キヴォトスに迷い込んだので、全力で楽しんでみる 作:おすとろもふ
柴関ラーメンを出た後は、ぶらぶらとアテのない散策を再び始めた。
結構歩いたが、あれ以来使われていない民家や廃屋が立ち並ぶだけで、特に変わった様子はない。
しかし、度々住民が住んでいるような気配はあるのだ。
例えば、
「オイッ!そこのお前!止まれ!」
とりあえず無視しよう。
何故か分からないが、ヘルメットを被ったセーラー服の女子達が絡んでくる。
……多分、十中八九ヤンキーだろ。
「オイオイッ!無視すんなよ!そろそろ撃つぞ!」
「それは話が違うと思う。流石におかしい。だって、話し合いに銃なんて野暮だろ?」
「……あ?ん?まあ、そうだな。いや、でも先に無視したのお前だろ!」
「寛大な心で水に流してプリーズ」
「……お前舐めてんだろ?うちらは、泣く子も黙るカタカタヘルメット団だぞ!!」
いや知らんけど。
俺は心底嫌そうな顔をしながら、カタカタなんちゃらに背を向けた。
「そうかー!カタカタちゃん!アディオース!」
ああいう手合いには関わらないことが一番だ。
「おい!待てー!お前らッ!あいつを捕まえろー!」
後ろから怒号が聞こえてくる。
あいつ、捕まえろって命令出さなかったか……?
とりあえず逃げた方が良さそうなので、民家の死角に入った瞬間にイルカ号を出してフルスピードで発射した。
・・・・・・
「うッ……うええぇぇぇぇ」
無事吐いた。
普通にフルスピードで飛ばしたら酔った。これはもはや慣れるしかないのかもしれない。
「うっ……うぐっ」
「あ、あのー……大丈夫ですか?」
「ちょッ今無理……!うえぇぇ」
「えぇ……」
こんな時にカタカタちゃん達の相手なんかしてられない。
身体の中が回るように揺れている。
とりあえず、声を掛けてきた相手の対応くらいはできるようになったので、相手を見てみる。
「……あっ!体調良くなったみたいですね〜!」
「いや、大分きついが」
目の前の少女は、どこかのほほんとしていて、ユメ先輩を彷彿とさせる。
しかし、違うところは金髪で、肩にゴツい銃を背負っていることか。
……ん?いや何あの銃。戦闘機に付いてる感じの銃じゃね……?
「ところで、こんなところで何をしてたんですか?」
大分警戒心高めの対応だ。
まあ当然だろう。いきなり知らんやつがこんなところで嘔吐していたのだ。
むしろ警戒しない方がおかしいな。
「適当に歩いてたらカタカタなんちゃらに追いかけられてな、急いで逃げたら気分が悪くなって吐いてた」
「……カタカタヘルメット団ですか。また悪さしてるんですね〜。……あっそういえば!私は
「あ、ご丁寧にどうも。俺は雨谷ミツハです」
……急な自己紹介。
これはまた独特な会話のテンポをお持ちのようだ。
「そんで、ノノミさんこそ何してんの?こんなとこで」
「えーと、一応私アビドス高校に入学予定なので、アビドス高校にできるだけ行くようにしてるんです!あと、ついでのパトロールですね〜」
アビドス高校に入学予定なのか。
ってことは、俺と同い年じゃん。
「まじか……俺と歳同じかよ。年上にしか見えないんだけど……」
「えぇ!?同じだったんですか!?すごい偶然ですね〜!」
お互いがお互いを、年上だと思っていた構図。これまた珍妙な……。
・・・・・・
俺は行くアテもなかったので、アビドス高校にお邪魔させてもらうことにした。
現在、二人で歩きながら自己紹介も兼ねた雑談をしていた。
「えー!?キヴォトスの外から来たんですか!?」
「うん。まじで、気づいたら知らない海と砂漠が広がってて放心したわ」
「そんな事態になったら誰でも放心しますね〜」
意外と話が盛り上がっていた。
もちろん、ユメ先輩のことは話さないと決めている。
既に亡くなったユメ先輩のことを話すと、余計な勘繰りをされる可能性もある。
