メンヘラ魔法少女憑依もの 作:xa
☆月□日
道を歩いてるだけで、容姿がメルヘンすぎてびっくりされる。
とにかく、髪が目立つ。前世よりは明らかに髪色がカラフルな人がそこそこいるなーとは思うけど、やっぱり大多数は黒髪、茶髪、金髪だ。
正直、バカみたいに容姿が浮いてる。基本、近世に近いというか、シンプルなものが多い時代だ。
バリの近代的なコートですらほとんど見かけない。ドンキホーテが独特なファッションセンスと称したバリの何倍も浮いてるのだ。どこかの姫だとか女王だとか勘違いされたことが一度や二度ではない、つらい。
☆月△日
古い時代の都市は思ったより都市と外郭の境界が曖昧だ。むしろ、外郭があまりにも危険なので安全な所に自然と人が集まり、都市が形成されたように見える。
基本的に建物が密集していて、中心から離れるごとに化け物の遭遇率は上がり人口密度は減る。
各地域を統治しているのは王や貴族、組織など様々で、翼ではない。それでも所々に特異点のような超科学の片鱗を感じさせる技術を持った会社がいくつかある。
会社が統治する時代は、確実にやってくるだろう。
驚くのは、フィクサーより圧倒的に騎士や冒険家と呼ばれる連中のほうが多いことだ。
逆にフィクサーという職業は殆ど知られておらず、協会もハナしかない。
だからだろうか、フィクサーの心構えは騎士道を基にして作られたようだ。特色もいないし、かなりギャップを感じる。
よく村に遊びに来てたフィクサーのおじさん、もしかしたらとんでもないエリートだったのでは?
☆月♡日
短い間だけど、都市観光できてすっごく新鮮だった。人がバタバタと死んでいくディストピアを想像してたけど、思ったより平和。
ただ、今がいいかと言われたら少し違うような気がする。人間同士で殺し合うことが少なくても、怪物が定期的に襲ってくる世界は良くないよね。
良くないけど...あたしの中の憎しみ人格が喜んでる気がする、つらい、自己嫌悪で鬱だ、つらい。
明日、ついに遺跡に入る。遺跡は長く入り組んでいて、都市の中から外郭までつながるほどの長大で複雑な地域もあると聞いた。
奥深くまで入り込めば、簡単には抜け出せないとのこと。
直前になってちょっと不安になり始めたけど、まあバリが居れば余裕だろう。
遺跡、都市の地下深くや、または外郭にある文字通りの遺跡。何かの文明の遺産。
R社のウサギチームが遺跡浄化などの任務をするらしい。台詞によると、HEクラスはよく遭遇するレベルで、WAWはたまにいる程度。遺跡の最深部にはALEPHクラス級の化け物がいるとか。
まあ、本社は抑止力で五分の一に抑えられてるから幻想体のほうが強力かもしれない。それでも相当な危険地帯だ。サンチョでも容易ではないレベル。
しかし、遺跡には潜るだけの魅力がある。
X社が遺物を発掘してそれを合金に加工したり、強力な武器が眠っているとか。バリの弓も遺跡で拾ったものらしい。
白の便利屋を見るに相当な性能の武器が転がってるんだからもう行くっきゃないよね。ビナー様お墨付きの強さだし。
そして、地下深くに眠る川。未来を見れる川、全てを忘れられる川、魔法の力が山ほど眠っている。バリが探す花畑も、きっとある。
ワクワクしながら軽い気持ちで旅に同行することを決めたけど、はっきり言おう、遺跡舐めてました。
いくら危険地帯だからと言っても、正直、あたしって結構強いし何より隣にバリがいるんだから怖い要素なんてないと思ってた。
実際入ってすぐの浅い部分は、大した危険もなくむしろ余裕を感じた。そんな甘っちょろい考えはすぐに打ち砕かれたんだけどね。
古い、放棄されたような狭苦しい地下道を進み、薄暗い洞窟を潜りぬけ、どんどん下へと下っていく。
そしてようやく、遺跡の断片に触れる。
「おぉ~ここが遺跡ってとこ?噂話はよく聞くけど、初めて見たんだよね。」
青い粒子が遺跡中を漂っている、石造りで所々木の根に侵食され、苔むしている。
