銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
「滑稽だとか、そんなことできるはずがないって言われてきました。そんなことは自分が一番よくわかってます。銃のない世界だなんて妄言は……この世界そのものを否定するに等しい」
彼女の気持ちが理解できないわけじゃない。むしろだからこそ……
「先生は、どう思ってるんですか?」
「私は……」
自分は、このキヴォトスをそういう世界だと受け入れてしまった。受け入れた上で、アロナの力で危ないことから守ってもらって……みんながそれを望むから指揮をして、攻撃させて。
「……私はもう、この世界の感覚で動いてる」
「それでいいと思います。その方がずっと生きやすいし………そういう世界だって分かってるのに未だに想いを捨てられない私は、生きるのが下手」
大人だから、責任を負おうと。
先生だから、生徒たちのために責任を負おうとして。
「……結局私は、安全な場所から見ているだけ?」
「………先生は」
ヒサギの声を聞いて、目を向ける。
優しい目の……暗くてもよく見えるその黄色い眼が、静かにこちらを向いていた。
「先生は、ここに来た時から先生でしたか?」
「……それは」
「もしそうなら、先生はこの世界に先生であることを求められて来たってことだと思うんです。先生という役割を与えられてここにいる、というか……」
彼女の言う通り、私はこのキヴォトスに来た瞬間から先生だった。私自身が名乗ったんじゃなく……先生であると、自分でも認識して。
「私は……私たち五人は何者でもなかった。きっと先生は特別で……何かに招かれてキヴォトスにやって来て。私たちには何もなくって、子供で……迷い込んだだけだから、あんなことになった」
寂しそうにそう語る。
過去のことだからと切り捨てようとして、それでも消えない記憶を思い出すような、そんな苦い顔をして。
「だから先生は先生のままでいいと思うんです。そうあることを世界に求められて……それがきっと正しくて。だから先生まで、私と同じような叶えようのない願いを抱える必要はない」
「ヒサギ……」
「先生だって人なんだし」
出来ることなら、みんなの助けになりたい。でも彼女の願いは彼女自身が無理だと心の底では諦めていて……きっと、それで満足してしまっている。
彼女の心の傷はもうすでに負ってしまったもので……その傷を癒すことは、私だけに出来ることじゃない。
「……話、戻しますね。と言っても互いにそんなに覚えてなくって……ぼんやりと覚えてるのは、実験台に立たされていたこと。二つ場所があって……そこに澪標ヒサギと、私が乗っていたこと」
実験が始まった、ということ。
「頭の中めちゃくちゃになって、全然何も分からなくなって………分かったのは、澪標ヒサギっていう人物の肉体が消え失せて、神秘だけが残ったこと。その神秘が私に移って………ヘイローを私に与えて。髪色が変わって……」
目の前の彼女は、ゲマトリアの実験によって澪標ヒサギの神秘を受け継いだ存在。
「目の色は、実験の影響で黄色になった。それでも神秘が引き継がれた以上この眼ももちろん私のものになって………そして、⬜️⬜️⬜️ ⬜️⬜️という1人の人間の存在が、この世界から消された」
「……消された?」
「それが神秘を持たない人間に、神秘を与えるための条件だったみたいで。………私の名前が聞き取れないのは、私の名前という言葉がこの世界から消されてしまったから」
ヒサギがヒサギとなる前の情報がこの世界から消されて、それを知ることすらできなくなってしまったと、そういうことらしい。
これも認知の問題なのだろうか。
「実験は成功。でも消えたのは澪標ヒサギの肉体と魂と……私という存在。何もなくなった私に澪標ヒサギの神秘が付与されて生まれた、新しい
「……だから君は、澪標ヒサギなの?」
「この世界にとってはそいつの見た目とか心とかより、神秘ってやつの方が信用があるみたいですね」
そこまで語って、また彼女は膝上の狙撃銃に目を向けた。
これはきっと、彼女の語る澪標ヒサギのものだったのだろう。
「……神秘が私に移る時、一緒に記憶のかけらみたいなのも頭の中に入って来て。私が知らないはずの澪標ヒサギのこととか、記憶を知ってるのはこれのせい」