……それに、ユメ先輩は死んだ後で他の誰にも見えなかったのだ。話したら、まず絶対に疑われる。
「今日でキヴォトス生活2日目なんだよな。正直風呂も入りたいし……」
「それならいい銭湯知ってますよ〜?アビドス高校に行った後に、案内しましょうか?」
「……え?まじで!?頼む!!」
この子は天使かなにかなのだろうか。
頭に輪っか付いてるし天使かな、
「今度からエンジェルノノミって呼ぶわ」
「超やめてほしいですね!?」
・・・・・・
「着きましたよー!」
「お〜!ここがアビドス高校か」
日本にもあったような普通の校舎だ。
……不良達が倒れて散乱しているのを除けば。
「……なぁノノミ。地獄って存在すると思うか?」
「突然ですね〜。存在するんじゃないでしょうか?」
「そうか……。俺はそれがここだと思うんだよ」
「全然違いますよー?」
「ん……。ここは地獄じゃない」
なんか湧いた。
急に後ろから声が聞こえたので、後ろを振り向くと、ケモ耳銀髪少女が立っていた。
いや、いつの間に……?
「シロコちゃん!こんにちは〜!」
「ん。こんにちは。それより、この人誰?知り合い?」
「いえ、さっき知り合った人ですね〜。行くアテもないそうなので、一緒に行動してました〜」
「……ふーん。名前は?」
「雨谷ミツハだ。よろー」
「ん……よろー。私は
俺達は固く握手をした。
……いや何故?
「な、なんか凄い速度で仲良くなってますね……」
「……ミツハ良いやつ。匂いと感覚でわかる」
「ふーん?って匂い!?おまっ!嗅ぐな!」
こいつ、もしかして鼻効くのか!?
嘘だろ!?キヴォトスに来てから水浴びしかしてないんだぞ!?
「……だって臭うし」
「う、うそやん……」
「あ、あはは、シロコちゃんそんなこと言っちゃ、メ!ですよー」
「……ん」
俺は、あまりの衝撃と世界の残酷さに打ちひしがれた。
「ん〜?なんか騒がしいなーと思ったけど〜。お客さーん?」
校門の前で、三人でわちゃわちゃ話していると、校舎の方からピンク髪の幼女が歩いてきた。
……あれ、ホシノとかいうやつじゃないか?
少し離れているが、特徴的な目のようなヘイローに、ピンク髪のアホ毛ロング。
うん。間違いない!あいつがホシノたんだ!
「あ……ホシノ先輩」
「こんにちはー!お邪魔しますね!」
「よっ!ホシノ!お邪魔するぞ!」
「うへ〜ノノミちゃんこんにちは〜。シロコちゃんはお疲れ様だね〜。あと君は普通に初対面だよ〜??」
律儀に全員に声を掛けるホシノ先輩とやら。
……パッと見やる気がなく、だらだらと歩いているように見えるが、こちらに向ける視線は鋭く警戒されてるのがわかる。
この幼女、只者じゃない。
「……それで、君は誰かな〜?この辺りじゃ見ない顔だけどー?」
「雨谷ミツハっす。よろー」
「ん!よろー!」
「よろ〜♪」
「えぇ……なにこのノリ〜。……よろ〜。それよりミツハくんでいいかな〜?」
一応変なノリにも渋々合わせてくれるホシノ先輩。この先輩、普通に優しいな。
「ん?いいっすよ。どしたの」
「んーと、校舎の中でお話し聞かせてもらってもいいかなー?おじさん、ちょっと立ち話に疲れちゃってさ〜」
「わかる。俺ももう歩くのも立つのも疲れたんで座らせてほしいっす」
「……ミツハって図々しい?」
うるせえ
・・・・・・
「へぇ〜なんか色々大変だったねぇ〜」
「まじで干からびるかと思ったし、なんなら凍えるかと思ったっす」
「……まぁ、アビドス砂漠は危険だからね〜。いきなり放り出されたら普通は生きていけないよ〜」
ほんの一瞬、辛そうな顔をしていた。
多分、ユメ先輩関連のことだろう。この話題は地雷っぽいな。
「ん!それよりミツハ強い?」
急に手を挙げて話題を掻っ攫うシロコ。
しかし、いきなり出す話題がそれなのはどうなんだ?
