 

それは少し前、みんなでアビドス高校に宿泊した日まで遡る。

 

 

 

 

・・・・・・◇

 

 

 

 

俺たちは、先程までパーティーで騒いでいたこともあり、少々落ち着いた雰囲気が部屋を包んでいた。

 

しかし、その雰囲気を破るようにホシノ先輩が立ち上がると、愛用の散弾銃を手に持ち武装し始めた。

 

「……おじさんは今から街のパトロールに行ってくるから、みんなは寝ててよ〜」

 

「え……ホシノ先輩寝ないんですか!?」

 

「ん、明日は普通に学校。ちゃんと寝るべき」

 

「だから身長伸びないんじゃないすか?」

 

俺達は口々にホシノ先輩へと言葉を投げかけるぅぅぅう!?いだだだだだッ!?

 

「とりあえず、ミツハくんはその口を閉じようか〜?」

 

「ひゃめへぇ!?頬をひっふぁらないでー!?」

 

身長について言及した瞬間に、目の色を変えたホシノ先輩が急に頬を引っ張り出す。

 

超絶痛い。

 

助けを求めるように隣を見ると、ノノミが微笑むように笑い、ホシノ先輩に声を掛けた。

 

「ホシノ先輩、今日くらいは休んでもいいんじゃないですか?みんなで一日を終えたいじゃないですか⭐︎」

 

その言葉を聞き、少し複雑そうな表情をした後、肩の力を抜くようにいつものだらけホシノ先輩にジョブチェンジした。

 

「うへ〜……そんなにおじさんと寝たいならしょうがないなぁ」

 

「ホシノ先輩抱き枕にちょうど良さそうですからねぇぇええいっだだだだッ!?

 

「そんなに抱き枕にしたいなら、おじさんの抱き枕になってもらおうかなぁー?」

 

俺が話している途中に、急に抱きついてきたホシノ先輩が徐々に力を入れ始める。

 

まるで、身体が限界を叫ぶかのような軋む音が聞こえ始める。

 

「ギィヤァァァァァアア!?」

 

「……ん?あれって図鑑?」

 

ホシノ先輩の熱い抱擁を受けていると、部屋にあった本棚に視線を向けたシロコが、何かの図鑑を見つけ駆け寄っていく。

 

それを見て、興味深そうにノノミも近づいて行った。

 

「ほ、ホシノ先輩……ここは休戦といきませんか?ちょっと背骨がゴリゴリと削れて痛いんすよね……」

 

「ふーん?そういうことならいいかなー?……とでも言うと思った?」

 

「ギャァァァァァ!?」

 

シロコとノノミが本棚を漁っている側で、更に愛の抱擁を強めるホシノ先輩。

 

しかし、本棚を探索していた二人が挙げた声で、俺達の意識はそちらに向いた。

 

「……ん?魚図鑑?」

 

「あれ?これって……アビドス水族館の……」

 

水族館ってこんな砂漠地帯に存在するんだな。

 

……いや、そういえば電車乗ってる時に大きい海があった。

 

案外、砂漠に生まれる前は漁業やらが盛んだったのかもしれないな。

 

ホシノ先輩の熱愛の抱擁が弱まると、ノノミとシロコの方に寄って魚図鑑を見る。

 

「へぇー……マンボウいるのか」

 

「わぁ⭐︎アビドスマンボウですね!お刺身が凄く美味しいとか!」

 

え??マンボウさんをお刺身にしちゃうんですか?

 

た、確かに魚類に入るからお刺身にしても食べれるのかもしれないけど、流石に珍味とかの類じゃ……。

 

「……?何これ?ペンギン?」

 

「お〜!これは、レッドウィンターの方に生息してるペンギンだねー!獲物を狩る時には時速50キロも出るとか」

 

「……車かよ」

 

不思議そうな顔でペンギンを見るシロコに、ホシノ先輩が瞳をキラキラさせながら解説し始める。

 

……やっぱりホシノ先輩って海の生き物好きなんだな。

 

「あ!これってクラゲじゃないですか?実物は見たことないんですよねー」

 

「ん?ノノミ水族館に行ったことない?」

 

「いえ〜前に行った時、たまたまクラゲの展示が中断されてて……」

 

苦笑いをしながら言ったノノミに、不思議そうな顔をしながら図鑑に顔を戻すシロコ。

 

そんな二人を見ながらクラゲを眺めていると、いつの間にか隣に来ていたホシノ先輩が唐突に言う。

 

「……やっぱり、クラゲの傘の部分って柔らかいのかな?」

 

……えぇ。

 

「まあ、柔らかいんじゃないすか?泳ぐ時ポヨンポヨンしてますし」

 

「ね〜!……ならさー、傘の上に乗って跳ねたりしたら飛べたり〜……」

 

喋っている途中に、隣でトリップし始めたので放置しよう。

 

……でも、たしかにクラゲの頭の部分は柔らかそうだ。

 

衝撃を吸収してくれるイメージを作れば、案外乗れたり着地に使えたりするんじゃないか?