「………」
「……ね?嫌な話だったでしょ?」
自嘲気味にそう笑って見せるヒサギ。
それが無理やり笑っているように見えて……かける言葉を見つけられない自分を憎んだ。
「そのあと色々実験されてたんですけど……なんかある日施設が爆発したとか何とかで、そのカルティストってのが死んじゃったらしくって。因果応報ってやつですかね?」
「………」
「で、そのあと黒ハ……黒服って呼んでるんでしたっけ。そいつに連れられて銃を撃つ訓練とか眼を上手く扱う練習とか色々……アリウスに連れられたのも、それの一環みたいなもので」
「黒服が…?」
彼がそんなことを……そう思ったけれどホシノの時、彼はあっさりと居場所を私に伝えて姿を消した。澪標ヒサギとした約束のことを考えると……
「で、それが何でここにいるのかって言うと……端的に言えば逃げて来たから。そのままトリニティに入学して、というか何故か入学できちゃって……それで、今に至ると。私のことならこれでおしまい。……随分長くなっちゃったな」
話疲れちゃったと、伸びをしながらそう言うヒサギ。
「まあこれが私………今の澪標ヒサギという人物の大体」
「……話すのは辛くなかった?」
「最初に話すのが先生で良かったとは思ってますよ。……まあ同じ話はしたくないかなあ、長いし」
彼女は、賢い。
自分の心に傷に気づいていないわけでも、隠しているわけでもなく……それでいいと受け入れて、そう振る舞っている。
「……ごめん。試験はまだあるっていうのに……こんな話させちゃって」
「そうですか?意外と話せてスッキリしたかも!なんて。………いやいや、ほんとですって、そんな顔しないでくださいよ」
彼女は彼女なりに、この世界を生きようとしている。だからトリニティにやってきて……自警団に入って。
「というか次の試験ですよ試験!まさか試験会場ごと派手に爆破されるとは………ナギサって人何考えてんでしょうね?正直このままだと学力はついてもまたまともに試験を受けられない状況に…」
「そのことは、またみんなで考えよう」
「……ですね」
これは、話させてよかったのだろうか。
彼女の眼は、私よりももっと深い……世界の深いところを見ている。
「くぅ、ん………なんか眠くなって来たなあ」
「ヒサギももう一度休んできたら?みんなまだそうしてると思うし………多分、疲れてるだろうから」
「先生………」
彼女は全部は語っていない。私が澪標ヒサギとは誰なのかという質問したから。
このキヴォトスに迷い込んだ時、どんな風だったのか。他の四人のことをどう思っていたのか……アリウスで何があったのか。
けれど彼女は十分に語ってくれた、私が語らせてしまった。
「先生、信用ないかもだけど言わせてください」
「……何?」
「誰かにここまで話すのは初めてだったけど、意外と肩の荷が降りたような、そんな気がします。………ありがとう、先生」
頭を一度下げて、彼女は校舎内へと戻っていった。
私含めて、全員退学は望むところではない。だからとにかく勉強をして……勉強をして、勉強をして。
90点っていうのは正直無茶だと思ってた。けれどみんな諦めずにとにかく頑張っていて……感化されて、私もペンをを握りしめて全力で取り組んでいた。
「何か分からないところはない?ヒサギ」
私の手が止まっているのを見て、先生が声をかけてくれる最終試験まであと3日………全員の模擬試験による進捗を言えば、ギリギリ行けるかどうかというところ。
90点なんだから、行けるなんて確信はきっと起こらない。
「大丈夫です。ちょっと……疲れてぼーっとしてました」
「…そっか、たまには休憩もとってね」
「はい、ありがとうございます」
正直ハナコの存在にかなり助けられている。ほどほどにいかがわしい話題を振ってコハル含め周囲の空気を和らげて……それでいて率先してみんなに勉強を教えてくれている。私含めて。
「………ふーっ」
先生は私のことをどう思っているのだろうか。今までと変わらないように接してはくれているけれど……まだ話を噛み砕いている最中なのかな。約束通り他の皆んなには話していないみたいだし……
