メンヘラ魔法少女憑依もの   作:xa

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六話

知恵の泉、すごい効果だけど本命の花畑の気配はない。

そもそも、西天花畑って地下じゃなくて天界にあったような気がする。都市の死生観とはかみ合わない気もするけど。

でもサルピッピョ農畜産業が未来であるってことは多分存在するんだよなあ花畑。

 

「結構苦労したのに、この遺跡でもないか。」

 

大変さの割に収穫がしょっぱいな、これから最低200年間潜り続けるとか苦行も苦行じゃない?

改めてバリのすごさと粘り強さを感じる。

 

「これからどうする?ほかの遺跡探しに行く?」

 

「とりあえず、一旦帰って暫く休みたいかな。色々準備も足りてないし、流石に疲れたから。」

 

もしかして、あれだけ幻想体がひしめいてる魔境を歩いて戻らなきゃいけない?

はぁだっるう、流石に疲れた、いやでもあともうひと頑張りしなきゃな。

 

とか考えてたら、バリがぽっけから細長い筒みたいな謎の器具をひょいと取り出した。

いくつかボタンをポチポチして、空間がピリピリして空気が弾けたかと思えば、青い扉が突如空中に出現した。

 

え、なにこれ。そういや七章で謎の空間移動技術使ってたな。昔の記憶も朧気になってきててすっかり忘れてた。

 

これ通って大丈夫なん?バリはさっさと扉を通り抜けてしまった。向こう側の景色から手を振ってるバリが見える。こ、こえ~、いや、勇気を出していこう。恐る恐る目を閉じて、扉を潜り抜けようとして。

うっ...身体がバラバラに分解される感触があってつらい。これなら自力でテレポートしたほうが楽。

 

「...ここどこ?」

 

こじんまりとした部屋だ。あまり使われていないようで、最小限のものしか置かれていない。

机とか、クローゼットとか、ソファだけ。狭いけど丁寧に整理整頓されている。

 

窓を見れば、ちょうど月が昇ってきて、都市は暖かい暗闇に包まれていた。

人々はすっかり寝静まり、聞こえる音と言ったら猫の鳴き声とか、そのくらいだ。

 

「私の家。ちょっと狭いけど、多分二人分は寝れるはず。」

 

そそくさとバリは武器を床に置くと、そのままベットに倒れこんで目を瞑ってしまった。雰囲気から察するに、本当に眠りに付いてしまったみたいだ。

 

あたしが言える台詞じゃないけど、無茶苦茶な技術だな瞬間移動って。

あまりにも便利すぎて怖いな、ワープ列車みたいなえぐいデメリットがないか心配になっちゃう。

 

正直、あたしもバリも疲労が限界だったから、帰路を歩かずに済んだのはとてもありがたかった。

何日も寝ていないし、戦闘の連続だしまともな物を食べる機会もなかった。ほぼ休憩なしの強行軍だったから。

 

実はあたしは睡眠を取る必要はないけど、疲労を取るには睡眠が一番効く。この辺は都合の良い身体で助かった。ダンテ、寝れないけど辛くないのかな。

他人の家に寝泊まりするのってちょっと罪悪感あるな、いや散々居候してたし今更か。

ふらふらのままベットに倒れ込むと、意識はあっという間に闇に溶けていった。

 

あそうだ、日記書かなきゃ、お風呂、いや、疲れたな、全部明日の自分が何とかしてくれる、たぶん。

眠りに付く寸前、ぼんやりとした思考でそんなことを考えていた。

 

 

夢を見る。幻想体に睡眠の必要はなく、何日徹夜しても眠気を感じない。

それでも、眠る。眠らなければ、人間性を捨てた気がするから。ほんのひと欠片くらいは、まだ人間性が残っていると信じたかったから。

 

暗い、泥の中に沈んでいる。もがいて、もがいても、ちっとも浮き上がらずに、いつの間にか、底にいる。

泥の底の世界から、空を眺める。灰色のくすんだ雲と空。当てもなく、大都会を一人歩き回る。誰一人いない、寂しい空間。

 

夢の中のあたしは、まるで水中で歩くかのように緩慢で、思うように身体が動かない。

 

後ろから、布と石が擦れるような音がした。振り返れば、マントを羽織った肉も皮もない骸骨がゆらゆらと、空中で揺れている。

あの日、私が倒した死神だ。

 

恐ろしい死神が、一歩、一歩、音もなく近寄ってくる。鋭い、骸骨でできた恐ろしい白刃を、指に沿わせて、ニタニタと気味が悪く笑っている。

首を刈り取るつもりだって、本能的に理解する。

必至に思いつく限りの呪文を唱えてみて、何一つ起こらない。思わず後ずさろうとして、何かにつまずいて転んでしまう。足ががくがく震えて、立ち上がれない。

大きな動作、ゆっくり鎌を構えて、一振り。鋭い衝撃が走って、血がだらだらと床に流れ落ちている。

 

にげなきゃ、こわいよ、だれかたすけて、おとおさん、おかあさん、

あれ、あたしのおかあさんって、誰だ?

