銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!!   作:ギアっちょ

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お話しよう

「………あ、起きた。よかったあ、大丈夫?」

 

 目を覚ましたその子にそっと声をかける。

 

「……なんで」

「心配で来ちゃった」

 

 まるで独房のような場所。武器も持ち物も全部奪われて、一緒にこの子と同じ場所へ入れられた。

 

「大丈夫、もうひとりじゃないよ。私も一緒にいるから」

 

 そう言うとその子は、とても悲しそうな目をして。

 静かに私に抱きついてきた。

 

 何もできなかった私には、その背に手を回して、優しく抱きしめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……調子はいかがですか」

「………何しにきた」

「嫌われたものですね。貴女が望んでここへ来たというのに」

「本気で言ってんの?」

「……失礼しました」

 

 私が凄むとそいつは肩をすくめてそう言った。妙に人間味があるのがかえって気味が悪い。

 

「……あの話、守ってよ」

「………えぇ、既に手配はしてあります。貴女は失踪した扱いとなり、今は既に廃校の手続きを進めているようですが」

「…そ、ならいい」

 

 寝ている⬜️⬜️ちゃんを起こさないように、そいつと静かな声で話す。私はもちろん話したくなんかないけれど、他にすることもないし。

 

「で、何の用?」

「……彼の方針が定まりました。貴女と彼女が、次の実験に使われることになりました」

 

 格子から手を伸ばしてそいつの胸元をガッと引き寄せる。

 

「前にも言いましたが、私はこのプロジェクトにおいては彼の雑用であり、指導しているのは私ではありません」

「でも協力している」

「興味がありますから」

 

 話にならないなと手を離し、壁にもたれかかって座り込む。

 

「失敗すれば、貴女と彼女の両方が死亡。成功すれば……」

「私が消えて、あの子が残る」

「……その通りです」

「………」

 

 頭を抱える。

 こうなってしまった身分だ、私がどうなったっていい。⬜️⬜️ちゃんが私の代わりに生きてくれるというのならそれでもいい。

 

 けれど、あの子は銃を知らない。ただの道具としか思っていない私達と違って、⬜️⬜️ちゃんにとって銃は自分を殺しかねない兵器だ。

 

「こんな世界で、生きて欲しくない」

「……実験が成功した場合、彼女は被験体としてここで過ごすことになります。その後の生活は……私には保証しかねます」

「………実験は、いつ?」

「早くとも、一週間後」

 

 一週間……こんな何もない場所に入れられて過ごす時間としては長すぎるくらいだ。

 

「そ、分かった。…………何?まだ何かあるの?」

「いえ、ただ………少し気になることがありまして」

「……暇だから、聞いてあげる」

 

 ひび割れのそいつが、何かを話したそうにしていたから。妙な感じがして、私もそれが気になった、

 

「澪標ヒサギ……神眼と呼ばれ恐れられる生徒。ゲヘナ近郊で戦闘した際、その眼の良さからその通り名が浸透した。………貴女であれば、どこの学園へ行っても良い暮らしが出来たはず。それが何故、あのような場末の小さな学園に収まっていたのですが?」

「…一度見ちゃったものは、見捨てられないから。私には最初からあの場所しかなくって………私はそれしか知らなくて」

 

 みんなが私の眼を頼りにしてくれてるのが分かった。その期待に応えようと、私の力でみんながより良い方向に進んでいけるのならそうしようって。

 

「選べなかったんだよ、それだけ」

「………貴女はその神秘…その眼の価値について理解しているのですか?」

「生まれつきあるんだから価値とか知らないし。………なかったら見えずに済んだものも沢山あるから」

 

 みんなには見えていないものが沢山ある。

 それはこの世界における人間だったり、卒業したらどうなるのかとか……ヘイローって一体何なのかとか。みんなが気にしない、気づかないことにどうしても気づいてしまう。

 

