メンヘラ魔法少女憑依もの   作:xa

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三話

憎しみの女王は善と悪の確固たる定義を持っている。

悪の存在について疑惑に駆られ自己の信念が脅かされたとき、その疑いを否定するために自ら悪になろうと決めたとも推測されている。

怒りが終わった後、本人は自身の行動を覚えていない。

 

世界は...平和で、善で満ち溢れている。

善だけの世界なんてありえない、あるわけない。誰かは、悪党になる必要があるでしょう。

今度は私の番。

 

目を閉じて、呪文を唱える。槍を具現化する。私の体に突き刺さり、憎しみが溢れ出す。

ああ、あたし。やっぱり化け物なんだね、そう思った。もう目は見えない、ただ暗闇の中に、あたしの憎しみがあるだけ。

身体をうねらせて歩いていく。きっと今なら誰だって殺せるし、誰かが正義になれるんだ。あたしは悪だから。

 

手当たり次第殺して、壊して回ろう。周りが血でいっぱいになるまで。そうすれば私は悪になるから。まずは目の前にいる青いやつからだ。

その憎たらしい顔を嚙み砕いてぐちゃぐちゃにしてやるから。ほら、怯えなさいよ。逃げまどってよ。

お前を殺して私は悪になるんだ。おまえを、けし、消さなきゃ、消さなきゃいけないのに、なんでからだがうごかないの?

私が悪なら殺さなきゃいけないでしょ?なんで...やだ、あたしをそんな目で見ないでよ。あたしを切りなさいよ、私は悪で、あなたは善でしょ?

どうして...やめて、撫でないでよ。殺さなきゃいけないのに...ころせないじゃん、あたしは悪に...ならないと、ならなきゃ、いけないの...に。あ、あ、からだが、とけて。

 

桃色の煌めきが爆発的に拡散し、広がる眩しい光。

幾層にも重なった魔法陣がくるくると回り、収束しながら一つになって、空から落ちる魔法少女。

 

魔法少女は悪になれませんでした。優しいからではなく、本物より信念がなかっただけ。人の血を浴びる勇気は彼女にはなかった。

正義の為に戦ったことは一度たりともなかったし、むしろ誰かから褒められる、必要とされる、承認欲求を満たすためだったから。

 

「ぅ…ぁ、あたしは、何を。」

 

身体に伝わる柔らかく暖かい感触。曲がりくねった姿勢。真横に広がる世界と視界。

顔を上に向けると、私を見つめる顔の整った青いもみあげお姉さん。

 

あれ、あたし、抱き抱えられてる?お姫様だっこ。

 

「~~っ!!」

 

陸に上がった魚のように飛び跳ねて、何とか地に足がつく。

羞恥心が、羞恥心が限界!私恐らく前世含めると20超えてるのに!朧気でなんも覚えてないけど直観がそう言ってる!

 

「いい夢見れた?」

 

夢...そうだ、何が、何が起こったんだろう。

私はバリと決闘して、何かを話して、確か意識を失って、その後、何が。

 

「にょろにょろしてて可愛かったよ。鱗も冷たくてスベスベしてたし。」

 

あたし、自分を抑えられなかったんだ。

 

急に眩暈が襲ってきたかのように視界が真っ暗になって、黒い感情がぶくぶくと心から湧き出てくる。

立っている気力すら真っ黒に染まって、思わず膝から崩れ落ちる。

 

死にたい、でも幻想体は決して死なない。どうすればいいんだ、どうすればあたしは自分を自分で律することができるんだ。

胃もないのに胃から吐瀉物が昇ってくるような感覚に襲われる、吐きそうだ。思わず頭を搔きむしる。

どうしてあたしは魔法少女なの?あたしじゃなきゃダメな理由があるの?せんぱい、みんなは、なんで耐えられているんだ。

魔法少女やめたい、普通の女の子に戻りたい。でも、あたしの価値はヒーローとして皆を守ることしかないのにそれさえなくなったらあたしは何にもない。

世界の全てを愛そうとしたけど、残ったのは壊れた心だけ。

中身はからっぽで、魔法少女という見てくれだけの殻で包装してるだけの何の意味もないそんざ...