 

気付いちゃいけないことに、気が付いちゃった。全身に蛆虫が這いあがってきて、身体中に凍えるような寒気が走る。誰、誰なの?顔も、声も、名前も、何一つ思い出せない。

あるいは、初めから誰もいなかったのかもしれない。

 

いや、幻想体に親なんていない。親がいるとするなら、抽出、観測しただれかだ。必死に人間のフリをしているが、決定的に何かが違う。

人間になりたい、人間を模倣する幻想体はそこそこいる。ピノキオと、何もない。もしかしたら、あたしはその一人なんじゃないか?

自分が、憎しみの女王になっただれかと思い込んでいるだけで、その誰かなんていなかったんじゃないか?その違いを誰が区別してくれる?誰もわかりはしない、自分自身にすら。

 

私はなにもの?

 

あいらぶゆー、あいらぶゆー、はろー、ぐっどばい。そう呟けば、あたしが誰でもなくなった気がしてくる。鏡を覗けば、メルヘンチックな少女が無表情で見つめてくる。

こんなの、私の姿じゃない!私はこんなにかわいくない、髪だって地味で、魔法なんて使えない。誰かを助けたいだなんて思ってない。

自身が誰かわからないなら、いっそ塵になって、消えてなくなりたい。

 

もう、いい。何も見たくない、横になって、目をつむって、耳をふさぐ。

 

そうしたら...

 

自分を消していくの。

 

 

ぅ、ぁ、今、今何時だ。

 

鈍く軋んだ身体を、何とか起こす。

 

くそ、またひどい悪夢を見た気がする。内容はあんまり覚えてないけど、嫌な気持ちと感覚だけが背筋に残っている。

 

窓を眺めると、まだまだ月は輝いていて、夜明けは見えない。体感、深夜四時くらいだと思う。

横目でちらりとバリを見ると、すっかり眠りに付いてるようだった。起こさないように、慎重にベットから降りて、適当なソファに腰掛ける。

 

世界は真っ暗だった。月や星々が明るく輝いているが、灯りのない部屋は暗かった。あたしは目がいいから、暗くても隅々まで見渡せるけど。この辺の微妙な差異というか、人より優れた感覚器に疎外感をどうしても感じてしまう。

 

独りは嫌い。嫌な想像ばかりして、ちっとも楽しいことは起きない。それに、静かな場所も苦手だ、あたしがみんなから必要とされてないみたいで....

だから、誰かといるのが好きだ。使命を忘れていられる。でも、昔は違った気がする。

独りが好きだったような、社会と、人間に疲れていたころが、あたしにもあったような気がした。

 

昔は、夜なべして魔法を練習していた。そういえば、最近は練習してなかったな。適当に呪文を唱えて、力を注ぐ。

粒子が人の形になって集まり、妖精のような可愛らしい何かが生み出される。私の意志に応じて、右に左に、ゆっくり動く。

 

物理法則はあたしの前では何の役にも立たない。魔法っぽいことなら何でもできる。

寂しい、私のように魔法の使える人間は、今まで誰一人あったことがない。人間と同じ姿をしていても、人間じゃない。

 

ううん、昔は一人じゃなかった。せんぱいと、可愛い後輩が居て。独りで戦ってたわけじゃなかった、でも、その先輩をあたし自身が、追い返してしまった。

あいつが、皆を唆して...お互い、殺しあって。でも、最後にはみんなで一緒になるって約束したのに、あたしだけ逃げだして今ものうのうと生きている。

 

結局、あたしってなんなんだろう。幻想体?それとも、ねじれ?

 

幻想体は誰かの意志で他人の心を引き出し、増幅させたもの。増幅した感情は次第に物理的な実態を持ち、具現化する。

私の分類番号はO-01-04、OはoriginalのO。その根源は自然発生したものと、井戸から這い出てきたものが含まれている。つまりあたしだ。

もしかしたら、私は誰かの心から取り出されたのかもしれない。あるいは、人類の集合的無意識にあたしみたいな奴の切れ端があって、それを引き出されたのかもしれない。

 

幻想体は、何か一つに執着して、同じことを永遠と繰り返す変わりはしない存在だ。

あたしは昔と比べて変わってるのかな、わかんない、比べてくれる他者がいない。

 

初めのころに比べたら強くはなったけど、それは新しい何かを身に着けるというよりは、忘れたものを思い出す、もしくは馴染んでないものを身体になじませるような感覚だった。

まるで、私が幻想体に変わっていくかのような...だめだ、嫌な想像ばかりする。

 

...とりあえず、日記書くか。えーと、暗くてやりづらいな、まあいいか。

 

♤月〇日

 

遺跡、すっごいハードだった。まだ身体が少し軋んでるし、気持ち悪い生物もいっぱいいるし、何より幻想体が怖かったけど、それでも価値のある経験だったと思う。

特に、あの水に沈んだ都を見渡したあの美しい光景と景色は何物にも代えられない一生ものの体験だった。

ただ、カルメン?とのお話は、とても苦しくて、いまだに心がもやもやするし、今思い返せば別に反論できてたわけでもなかった。

ただ投げやりになっただけで...もう一度話す機会があれば、きっとねじれてしまうような予感がある。でもいつかは、自分と向き合わないと。

 

ヨシ、これでいいか。ちょっと字が汚いけど、あたし以外は誰も見ないから気にしない。

気にしな...

