銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
「
ヒサギの眼によってアリウスたちの動きが一斉に鈍る。どうやらただ視界が入れ替わるだけじゃなく、一定周期によってまた入れ替わるらしい。
自分がどこの誰と視界が入れ替わっているのかわからない。次第に自分がどこにいるのかさえ分からなくなっていく。
「っ……一斉掃射!正面の陣形を崩して!」
ヒサギ以外のみんなにそう伝える。そのヒサギは後ろに下がりながら眼を使ってアリウスたちの妨害、時折飛んでくる榴弾などを的確に撃ち落としてくれる。
「……凄い」
敵に恐怖心や、挑発などをして影響を与えることができる生徒はいる。それでもここまで……完全に行動不能にして、場をかき乱すことができるのは……
「ちょっとちょっと!みんな全然ダメじゃん!」
ミカが大きな声で不満を漏らしている。アリウスたちは皆同じ格好をしており、それも相まって視界を入れ替えられて個人の判別が付かなくなっている。
「づぅ……ごめん解除する!」
「了解!みんな遮蔽物へ!」
人数が多ければ多いほど、眼を使えば使うほどヒサギには負担がかかるようでずっと使うということはできない。シッテムの箱で戦場を俯瞰し、それぞれの位置を確認する。
「順調……でも」
数が多すぎる、キリがない。弾薬の数にも限りがあって………そもそもが正義実現委員会の増援を想定して作戦を組んでいた。それが来ないとなると……ジリ貧。
「……想定外だったかな。みんなシャーレシャーレって言うわけだね。なんか変なこともしてくるのもいるし」
攻撃の手が止んで、ミカが語り出す。
「やめて欲しいなあ、ナギちゃんもセイアちゃんもいなくなってこれからって時なのに……邪魔しないで欲しいなあ」
「……っ!ミカさん!セイアちゃんを襲撃したのもあなたの指示だったんですか!?」
ハナコが憤りをあらわにする、ミカにはそれが少し意外だったようだけれど……すぐにまた笑みを浮かべて話し出した。
「うん、そうだよ。けれどヘイローを破壊しろとは言ってない。私は人殺しじゃない。ただ卒業するまで檻にでも入ってもらおうとしただけ。……ねえ、そうだよね?白洲アズサ」
みんなの視線が、一斉にアズサの方を向く。
「あなたの行いのせいで、私は行くところまで行くしかなくなったんだよ?」
「っ……私は…」
ヒサギが私の近くにまで寄ってきて耳打ちをする。
「シスターフッドが来てる。………すみません、限界で」
「……ありがとう、下がってて」
「はい」
ヒサギがそう返事するのとほぼ同時に、アリウスの生徒が慌てた様子でシスターフッドの突入を知らせた。
「っ………」
銃声が、爆発音が頭の中でこだまする。眼を使わないようにと閉ざした界が、より一層頭の中で反響する戦闘の音を際立たせる。
「………凄いな、先生」
あのタブレット端末が何なのかはよく分からないけど………あれで指揮下の生徒の神秘に干渉して、力を発揮させてる。指揮が凄いって言われる理由の一端はあれだろうな。
「……聖園ミカ」
戦闘が続いて………セイアが生きていると明かされた後、あっさりと降参してしまった。アズサに言っていた言葉………殺す気はなかった。
セイアが死んでしまったと思ったから、後戻りできなくなった?
