キヴォトスに迷い込んだので、全力で楽しんでみる 作:おすとろもふ
今の俺は、非常に不味いことになっている。
ホシノ先輩と一緒にD.Uでショッピングをしていると、謎のロマンチスト少女に絡まれ、テロに巻き込まれた。
そして、二人とはぐれた末に目の前の武装少女から人質宣言を受けた。
「……いや、どうしてそうなる?」
「あ?……とりあえず、お前は何もするな。手を上に上げろ。銃を捨ててな」
「え?嫌だ。この銃買ったばかりだから、傷付けたくないんだよね……」
俺は、買ったばかりの愛銃を抱き抱える。
すると、目の前のテロリストと思われる少女は、銃口をこちらに向けてくる。
「……命知らずだな、今すぐ捨てろ。でないと、貴様の両目を潰す」
物騒すぎない!?
友達が言うには、『ブルーアーカイブは、透き通った世界で美少女達が、日常の小さな奇跡を見つけるゲームだぜ!』ってにこやかにサムズアップしてたのに。
あいつ本当に、帰ったら覚えてろよ……。
「……話し合いません?」
「時間の無駄だな。……今お前は、私の仲間に包囲されている。大人しく従った方が懸命だぞ?」
そう言って俺の足元を撃つ。
……。
……ちょっと待って。本当に待って。
俺は元一般人で、こんな状況に遭遇したことがない。
撃たれたらまじで死ぬ。
このままだと、俺の命はこいつらに掌握される。そうなったら間違いなく命の保障はない。
……考えろ。
この状況で生き残れる且つ、逃げられる方法。
俺は、今いる路地裏をチラッと見る。すると、隣に大きいドラム缶が鎮座しているのが見えた。
……あれに賭けるしかないか。
頭の中で、目の前のテロリストと周囲を囲んでいるというテロリストの配置を予想し、頭の中で組み立てていく。
「……よし。やるか」
「……?妙な動きをするなよ?」
「いや、するわ!!」
そう叫びながら、俺は右に鎮座しているドラム缶に向かって飛び込む。
「ッ!?クソッ!!」
俺が突然動いたことに、意表を突かれたように一瞬固まるテロリスト。
しかし、すぐに切り替えると俺に向かって銃を乱射してくる。
ドラム缶に飛び込みはしたが、このままだとドラム缶を動かしている間に弾が当たって死ぬ。
そうなったら完全にゲームオーバーだ。
そう……動かせなかったらだ。
俺には、距離を短縮して且つ自由自在に操れる水がある!
「いけッ!!水の手ッ!!」
「ッ!?何だそれは!?」
俺が伸ばした手から、更に大きな水でできた手が伸びる。
そして、水の手がドラム缶を掴んだと同時に、それを盾にしながら前転で距離を空ける。
そのまま、ドラム缶の後ろに隠れ、買ったばかりの愛銃を相手に向ける。
「……形勢逆転だな?俺は遮蔽物があって、お前にはない。この銃を撃ったらお前は確実に死ぬ。さあ……どうする?」
俺は、ニヤリと笑いながらテロリストに問う。
……当然、俺は銃を撃った経験がないので、撃っても当たらない可能性の方が高い。
ガンショップのロボット店員さんが言っていたが、銃には反動というものがあり、撃つとかなりの衝撃が来るらしい。
そんなの、鍛えていない俺が扱えるわけないだろ!いい加減にしろ!
「……あはッ!!アッハッハッハ!!これは傑作だッ!まさかここまで馬鹿な奴がいるとは思わなかったぞ?銃弾一発でキヴォトスの住民が死ぬわけないだろ?それに、ドラム缶一つあったところで、お前のような素人相手に私が遅れを取るわけないだろう」
目の前のテロリストは、まるで嘲笑うように笑い続ける。
……う、嘘だろ?
銃弾で死なへんの……?
普通、銃弾なんて当たっただけでも重症だろ!?
