銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
「黒服……」
「先生知ってるんだ。……というか、あいつそんな風に呼ばれてるんだ」
彼らゲマトリアの目的は確かキヴォトスの神秘の探求……ホシノの時に黒服は私にそう語った。
それが、キヴォトスの外から来た彼女とどういう関係が……
「……君は、もしかして」
「………話、まだ途中だから。続けますね」
そう言って、ヒサギは
「引き取る…って?」
「アレは私たちの計画の一部………というより我らの所有物と言った方が正しいでしょうか」
「所有物……?人をなんだと思って…」
まるで彼女を物かのように語る、得体の知れないそいつを睨みつけるが、それをまるで意に介さず話し続ける。
「では貴女にお聞きしますが………もし貴女が道端に落ちている石ころを拾えば、それは貴女のものとなるでしょう?」
「………は?」
「それと同じですよ」
そいつの顔のすぐ横を掠めるように銃弾を撃つ。あまりにも……あまりにも、心というものがなさすぎる。
「これは決して無茶苦茶な話ではありません。アレには己を保証するものがこの世界には一つとしてなかった、それだけの話です。誰のものでもなかったのなら、それは手に入れた者に権利が発生する」
「あの子は私たちと同じ人だッ!」
「えぇ、同じです。貴女たちにはこの世界で生まれ、育ったという経歴が存在する…しかし彼女にはそれがなかった。彼女はこの世界に住む存在する人でも、生徒でもない」
怒り狂った頭をなんとか落ち着かせて、目の前のやつの言葉をなんとかして飲み込む。
ヘイローがない、何故かとは思っていたけれど、本当にこの世界の外から来たのならそれは……
「……でも」
「私も理屈で引き渡して頂けるとは思っていません。そこでどうでしょう、もし穏便に引き渡していただけるのなら、我々が責任を持ってこの学園に残った生徒たち……総勢12名がスムーズに転校できるように手配する、というのは」
「………」
私たちの学校は力が弱く、他の学園との抗争でどんどん消耗していった。なんとか戦いから離れたけれど、自治区の治安を維持する能力すら欠いてしまった。
まともに学園生活を送れない日々で、生徒会を構成していた三年生は全員逃げるように失踪。
残った私が生徒会長をやって……それも限界が見えてきていた。
「神眼、澪標ヒサギ。貴女の不幸は理解しているつもりです。貴方が他の生徒を気にしてこの学園を離れられないことも。………悪くない話だと思いますが」
「……バケモノの言う話を、信じられると思う?」
「…バケモノ、ですか」
口調や雰囲気さえ理性的ではあるけれど、感覚が完全に狂っている。人の形を取っているだけの別の何かだ。
「貴女の眼にはそう見えるのですね。……やはりいい眼だ」
「………」
「であるからこそ、貴女には見えているはず。………荒事は我々も望むところではありません」
「……汚いヤツ」
そいつの言う通り、学園の周りを取り囲むように所属の不明な兵士が何人も配置されていた。
「改めてお聞きします。……彼女を、引き渡してはもらえませんか?」
「………」
自分の手に負えないものに首を突っ込んでしまっているのは、気づいている。けど、だからと言って。
「私に、あの子がもう一度苦しむことを選べって言うの?」
「………」
「冗談じゃない」
迷いなく、そのひび割れた顔面のど真ん中へと弾丸を撃ち込んだ。
ろくな確認もせず校舎へと走って戻り、空き教室に寝かせていた⬜️⬜️ちゃんに声をかける。
「逃げよう」
その言葉で全部理解したみたいで、抱きかかえて窓ガラスを割って飛び降りた。目を最大限に使って、敵の少ない場所を見つけて無理やり包囲を突破して。
避けられる弾は避けて、避けられない弾は⬜️⬜️ちゃんに当たらないように自分の身体で受け止めて。
逃げて逃げて、逃げ続けて。
銃声が聞こえるたびに身体を震わせるこの子を強く抱きしめて、日が昇っても逃げて、逃げ続けて。
常に眼を使って追っ手を撒き続けて、隠れて、隠れて。
眼が熱を帯びても無理やり使い続けた。使わないと見つかって追いつかれて、この子を悲しい目に遭わせてしまうから。
学園のみんなからのメッセージが来ていたけど返信はできなかった。なんとなく、もう戻れないってことを察してしまったから。
1週間逃げたあたりでとうとうガタが来た。気づけば初めて見る砂漠が見えるくらいのところまで来ていて……砂埃の飛ぶ街の中で、両目の視界にヒビが入った。
「ぐぁ……づぅ……」
眼が痛いし頭も痛くて、なんとか路地裏に逃げ込んだけれど。
少し足を止めただけなのに、すっかり囲まれてしまった。
「……我々から7日間も逃げ続けるとは、流石ですね」
「…世辞はいいよ、このやろう」
その黒いひび割れたやつは、確かに私が頭を撃ったはずなのに何事もなくケロッとしていて。むしろこちらを心配するような口ぶりで話しかけていた。
「では、そちらを返していただきます」
私があの子に近づいていく兵士の足を掴んでもすぐに振り解かれて、何か薬品のようなものを吸わされて意識を奪われてしまった。
「………」
結局何もしてあげることができなかった。むしろ、変な期待を抱かせてしまったんじゃないかと思うくらいで。会話なんて殆どしなかったくせに、一緒に逃げている間私のことを心配し始めるくらいで。
