キヴォトスに迷い込んだので、全力で楽しんでみる 作:おすとろもふ
アビドスの夜が暮れた。
いつもならば、校舎には俺とシロコだけが残り二人で適当に話した後に、就寝している頃だろう。
しかし、今夜は銭湯帰りの俺とシロコの他に、ノノミとホシノ先輩も夜のアビドス校舎に残っていた。
今日は、二人共パジャマとお菓子やジュースを持参して来ており、パーティーをする気満々である。
……今日は、これからミツハ歓迎パーティーというものを開催するらしい。
……というのも、今日のミツハ歓迎パーティーは、ノノミが提案してシロコとホシノ先輩がそれに同意したことが事の発端である。
そして、今目の前にいる三人は俺に内緒で、秘密裏に企画を練ってきたらしい。
そうこうしていると、ホシノ先輩が俺の隣に座り、コップにジュースを注いできた。
「ほら〜ミツハくんも飲もうよぉ〜!このオレンジジュース果肉入りで高級なやつなんだよね〜」
「まじっすか!……え、うま」
「でしょー?」
俺は一口果肉入りジュースを飲むと、程よく吹き抜ける酸味とみかんの味が調和した圧倒的な美味しさが口内に広がった。
……これは、とんでもなく高いジュースなのでは……?
俺とホシノ先輩が、ソファでちびちびとオレンジジュースを飲んでいると、ノノミとシロコがジュースを注いだコップを上に掲げた。
「さぁ、そろそろミツハさんの歓迎パーティーを始めますよ⭐︎」
「ん!コップ上げて!」
どうやら乾杯をするらしい。
シロコとノノミはその行為に憧れていたのか、瞳をキラキラさせている。
「……それじゃー、みんなー!!かんぱ〜い!!」
『かんぱーい!!』
こうしてホシノ先輩の音頭と共に歓迎パーティーが始まった。
・・・・・・
「あのー!ノノミさ〜ん!?……こんなのどこで買ってきたんだよ!」
俺の目の前には、巨大なホールケーキが机の上に座っていた。
「……何を予約してたのかと思ったけど、ノノミちゃん……ナイスだよー!」
「いえーい⭐︎」
ノノミとホシノ先輩は、ホールケーキを見ながらハイタッチしていた。
俺の歓迎会にホールケーキて。しかも、ケーキの上に沢山乗ってあるいちごの一つ一つが大きい。
……これ、あまおうってやつじゃない?超高いやつじゃない?
ふと、背中から何かが覆い被さってきた。
この視界に少し見える銀髪、シロコだな。
「……ん!ミツハ!今日は遠慮しなくていい!もう私達は仲間だから、みんなで騒いで楽しむべき!」
「……!!」
……視線の先で、ホシノ先輩とノノミが絡み合った挙句、窓ガラスに激突してそのまま外に落ちていった。
落ちていった二人を横目に見ながら、隣に来たシロコを見る。
「今日のために、昨日からミツハが楽しめるようなことをみんなで考えた。ミツハが一番楽しんでないと困る」
シロコが笑いながらスナック菓子を摘んで食べる。
……俺のために、か。
まだ出会って数日だ。……だけどそんな短い間柄でも、俺はもうアビドスの仲間らしい。
俺は笑いながら、目の前のフライドポテトを手に取り、口に入れた。
「……だよな!俺が楽しまないでどうすんだって話だよなぁ!!シロコ!あの二人が帰ってくる前にこのフライドポテト全部食うぞ!」
「ん!任せて!」
俺とシロコは、机に置いてあるフライドポテトを二人で食べ始めた。
「……う、うへぇ……酷い目にあった……」
「ホシノ先輩、軽すぎます〜」
二人が窓から這い上がってきた。
「なっ!?二人からフライドポテトを占領されてます!」
「……それは、許せないなー!ノノミちゃん!おじさん達もタッグを組んで取り返すよ!」
「ほうとうふぁほらッ!!(上等だこらッ!!)」
「ふぁふぁってほい(かかってこい)」
俺とシロコは、ジリジリと距離を詰めてきたノノミとホシノ先輩に応戦する。
四人でわちゃわちゃしながら、本当の意味でパーティーが始まった。
・・・・・・
「さぁーて!王様ゲーム始めるよー!」
みんなで机に置いてあった食事をあらかた食べ終えると、唐突にホシノ先輩が王様ゲームの箱と割り箸を取り出した。
……なん、だと!?