「私はただ目が良いだけで………目が良いだけなのに、こんなことになってる。そのくせ見て見ぬフリはできないから、どうしようもない」

「………貴女のその眼は、ただ目が良いというだけではない。視るという知覚そのものを司ると言っても良い、その眼を使えばあらゆる事象の観測ができ———」

「知らないよ、これからいなくなるんだから」

 

 みんなには、ヘイローがちゃんと見えていない。あるのは分かるけど判別がつかない………けど、私には見える。

 自分の力……神秘って言った方が正しいかもしれない。それを知覚している子は、形が特別。そういう子は特別な何かがあって……何が違うのかは分からないけど、とにかく他の子と違う何かがある。

 そういう、自分の()()を持っていて、それを知っている子のヘイローは特別で。私にはそれが見える。

 

「それが何だって言うの?私はただ……普通に生きたかっただけ」

「………彼、カルティストが貴女を実験に選んだのは、その眼が理由です」

「結局この眼が災いの元だったんじゃん」

 

 今すぐにでも抉り出してやりたい。

 

「認知されていない神秘は不安定であり、それは神秘の強さにも比例する。今までの実験個体が失敗した理由は、その神秘の弱さと不安定さにあると彼は考えました」

「……その、私は神秘がそれなりに強くて、この眼のおかげで自分のことをちゃんと見れてるって言いたいの?」

「…そうなりますね」

 

 なるほど、ちょうど良かったってわけだ。

 

「……成功すると思う?」

「…貴女たち次第ではあります、最後の実験体なのでカルティストもより心血を注いでいるようですが…」

「………あっそ」

 

 そこで会話が止まって、あいつがどこかへ行こうとする。

 

「……もし、実験が成功したらさ」

「………なんでしょうか」

「あの子のこと、見てあげて」

「……貴女は何か勘違いをしているようだ」

 

 こっちが意を決して頼み事をしたというのに、そいつはそんなことを言って視線をこちらに戻す。

 

「このプロジェクトの主導権が彼にあるから、私はそれに従っているだけです。彼女をどうこうする権利が私にはない、それに……もし、その権利を手に入れたとして、彼女を私が自分のために利用しないという保証は、ない」

「つまらないこと言ってんのね」

 

 言い訳を並べて断ろうとしているようにしか見えない。気になるから実験に付き合ってるんだったら、自分のものになったら嬉しいに決まってるだろうに。

 それを言わずに、わざわざ私にそう断ってくるってことは……

 

「……言ったからね、私は」

「………不思議な方ですね、貴女も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のいたとこからは結構遠いんだけど、トリニティって学園があってさ。そこの人たちがみんなお上品で、お嬢様学校って呼ばれてるんだ」

「お嬢様……」

「私、お嬢様っていうの憧れてるんだよね」

 

 毎日、お話をする。

 何か話そうよって、声をかけて。

 

「紅茶とか飲んだり、お菓子食べたり。綺麗な格好で……一回トリニティ見に行ったこともあるけど、すっごく街並み綺麗だったんだ!!紅茶風呂とか入ってるらしいんだよ?凄くない?」

「……臭そう」

「まあ確かに聞いただけだとちょっと疑問に思うよね……」

 

 彼女にこの世界のことを少しでも教えてあげる。もし彼女がこの世界で生きていくってなった時に困らないように。

 

 

「百鬼夜行って学園があってさ、なんか伝統を重んじてるっていうか……とにかくこう、凄く雰囲気が良いんだよね」

 

 

「ミレニアムって学園は賢い人たちが沢山いて……とにかく規模が大きくて、凄いものが沢山あるんだ」

「……言葉が曖昧」

「ごめん言ったことないしよく知らなくて……」

 

 

「ゲヘナっていうところは……平たくいうと危ない。風土自体血の気が多いみたいな……なんかもうそういう荒っぽい雰囲気の場所みたいな?でも過ごそうと思えば過ごせないこともないんだけど……」

 

 

 ⬜️⬜️ちゃんから返ってくる言葉は少なかったけど、それでも私の話をずっと聞いてくれるから。私もいつまでも話していた。

 

 

「………どこに行っても、銃ってあるんだね」

 

