銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
「もしかしたらヒサギから聞いているかもしれないけれど……私はもともとアリウス分校の出身。今私は……アリウスの任務を受けて、この学園に潜入している」
アリウスの任務……トリニティとの間に確執があるのは何となく知っていた。もっともあの学園は……まあ、今はいいか。
「その任務というのは……ティーパーティー、桐藤ナギサのヘイローを破壊するこ——」
「ヒサギ!?」
思わず、掴みかかってしまった、衝動で。
首元を掴んだ後にしまった、と思って。
「気持ちは分かる。……けど今は、話を聞いて欲しい」
「………ごめん」
優しく手を離して、顔に手を当てながら自分を落ち着かせる。
「ヒサギさん…?」
「………話を続ける。アリウスはティーパーティーを消すためなら何でもするつもりでいる。……それが例え、殺しであっても」
この世界で銃が受け入れられているのは、何故かそれによって死ぬことがないから。私たちは武器を持っていながら、殺すことがないからという理由によって取り返しのつかないことから守られている。
ヘイローを砕くというのは、それらを全部無視して、殺すということ。
「私をトリニティに入れたのはティーパーティーの聖園ミカという人物。どうやったのかは詳しくは知らないけれど……」
「アリウスと、和解したい」
「……きっと、そういうことを言ったんだと思う」
先生の言葉にアズサが頷く。
「ミカさんは政治には向いていないと言われていましたが……事が済んだ後、アリウスはミカさんに罪を全て着せる…そういう算段なのかもしれませんね」
アリウス……アリウススクワッド……
あいつまだ………
「明日の朝、アリウス分校の生徒たちがナギサを狙ってトリニティに潜入する。………私は、ナギサを守らなきゃいけない」
「……アズサ」
決意が込められたその言葉は、彼女がアリウスに歯向かうことを意味していて。それはアズサにとって……
「明日…って、試験の日!?」
「本館警備に正義実現委員会が当たって、ナギサさんの守備が手薄になるタイミング……よく考えられていますね」
「っというかもう訳わかんない!アズサはティーパーティーをやっつけに来たのに、なんで守るって……」
最初からその気なんてなかったんだと思う。なおさらさっき掴み掛かった自分の短絡さを呪う。
「アズサちゃん
見ちゃった、というのはアズサが毎晩合宿所を出て行ったところだろう。恐らくそこで……
「……自分の、やりたいことだから?」
アズサが私の言葉に頷く。
「桐藤ナギサがいなければエデン条約は取り消しになり、トリニティとゲヘナ間の混乱もより激しいものとなって、アリウスもきっと表に出てくるようになる。そうなった時、アリウスのような学園がまた生まれないとも限らない。それに何より……」
私の方をじっと見つめるアズサ。
「誰かを殺すなんてことは、あってはダメだ」
「……そうだね」
ちゃんと分かってくれていた、覚えてくれていた。別に疑っていた訳じゃないのに……やっぱりさっきの掴み掛かった自分を殴りたくなる。
「結果的に、私はみんなを騙していたことになる。………その結果、トリニティの裏切り者として皆が集められて、関係ない皆が退学させられそうになっている。……恨んでくれて構わない」
確かに、原因の一端は彼女にあるのかもしれない。でもそうやってアズサ一人を責めるのはあまりにも軽率で……彼女の想いを無視している。
「……それは違うよ」
先生が、口を開く。アズサの言葉を否定する。
「アズサは自分の心に従って、誰かを守ると言う選択を取った。補習授業部はあくまでその結果にしか過ぎなくて………君を責めてしまったら、アズサがナギサを守るという判断したことすら間違いだって言ってしまうことになる」
仲間を裏切ってまで、誰かを殺さない選択肢を選んだことを責めることはできない。
「きっとナギサは今何も信じられなくなってる。それにも理由があって……誰かを信用するっていうのは、本当は凄く難しいことなんだ。一度でも裏切られたら、積み重ねた信用が……信頼が、消えてなくなる」
「………」
不信感は拭い難い。本当に平和のためにエデン条約を完遂させようとしているのなら、私たちをこんな強引なやり方で退学にさせようとするのにも、それ相応の理由があるんだと。
