キヴォトスに迷い込んだので、全力で楽しんでみる   作:おすとろもふ

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アビドスは丸くなったらしい

 

人というのは、間違いを犯す生き物らしい。

 

いや、生物ならば誰しも間違えることはあるのだろう。

 

……何が言いたいかって?

 

 

助けてください

 

 

「どうしたの〜?この程度でへばらないでよー」

 

目の前にしゃがみ、見下ろしてくる桃色美少女おじさん。

 

もう少しでスカートの中が見えると思うが、生憎そんな体力は残っていない。

 

それに、そんなことをした瞬間にまた青空に羽ばたくことになるだろう。もう嫌というほど学んだんだッ……!

 

俺が地面に身を投げ五体投地をしていると、同じように転がされ続けたシロコがポロッと言葉を溢した。

 

……いつものおじさんモードが嘘みたい

 

「シロコちゃーん?まだ転がされ足りないのかな〜?」

 

シロコには、口は災いの元という言葉を教えた方がいいのかもしれない。

 

そして、ホシノ先輩の顔が歪に笑っているので、十中八九終わっただろうな……。

 

 

 

現在、俺達はホシノ先輩の稽古を受けている。

 

先日、鍛えてください!とお願いしたら了承(強引)を貰ったのだ。

 

そして、その後にシロコも参加したいと言い始め、最終的には三人で稽古をすることになった。ちなみに、ノノミは引き攣った笑みを浮かべながら後退って行った。

 

俺達も、最初はどんな稽古をするんだろうとワクワク⭐︎だった……。

 

しかし、今は猛烈に後悔している。

 

……何故なら、想像以上にキツすぎる!!

 

最初は、ストレッチや慣らし程度の筋トレから始まって、ランニングをしていた。

 

ここまではいいんだ。

 

……問題はここからである。

 

ホシノ先輩が獰猛な笑みを浮かべると、言い放った。

 

「……それじゃ〜おじさんに好きに掛かってきなよー。ちなみに全部上に飛ばすから、受け身を取らないと不味いかも〜」

 

この言葉を聞いた瞬間に、シロコが嬉々として飛び込んで行き上空に飛ばされた。

 

俺は言葉通りに飛ばされたシロコを眺めて、あぁ……終わったかもと悟りに近い何かを開いていた。

 

「さぁ……来なよミツハくん。先輩をからかったこと、後悔させてあげる」

 

「……あれは本当に思ってることなんすけど」

 

その言葉を言い終わると同時に、俺の視界は一面の青空を映しており、身体には浮遊感が突き抜けた。

 

……あっ、既視感(デジャヴ)

 

 

こんな感じのことを1時間近くやり続け、気力も体力も全てを使い切った。

 

そして、それが分かったのか俺の身体をつんつんしていたホシノ先輩の顔が、いつものおじさんモードになると、終了の合図を出した。

 

「う〜ん……今日はこのくらいかなー。それじゃ〜ちゃんと身体を拭いて校舎に入ってねー」

 

『あーい』

 

俺とシロコは気の抜けるような返事をした後、玄関前にある段差に座りながら、濡れタオルで身体を拭く。

 

周囲には桜の花弁が舞っており、春の訪れを感じる。

 

キヴォトスに来た時はまだ蕾だったが、開花し始めたのだろう。

 

 

……そういえば、世間的には今頃春休みシーズンに入ってる頃だ。

 

結局、俺は日本には戻れず仕舞いだし、中学の卒業式にも出られなかった。

 

この調子だと、キヴォトスから帰れるかすら危ういんだよな。

 

俺がタオルで身体を拭きながら思考に耽っていると、背中にシロコが被さってくる。

 

「ん!難しい顔してる。どうしたの?」

 

「これからどうしよっかなーって思ってさ」

 

「……んー?ずっとアビドスにいればいい。私と同居して生活するのもアリ」

 

……超ナシだわ。

 

「シロコ家ないだろ……」

 