男女で王様ゲームとか……アニメで見たやつー!!
「……ん!やる!」
「いいですね〜♤」
「やるかー!!」
満場一致で可決されたことにより、王様ゲームが始まった。
4人で一つの割り箸の入った箱を囲みながら、ルールを決める。
「そうですね〜……えっちなことは無しにしましょう!」
「……ん?えっちなこと?」
おっと、純粋なシロコからノノミにカウンターが入る。
「……ミツハさんは何かありますか?」
ノノミは素知らぬ顔でシロコの疑問を躱す。
……うっそだろ。
躱されたシロコは、疑問顔のまま首を傾げている。
「そうだな……まぁそれ以外なら別に大丈夫だろ」
「そうだね〜。まあ、とりあえずやろっかー」
「わかりました〜」
ホシノ先輩がみんなに合図を送る。
「いっくよ〜!」
『王様だーれだ!』
みんなで一斉に箱の割り箸を引く。
そして、みんなが引き終わった後、苦い顔をしたシロコとは対照的にホシノ先輩がニヤリと笑う。
……あぁ、察した。
「ふっふっふー!最初の王様はおじさんみたいだね〜?」
「っく!やられた!」
シロコ……そういうゲームじゃねえから。
そして、ホシノ先輩は少し悩んだ末に命令を下した。
「それじゃー、最初だし軽めのやつでいこっかなー?2番と3番はハグで〜」
……どこが軽いんじゃ!!
俺、2番じゃん!?
「あっ……3番ですー⭐︎」
……終わった。
「えーと、2番は誰かなー?」
「俺だよっ!!」
「わぁー!ミツハさんとハグですか〜!?ちょっと緊張しますね!」
ノノミが俺に歩み寄ってくる。……覚悟を決めるか。
俺とノノミは、二人が食い入るように見ているのを感じながら、至近距離でお互いに目を合わせる。
「……やばい。ノノミ……手加減してくれない?」
「手加減とかありませんよー?それじゃ行きますねー!」
「ッ!?!?!?」
ノノミが抱きついて来た瞬間に、凄まじい衝撃が俺の全身を走った。
圧倒的な重量感を誇るノノミのそれを感じた瞬間に、俺の脳がショートした。
「それじゃーミツハくんを起こしたことだし〜次行くよ〜!」
「……ん!今度こそ王様になる!」
『王様だーれだ!』
俺は引いた箸の文字を見ると、王様と書いてあった。
「よっしゃ!!俺が王様じゃぁぁぁああい!!」
「ミツハさんですかー!」
「くぅっ!!また負けた!!」
……俺は悩む。
ここでインパクトに欠ける命令をするのは、些か面白くない。
ならば、適度にスリルを味わえて、且つ面白いものの方がいい。
……決めた。あれにしよう。
「そんじゃー1番が、2番と3番に本気のデコピン」
「あっ……1番はおじさんだね〜」
「ッ!?み、ミツハの人殺しッ!」
「そ、それはあんまりじゃないですか〜!?」
ホシノ先輩が1番と言った瞬間に、顔を恐怖と絶望の色に染めるシロコとノノミ。
そして、ホシノ先輩は立ち上がると、仕方なさそうにシロコの元に歩いていく。
そのまま、シロコのおでこをデコピンした。
「ッ!?!?あがぁッ!?」
「し、シロコォォォ!?」
シロコが吹き飛んだ。
……デコピンで身体吹き飛ぶってどういうこと!?