「……まじ?」
「……大人しく抵抗をやめて銃を捨てろ。今なら両手を撃ち抜くだけで許してやる」
それかなりの罰ですやん。
でもこんな所で両手を失いたくないし、こうなったらとことんやるしかない。
……選択ミスったかもな〜。
「ッハ!やだよーだ!だーれがお前なんかに捕まるかよ!」
「……そうか。残念だ」
ゴンッ
俺は頭に鈍い痛みを覚えると共に、壁に吹き飛ばされた。
頭と背中からズキズキとした痛みを感じる。
顔を上げて俺の居た場所を見ると、テロリストの仲間らしき奴らが4人ほど立っていた。
……まじかよ。全然気付かなかったぞ。
「はぁ……遅いと思ったが、こんな奴一人に手間取っていたのか……」
「違う。有効利用ができそうだったからな。できるだけ傷を付けずに捕縛したかった」
「……そうか。またブラックマーケットに流すつもりか」
「……ああ」
「それにしても……随分と面白いガキだな?」
やばい。やばいやばいやばい!!
これ完全にやばい感じじゃん!!
俺が冷や汗を流している間にも話しが進み、少ししてからテロリストの内の一人が、俺の前へと見下ろすように立った。
「今から気絶させる。大人しくしていれば痛みは一瞬だ。暴れるなよ?」
ここで気絶なんかしてみろ。
間違いなく帰れなくなるに決まってる!
俺は、壁に寄りかかったまま座り、片手に握っていた愛銃を構える。
「ばーか。誰がお前らなんかに従うかよ……。俺は、キヴォトスを沢山楽しんで日本に帰る……。だから、こんなところで死ねないんだよなぁ……!」
相手を睨みながら笑う。
こんなのただの虚勢だ……相手には通用しない。
ほんの一瞬諦めの笑みが浮かんだ瞬間、目の前に夕陽のような橙色の髪と、金色の龍が映った。
「ッハ!!弱えやつ一人に群がってよぉ?お前ら、まじで終わってるぜ?」
俺の前に立った少女は、両手に龍が描かれている二丁の短機関銃を持ち、意気揚々と相手に言い放った。
背中には、何故か金色の龍が描いてあるスカジャンを着ている。
……それは別に問題ではない。
問題なのは、そのスカジャンの下に着ている服がメイド服な事だろうか。
あまりのアンバランスさを誇るそのファッションは、ただですら混沌とした場を更に混沌とさせている。
ホシノ先輩と同じくらいの身長の少女は、尚も勝気な笑みを浮かべながら相手を挑発する。
「なぁ……?教えてくれよ!弱ぇやつを痛ぶる快感はどうだったよ?さぞ楽しかったろうなぁ!?」
「……黙れ。もうすぐ私達の任務も完了する。貴様を早々に片付け、そこの男を拾ってすぐに撤収する」
少女は笑いながら、あるいは馬鹿にしたように相手に言った。
「……お前ら如きがあたしを片付けるだぁ?笑わせんなよ!……あぁ、そうだなぁ。あたしも一応メイドなんだよなぁ。メイドとして"オモテナシ"してやんねえとなぁ!?」
そう少女が叫んだ瞬間、目の前から消えた。
「ッ!?消えッーーーー」
「バーカ。後ろだよ」
「グハァッ!?」
いつのまにか、相手の後ろに居た。
な、なんだあれ……!?瞬間移動!?
……っていうか一度は言ってみたいセリフ!
「ック!!クソッ!何だこいつは!弾が当たらないッ!!」
少女は路地裏の狭い空間を駆け抜けながら、両サイドの壁を蹴り空中を舞う。
そして、宙を乱舞したまま両手の短機関銃を乱射する。
……その姿はまさに、空を龍が駆け抜けているかのようだ。
そのまま着地したかと思うと、少し地面から浮いたと同時に、まるで瞬間移動したかのように一瞬で相手の懐に入りこんだ。
そのまま、下からテロリストの顎を掌底で打ち抜く。
……まるで、戦場を乱舞しているかのようなその姿は、俺が憧れていたアニメやゲームの世界の動きだ。
今までずっと憧れていたようなアクションが、目の前で見れるなんて思いもしなかったな〜。
俺が感動している間にも、少女は目で追いつけないスピードで相手を翻弄し続け、一人一人を確実に倒していく。
「な、なんなんだ……!!弾が掠りもしないッ!?」
「ハッハッハッハ!!どうしたッ!?人数有利で一方的に負けてんじゃねぇか!……おいおい!こんなもんかよ!?弱ぇやつ一方的にやるってのは、気持ちいなぁ?あたしにも体験させてくれて、ありがとよッ!」
目の前で一方的に相手を蹂躙していた少女は、最後の一人の胴体に二丁の短機関銃を連射し、飛び上がった後に回し蹴りで壁に吹っ飛ばし気絶させた。
……死んでないよな?