 

ペシッ。

 

「さっきも言ったけど、そんなに心配なら私についてきてみない?何があっても、あなたを止めてあげるから。例え悪になっても、私があなたの面を叩きにいくからね。」

 

あたしは、生きてていいのだろうか。いや、いいはず。いいよね、ティファレトならそういうはず。

例え私が悪になって、道化師となり、虚無を振り撒いたとしても、誰かが止めてくれるなら。きっと大丈夫。

差し出された手を取り、立ち上がる。暖かい笑顔が私を出迎える。

 

あたしの人生が変わるなら、今、この瞬間だって、そう思えた。

 

 

♧月▽日

 

やってしまった。人生で初めてヒスって暴れてしまった。

何も思い出せない...何も...ただ悲しかった感情しか覚えていない。

目が覚めた時、誰も死んでいなかったことが奇跡だ。

でも、これからは違う。悪になれば、バリが殺してくれるから。

 

♧月♤日

 

お菓子いっぱいもらった、幸せ。

 

♧月〇日

 

バリがどうしても見たいとのことで小さくなった井戸を見に行くことになった。

あの森、暗いし怖いし生き物の気配ないしで嫌なんだけどな...って思ったら嫌な予感大的中。

大鳥くんがお散歩してた、かわいいね。バリつよすぎてほぼ何もせず勝ったわ。

 

卵を井戸に運んで押し戻すのにも慣れてきた今日この頃。やっぱり洗濯機で、覗く度に風景も変わるしグチャグチャしてて精神揺さぶられるけど、一時期は日課と化してたから流石になれた。

失敗したのは、バリが井戸を覗かせてしまったこと。いつも冷静沈着で、恐怖と無縁そうなバリが足をがくがく震わせて怯えてる様子はもう一生見られないだろう。

やっぱ人間の精神で耐えられる光景じゃないのかな、ビナー様でもしんどいっていうくらいだし。あたしが幻想体でよかったと思うと同時に、結局怪物であることを実感してつらい。

 

♧月♡日

 

目指せ正義の特色フィクサー!

 

これから一緒に活動するならフィクサーになったほうが便利だよねってことでフィクサー免許を取ろうとしたんだけど、前途多難。

まず名前が謎、年齢も謎で何も書けるものがない。なんなら戸籍もない。顔写真取ったら完全にプリクラ、というか完全にレガシー版の肖像画だ。

結局殆ど捏造しちゃった、通るかな審査...

 

♧月□日

 

平和だ、鬱だ。お酒を飲んで忘れよう!ぽしゃけ~~~...この身体、酔わない。酔わない酒、おいしくない、つらい。

タバコも試した、全然ニコチンが脳に来ないぞ。苦い味しかしない、鬱悪化した。

これはもう、あれしかない。下半身に手を伸ばす。きもちよかったけど、また鬱が悪化した気がする。

 

♧月×日

 

バリに土下座して弟子にしてもらった。刀とかハンマーとか弓とか色々触らせてもらってワクワクしたけど、正直向いてないしそもそもその杖のほうが強くない?って言われて泣いた。

受身とか足さばきとかの基礎体術はありがたいんだけど、地味で根気がいる。杖術は武器ぶんぶん振れるから楽しい。地道に練習あるのみ。

 

♧月△日

 

蛇モードの時だとなんかマジカルパワーが強化されてテレポするときに結構強いBLACK衝撃波を出せるんだけどさ、あれどうにかして素の状態で出せないかな。

うまく吹っ飛ばせれば距離も離れて引きうちが捗る。

 

♡月〇日

 

フィクサー審査通った!ついにあたしも九級フィクサー!ハナ協会の印鑑がピカピカ輝いてる。

びっくりするくらいゆっるい審査だ、あたし、生後二か月なのに20歳になって草。まあ元組織員でも割とポンポンフィクサーになれてたし誰でもなれるのが魅力なのかもしれない。

 

♡月×日

 

ついに明日、南西の遺跡に向けて旅立つとのこと、バリが準備に色々買い込んでいるのをぼーっと眺めていた。

遺跡ってどんなとこなんだろう、深層にはALEPH並みの化け物が闊歩しててかなりの魔境とは聞いた。足手纏いにならないかちょっと不安だけど、とってもワクワクする。

 

♡月□日

 

ついに旅立つ時が来た。町の皆にお別れの挨拶。

私が正気でいられるのは殆どこの町のおかげだった、思い入れもあるし、名残惜しくもある。それでも、みんな笑顔で見送ってくれた。

都市には似合わないくらい、いい人たちだった。いつか帰ってきて、冒険の話聞かせてねって、お願いされた。

頑張るぞ、あたし。

 

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