「話してくれてありがとう、アズサ」
「……私は、ただ私のせいで皆に迷惑をかけていることが……」
「…違うよ、アズサ。今こうやって話してくれたから、私たちはまだアズサのことを信じる事が出来るんだよ。……ありがとね」
「ヒサギ……」
アズサはアリウスを裏切る選択をした。これはアズサがアリウスから………サオリたちから信頼を無くすということ。その選択の重みは、もちろん分かっているだろうに。
「……アズサちゃんは、私たちのことを信じてくれていますか?」
「…もちろん」
ヒフミの問いにアズサがそう返す。信じていてくれているからこうやって話してくれたのだと、それを確認するように。
「どんな任務があるにせよ、こうやって補習授業部として集められることはアズサちゃんにとってはあまり好ましくない状況だったはず。逃げて、姿を隠すことだってできたはず。……けれどそれはしなかった」
「………」
「楽しかったんですよね、ここでの時間が」
アリウスの環境を私は知っている。あの頃のアズサの表情を覚えている。……尚更だろう、私ですら楽しかったんだから。
「みんなで一緒に勉強して、ご飯を食べて、お洗濯してお掃除して……たくさん、楽しい思い出がありましたね。アズサちゃんはそれを壊したくなかった」
モモフレンズに目を輝かせているアズサの姿を思い出す。あの場所にいた頃の彼女からは見れなかった表情で……その表情は嘘なんかじゃなくて。
「この時間をまだ一緒に過ごしたいと……そう思ってくれたから。違いますか?」
「………いや、違わない」
ふっと笑ったアズサ。
「楽しい……凄く楽しかった。初めてすることばかりだったけど……知らないことを知れて、友達ができて。この楽しい時間を私は……手放すことなんて出来なかった」
「……私たちも同じ、ですよね?ヒサギさん?」
「えっ私?」
急に同意を求められてそんな返事をしてしまう。
「……まあ、そうだね。私にとってこの学園は余計なしがらみが多かったから……楽しかったよ、私も」
楽しみたいっていうのも、目標の一つだったはずなのに。銃を使わないとか何とか言って……もちろんそれも私に取って大切なものの一つだけど。
楽しむっていうことを、半ば諦めていた自分がいた。
「私たちも気づけたんです、学園生活の楽しさに。私なんて最初は学園なんて辞めてやろうって思ってたくらいだったのに」
ハナコ……
「下着姿でプール掃除をしたり、みんな水着で夜の散歩をしたり、裸で色々なことを打ち明けあったり……」
ハナコ…?
「自分をさらけ出せる人たちと、そういったよくあることを全力でするということが、こんなにも楽しかったんだと」
「私は違うからね?」
「いや……そもそも裸ではなかったし、散歩も水着では…」
そういえばそうだった。ハナコに頭を毒されてきているのかも知れない。
「ふふっ♡」
急に問題発言して何笑ってるんだろうこの人。
「……アズサちゃんがいつも言っていた通りです。全ては虚しいことだとしても、最後まで抵抗をやめてはいけませんね」
……抵抗、か。
アズサはいつだって絶対に諦めないから……強い子だと思う。
「トリニティにはアリウスとして任務を受けて入学し、そのアリウスを裏切るアズサちゃんの居場所は、きっとどこにも無くなってしまいますよね」
「あっ……」
ヒフミがハッとする。アズサは分かっていたようで……分かった上で決断したのだから、静かに佇んでいる。
「……諦めません、私たちも。これからもアズサちゃんと一緒に学園生活を楽しんでいきたいですから」
「………なら、やることはひとつだね」
「はい」
先生の言葉にハナコが力強く返事をする。
「ナギサさんを守って、試験にも合格する。向こうがかけてきた罠も正面から突破しましょう、後から文句を言われないように」
「……物理的に不可能だ。試験の開始時刻とアリウスの作戦開始時間は同じで…」
「ほ、他の方達に助けを求めるとか?」
「うーん……」
ヒフミの言葉に思わず唸る、それもあまり現実味はない気がする。それが出来るに越したことはないけれど、そこまでの人脈は……結局トリニティの組織って政治がついて回るし……
「今トリニティを取り巻くこの状況において、一番情報を把握しているであろう私たちから行動を起こすべきです。これまで散々色々なことに巻き込まれて弄ばれてきましたから……その鬱憤を晴らすためにも」
それは個人的な恨みがあるのでは…?