「ん?入学と同時に近くにあるアパートに引っ越す」

 

「……え?近くにアパートとかあったの!?」

 

ということは、アビドス高校の周りに住んでいる人達がいるということか。

 

……近所迷惑になっていないだろうか。

 

たまに校庭で騒ぎまくってるし、なんならヘルメット団との抗争で銃撃音や爆発音が鳴ることが多々ある。

 

「今度から騒音には気を付けた方がいいか……?」

 

「……?誰もいないのになんで?」

 

シロコは心底不思議そうな顔をしながら、こちらを見る。

 

あぁ、やっぱりいないのね。

 

……それだったら、俺もそこら辺に住ませてもらうのもありかもな。

 

しかし、最近は俺の所持金が底を尽き掛けている。

 

キヴォトスに来てから色々なものを買ったので、かなり手痛い出費になっているのだ。

 

正直、このままだと家賃すら払えるか怪しい。

 

先日、キヴォトスのバイト一覧や求人ホームを見たが、アビドス自治区ではまともなバイトが無いに等しいのだ。

 

そして、他のところでバイトをするにも生徒証などが必要である。

 

……いや、ふざけるなよ?どうやって生きてくんだよッ!?

 

一応バイトというか、お金を稼ぐ手段がそれ以外にも存在する。

 

違法な薬の治験や、賞金首を捕まえてヴァルキューレに引き渡すなど……。

 

「はぁ……。ナツとかネル先輩に相談してみるか……」

 

俺は溜め息を吐きながら、一足先に走って行ったシロコの後ろをついて行った。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「……ん?ミツハ、この本なに?」

 

「あー、それはライトノベルだな」

 

俺がナツにモモトークでバイトの相談をしていると、横で寝転がっていたシロコが俺のバッグに入っていた本を見つけ手に取る。

 

少し前にD.Uに行った時買ってきたんだよな〜。

 

最近の娯楽といえば、水を操作するか本を読むかの二択しか無い。

 

……ゲームなんてものは高くて買えない。

 

「ん!読んでみていい?」

 

「どぞ〜」

 

シロコは本を手に取ると、俺が座っているソファにダイブしてくる。

 

そのまま隣に来て本を読み始めた。

 

たしか、この本のタイトルは【転生したら狼だった件】だ。

 

略して転狼である。

 

タイトルの通り転生したら狼になっていたのだが、実はその正体が魔狼という魔族で、後に段々と人型になって拳で戦うようになっていく。

 

……技がかっこいいので、今度作中に出てくる魔法を水で再現しようかと考えている。

 

隣のシロコが、早々に出てくるフェンリルの技の演出を見て目をキラキラさせている。

 

かっこいいよな〜……『神罰の鎖』。

 

 

 

      ^ ^ 

・・・・・・ᓀ∧ᓂ+ < ん!

 

 

 

 

そうして、二人で並んでゆっくり過ごしていると、出掛けていたノノミとホシノ先輩が帰ってきた。

 

「う、うへぇ〜!助けて〜!このソファ重いよぉ〜!」

 

「これくらい大丈夫ですよー!まだまだありますからね!」

 

「たーすーけーてー……」

 

先程までのゆったりした部屋の空気は、完全に消失した。

 

戻ってきて早々に、買ってきたソファを地面に投げて地面に倒れ伏すホシノ先輩と、軽々とソファを一人で持ち上げ設置していくノノミ。

 

そして、俺とシロコが二人で寛いでいるのを目撃したホシノ先輩が固まった。

 

俺達はホシノ先輩と目を合わせないように、各々の手に持つもので視線を逸らす。

 

「ねぇ、二人とも手伝ってくれなーい?ちょっとおじさんには重労働でさー」

 

「……ん。ホシノ先輩がその程度で疲れるわけない。ダウト」

 

目の前に来て、俺達の顔を覗き込んできたホシノ先輩。

 

しかし、その言葉が完全に嘘だと判断したシロコが攻勢に出る。

 

