銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
「……あれ、先生?」
「…ヒサギ?こんにちは」
「ども」
放課後、パトロールに出ようと門を出たところで先生と鉢合わせた。
「またトリニティに来てたんですね。……エデン条約で?」
「まあね」
「大変なんですねぇ」
「やらなきゃいけないことが多くてね……まあでも、こうやってみんなの顔を見れるからそう悪いことばっかりじゃないよ」
「お上手なことで」
「ははは…本心なんだけどなあ」
特に目的地も決めていなかったので先生についていく。駅にでもいくのだろうか?
「直近まで補修授業部のこと見てて、ひと段落ついたと思えば今度は目前に迫ったエデン条約で色々あって……」
「シャーレの業務、間に合ってるんですか?」
「まあ……あとで頑張ればなんとかなるよ」
つまり間に合ってないと……かわいそう。
あれ、でも確かヒフミに聞いたら先生も一緒に海に行ってたって……
やっぱりこのタイミングで行くのちょっとおかしくない…?まあ過ぎた話だしいいか……アズサも海に行けてよかったって喜んでたし。
「この後はシャーレに?」
「うん、やり残したことが沢山あるからね。……ははっ」
取ってつけたような乾いた笑み。
「……今日も徹夜かな〜」
「お疲れ様です」
「…………こういう日に限って当番の子呼んでないんだよな〜」
「ご愁傷様です」
「…誰か手伝ってくれると嬉しいんだけどな〜…」
「誰か行けないか聞いてみましょうか?」
「………」
なんすかその顔。
「ねえ、今日って何か用事あったりするの?」
「特には」
「そっか」
「はい」
「………」
「………」
あ、ため息ついた。
「私のこと嫌い…?」
「まあ好きな方ですよ?」
「ならどうして……」
ちょっとこっちもやり過ぎてしまったか。いやでも…ちょっと楽しくなってたな。
「あまりにもわざとらしすぎて……普通に手伝ってって言ってくれたら手伝いましたよ」
「………手伝ってくれる?」
「すみません急用が…」
「泣いちゃうよ?私」
「いい年した大人が?ご冗談を。………冗談言ってるのはこっちか、了解、手伝いますよ」
そういうとようやくホッとした表情をした先生。ごめんなさい調子乗りました、はい。
「この後はシャーレに?」
「そうなんだけど……せっかくヒサギと時間取るんだし、何かしたいこととかない?」
「そっちが本音だったりします?」
「まさかそんな」
よくよく考えると、別に当番呼ぶのなんて先生がメッセージでも送ればみんな来てくれるだろうと思うんだけど……完全に私にロックオンしに来てた?
「まあ生憎そういうのはなくって……どちらかといえばシャーレを見てみたいかなあ。先生からしたらただの職場に過ぎないかもだけど」
「ううん、そういうことなら早く行こうか」
シャーレが具体的に何をしてるのかどういうところなのか……それを知っておきたい。それと、先生についても。
「わお高いビルぅ……何階にシャーレがあるんです?」
「ん?ああ、このビル全体がシャーレになってるよ」
「は?え?……先生って一人しかいませんよね?もしかしてその当番って数百人単位だったりします…?」
「そんなに呼んでちゃ流石に迷惑だよ」
「で、ですよね?」
え、じゃあなに?先生一人とせいぜい数人の当番でこの規模のビル使ってんの?なんで?デカ過ぎない?