 

ポンと肩をたたかれ、振り返ってようやく存在に気づく。思索にふけっていると、何も見えなくなるものだけど、それにしたって今日のあたしは不注意だった。

後ろからのぞき見してるバリにすら気付かないなんて。少し眠そうな、今起きた瞬間という顔だった。いくら実力者とはいえ、遺跡は神経を使うし疲れるはずなのに、起きるの早くない?

 

「い、一応聞くけどさ、中身見た?」

 

お願い、見てないって言って、ほんとに恥ずかしいから。このノートはまだ誰にも見せたことはない、あたしだけの秘密の日誌なのだ。

もし見られてたら、羞恥心で爆発しちゃう。

 

「うん。全部見たよ。」

 

声にならない声が喉元から勝手に出る。もう、顔を向けらんない!

お、終わったあたしの人生...今人生で一番絶望を感じてる。

 

「意外、そんな几帳面な習慣があったなんてね。」

 

いやこれはその、覚えておくためというか、

 

「やっぱり、あの泉で誰かと話したんだね。隠し事は良くないよ?私は一緒に旅する仲間なんだからさ。」

 

うっ、全部ばれてるどうしようどこまで話すべきか、でも、ロボトミーのことって喋っていいのだろうか。

そもそもカルメンについての理解度もないし、うまく説明できる気もしないし...

 

「う、いや、バリも隠し事ちょっとはあるよね。ここはお互い様ってことで...」

 

あたしたちはお互いに一線を置いて、内に秘めたものに触れないようにしてきた。バリも多くを語らない人だったし、あたしも自分が嫌いで、態々話そうとしてこなかった。

もう、なんとかして隠し通すしかない!とにかく、あたしだって秘密の一つや二つはある。

 

「どうせ同じ事務所の仲なんだし、お互い隠し事はなし。何でも聞いていいよ。」

 

どうしようちょっと気になり始めた。どうせノートはだいたい見られたんだし、腹を割って話し合ったほうが、いいかな。

でも、あたしの過去は墓まで持っていくって決心したのに。

 

「じゃあ、すっごい今更だけどさ、バリってどうして花畑を探してるの?やっぱり...両親のため?」

 

少し呼吸を整えて、とても複雑な、一言では表せない深い表情で、それでもゆっくり語り始めた。

私は憎しみの女王だから...わかる。きっと、バリの想いには憎しみが混じっている。でも憎しみだけじゃなくて、どこか温かみがあるような、そんな感じ。

 

「私には六人の姉妹と、私を捨てた父と母、そして私を拾ってくれた老夫婦がいてね。あまりいい人じゃなかった。私を川に流して捨てたからね。

でも、それが私に残された唯一の家族だから...どんなにひどい仕打ちを受けたとしても、自分を一度捨てたとしても、私は助けるべきだって信じてる。」

 

そっか、やっぱり立派な人だ。あたしなら、決して真似できないだろう。

ただ誰かの為だけに、何百年も遺跡を巡り続けるなんて。

 

「私と旅する人は、みんな死んでいったんだ。どれだけ強くなっても、守り切れないほど道は厳しいから。

それが重くて、でもあなたはとっても強くて、優しくて。安心して背中を預けられるんだ。」

 

やばい、あたしの中の憎しみ成分がめっっちゃくちゃ喜んでる。誰かに必要とされると心が跳ね上がっちゃう。

だって平和な世界に私はいらないのに、存在してもいいって言われてるみたいで。

 

「でも私は、いつか悪になるよ。世界は平和だから、きっと我慢できなくなると思う。そんな悪人に背中を預けていいの?」

 

あたしは幻想体で、結局の所化け物に過ぎない。誰かを傷付けることを躊躇しないし、世界が平和なら、悪になってでも善を作り出さなければならない。

そうしなきゃ、自分の存在を確かめることのできない、残ったものは壊れた心だけの歪み切った化け物だ。だから、信用なんて絶対しちゃいけないのに。

 

「私にはわかる。あなたは絶対、人の背中を刺したりなんてしない。だって、誰かを傷づけたことが一度もない人が、他人に悪意を持てるはずがないから。」

 

その言葉には確信が満ちていて、揺らぎなんて一ミリもない。あたしのことを、全く危険視していない。

怖いけど、でも、この人になら話してもいいのかな。あたしの抱えてきた悲しみを分かち合っても、きっと最後まで寄り添ってくれるって、そう思えた。

 

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