「それじゃー次はノノミちゃんだね〜」
ノノミは、その言葉を聞いた瞬間に身を翻して逃げようとする。
まるで、死刑宣告を受けた罪人のような面持ちをするノノミは、この数日で初めて見るような表情をしていた。
そして、ノノミは四つん這いのまま逃げて、ホシノ先輩に捕まった。
「……逃げちゃ駄目だよ〜」
「ほ、ホシノ先輩?辞めませんかー?こんなことしてもなにも……」
ノノミは怯えるようにホシノ先輩を説得しようとする。
しかし、そんなノノミの説得に言葉を被せるように、ホシノ先輩が王様ゲームの絶対ルールを言った。
「王様の命令は〜?」
「……ぜ、ぜったい……ッ!?!?いったあぁぁい!?」
……ノノミが吹き飛んだ。
「い、行きますよ!」
『王様だーれだ!』
心なしか、先程よりも緊迫した空気が流れている。
ノノミとシロコのおでこは未だに赤くなっており、先程のデコピンの威力を物語っている。
……絶対に食らいたくないな。
「……ん!!ついに来た!私の時代ッ!!」
今回の王様はシロコだったらしい。
瞳をキラキラされながらフンスフンスと鼻が鳴っている。
……俺は、1番か。
「……ん!決めた!1番は私のジャーマン・スープレックスを受ける!!」
「死ぬわァッ!!」
シロコのジャーマン・スープレックスとか、あの世への片道切符だろ!
俺が絶望の表情を浮かべていると、ジリジリとにじり寄ってきたシロコの腕が俺の身体に巻かれる。
……あぁ、死んだわ。
そのまま、体に浮遊感を感じた後、シロコが手を離し、後ろに投げ飛ばされる。
……は?
「それちがぁぁぁァァァァッ!?!?ガッ!?」
俺は部室の壁に激突し、頭を抑えながらのたうち回る。
「し、シロコちゃん。ジャーマン・スープレックスは手を離しませんよ?」
「……痛そうだね〜」
「……ん?なにか間違った?」
シロコてめえ覚えとけよッ……!!
「それじゃー次で最後にしよっかー!」
「いい時間っすからね〜」
「ん!次も王様になる!」
「それじゃー行きますよー?」
『王様だーれだ!』
みんなが目をギラギラさせながら割り箸を引く。
……っく、2番ッ!!俺じゃなかったか!
俺は悔しさを表情に出しながら、周りを見渡す。
露骨に残念そうにしているシロコと、顔がゆるっとしたホシノ先輩、そして、満面の笑みとなったノノミ。
「私が王様でーす⭐︎それでは、2番と3番はキスでー⭐︎」
「????????」
「……3番はおじさんだね〜。2番は誰かなぁ」
「俺ですね。はい……」
「ッ!?」
ホシノ先輩の目が見開かれ、顔が赤くなっていく。
ノノミは、露骨に顔が赤くなったホシノ先輩を見て、ニヤニヤと笑う。
「あれ〜?ホシノ先輩どうしたんですかー?顔が赤くなっちゃってますよ⭐︎」
まじかこいつ……よりにもよって煽り始めたぞ。
「シロコー、助けて」
「ん?……王様の命令は?」
「絶対だなぁ!!」
シロコがニヤッと笑うと、俺に死刑宣告に等しい言葉を投げる。
シロコに人の心を求めた俺が馬鹿だったのかもしれない。
俺が絶望のあまり膝を付くと、甘い香りがフワッとして、頬に軽い刺激を感じた。
ちゅっ
「ッ!?!?」
俺が驚きに染まっていると、ホシノ先輩は顔を赤くしながら、顔を逸らして言った。
「……今は、これで満足してよ」
そう言ってソファに置いてあったクジラのぬいぐるみを抱き寄せ、顔をぬいぐるみに埋めながらソファに倒れた。
「青春ですね〜♪」
「ん……胸焼けする」
こうして、楽しいミツハ歓迎パーティーは幕を閉じた。