銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
風紀委員長が倒れて、先生が撃たれた。
お腹に1発、ヘイローのない人間の体を、簡単に抉り取って、貫いて……今、救急車の中で意識を失って。
最短ルートで来たはずなのに、アズサに先を越されて。
「……あぁ、久しぶりだな、ヒサギ」
「………覚えててくれて嬉しいよ、え?……サオリ」
「ヒサギ…!」
そいつらと目が合った。
「私たちを見捨てて逃げたお前が、今更何をしに来たと言うんだ?また偉そうに講釈を垂れるつもりか?……無駄だ」
「………」
サオリ、ヒヨリ、ミサキ、それと………アツコ。
「お前にも教えてやろう、今ここで何があったのかを、何が行われたのかを」
道中得体の知れない変な格好した奴らと遭遇した、全員視界を掌握して無視して突っ込んできたけれど……
「私たちはエデン条約を——」
「御託はいいよ、サオリ」
「……そうか」
私はハナコじゃないから、何がどうなったのかはよく分からない。それでもあの変な格好した奴らは多分ロクでもない方法で生み出されて、アリウスはそれを使役して……
情報系統が完全に麻痺した今、トリニティとゲヘナが互いに互いへ報復しようとしている。
「……何故、こんなことを?」
「決まっているだろう、トリニティとゲヘナに復讐するためだ。我々アリウスの幾星霜を経た屈辱と怨嗟が、今こうして奴らに牙を剥いている」
アズサがヒヨリとミサキの二人に捕まり、アツコはただ佇んで。
サオリだけがぺちゃくちゃと、私に向かって話している。
「御託はいいって言ってんだろ。………自分の言葉で語れよ、サオリ」
「……これが私達アリウスの意思だ」
「何度も言わせないでほしいんだけどなあ、えぇ?」
「………つくづく気に食わないやつだ」
アサルトライフルの銃口を、私に向ける。
「シャーレの先生は死ぬ、ヘイローもない人間であれば致命傷だ。邪魔者はもう他には誰もいない……あとはお前だけなんだよ、ヒサギ」
「………それで?」
「我々の計画のために、ここで消えてもらう」
「……どうやって?」
手を出すなと、後ろにいるミサキたちに身振りで指示をするサオリ。ゆっくりと、こちらへと踏み出してくる。
「お前のヘイローを砕く」
「………それが答え?」
「そうだ」
ままならないものだ。
自分のことを優先したツケが、ここへ来て回ってきた。
「やらせねーよバーカ」
眼を使って駆け抜ける。アサルトライフルの弾丸の隙間を縫いながら近づいて、その冷えそうな腹に蹴りをぶちこむ。
「チィッ!」
銃で受け止めて防御し、そのまま私の足を掴もうとしてくるが、防御された瞬間に足を引いて体勢を立て直して狙撃銃を逆に持ってフルスイング。
腕で防御したがバランスを崩したサオリ、追撃を入れようとしたところでヒヨリの射撃が割り込んで攻撃を中断させられた。
「手を出すな!」
「で、でも……」
「………いつまでも舐めた真似を。まだ銃を使いたくないなんていう甘ったれたことをほざいているようだな?」
「悔しいなら私に引き金を引かせてみなよ、サオリちゃん?」
私の煽りに反応してなのか、二丁のアサルトライフルを構えるサオリ。私の眼には奴のヘイローが僅かに輝き、銃口へと光が収束して行くのが見えた。
1発目を避ける、その弾速のせいでギリギリで身を捩っての回避。
次の射撃で一気に3発、全部視て避けるが全てが身体の違う位置を狙っていたせいで、空中に飛んで避けることしかできない。
そして最後の1発、力のこもったその攻撃は確実に私の体の中央を狙っていて。
狙撃銃で防御するが、その威力のせいで受け止めきれず滑った弾丸が私の胸へと突き刺さった。
「ぐうぅっ……」
一瞬うずくまって、転がって、撃たれた弾丸を避けるために立ち上がった。
「お前の眼は確かに驚異的だ、だが消耗が激しい上にお前自身の身体能力はそこまで。何より人を撃たない」
「………」
「ヒサギ、お前の崩し方は私が一番よく知っている」
そうだな、あそこにいた時一番私に戦い方を教えてくれたのはお前だったよ。仲間のことをよく見るお前だから、私のこともちゃんと見てくれていたんだろうな。
「やめろサオリ!ヒサギは——」
「こいつが!………お前を誑かしたんだよ、アズサ」
「……!」
「……誑かした、ねぇ」
確かにアズサは、私の言葉を一番よく聞いてくれた。けどそれはアズサがアズサだったからだ。
「現実見ろよ、サオリ。私がいなくたってアズサは同じ選択を取ってたよ」
「現実を見るのはお前の方だ。いつまで引き金を引きたくないだなんて意地を張るつもりだ?ここへ来て理解したんじゃないのか?お前の掲げる理想がどれだけ脆く、浅はかで、意味のないものなのか」
んだよじゃあお前は私に撃たれたいってのか?