「でもそもそもあいつ……」
そもそもアリウスを手引きした理由が本人の明かした通りなら、それはゲヘナに喧嘩を売るためだ。後に引けなくなったとか、そういうことは関係ない。
頭の中で、聖園ミカという人物を何とか受け入れようとする私がいる。理解できないと一度は拒絶したくせに……どうにかして理解しようと、その存在を受け入れようとする自分が。
「………大丈夫ですか?」
「……ハナコか」
ゆっくりと目を開く。まだ視界はチカチカとしているけれど……何とか、見えないこともない。
「ごめん、もうちょっと動けそうにない」
「……ゲヘナでの戦闘の時は、あんな力は使いませんでしたね。それはきっととても大きな負担がかかるからで……どうして、そこまで?」
「………何の役にも立たないのが耐えられなかったのと……」
ミカの言葉が、深く私の胸に突き刺さる。
「許せなかった、あいつが」
「……ミカさん、ですか」
「まあ八つ当たりみたいなもんかなあ……それでこんなになってたら世話ないよね、ホント」
みんなが撤収していく音が聞こえる。アリウスの生徒たちはどうなっただろうか。中心となっていたミカが捕まってしまったから、逃げたのだろうか。
サオリたちは、今何をしているんだろうか。
「……私達が怪我をするところも、見たくなかったんですよね」
「………」
「自分が傷つくよりも誰かが傷つくところを見る方が嫌だ。あなたは目が良いですから……きっと、よく見えてしまうんでしょうね」
「……買い被りすぎだよ」
自分の志と、役に立てない焦燥感を天秤にかけて………後者を選んだって、それだけの話。
「お疲れ様でした、ヒサギさん、本当に」
「………あれ、まだ試験あるよね?」
「……あ」
「頭動くかなあ……よいしょっと」
その後、やり切った感を出しているヒフミたちに試験のことを伝えて大急ぎで試験会場に向かって……
全問解き終わった時点から、記憶がない。
「………保健室?」
目を覚まして周囲を見渡して、今自分のいる場所を確認する。
「あっ目が覚めたんですね?よかった……そうだ先生に連絡……」
えっと確か……セリナ、だったっけ。救護騎士団の……
最後の記憶が試験会場なんだけど、私もしかして気絶した?そのまま保健室に運ばれてベッドの上……と。
「えーっと……すみません少し席を外しますね」
「あ、お構いなく……」
そう言って保健室を出て行ってしまった。呼び出しボタンはあるから、急に死にそうになって悶絶してもこれを押せば駆けつけてくれるのだろうか。
「……スマホ、スマホ」
周囲を探すと。ベッドの横の机の上に充電されて置かれていた。手に取って日付を確認するが……大体丸一日寝ていたみたいだ、試験開始が9時だから……
「………試験どうなったんだろ」
全問解くまでは何とか意識を保ってたけど……途中でミスしてたら90点下回ってる可能性が……く、くぅ。
「…もし落ちてても悔いはない。サードライフを始める準備をするだけだ……サードライフの使い方違うかな、これ」
第二のセカンドライフ?うーん頭が痛くなるような字面だ。
まあ良いや、先生に連絡したみたいだし、来るまでここで寝てよう……
と、そう思って目を瞑った瞬間に勢いよく扉が開かれ。
「ヒサギさんが怪我したってホントですか!!!??」
「声デカッッ」
聞き覚えのある大声が、私しかいない保健室に響き渡った。
「……ヒサギさん!?無事だったんですね!!?」
「れ、レイサちゃん……久しぶり…元気そうでなにより———」
「怪我したってどこですか!?一体何したんですか!?というか大丈夫なんですか!!?」
「大きい大きい、声量落として……」
「あっすみません……」
扉をゆっくりと閉めて、そろりそろりと私のベッドの方まで寄ってくるレイサ。
「……心配させてごめんね。怪我は多分なくて……疲れで凄い寝ちゃってたみたいで」
「そうなんですか、よかった……メッセージに既読も付かなくなって、心配になって聞き込みしたら保健室に担ぎ込まれたって聞いて……」
「あぁ……ごめん、心配かけたね」
「一体何があったんですか?戦闘でも?」
「えーと、なんて言えばいいのか……」
流石に全部話すわけにはいかない。ティーパーティーの一人の起こしたクーデターに首突っ込んでましたとか……色んなことが絡んでくる話だ。話す内容は選んだ方がいいだろうし……
「……勉強、しすぎたんだよね」
「………そ、そんなに」
「そりゃあもう、血反吐吐きながら死に物狂いで」
「そこまで……」
たくさん勉強したのは間違ってないから、うん……
「なんかモヤっとしますが……とにかく無事なようで何よりです。自警団には戻れるんですか?」
「それは……」
「———入るよ」
ノック、すぐに扉が開かれ先生とセリナがやってきた。
「君は……」
「あ、私お邪魔な感じですかね?ヒサギさんまた後で連絡しますねっ」
「う、うん……来てくれてありがとう」
「それでは失礼します!」
先生たちにも会釈をして、保健室から去ってしまったレイサ。
「……早かったですね、来るの」
「トリニティに用事があったから。……身体は大丈夫?」