「……ごめんね」
結局、私に出来るのはこの程度で。
学園も救えないし、みんなの心の支えにもなれない。ただ眼がいいくらいで本当は引き金を撃つのも嫌いで………あの子1人すら、救えない。
「………違う」
ここであの子を見過ごしてしまったら、きっとこの先一生後悔する。生きるのが辛くなるくらい苦しんで……きっと、あの子のことをずっと追い続ける。
あの時、物陰で震えていたあの子を見つけてしまったから。
「待って」
私に背を向けて去っていくそいつに話しかける。
「なんでしょうか」
「私も連れてって」
言ってしまった、と思った。
これで本当に戻れなくなるなって、そんな気がした。
「……何故です?貴女にメリットがあるとは思えませんが」
「その子をむざむざ奪われるくらいなら、私は死んでやる」
こんな後悔抱えて生きたくなんかない。私が生きていくには、この世界はちょっとばかり不可解なことが多すぎる。
「……いいでしょう、しかし恐らく貴女の扱いは…」
「なんだっていい。……あの子の近くに居させて」
「…分かりました」
そいつの指示で、兵士があの子にしたように私も薬品を吸わされて、次第に意識を手放していった。
「……と、ここまでがざっくりとした私と、澪標ヒサギとの出会い」
「………」
本人は何故かなんともなさそうに語っている。辛い記憶のはずなのに……そう振る舞っているだけなのか、本当になんとも思っていないのか。
……何も思っていないはずがない。
「……何か言ってよ、質問とか……まあそりゃ聞きにくいか」
「質問って………」
「…じゃあ補足。私の前に実験された4人、どうなったかっていうとね。………ちょっと、待ってね」
語り出そうとして、すぐに止まった。何度か深呼吸をして、まるで自分を落ち着かせるかのように息をして。
「1人目は、正体不明の生命活動の停止。2人目は完全な自我の喪失、じきに死亡。3人目は全身から血を吹き出して……その後身体が溶けたらしいよ」
「………ごめん、何を言っているのかよく分からない」
「だよね、私も」
4人……後もう1人は、さっき語っていたように爆発に巻き込まれたのだろうか。それともその子自体が……
「……知っている子達だったの?」
「ううん全然。でも何故か全員同じ年くらいの女の子で………私は直接実験の様を見てたわけじゃなくって、後から研究資料覗いて知ったんだけどさ。まあ聞くだけでも酷いもんだよね」
言葉を失った。4人もの子供が、ゲマトリアの実験に巻き込まれて死んでいた。その事実が淡々と胸の奥に突き刺さる。
「一体何をして……」
「神秘を持たない人間による、神秘の獲得……みたいなこと書いてたっけな」
「神秘……黒服もそんなことを……」
「………直接実験をしてたのは、別のやつ。カルティストとか呼ばれてたかな。……まあもう死んだみたいだけどね。先生の言う黒服っていうのは、本当にただ雑用やらされてただけらしい」
カルティスト……恐らくゲマトリアだろう。
死んだみたい、というのは、一体……
いや、それよりも、神秘の獲得……と言ったか。
「君が、その澪標ヒサギという子と同じ眼を持っているのは……」
「……先生、私たちのヘイローって見分けられますか?」
「…見分ける?」
そういうヒサギの頭上の紫色の目のようなものが浮かぶヘイローに目をやる。
「私たちキヴォトスの生徒は、お互いのヘイローを正しく認識できないみたいなんです。そこにあるってのは分かるんだけど、形の判別まではつかないみたいな」
「………知らなかった」
「不思議ですよね、見えてるはずなのに認識できない。まるで世界そのものから認知できないようにされてるとか……そんなふうに感じないです?」
世界から……その言葉の意味はよく分からないけど。その語り口を聞く限りは彼女も……
「君は、ヘイローを見分けられる?」
「はい。と言ってもそれは多分私が先生と同じだからで………澪標ヒサギも、ヘイローを見分けることができた。それはもちろんその眼のおかげ」
ヘイローは生徒同士には判別できない。なんとなくそんな気もしていたけれど………思い返せばシロコたちがしていた覆面水着団というのもヘイローは出ていたのにも関わらず、アルたちはヘイローで判別できていない様子だった。
「ヘイローがなんなのかっていうのは私もよく分かってない。でも憶測で語ることはできる。………多分ヘイローっていうのは、個々人の持つ
「記号?」
「このヘイロー自体にそこまで意味はなくて……その生徒の状態を表すサイン?みたいな」
キヴォトスにはヘイローが砕ける、という表現がある。眠っている間はヘイローが消えて、砕けるというのはその生徒の死を意味する言葉だ。
状態を示すサインのようなもの……というのは、そういう意味だろうか。
「で、問題の私のこのヘイロー。澪標ヒサギのものと全く同じなんですよ」
「………あ」
ヒナから送られてきた顔写真、そこから見切れていたヘイローと、今目の前のヒサギのヘイローが全く同じであることを今更認識する。
「つまりそういうことです。同じヘイローっていうことは同じ神秘を持っていて……だから私の眼も、澪標ヒサギと同じ特別な眼になってる」
さっき彼女は、神秘を持たない人間による神秘の獲得という実験だったと言っていた。
つまり、彼女の話の中に出てくる澪標ヒサギという人物は………
「……続き、話しますね」