その瞬間、ホシノ先輩とシロコの鋭い視線が交差した。

 

……まさに一触即発である。

 

「……シロコちゃーん?一応、おじさん先輩なんだけどー?」

 

「それはそれ。これはこれ」

 

「便利な言葉を覚えたねー……」

 

互いが互いに一歩も引かないので、流石のホシノ先輩も段々と青筋が浮かび始める。

 

「……今日は随分と強気だねぇ〜」

 

「ん!今の私は最強!ホシノ先輩も敵じゃない!」

 

あぁ。

 

ソファの上で、転狼を片手に仁王立ちで立つシロコを見て確信した。

 

……そうか。彼女は患ってしまったようだ。

 

あの伝説の病……厨二病を。

 

シロコの発言に完全にキレたであろうホシノ先輩が仕掛けると、それに反応して転狼に出てくる技の構えをとり始めるシロコ。

 

二人が喧嘩を始めたのを尻目に、ノノミはこちらを見て苦笑いをしながら声を掛けてきた。

 

「あー……まぁ、あの二人は放って置いて私達でやっちゃいましょうか〜」

 

「そうだなー」

 

俺とノノミは、二人を放置すると部屋の掃除を始める。

 

しかし、ノノミが未だにじゃれ合っている二人の方を見ると、急に笑い出す。

 

「……ふふ!シロコちゃんやホシノ先輩は、本当に丸くなりましたね」

 

「……え?そうか?だいぶ尖ってない?」

 

「いえ〜!雰囲気や表情が変わりましたよ⭐︎」

 

「雰囲気と表情?」

 

ノノミが穏やかな表情で二人を眺める。

 

……俺は、まだアビドスに来てから一週間くらいしか経っていないので、ここにいるアビドスの面々が、過去にどんな人達だったかなんて分からない。

 

だけど、少なくとも俺が初めてここを訪れた時より、空気が柔らかくなっている気がする。

 

ホシノ先輩は目がほんの少し垂れ、笑顔が増えた。

 

シロコは……あれ?変わってないな。いや、距離が近くなった。

 

「確かに、思い返してみれば最初会った時よりも変わったな〜」

 

「……まぁ、まだまだ割り切れてない事だらけだけどねー。問題も山積みだしさ。だけど、前を向かないとユメ先輩と合わせる顔がないよ」

 

いつの間にか、シロコとの喧嘩をやめたホシノ先輩が隣に来て苦笑しながら言う。

 

その言葉を聞いて、淡く微笑むノノミと不思議そうな顔をしているシロコ。

 

「……そっすね!俺も前向いて頑張らないとなー!」

 

俺もユメ先輩のことを思い、うだうだ悩んでいる暇なんて無いなと改めて背中を叩かれた気分になる。

 

なんだかやる気が源泉のように湧き出たこともあって、部屋の隅に存在する埃を片っ端から払っていると、ホシノ先輩が急に肩を叩いてきた。

 

「そういえばさー、ちょっと聞きたいんだけど」

 

「……え?どうしたんすか」

 

なんだか影のある表情をしている。

 

というか、どことなく黒い笑みというかなんというか。

 

……絶対碌なことじゃないな。

 

「あのシロコちゃんが読んでる本、貸してよ。……おじさんも技覚えたくなっちゃったからさ〜

 

そう言いながら、悪魔のような笑顔を浮かべて口角を上げる。

 

……もしや、シロコを正面から叩きのめすために同じ技を覚えようとしてるのか?

 

だとしたら、シロコが勝てる未来は永遠と……。

 

俺はノノミに強引に手伝わされ、不満そうな顔をしているシロコに向けてサムズアップした。

 

「どんまーい⭐︎」

 

「……今すぐその顔を止めるべき。◯意が湧く

 

「シロコちゃーん……。落ち着いて〜」

 

この後シロコに追いかけ回された挙句、ノノミに怒られた。

 





後の伏線と、話の調整を兼ねてのお話です!

あっ、大した伏線じゃないです……。
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