 

俺が色々と考えていると、急に身体に衝撃が走り目の前に図鑑が置かれた。

 

「ん!ミツハこれ再現して!」

 

「やめろ!飛び乗ってくるな!!」

 

 

 

 

・・・・・・△

 

 

 

 

結局、あの後はカジキマグロを再現するために、みんなで試行錯誤を繰り返している内に、全員がそこら辺に転がるように寝てたんだよな。

 

朝には、何故かホシノ先輩に抱きつかれていたので引き剥がすのが大変だった。

 

……そういえば、今は戦闘の真っ只中だっけ。

 

俺は、クラゲに乗りながら先程までいた教室を見上げると、焦ったような表情と驚愕の表情を織り交ぜたヘルメット団達がいた。

 

何やら慌てたように、言い合いをすると直ぐにこちらへ向かう為に窓から顔を離した。

 

「はぁー……あっぶねぇ。一歩間違えてたらお陀仏だったな。……とりあえず、こっからは今まで出来なかったことやってみるか」

 

……仮にイメージ次第でどんな形にも出来るなら、せっかくの機会なのでこれまで状況的にできなかったことをどんどん試してみたい。

 

俺は、未だに空中をフヨフヨと漂うクラゲから降りると、玄関の方に視線を向ける。

 

すると、早くも息を切らしながら玄関に辿り着いたヘルメット団の面々。

 

そして、俺の姿を見ると同時に声を上げる。

 

「て、てめぇ!!馬鹿なのか!?普通はあんな高さから飛び降りねぇんだよッ!!」

 

「……え?でもシロコは飛び降りてたし……」

 

「あいつは基準にしちゃダメだろッ!」

 

それはそう。

 

先程よりも余裕がないのか、面白い程に反応してくれるヘルメット団達。

 

「まぁ、とりあえずさ……ウォーターショーでも見てってや」

 

俺はニヤリと笑うと、後ろに巨大な水球を作り出した。

 

そして、巨大な水球から次々と水でできた魚を出現させる。

 

最終的に、その数はざっと見ても50は超えていた。

 

「おー……試しにやってみたけど、こんな数まで出せんのか」

 

「な、なっ、なんだそれは!?」

 

「さっきから思ってたけど、なんで水が勝手に動いてんだよッ!!」

 

俺が水でできた魚を試しに動かしていると、目の前のヘルメット団達が一斉に困惑の声を投げてくる。

 

……そんなこと言われても、俺自身がどんな原理で、なんで水を動かせるのかを理解していないのだから答えようがない。

 

「さぁー?できるからやってるだけなんだよなー。……そんじゃ、お喋りばっかりしてないで始めようぜ!」

 

横で泳ぐように操作していた魚の大群を、目の前のヘルメット団達に向けて放つ。

 

相手は、突如襲いかかって来た魚の大群に慌てたように銃を構え直すと、迎撃し始める。

 

しかし、魚達はまるで軍隊のように綺麗に空を泳ぎ、邪魔をし続ける。

 

……その光景は圧巻の一言で、まるで水族館で見れる魚群の舞のようだ。

 

そして、ヘルメット団達が次々に突撃してくる魚に翻弄されている間に、俺は愛銃の「青龍」を構える。

 

「いやー……キヴォトスに来てから銃撃つの初めてなんだよなぁ」

 

俺は呑気なことを言いながら、この前シロコに教えてもらった銃の構え方をとる。

 

銃床を左肩に付け、銃口を未だ魚に遊ばたままのヘルメット団達に向ける。

 

……そういえば、俺はもう水の魚達は操作していない。

 

何故かは分からないが、魚達が勝手に空中を泳ぎまくったり、突撃したりしているのだ。

 

「……まぁ、俺としては願ったり叶ったりなんだけどな!魚さーん、そのままヘルメット団達を倒しちゃってくれ〜」

 

そう言いながら、相手に標準を定めて射撃する。

 

……初めての銃の反動による衝撃。

 

しかし、キヴォトスに来てから俺の身体能力は確実に上がっている。

 

