銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
「……もういいの?ヒサギ」
「先生……まあはい、寝過ぎちゃったんで」
試験会場を爆破されて未受験扱い、当然全員まとめて不合格となり……戦闘で疲労していた上爆破まで食らったヒサギは、みんなに謝りながら合宿所に戻ってすぐに寝てしまった。
「今日は休もうって感じだったんですか?みんなもう寝ちゃってたから」
「……うん、色々あったしね」
「まあ…そうかあ」
みんなの部屋を覗いてみるとヒサギがベッドから抜け出していて、しばらく探し歩いてみるとプールの場所にいた。
「ここで何を?」
「ん〜……久しぶりに弾撃っちゃったんで、その……気持ちの整理?に。当ててはないんですけど、ま〜……意外とくるものがあって」
ヒナから連絡があった。仕方なかったとはいえ、風紀委員会と温泉開発部の戦いに補習授業部を巻き込んでしまったことを謝ってくれたのと……
イオリがヒサギと交戦して、目が良かった、後ろにも目がついているみたいだったと言っていたらしいということ。
「これからどうするんですかねぇ……まあひとまず90点取れるくらいには勉強しまくって……次も試験内容でなんか仕掛けてきそうだけど……」
「ヒサギ」
「ん?……なんですか?」
元々二次試験が終われば聞こうと思っていた。結果として不合格だったけれど……それでも、今二人っきりのこの状況で聞いておかないと、機会を逃すような気がして。
「先に、ごめん。聞かれたくないことを聞くかもしれない」
「え?」
「でも君のことを知りたいんだ、もっと。答えてくれるかどうかは君の自由だけど………もし、話してくれたら君のことをもっと理解できるかもしれない」
「………いいですよそんなに気を使わなくても」
少し呆れたように笑いながら、私の問いかけを待つヒサギ。それを見て息を整えて、改めて質問した。
「君は………澪標ヒサギなの?」
その黄色い目と目が合った。
「………えーと、どこまで知りました?」
「…澪標ヒサギがある学園の生徒会長だったこと、去年失踪して……本当なら今3年生だってこと。目の色が……青いということ」
「うわ結構……まあ私が怪しいのが悪いんですもんね」
「疑ってたわけじゃなくて……成り行きで、知っちゃって」
「別に責めてるわけじゃないですよ」
プールサイドの椅子に座っているヒサギが視線をプールの方へと戻す。
「……他の皆んなに話さないでくれるなら、話します」
「うん、約束する」
「ありがとうございます。………でもどこから話したもんかな…」
「……キヴォトスの外から来たって、あの言葉の意味は?」
「…そのままの意味ですよ」
そのまま、つまり彼女は私と同じ……
「とりあえず名前か。ん〜………聞き取れなかったら聞き取れないって言ってくださいね?」
「え?」
私の方へ身体ごと向けたヒサギが、こちらを真っ直ぐ見据えて口を開く。
「私の本当の名前は⬜️⬜️⬜️ ⬜️⬜️。澪標ヒサギじゃない」
「………え?」
聞き取れなかった、というか理解できなかった。
口の動きから察することもできない、認知できないというか……まるで彼女が喋ったその部分だけ、消されているような……
「やっぱり無理か……私、もともとこんな髪じゃないしこんな目の色じゃなかったんですよ。普通に黒い髪で、普通に黒い目で……ちょうど先生みたいに?」
「私、みたいに?」
「多分先生もキヴォトスの外から来たんですよね?違ったらごめんなさい」
「いや、合ってる。私も君と同じだよ」
私の言葉を聞くと、彼女はすぐ横に立てかけていた狙撃銃を手に取って膝の上に置いた。
「最初、先生のことすごい警戒してたでしょ。今更だけどごめんなさい、この世界で初めて見るタイプの大人だったから……」
「……初めて?」
「先生は受け入れてると思うけど。この世界って私たち生徒以外の殆どがロボットとか犬とか猫みたいな………およそ人間とは言えないやつばっかりでしょ?」
そう聞いて、アビドスの柴大将を思い出す。あの大将も見た目は犬でも、中身は毅然とした大人だった。
「多分みんなよく見えてないんだ、あいつらと先生の違いが。………認識できてないって言った方がいいのかな、私はこの眼……というか、もともとの出自のせいで見えちゃうんだけどさ」
この世界に来たばかりの時、確かにそういう人たちばかりで驚いたこともあったけれどすぐにそういう世界なんだと受け入れた。
ヒサギにとって、私はこの世界で初めて見るタイプの大人……というのは、ロボットや動物の見た目ではなく、人間の見た目をしているという意味なんだろう。
確かに、他のみんなが何も言わずに受け入れてくれているから気にしてこなかったけれど、私だけが大人という枠組みの中で浮いている。
「……話逸れたね。先生がどんな風にキヴォトスに来たのかは知らないけど……多分、そんなに酷い目に遭ったわけじゃないと思う。今から話すのは別に私の不幸自慢じゃないけど………優しい先生には、辛い話かもしれないから」
その言葉を聞いて、ヒサギに向かい合うように座った。
こちらを真っ直ぐ見据えるその目に応えるように、こっちも真っ直ぐ、ヒサギの目を見て。
「話してくれる?」