「とりあえずオフィスで事務作業手伝ってもらうね、これがいつも大変で……」
「は、はあ」
オフィス……そうか、オフィスか。
シャーレの業務の一つに治安維持を兼ねた戦闘があったと思うけど、前の戦いでもそうだったし、シャーレと一緒に戦ってると弾薬がドバドバ出てくる。
そういう格納庫とか……そういうのも全部まるごと兼ねてこのビルの大きさになってるのかもしれない。
エレベーターに乗り込んでそれなりの高さを登り、ようやくオフィスのある階についた。
「……普通にオフィスって感じ」
「まあオフィスだからね、どういうの想像してたの?」
「どういうのっていうか……そもそも想像もしてなかったというか」
事務も実働もその他諸々も全部ほぼ一人でこなしているなんて、規模というかシャーレの持つ影響力の割にはあまりにも組織として歪というか……連邦生徒会とある程度連携してたりするのだろうか。
「で、これが残ってる書類の山」
「………わあ」
どっさりある、抱えたら重そう、うん。
「他にも生徒たちの相手してたりしたら、こんなことに……」
「優先度低いからこうなったってこと?それはまあ……」
先生がどれだけ生徒を第一に考えているかは分かっているつもりだから責めるつもりもない。というかこれを処理するために私呼ばれたわけだし……
「書類作成とかはこっちでやるから……言い方悪いけど雑用とか主に手伝ってくれると嬉しいかな」
「了解」
やっぱり複数人でやるべき作業なのではないだろうか……いや、こうやって仕事溜まってる原因が先生一人の怠慢でない限りは確実に仕事の割り振りがおかしいのでは?
それでも改善する素振りが見られないってなると……やっぱり連邦生徒会って役に立たないんですね!
「さて、始めるかあ……」
憂鬱そうにそう言う先生、ちょっと印象と違っていて驚く。人間、あまりにも多すぎる労働を前にすると取り繕うことすらできないことを感じ、逆に人間味は感じる。
可愛そうだけど。
言われた書類を運んだりファイルから取り出したり、逆にファイリングしたり……掃除までやることになった。流石にそのくらい業者にやらせればと思うが、いかんせんシャーレっていう組織だしあんまり外部の者を招き入れるわけにもいかないのかなと思ったり。
「………」
キヴォトスに先生としてやってきたという意味では、この大人は誰よりも特別な人間だとも言える。キヴォトスという世界において先生という唯一性を持つということは……
「……ごめん、つまらないよね」
「え?」
「普段ならもっとこう、当番の子達と色々したりするんだけど……」
「あぁ忙しいですもんね。構わないですよ別に」
「いや、そうじゃなくて……」
首を傾げる。何を言い淀んでいるのはいまいち分からず……
「何したら喜ぶのか、あんまり分からなくてさ」
「……あ〜、なるほど?」
つまり私が扱いづらい生徒ってことだな?
「みんなもっとこう、私としたい事があったり積極的に話しかけてくれたりするんだけど………なんか黙々と作業するだけになっちゃって」
「そもそもそのために呼んだのでは…?」
あぁ、分かった。そもそも当番制度自体が先生が生徒の面倒見るための口実みたいなものなんだ、だから……
「……でもまあ捗ってるでしょ?」
「そりゃあもう。でもやっぱりね……ヒサギ個人とも色々あったから距離感を測りかねてるというか……」
つまり、私が扱いづらい生徒ってことだな?
「もっとみんなは甘えてくれたりしてくれるんだけど……」
「……先生、ひとついいですか?」
「何?」
「普通生徒と教師ってそんなに距離感近くないですよね?」
「………」
「………」
あれ?私おかしな事言った…?
「確かに…!なんかみんな凄く距離が近いから感覚麻痺してたけど、普通そうだよね……?」
「……ちなみに、距離が近いってどんなふうに?」
「えっと……」
聞いて少し引いた。
風紀委員会の生徒の足を舐めたという噂が本当なのか?と少し疑うくらいには……
やたらと生徒と二人っきりで何かをしている状況が多い。いやまあ一緒に水族館に行くとか、おでかけするとか分からないこともないんだけど……みんなそんなに先生と何かしたいの?