感じる異様な気配、誰もいないのに帰れと警告されているような、そんな重い重圧感。
地下に閉ざされ、光源はどこにもないはずなのに少し明るく、足元がぼんやり見える程度の暗闇。
なんか、見た目が...イズの碑に似てる。宇宙は地下にあるって感じ。
かつ、かつとあたしの魔法の靴が石とぶつかり、ただあたしとバリの息遣いと足音だけが空間に響いている。
どこまでも静謐で、神聖さすら感じさせる。
「浅いところだし、あなたの実力なら問題ないと思うけど、気を付けてね。遺跡で命を落とす冒険家は数えきれないから。」
軽く頷いて、視野を広める。罠がないか慎重に足を運べば、案の定、天井にびっしり大蜘蛛が張り付いていたのでアルカナビートで叩き落しつつ進む。
飛び掛かってくるのはバリが切り飛ばすのでもはや作業だ。少し前までは虫とか蜘蛛とか苦手だったんだけど、規制済み?君を見てからはもうなんとも思わない。
「本当に初めての遺跡探索?歩き慣れてるよね。」
全然歩き慣れてないけど、前世がオタクだったせいかこの手のダンジョンについては耐性がある。
既視感があって何となく構造もわかるし。
ふと、嫌な気配を感じて、咄嗟に半歩後ろに下がる。
突如レンガの隙間から歯だらけのミミズが飛び出してきて、気持ち悪すぎてうんざりしながら杖で叩き飛ばす。
肉がつぶれる嫌な触感と一緒に、青緑色の何とも言えない色の体液がピシャリと身体にかかった。変な匂いする、やっぱ気持ち悪い...つらい。
時折遺跡在住の生物が飛び掛かってくるけど、なんか魔法の効きが悪い。恐らくBLACK耐性があるんだろう。
BLACKダメージは肉体と精神への侵食。人間とは精神構造が違いすぎて効きがいまいちなんだろう。
人魚や鯨がそうであるように、怪物には精神力が存在しないから。杖でぶん殴れば関係ないけど。
こうして遺跡を歩いてると、いろいろな疑問が浮かぶ。
誰が作ったのだろうか、どうして捨てられたのか、サイズ感的に人間用には少し大きすぎる気もするし、今の都市の人間が作ったとも考えにくい。
人間外の知的生命体が作ったのかもしれないし、より古い古い時代の人間が作ったのかもしれない。
ただ、宗教的な雰囲気は感じる。所々石碑にびっしり読めない言語が刻まれていて、紫の白昼が脳裏をよぎる。
もし深夜が出てきたら、普通にバリ含めて死ねるから嫌だな...
本当に不思議な場所だ、何の用途かもわからないアンティークがそこら中に転がっている。さっき見かけたのは謎の力で浮いてる食器と、中に星雲が閉じ込められている水晶玉の工芸品とか。
十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかないとは言うけど、魔法と科学の差って何なんだろうか、原理が全く分からない、何の力で浮いているのか。あたしが言えることじゃないな、浮けるし魔法少女だし。
気になったものを片っ端から鞄に突っ込んで、一通りこの階層は探索し終えた。
残ったのはあの階段だけだ。少し覗いて、嫌な気配。それでも、進むしかない。
長い、長い階段を一歩、また一歩下っていく。階段を踏めば踏むほど、嫌な感覚と不安が強まっていく。だけど、ここ以外に道はないし、戻るという選択肢もない。
何が起こってもいいように、常に杖を構えた。
歩けば歩くほど、灰色だったレンガが少しずつ黒ずんでいるのがわかる。
勇気を出して、下りきった。
だだっ広い、球状の空間が目前に広がる。
区画全体が黒い絵の具で塗りつぶされたかのような、そんな異様な場所。地下にいるのに空に星がある、気味が悪い。
本能的に、同族の存在がわかる。幻想体だ。
「!%%#%)("$%()"+?*?$&)'+##*!」
宇宙。星。心。宇宙の欠片。
子供の無邪気な落書きを彷彿させる、黒い紙にクレヨンで殴り書きしたようなそんな球体。不定形にハート模様が蠢き、常にわずかに動きを変えているその存在。