「きっと出来ます。何せ今ここには、正義実現委員会のメンバー、ゲリラ戦の達人、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通したひとが……」
え?何て?偏愛自称凡人?
というか自分のことトリニティのほぼ全てに精通してるって言いましたかハナコさん?凄いこと言うなあ……
「そしてかつて
うーん何言ってくれちゃってんの?トリニティ自警団でよくなかった?あとそれ正確には私じゃ……知るはずもないけど。
そして私を先生と同列に並べないでほしい、みんなと同じところに置いてほしい。あ、先生もなんか持ち上げられて困ってる。
「この組み合わせであればきっと……トリニティくらい、半日で転覆させられますよ♡」
「は、はい!?」
「ちょっと何する気!?」
「こわぁ……」
……それ、シャーレだけでどうにかなったりしない?
「どうするも何も試験に合格するだけです♡。作戦内容は一旦私にお任せください」
最近、こういう時のハナコと全裸のハナコが私の頭の中でイコールで結びついてくれない事がある。これが二面性ってやつか……
「アズサちゃんのためにも、そして私たちのためにも、今こそ力を合わせる時です、行きましょう!」
なんか生き生きしだしたな……
「……考え事をする時は外に行く癖、変わっていないな」
「一人になれるし……風に当たりたい時ってあるでしょ?」
「そういうものか」
「そういうものだよ」
外に出て黄昏てると、アズサが話しかけてきた、
「さっきはごめんね、急に掴みかかったりして」
「いい、気持ちは理解しているつもりだから」
私の中で誰かの命を奪うって事が、あまりにも許せない事で。それでつい……
「………考えているのは、サオリ達のこと?」
「まーね。……どうせいるんだろうなあって、思っただけ」
「…そうだな」
きっとアズサが夜報告していた相手はサオリ達だ。……離れたと思ったけど割と近くにいたあたり、キヴォトスも案外狭いのかも知れない。
「……よかったの?本当に。サオリ達はアズサの……」
「あの時ヒサギが色んな選択肢があるって、そう教えてくれたおかげで今私はここにいる。その選択に後悔はないつもりだ」
「……それだとまるで私のせいみたいでは?」
「……ごめん、そんなつもりじゃなかった」
「冗談、それならいいんだ」
私がアリウスにいた期間はほんの少し。それでも話はしたから……ある程度のことは知っているつもりではある。
「……私は、残った方がよかったのかな」
「………どうして?」
「私がもっとサオリと話していたら……何かしてやれていたら、アズサがあいつらを裏切る必要もなかったのかなって」
「私達がヒサギにそこまでしてもらう道理はない」
「そうは言ってもなあ……」
私の時間は限られている。
アリウスをどうこうするよりも私は、自分のためにあそこを抜け出すことを選んだ。これは後悔というより……もしもの話。
「vanitas vanitatum……ヒサギはこの言葉を聞くと嫌そうな顔をしていたな」
「……まあね」
「なら、あそこにいなくて正解だったと思う。トリニティで再会した時、変わっていないと知って安心したんだ。……私に別の道もあることを教えてくれたヒサギが変わっていたら、それは悲しいことだから」
「………」
全ては虚しいだなんてそんな虚無主義、ただの諦めだろう。自分に言い聞かせて、不幸を納得させるような……そんな使い方だ。
「……あの時、ヒサギと出会えてよかった、ありがとう」
「きっと出会わなくたって、アズサは同じ選択をしたよ」
「…感謝は素直に受け取ってくれると、私も嬉しい」
「ごめん……」