「はあ………なんか私のこと知った風な口効いてるけどさあ」
眼を開く。
「少なくともお前らよりかは前見て歩いてるよ、私は」
——
アズサ以外の四人の視界を入れ替える。これはサオリ達には見せたことのない技、理由は単純に凄く疲れるから。
「なっ…!?位置が入れ替わっ……いやこれは——」
「歯ぁ食いしばれぇ!!」
「っ!!」
構える前からそう叫んで、両腕で顔の両側をガードしてきたものだから、そのご厚意に甘えてガラ空きの顎に思いっきり拳を叩き込んでやった。
身体が浮き、マスクが吹っ飛んで混交が切れる。
「くっそ手が痛い…」
「くっ……お前ぇ!!」
顎を殴られて脳を揺らされ、身体がふらついて膝をついているサオリと、ここまで来る道中でも散々眼を使わされて既にガタが来ている私。
「私達を見捨てたお前が……逃げたお前が!なんで私達の邪魔をする!」
「言わせないでよ、サオリ。………だからここにいるんだ。本当は言わなくたって分かってるんだろ?」
「……黙れ!」
サオリの指示、ヒヨリとミサキの射撃が私の方へと飛んでくる。ロケットランチャーと重スナイパーライフル、混交で妨害する余裕もなく、スナイパーライフルを避けて体勢を崩されたところをロケットランチャーで爆破される。
強い衝撃が身体を突き抜けて、地面へと激突する。
「……数の差卑怯じゃん」
ほぼ直撃、全身が痛む。それでも眼だけは開く。
立ち上がったサオリが、倒れて仰向けになっている私に銃口を突きつける。
「……本当にそれでいいの?」
「お前は私に何を期待しているんだ。……これが私の選択だ」
「…そ」
数秒の沈黙の後、サオリが口を開く。
「言い遺したことはあるか」
「そうだなあ。ひとつアドバイスするなら………」
眼が、その二人の姿を捉える。
「周りは、常にちゃんと見ておいた方がいいよ」
「——っ!」
私の声で一気に周囲へと注意が向く。けれどそれ自体が誘導。
投げられたスタングレネードが炸裂する、その瞬間に身体を起こしてその場を離れる。
「——ヒサギさん!」
「レイサっ!」
スズミの投げた閃光弾で怯んだサオリたちを、順々にレイサがショットガンで薙ぎ払って行く。その隙にアズサも抜け出して離脱したのを見届ける。
「クソっ……待て!また逃げるのか!!」
「おまけだこの野郎」
追ってこられないようにレイサに抱えられた私たちが戦線を離脱し、どこかの部隊の砲撃を隠れ蓑にして戦線を離脱した。
「ヒサギさん!ヒサギさん!大丈夫ですか!?」
「………ちょっと無理かも」
「気をしっかり!すぐに病院に運びますからっ」
レイサとスズミの声を聞きながら、意識を手放した。
「アリウススクワッドとの合同訓練はいかがです?澪標ヒサギ」
「……訓練なんてしたくない」
黒ハゲの煩わしい声に素っ気なく返す。
「戦闘の仕方を知らない貴女では、いくらその眼を持っていようとまともに生きて行くことは出来ませんよ」
「別に……この眼だって、慣れるまで何回も頭パンクして吐いたし、望んでない」
「望まずとも、貴女が澪標ヒサギである限りその眼はついて回ります。持っているものを有効活用しない手はありませんから」
「やかましい、ハゲ」
「ハゲではありません」
銃の撃ち方を教わった、眼で見て覚えた。教本を読まされた、戦闘のいろはを教え込まれた。
アリウスとかいうとこの、スクワッドとかいう奴らと一緒に行動させられて……実践訓練をさせられた。
「……好きにさせてよ、もう」
「カルティストがいなくなった今、プロジェクトを引き継いだ私に貴女の所有権があります」
「物扱いしてくれちゃって……」
「………」
あの人の命を犠牲にして、ほんのわずかに生きながらえて。
他の人には見えないものが見えるくらいで……私なんて、なんでもないっていうのに。
「研究に使うわけでもないんなら、なんのために私の世話焼いてんの……暇つぶし?」
「そうともいいますが……個人的に貴女には興味があります。カルティストは少々行きすぎていましたが……あの実験の唯一の成功例、その貴女に興味を持つのは自然なことだと思いますが」
「………ハゲ」
「ハゲではありません」
硝煙の匂いばっかりで、いい加減嫌気がさす。
こっちは耐久訓練だのなんだの言って、拘束されて泣き喚きながら銃弾を浴びせられ続けたっていうのに、何が悲しくて銃を握らないといけないんだ。
「……いつか貴女が、ここを抜け出せるくらいの力を手にしたなら好きにするといいでしょう。少なくともそれまでは、私が貴女に戦う術を身につけさせます」
「………」
アリウスってところは、嫌な場所だ。
みんなロクな眼をしていない、薄暗くて、希望がなくて、周りのことを見る余裕なんてないって眼をしていて。
「またわざと外しただろう」
「………的には当ててる、訓練とはいえ人に向かって撃つ必要はないと思うけど」
「外す必要もないだろう、訓練にならない」
サオリってのは、他より少し違った眼をしている。でもここにいる生徒達はずっとこんな暮らしを続けてきて……サオリもそうで。
「まあいい、今日はここまでだ」
「………」
可愛そうだなって、思う。
澪標ヒサギの記憶の中にいた生徒達の方が何倍もマシな生活をしていた。ここにいるのは、そういう生活を選べない人たちで。
サオリは、多分気づいている。自分たちが選べない状態にあるってことを気づいた上で、それを変えようとしない、変えられない。変え方がわからない。
それとアツコは……よくわからない、何を考えているのか。
「………何してんの?」
「……花を見ていた」
「………名前は?」
「アズサ」
そいつだけが……その子だけが、唯一違う眼をしていて。いや、元々みんなそんな眼をしていたのに、変わっていたのかもしれないけれど。
アズサって子の目の中には確かに、澪標ヒサギと同じ輝きが、微かにあった。