不思議と怖くはなかった、むしろ魅惑された。その唄に触れたくなった。だけど、理解できないことを理解しようとしてはいけない。
「下がって。」
バリの一声で、すぐさま正気を取り戻す。逃げるには狭い、戦うしかない。
じりじりと後ろに下がり、アルカナスレイヴの準備をする。対話は必要ない、一撃で消し飛ばす。
威勢は悪くなかったけど、あたしには油断があった。
既に敵の陣地に入り込んでいるのに、攻撃は欠片本体だけが飛ばしてくるものだと思い込んでいた。
真っ黒に染まった地面の微細な振動に気付いた時にはもう遅かった、床から飛び出る触手を避けきれず、痛みで思わずたたらを踏む。
っ、頭が、頭が割れるようにいたい、強制的に無限の知識が流し込まされている。わからないことがわかるようになっていく。
理解。理解。君。一緒。幻想。私。人間。
黙れ、本質が同じだろうが、殻は違う。
痛みで肺から空気が抜けて、集中力が一気に霧散して、アルカナスレイブも発動できそうにない、失敗した。
腕を貫く触手を無理やり引きちぎり、ステップで距離を離す。空間の四方八方から襲い掛かる触手を切り飛ばしながら、隙を見て射撃するバリが何よりも頼もしかった。
一際大きく身体を振動させ、宇宙の欠片は言葉を紡ぐ。あの身体のどこから音が出ているかすらわからない、それでも宇宙の欠片は唄い続けている。
ビデオテープのノイズのようにしか聞こえなかった雑音と甲高いエコーの意味が、今でははっきり分かる。
『愛と憎悪が具現化された人型、抽象化の中で人格を保つ殻を私に教えてくれ。』
うるさいなぁ、自分が知らないことを他者に教えられるわけないだろ。
幻想体を人格として扱うと厄介なことしか起こらない、無視だ無視。受け入れたら頭が爆発しちゃうし。
無数に蠢く触手は不規則で、動きが読みづらいが近寄らせなければ問題ない。適度に弾き、切り落としながら矢と魔法弾で蜂の巣だ。
丸い不定形な胴体、その奥にある核を貫けば、宇宙の欠片はみるみる縮小し卵型へと変化した。
欠片が生み出した宇宙がどんどん薄まって、空間が元に戻ってくる。元の部屋には、床から天井までびっしり描かれた星空...部屋そのものが天体模型のようで、プラネタリウムに似ていた。
遺跡を作った誰かは、宇宙の欠片と交信していたのかな、わからないけど、この遺跡の隅から隅まで、星に関連しているのは間違いない。
それにしても、TETHのくせに中々強かった。ぽっかりと開いた腕の穴を魔法で治しながら、たらりと流れた冷や汗を払いのける。
あたしのBLACK耐性が高かったからよかったものの、TETHといえども全然バカにならない。
幻想体は抑止力がなければ周囲を自分に有利な環境に造成できる。あたしも、その気になれば領域展開できる自信がある。
クリフォト抑止力って偉大だったんだなあとしみじみ思う、でも稼働してたらあたしも五分の一の強さに落とされてよわよわになるのかな。
「ふぅ~ちょっと焦ったなぁ、まだ浅いのに。やっぱり遺跡は難しいね。」
遺跡って、なかなかハードだ。とてもじゃないがまともな人間が生きてける場所じゃない、いくら遺跡は川に近いとはいえ幻想体ってそんなぽんぽんいていいものじゃないでしょ。
「いや、一撃も食らってないじゃん。あたしいらなくない?」
バリは準備運動という風に、軽く背伸びして全く疲れていなさそうだ、白い月の騎士ほんとに強い。
「まあ浅い所なら一人でもなんとかなるけど、深い所は本当に魔境だから、一人では辛いことも多くて。
だからあなたみたいな強くて可愛くて無料で働いてくれそうな魔法少女がいると助かるんだよね。」
あれ、あたし、よくよく考えたらまだ無賃労働者?私ほんとはそんな理由で勧誘されたの?
思わず頬を引っぱたいてやりたくなったけど、勝てないことを思い出して手を握りしめるだけだ。ちょっとむかつく、遺跡、ほんとに新鮮で楽しいから許すけど。
軽く雑談を交えながら、卵になった宇宙の欠片を横目に、より深く、深くへ二人で潜っていった。