「お望みとあらば」
コクリ、と頷く。
一瞬目を細めたあと、膝の上に置いた銃に視線を移してポツリポツリと話し始めた。
「私がキヴォトスに来たのは……時間感覚狂ってて詳しい時期は覚えていないけど多分一年近く前。あいつらの実験失敗のなんやらで境界が緩んだとかなんとか言ってたけど、詳しいことはわからない」
「……あいつら?」
「………先生は、ゲマトリアって知ってる?」
以前、アビドスで活動していた時に遭遇した相手の名前を。
彼女は口にしていた。
「私はそいつに創られた」
「創られた、って……」
「管理番号はNo.5。……私の他に四人いたんだ、一緒にキヴォトスに来ちゃった子達が。もういないけどね」
「ひっ…」
小さな悲鳴が聞こえた。
どこから聞こえたのかと周囲を確認して、物陰にいる
ヘルメット団からの襲撃を他のみんなに任せて、私はその物陰を確かめに行く。
「えっ嘘……」
その
最初はヘイローが砕けてしまっているのかと思ったけれど、そうではなく確かに生きている。生きているからこそ、銃声に怯えている。
「……ねえ」
「っ!」
驚いて、転がって私から距離を取る。異様なほど怖がっていて……まともな精神状況とはいえなかった。
「……もしかして」
手に持った狙撃銃を見ているのを感じて、銃をカバンの中へとしまう。
「大丈夫、傷つけないから」
「………」
ヘイローがないけれど生きている。
多分これは私たちと違うけれど、私たちと同じ生き物だと、そう感じた。
「……君は、誰?」
「………⬜️⬜️⬜️ ⬜️⬜️」
「⬜️⬜️ちゃん……って、言うんだね。どこの学園の子?」
黙って首を振る。知らないということだろうか、答えたくないということだろうか。その格好はあまりにも質素で、どこかの制服とは言えなくて……
「……!怪我してる…!」
肩からの出血、目のせいで暗がりでもよく見える。まるで抉るような傷跡、幸い深くはないが……今まで見たことのないような傷?
上から布を羽織って隠していたのを、動いて傷口が少し見えた。
「何すればこんな……」
まるで何か、柔らかいものに銃弾が掠めて削れたような、そんな傷。
「……銃弾で?」
返事はない、下を向いて震えて、傷口を手で押さえているだけ……
「確か向こうのほうに……ここで待ってて」
すぐに使えるように置いておいた救急箱を手に取って、戦況は悪くないのを確認してその怪我したその子のいる場所へと戻る。
手当には詳しくなかったが、とにかく傷口を綺麗にしてガーゼで上から押さえて包帯を巻く。既に塞がっていたようで出血は止まっていたけれど……手当している間もずっと痛そうにしていた。
「………」
血色は良くないし、やつれている。何より精神的な疲労が凄そうで………目が、完全に怯えていた。
「少し、待っていられる?静かに、声出さずに。……後で絶対また来るから、どう?できそう?」
そう歳は変わらないだろう相手を安心させるためにそう言って、その場から離れる。今は戦闘の真っ最中で、ほっぽり出してここへ来てしまっている。
「…うん、じゃあ少し待っててね」
物陰から出た後銃を取り出して、すぐにヘルメット団たちを撃ち抜く。程なくして戦闘が終わって………途中抜けたことを責められつつも、みんなそこで解散して。
近くのコンビニで食べ物や飲み物を買ってきて、その場所に戻ってきた。
「待たせてごめんっ………これ買ってきたんだ。……食べる?」
ゆっくりと手渡すと、受け取ったその子は静かに食べ始めた。コンビニのおにぎりの封の開け方、知ってるんだなとか思いながら。
「……あっ、私のことがまだだったね。私の名前は澪標ヒサギ、すぐそこのレプリズ学園の一応生徒会長やってて………」
「………」
「……ゆっくり食べていいからね」
全部食べ切るのを見届けて、ゴミを受け取って、飲み物を飲み始めて。ポロポロと涙を流し始めたその子を。どうにかして泣き止もうとしている姿を見て、待った。
静かに隣で待ち続けた、泣き止むのを。
「……もしよかったら、うちの学園に来る?多分みんな嫌がるから、誰も使ってない教室とか部屋に隠れてもらわなきゃだけど……」
「……うん」
そうして、校舎の中で匿うことになった。
皆んなにはバレないように、放課後、全員が帰った後で面倒を見て……包帯を変えたり、ご飯買ってきたりお風呂に入れたり。
その子は何も話さなかったけど、少しずつ私のことを受け入れてくれるようになってて。勝手に一方的に話していただけ、けれど話を聞いてくれているのは分かった。
そうやって過ごして、たった3日。
「初めまして、澪標ヒサギ」
黒いスーツに、ひび割れたような割れ目の入った、真っ黒な頭。今まで見たことのないような……人とは一切思えない姿をした男が、放課後に……日も落ちて暗くなった学校で、接触してきた。
「………誰」
銃を向けて尋ねる。
「名前を聞いているのなら、今の私に特定の名前は存在しません。そして素性を聞いているのなら………今は、ただの雑用のようなものでしょうか」
「何を、言ってるの?」
「手短に要件だけ話してしまいましょうか、アレを引き取りに来ました」
ああ。きっとあの子はとても可哀想な目に遭ってきたんだろうなと。
その言葉だけでそう感じた。