そして、呆然と戦いを見ていた俺に、先程まで戦っていた少女が歩いてくる。
「はぁ〜……てめぇも災難だったな。ボロボロじゃねぇか……」
少女は目の前にしゃがみ、俺の頭の傷を手当てし出した。
「あ、ありがとうございます。……正直、来てくれなかったら無事では済まなかったっす……」
「ハッハッハ!!まあ、かもなぁ?けどまぁ、てめえが最後に見せた威勢は根性あると思ったぜ?ああいう場面で、笑いながら敵に銃を向けるやつなんざぁ見たことねぇよ」
どうやら褒めてくれているらしい。
……遠回しに変人扱いされてないか?
「よしっ!手当は済んだぜ。ところで……てめぇの名前、聞いてなかったな?」
「あー、そういえば。俺の名前は雨谷ミツハって言います。よろーっす」
「へぇ?ミツハか。いい名前してんじゃねぇか!あたしの名前は美甘ネルだ!よろしくなぁ!」
そう言いながら、俺の背中をバシバシ叩いてくるネルさん。
「……そういえば、ネルさんって先輩っすか?俺一応まだ中三なので」
「……あぁ?まあそうだな。あたしは高一だしな!適当にネル先輩でいいぜ?」
「それじゃあネル先輩って呼ばせてもらうっすね!そんでネル先輩!質問いいっすか!?」
俺は興奮気味にネル先輩に詰め寄る。
……ロリコンじゃないぞ?
「な、なんだよ」
「どうやったらあんなにカッコよく戦えるんすか!?戦ってる途中の瞬間移動もカッコいいし、着地した瞬間に舞うスカジャンもめちゃくちゃカッコいいし!!俺もあんな風に戦いたいっす!」
怒涛の勢いでネル先輩に質問しまくる俺。
側から見たら一体どういう風に見えてるんだろうか……。
「お、お、おぉぉぉお!!お前ッ!!このスカジャンのかっこよさが分かるのか!?」
ネル先輩は、最初は圧倒されていたが、途中から目をキラキラさせ始め、俺に負けないレベルで身を乗り出した。
「戦場でネル先輩が着てると、こう!何というか!すっごいカッコいいんすよッ!!」
……語彙力どうした。
「……ッ!?!?あ、あたしカッケェのか!?」
「超カッコよかったっす!!」
俺の発言を聞いたネル先輩は、顔を俯かせた後、唐突に顔を上げて言った。
「……なぁ、ミツハ!あたしとミレニアムに来ねぇか?お前のこと気に入ったからよッ!」
まじで?
「……うーん。今お世話になってる所があるので、残念っすけど無理っすね。でも、今度ミレニアムに行ったときネル先輩に稽古つけてもらいたいっす!」
今の俺は、アビドス高校にお世話になっている。
まだ恩を返し切れていないのに、他の所にお世話になるのは流石に恩知らずすぎる。
ネル先輩は少し残念そうな顔をすると、目の前にスマホを差し出してきた。
……?
「おら!モモトーク交換すんぞ。……今度ミレニアム来んだろ?あたしと連絡取らねぇで誰に案内させんだよ?」
「……!?確かに!連絡手段は大事っすね。……ところでモモトークって何すか?」
ここに来て初の単語が出てきた。
モモトークって、名前的にSNSみたいな連絡アプリなんだろうけど……。
そんなアプリ入ってたっけ?
俺がスマホを操作して確認していると、いつの間にか隣にヤンキー感覚でしゃがみ込んだネル先輩が、スマホの中のアプリの一つを指差す。
「……これだ。あんじゃねぇか。ほら、ここを押して……これで登録できるぜ!」
「おー!!できたー!」
モモトークの友達欄に、初めての連絡先が追加されたことを喜んでいると、隣にいたネル先輩が立ち上がった。
「よっと。んじゃ、あたしは任務の報告に行かなきゃならねぇからな。ここいらで帰らせてもらうぜ。地面で伸びてるこいつらも回収させなきゃならねぇしな」
ネル先輩は、未だに地面に倒れ伏しているテロリスト達を指差しながら笑う。
「それじゃ今度行くんで、都合のいい時教えてくださいね!」
「おうッ!そんじゃ、気を付けて帰れよ〜!」
ネル先輩に手を振りながら、路地裏を出る。
街を見ると、所々で火が燃えており、地獄のような光景になっていた。
……とりあえず、ホシノ先輩探すかぁ。
俺は、ホシノ先輩を探すため街を歩き始めた。