というか耳かきしてもらったって言った?なに?どういう状況なの?それは。
「………まあそれがキヴォトスってことなのかなあ」
「つまりおかしいのは私……?節度ある距離感を持とうとするのはこの世界では異常なのか…?」
いや銃撃ちたくないとかほざく時点で異常ではあるけど。でも全裸よりはマシだから、絶対マシ。
「モモトークもほとんど喋ってこないしね、大体みんなの方からメッセージ送ってくれるんだけど……」
「……いちいち付き合ってるんですか?それ」
「それはまあ、先生だし」
それだろ、仕事溜まる理由。
「……まあ、なるほど。言いたいことはなんとなく」
そもそもからして私が先生を警戒しまくってたのもそうだし……自分の身の上を話してしまったこともあると思う。
出自も特殊だし、普通の生徒とは色々違っていて……先生もどうするのが正解なのか分からないんだろう。私は別にこのままでも構わないんだけど……
「と言っても特に趣味とかないしなあ」
「普段何してるの?」
「自警団活動」
「……だけ?」
「だけ」
なんてつまらない人間なんでしょう。ついでに可愛げもない。
「まあ澪標ヒサギ自体が……いやこの話はやめときます」
彼女自体がそもそもあまり趣味とかない人間だったって言おうとしたけど、話に出すだけでなんだか空気が重くなりそうでやめた。
言っちゃあなんだけど、わざわざメールして先生に予定空けてもらうくらいなら普通に同じ学園の子と遊ぶかなって……レイサくらいしか相手いないけど。
ハナコでも誘ってみる?いやでも………なんか最近忙しそうだしな、やめておこう、うん。
「別に無理して私と距離詰めようとしなくても……」
「楽しんで欲しいから、ヒサギにも」
「………」
楽しむ。
それはあそこを抜け出してきた時、楽しむためと自分に言い聞かせてきた理由。実際は理想とその願望の間で板挟みになって、そんな余裕はなかったんだけど……
彼女の分まで生きることを楽しむ、それは一番最初の目標だった。
「……十分、楽しいけどなあ」
「十分なんてないよ、いくらでも追い求めていいんだよそういうのは」
なんとまあ理想論。私が言えたもんじゃないが。
「君が前を向けているって、凄いことだと思うんだ。何があったのか私は全部を知っているわけじゃないけど……それでも誰かを恨んで、傷つけたりするんじゃなくて……誰も傷つけないことを望む。それがどれだけ凄いことかって………最近思うようになったんだ」
「………八つ当たりする相手もいなかったもんで」
敵と言えたのは、カルティストくらいで。もし他に呪うものがあるとすれば、それはキヴォトスという世界そのものと、己の不運。
「ミカは、誰かを傷つけることを選んでしまったから」
「………」
「君みたいに誰も傷つけない、傷つけたくないって思う子がたくさん増えたら。それで負わなくて済む心の傷も、もっとたくさん増えると思うんだ」
それは違う。
みんなは銃声聞いたっていちいち怖がらない。私だってもう鉛玉で重傷を負うようなやわな身体じゃない。
私がこの世界に合わせられないだけで。
私が、変わらないだけで、変われないだけで。
先生まで私と同じ場所からものを見る必要はないのに。
「そんな君だからこそ、もっと私のことを頼って欲しいって思うし……力になりたいって思うんだ」
「別に私の無謀な理想を手伝って欲しいってわけじゃないんだけど……優しいですね、やっぱり」
ここまでくると先生とか大人というより、生徒に尽すための別の存在のように思えてくる。そうするためにキヴォトスに来たのかもしれないけれど……
「…それなら、先生の話をきかせてください」
「私の?」
「ほら、アビドスでの話とか……割と気になってたんです」
もし、この世界が物語だとしたら。
誰よりも特別で、唯一無二で、中心に立っているこの人が主人公なんじゃないかって、そう思うことがある。
「分かった、あれはね……」
作業効率は少し悪くなったけれど。
先生の話を聞きながら……どんな生徒と出会ったのか、どんなことがあったのか。そんな波瀾万丈な物語を聞いて。
久しぶりに穏やかな気持ちで、時間が流れていくのを感じることができた。