 ある日、彼女がそう溢した。私の話を聞いて、このキヴォトスのことを少し知ったこの子が思ったことが、これらしい。

 

「…怖いよね、銃」

「……あなたも撃ってた」

「ずっと怖いって思ってたんだ、ほんとは。でも撃たないと……撃たないと生きるのが難しいんだ、ここは」

 

 眼がいいから、自分に飛んでくる銃弾がよく見える。避けるのも下手だった時、素早く飛んでくる弾丸が私に向かってきて、肌にめり込んで、弾かれる。

 目に飛んできた時とかしばらく戦場に立つのが怖かった、それくらいに。

 

「何より……私が撃って傷つけた相手の顔が見えるのが嫌だったなあ」

「………」

「私たちがやってるのは暴力で………それって、もしかしたら殴ったり蹴ったりすることよりもっと怖いことなんじゃないかって。……ようやく最近、そう思えてきた」

 

 ヘイローがあるから、私たちはそれを手段の一つとして……道具として扱うことができる。

 もし、この子みたいにヘイローがなければ?

 

 銃弾は肉を抉って、焦がして、貫いて。そこからは血が出て……

 

「でも、私なんかより君の方がよっぽど怖い思いしてるもんね」

「………」

「大丈夫、きっと君も銃が平気になるよ。私だって何とか戦えるようになって———」

「なんで、戦わなきゃいけない?」

 

 この時、この眼を持っていても気づかないことがあるんだと知った。

 

「なんでみんな、そうやって相手を傷つけなくちゃいけないの?」

「私たち……いや、この世界が相手を傷つけられるように出来てて……それによって、事態が良くなることがあるから」

 

 銃があるから、誰かに強く出られる。

 戦う手段を持っているから、私たちは戦うし、抗う。

 

「子供がなんでそんなことしなきゃいけないの?……おかしいでしょ」

 

 子供……子供。

 私たちは大人という概念を知っているのに、街を治めるのは学園で、自宅があって、治安を維持して、他の学園と争って………

 

 キヴォトスには数百、数千の学園があって。学園のために世界が存在するようにすら思えて。

 

「銃で戦うことが前提みたいで………怖い」

 

 この子が生きてきた世界には、子供は銃を持たなくたっていい。大人がやってくれて……大人がちゃんと、存在している。

 

 キヴォトスって、なんなんだろう。

 

「……⬜️⬜️ちゃんのいた場所は、銃を使わなくても生きていけるの?」

「使ったら戦争になって……みんな死ぬし」

「そっか……そうだよね」

 

 誰かを傷つけなくても生きていける。別の世界では相手を殺してしまいかねないものを、私たちはヘイローがあるから、死なないからと平気で使う。

 ちゃんと傷つくのに。

 

「……もし銃がなければ」

 

 もしそんなものがなければ、引き金一つで簡単に相手を傷つけることができなければ。子供がそんなものを持っていなかったら。 

 

「もしそんな世界だったら……それは凄くいいと思う」

 

 想像がつかないけど……もしかしたら。

 日常に飛び交うのは喧騒と銃声じゃなくて、楽しそうな話し声とか、活気のある街の音だとかが飛び交っていて。

 

 私は、誰かを傷つけなくても生きていけたのかな。

 

「銃のない世界かあ……羨ましいなあ」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のいた世界にも銃はある。それはこの世界よりよっぽど暴力の道具で………銃がなくたって誰かを簡単に傷つけられる。身体も、心も」

 

 彼女の銃を使わないという信念は、澪標ヒサギが銃がなければいいのにと、そう望んだから出来て。

 

「みんな銃があって当たり前だから想像ができない。銃さえなければ平和になるなんて、そんなことはない。……でも澪標ヒサギはそれを心の底から信じてて……信じようとしていて」

 

 そこには、彼女自身の想いもあるのだろうけれど。

 でもそれ以上にきっと……

 

「……せめて私だけは、その純粋な願いを信じてあげようって。そう思っちゃったから」

 

 澪標ヒサギという人物の想いを、深く刻み込んでいる。

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