「まあまだ倦怠感はあるけど……問題はなさそうですね」
「そっか、よかった……」
先生がセリナに何か言うと、保健室の外へと行ってしまった。二人っきりで話がしたいらしい。
まあ例の話なら他人にほいほいと書かれてしまうわけにもいかないしそりゃあそうか。
「びっくりしたよ、試験終わっても起きなくて、全員で慌てて救護騎士団に連絡して、運び込んで……」
「ご迷惑を……ちょっと考えなしに眼を使いすぎて……」
「……それで、試験の結果なんだけど」
「覚悟はできてますッッ」
「…そんなに身構えなくても」
まあ落ちてても有耶無耶になってどうにかならないかなとは思ってるけど………もし私のせいで全員まとめて退学になったらと思うと、流石に耐えられそうにない。
「……92点、合格だったよ」
「よかっ…………………たあ……」
「お疲れ様、本当によく頑張ったね」
「あんな状態の頭でよく解いたな私……」
合格という言葉を聞いて一気に気が抜けて、起こしていた体がまたベッドに横たわってしまう。
「おめでとう、これで晴れて補修授業部は解散だね」
「……そっか、解散か」
ティーパーティー……いや、茶しばき同好会の暴挙に次ぐ暴挙の結果としてこうなってしまったけれど………今なら良い思い出だったとそう言える。多分今しか言えない。時間経ったらまた沸々と怒りが湧いてきそうだから考えないようにしよう。
「正式な手続きが残ってるから、補修授業部は少しの間続くみたいだけど……みんな本当に心配してたから………元気な顔、見せてあげてね」
「……はい、そうします」
再び身体を起こして……先生の方をじっと見つめる。
「あの後は?」
「ミカは……檻の中へ。セイアはまだ眼を覚ましていないらしくて、まだ完全に事態が解決したわけじゃないけど……エデン条約は、中止にはならずこのまま行われるみたい」
「……ナギサさん、結構メンタル強いのかな」
探してた裏切り者が一番近いところにいる身内で、そいつがもう一人のティーパーティーも襲うように仕向けてました。裏切り者だと睨んでた補修授業部に助けられました、と。
それだけ責任を負っている自覚があるということなのだろうか、立派というか何というか……凄いんだなあ。
理不尽押し付けてきたのは許せないけど。
「補修授業部のみんなは以前と同じ日常に戻って……あとは君が元気になるだけだよ」
「……そっか」
なら、早く立ち上がらないと。
……サオリたちのことも、気になる。まだ終わった気がしない。それに……
「……ミカのことが気になるの?」
「まあ、気になるっていうか。私の中であいつの存在を咀嚼するのに苦戦してるっていうか……」
「……分かるよ、私も同じだから」
「…そうですか」
数秒間の沈黙が流れる。
それだけ、私たちにとって聖園ミカのゲヘナへの悪感情は刺激的で……
「……分からないんだ」
「…何が?」
「私に、どこまで出来るのか」
まるで弱音を吐くように。
先生にそんな小さい声で言われたのが、意外で。
「私に戦う力はない。みんなの力を借りて……それでいつもどうにかしている」
「……だからって、誰も先生に銃を持てだなんて言いませんよ」
「もちろん持つ気はないよ。ただ……」
じっと、下を見つめている。
「無力だなって、思っちゃうんだ。心に傷を負わないように守ってあげることはできても、負った傷を癒すことは本人にしかできない」
「………」
「ミカもそうだし……君もそう、ヒサギ」
顔を上げて、静かに私の方を見つめる。
いつだって誠実で、慈愛に満ちた眼差しで。
「私は聖人じゃない、なんでも出来るわけじゃない。それでも心に傷を負った子を見ると、そうなる前に守ってあげられたんじゃないかって……どうしても、そう考えてしまう」
「………私の自分語りが、そんなにショッキングでしたか?」
「………」
私は、そんなことまで先生に求めない。あの時先生がいてくれたらだなんて、そんな虚しいことは言わない。
「…理想と現実の差に打ちのめされる。分かります、気持ちは」
不可能だ、ここで銃のない世界を作るなんて。それこそ世界そのものの在り方に干渉するくらいじゃないと。それにそれは私の価値観の押し付けで……
分かっていても、理想を抱えることを辞められない。
「救ってあげてください、手の届く範囲でいいから。……みんなを救いたいって理想を掲げ続けてくれることにきっと、意味がある」
「……掲げるだけで、いいのかな」
「掲げるしかないから、掲げるんですよ」
すぐに果たせてしまったら、それは理想ではなくなってしまう。掲げられるその瞬間まで諦めずに胸の内に抱き続けるからこそ、それは理想なんだと。
「少なくとも私は……先生のそんな優しいところに、救われてますよ」
「……ありがとう、ヒサギ」
感謝はしている、本当に。
愚直なまでの善意というものを感じることができて……そこに、救われている。
「にしても……生徒に言う話ですか?それ」
「ヒサギになら言ってもいいかなあって」
「なんじゃそりゃ」
私も、信用されているのなら。
それは嬉しいことだと、そう思う。