「いや、超弱いけど?なんならキヴォトス来たばっかりだし」
「……そういえば銃も持ってませんよねー」
「銃を持ってないのは流石に危なすぎるんじゃないかな〜?それにキヴォトスでは、銃を持ってないのは裸で歩いてるのと一緒だよ〜?」
「……まじで?」
ウッソだろ。
てことは、俺はずっと裸で街を散策してたようなものなのか……?
「……表情の変化が面白いですね♪」
「ん……見てて飽きない」
「うへ〜、とりあえずいい子かな〜?」
俺は、今日二回目の絶望に打ちひしがれていると、急に膝に重さが加わった。
原因は、シロコだ。
「シロコさんや、なんの真似かね?」
「……とりあえず、力関係をわからせる」
なぜ??
「ちょ、ちょっとシロコちゃん!?」
「シロコ……話し合おうぜ?」
「んー?駄目」
無慈悲っ!!
この子無慈悲ですッ!!
ところで、この状況で寝ているホシノ先輩は一体なんなのでしょうか?
俺とっても不思議に思うなッ!!
「ミツハ、覚悟」
「ちょ、ちょちょちょシロコさーん!?」
「ストップ〜。駄目だよ〜シロコちゃん。ここは部室だからね〜?」
シロコが襲いかかってくると同時に、ホシノ先輩からストップが入った。
……よかった。このままだと俺がシロコにボコボコにされるところだった。
「ほ、ホシノせんぱ〜いぃ!ありがとぉ〜!」
「うへ!?な、なんで抱きつくのかな〜!?」
「え、えぇぇええ!?な、何してるんですかー!?」
俺は安心感からか、ちょうど近くにいたホシノ先輩に抱きついた。
……意外と抱き心地いいなこの先輩。
「う、うへ〜。だ、駄目だよー?こんなことし……え?な、なんで??なんで、ミツハくんからユメ先輩の匂いがするの……?」
俺がホシノ抱き枕を堪能していると、急にホシノ先輩が困惑した表情で俺の匂いを嗅ぎ始めた。
「……いや待ってくれ。待ってくれよホシノ先輩。匂いを嗅ぐのは違くない!?俺風呂入ってないんだけど!?」
「……やっぱりだ。何故かは分からないけど、ユメ先輩を感じる。……どうして?ねえミツハくん……梔子ユメって知ってる?」
「……知らないっすねぇ」
「ん……嘘だね」
「嘘ですね!超目が泳いでます〜⭐︎」
な、何故だ。どうして泳ぐんだ俺の目はッ!!
こうなったら目の前の一点を見れば……。
「うへ、目が合ったね〜?」
一瞬で逸らした。
「……とりあえずミツハくんのこと縛ってもいい〜?」
「ん!任せて!」
シロコォォォオオ!?!?
・・・・・・
後ろで両腕を縛られた俺は、現在三人の思うがままにされていた。
「……ユメ先輩がそんなこと言ってたんだね。うん……言いそうだな〜。そっかぁ、ユメ先輩は笑顔だったんだ。……私も、もうそろそろ前に進まないとかな……」
「……ん。ミツハ腹筋全然ない。筋トレしよう!」
「ミツハさんのヘイローって綺麗ですね〜。これ飲めますか?」
三者三様で俺を好き勝手にして遊んでいる。
もう全員が全員酷すぎる。
シロコは、俺の服を捲ってお腹の腹筋チェックを行っている。
ノノミは、俺のヘイローを飲めないか画策している。
ホシノ先輩は、俺の膝に乗ってずっと胸に顔を埋めながら、独り言を溢している。
「とりあえず、早く縄解いて銭湯に行きたいんだけど……」
解放されたのは、それから30分後だった。