今も、ここに来る前の俺なら連射なんて出来なかったのに、ヘルメット団達に向かって冷静に射撃できている。

 

2回目のリロードを挟む頃には、反動にも段々と慣れてきたように感じる。

 

そのまま、標準を定め確実に相手を撃って数を減らしていく。

 

たまにヘルメット団が撃ち返してきた銃弾が頬を掠ったり、身体に当たったりするが、結構痛い程度に収まっている。

 

……改めて考えると、本格的に人間か怪しくなってきたな。

 

何回かリロードを挟みながら撃っていると、目の前のヘルメット団達がついに音を上げ始めた。

 

「ッ!!クソッ!!駄目だ、この魚共が邪魔して狙いが定まらねぇ!」

 

「なっ!?目に魚がッ!?」

 

「……こりゃー、撤退じゃねぇすか?あちきの銃が水浸しになっちまってるので、早く手入れしねぇと……」

 

完全に俺が有利になった頃には、目の前のヘルメット団達は意気消沈しており、次々と戦線離脱をしていく。

 

俺は、背中を向けて逃げていくヘルメット団達に魚で追撃するのをやめて、その場に座り込んだ。

 

地に響くような轟音を轟かせ撤退していく戦車を見ると、俺とシロコだけでヘルメット団達を追い払えたという達成感を感じた。

 

……そして、今の戦いで理解した。

 

俺の水を上手く扱えれば、これまで勝てなかったキヴォトスの住人とも互角に戦えるはずだ。

 

しかし、まだ明らかに戦闘経験も足りていないし、この水にはまだまだ可能性が秘められていると思う。

 

まだまだ、俺には足りないものが多すぎる。

 

……まあ色々考えたいことも考えることもあるが、とりあえず……

 

「あ゛ーー!!つっかれたー!!」

 

俺は、背中から地面に倒れ込んだ。

 

緊張感とアドレナリンで誤魔化してたけど、普通に疲れた。

 

倒れ込んで透き通った青空を見ていると、突然視界いっぱいにシロコの顔が広がった。

 

「……どうしたシロコ」

 

「……ん。やるね。ビックリした」

 

シロコが側にしゃがみ込むと、笑みを浮かべながら頭を撫でてくる。

 

「ミツハは、私達に守られるような存在じゃない。これからは、共に戦う仲間だね」

 

シロコはそう言いながら、校門の方に目を向ける。

 

そして、俺も釣られるように校門を見ると、ホシノ先輩が歩いて来ていた。

 

「……ホシノ先輩。見てたでしょ?ミツハはちゃんと戦える」

 

「う〜んそうだね〜。おじさん、ちょっと過敏になり過ぎちゃったみたいだ〜」

 

ホシノ先輩は苦笑いを浮かべながら言った。

 

その表情には寂しさや焦燥、色々な感情を混ぜたような色を滲ませていた。

 

俺は、そんなホシノ先輩を見て、改めて強くならないといけないと思った。

 

「……そういえば、ホシノ先輩。昨日言い忘れてたことがあるっす」

 

「んー何かなー?」

 

「俺に、たまにでいいので戦い方を教えてください!」

 

俺は、ホシノ先輩に頭を下げてお願いをする。

 

昨日、ゲヘナで会ったヒナからも言われていたが、身近にこんなに強い人がいるのに学ばないというのは勿体無い。

 

賞金が1000万円も付けられていたというし、今後も身柄を狙われることがあるだろう。

 

……その時に自分の身を守るのは自分だ。

 

ホシノ先輩は、動揺したように目をパチパチと瞬かせる。

 

「……え?な、なんで?」

 

「可愛くて超強いホシノ先輩に教えてもらえるとか最高じゃないですか!!」

 

……もう、自分でも何を言っているのかわからない。

 

しかし、ここで断られてしまえば折角の機会を台無しにしてしまう。

 

「う、うへぇ!?よ、よくないな〜!そういう頼み方は!」

 

途端、ホシノ先輩は焦るように両手をバタバタし出す。

 

関係ない……!ここで決めるッ!!

 

「ホシノ先輩は可愛くて強くて頼りになって、髪が綺麗で目も超キューティクrーー」

 

「わ、分かったからっ!やるからっ!明日からするから準備しておいてね!?」

 

半ば強引に言葉をぶった斬ると、ホシノ先輩は早口で捲し立て、校舎の中に走り去って行った。

 

そして、隣に座っていたシロコがこちらを見ながら言った。

 

「……ん。たらし」

 

「ごめん。何も言えない……」

 

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