まるで話題に触れてこない。いや別に触れて欲しいってわけじゃないけれど………話してしまったのは私だから、何か先生が思い詰めるようなことになっていたら申し訳ないなと思うから。
「どうぞ」
「……ん?」
コトンと、机の上に何かが置かれる。見てみると缶コーヒーがひとつ、ハナコの手にやって置かれていた。
「何がお好きか分からなかったのでとりあえずコーヒーを買ってきましたが……お嫌いでしたか?」
「いや、ちょうどよかったよ、ありがとうハナコ」
「いえいえ」
プルタブをつまんで開けて少し飲む。苦い液体をさっと喉の奥に押し込む。ちょうど良かったけれど、特に好きというわけではない。
「……何か、気になることでも?」
「ん?なんで?」
「ここのところ、何か考え事をすることが多いように見えるので」
よく見てるなあと感心しながら缶コーヒーに口をつける。
「ちょっと昔のこと思い出して………勉強は順調だから気にしなくていいよ。別のこと考えてる余裕ないしね」
「……そうですか」
私の机にもたれかかりながら、ハナコも自分の飲み物に口をつける。
「いい友達ができたと思いませんか?お互いに」
「そう?私はなんか……私にとっては不思議な集まりだったよ」
「私は……こういう風に普通の女の子みたいな生活に、少しだけ憧れていたんです」
「すっぽんぽんになる趣味のやつから出てくる言葉とは思えないね」
きっとハナコもハナコで色々あったんだろうなと思う。それはそれとしてすぐにそういう方面に話を持って行こうとするのは、やっぱり感心できたものじゃないけれど。
「ヒサギさんは……自警団活動ができなくて、不満だったりしませんか?」
「そんなもの感じてる余裕ないんだってば…………まあ確かに楽しいよ、この生活は。……とても」
あいにく友達が少ない身分で、レイサとは仲は良いけど………そろそろあの元気のいい大きな声が恋しくなってくる。
「以前、私たちは似たもの同士だって話をしましたね」
「……それが?」
「今でもそう思います」
「………そっか」
ハナコも、この生活を楽しいと思っているってことだろうか。……きっとそうだろうな、楽しくないなんて言われたらそれはそれで傷つく。
「分からないことがあればなんでも聞いてくださいね。もちろん勉強もですが………えっちなことでも♡」
「なんでだよ」
「私たち友達じゃないですか。それにヒサギさん、そういうことには意外と初心そうですし……♡」
「余計なお世話だよ」
そうやって軽口を言い合って、久しぶりに……自然に笑ったなと思った。
時間は過ぎていき……模擬試験を何度もやって、みんなベストを尽くして。
最終試験、前夜。
「つまりテスト受けたけりゃ正義実現委員会に喧嘩売って、妨害されずにテストをちゃんと受けきれ、と」
無理では?
ただでさえ退学かかってんのにそんなことしたら確実に正実に捕まる……いや、できなかったら退学になるんならやるしかないのか。
「ハスミ先輩に事情を説明したら……」
「仮にハスミさんに協力してもらったとしても、それはハスミさんがティーパーティーに歯向かうことになってしまいます」
先生の部屋にアズサを抜いた全員が集まって、試験のことについて話し合う。試験を受けられはしただけ第二次試験はマシだった気すらしてくる。
「ティーパーティーって一番偉いんだからまあ……私たちが説明したところで、一番上の人に認めませんってされたら終わりだし」
「今のホストはナギサさんですから、厳しいでしょうね」
「どうすれば……」
悩む。
正直ナギサがここまでする理由がわからない。エデン条約を前にして警戒心を高めるのは分かるんだけど……自分のところの生徒にここまで敵意をむき出しにするというのが。
ついでにシャーレにも石投げてる感じだし。
「……私のせいだ」
突然扉を開けて、アズサがそう言った。
結局合宿所の外に行ってるのは変わらず……制服を着ているあたり、その帰りなのだろう。
「話したいことがある。………ずっと隠してきたことだけれど、もうそういうわけにもいかない」
想像というか、想定はしていた。だからそれを聞きたくなくて、聞いたらきっとアズサが苦しむ気がして聞かなかった、聞けなかった。
「トリニティの裏切り者は、私だ」
それでも今、話してくれたことに僅かな期待を抱きながら。