銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
「………どちら様?」
「……驚いたな、こちら側を観測されるとは」
私何してたっけ、確かサオリにアッパーかまして、それから……
とりあえず誰だこの人なんかやたらと防御力の低い服着てるな、風邪ひきそう。
「会うのは初めましてかな、澪標ヒサギ。私は百合園セイアだ」
「あー、今も意識ないまま寝てるっていう?……起きてんじゃん」
「いや、寝ているよ。だからこうやって君と話せている。もっともそれは私だけではなく、君の眼のおかげでもあるだろうけれどね」
「……ん〜?」
ティーパーティーの一人、百合園セイアさんが目の前にいる。見渡せばここは……多分ティーパーティーが集まって茶をしばく場所みたいな感じがする。
「……よくわかんないけど状況を説明してくださる?」
「もちろん。……言ってしまうと、私は夢を介して色々なものを観測することができる。例えば未来であったり……ね」
いきなり意味のわからないことを言われたけれど……私の眼と、同じようなものだろうか。
「今、君は消耗し、その神秘も磨耗して倒れてしまった。今は私と同じようにベッドの上だ」
「……はあ」
「こうやって君と話ができるのは、私が夢を介して君を観測し………君の眼が私の夢を逆探知したからだ」
………?
「なるほど、分かんないけど多分問題ないからいいや」
「……君はこのあと、どうするつもりだ?」
「どうするって……」
とりあえず起きないと何も始まらないでしょ?そんでもって……先生が無事かどうかだけは真っ先に確かめたい。生きてくれてないと困る。別に急所ではなかったから、大丈夫だと信じたいけれど……
「……もう一回、サオリと話がしたいかなあ」
「…話、か」
「逃げちゃったからさ。1回目はアリウスから、2回目は対話から」
人殺しにはさせたくない、だから先生には生きててもらわなくちゃ困る。
「今のサオリは、君の話を聞く状態ではない」
「だろうね、そもそも私が言わなくたって本当は分かってるはずなんだよ。………サオリのやってることは、仲間のためにならないって。……でも、他の方法を選べないから、そうするしかない」
「……君は、選ぶことができるということを重要視するね」
「え?」
その言葉を聞いてセイアの方を見る。
ここが夢の中だっていうのならそのせいかもしれないけれど……確かに、不思議な神秘のように見える。
「選べないのは、不幸かい?」
「不幸だよ」
「選べることで悩み、苦しむのは?それは不幸ではないのかい?」
「不幸だよ。でも選べなくて、苦しむしかないことは理不尽で、不運だ」
私には選ぶ権利がなかった。この世界に来て、実験動物としての扱いを受ける以外の選択肢がなかった。
逃げて逃げて、逃げた先でようやく澪標ヒサギと出会って……それでも私に選択することは出来なかった。選択できないまま、澪標ヒサギを犠牲にして、私が生きながらえた。
「いろんな道があるんだよって、教えてくれる奴がいないんだよ、この世界。道を閉ざしてくる大人はいるくせに、それを教えてくれる大人がいない。……今は先生がいるけれど」
少なくともアリウスには、先生みたいなのはいなくて。
私は先生じゃなかった。
「……ジェリコの古則を知っているかい?」
「知らないけど」
「なら質問を変えようか。君は、楽園を信じるかい?」
「………?」
質問の意図がわからないし、急すぎる。
楽園って……どういう楽園?
「楽園の証明……物事には観測者が必要で、存在を証明するにはそれを誰かに伝えなければならない。だが、楽園へと到達したものはそこから出ようとはしない。もし出ようとするならそれは楽園ではなく……それが真に楽園なのであれば、その存在を伝える者はいない」
「……矛盾してるってこと?」
「そう。楽園の存在証明に対するパラドックスと呼んでいる」
……これを考えたやつはきっと相当に性格が悪いに違いない。楽園……エデン条約……存在証明。
「これについての、君の考えを教えてほしい」
「教えてほしいも何も……楽園があるかどうかなんて関係ないんじゃ…」
「……関係、ない?」
驚いたような表情をこちらに向けてくるセイアさん。
「楽園があろうがなかろうが、私達が生きてるのはこんな世界なんだから………一つ一つ変えて行くしかないんだと思うよ」
「……つまり君は、楽園なんて必要ないと?」
「てか興味ない」
そんな人を掴んで離さないような楽園を、楽園と呼べるのかどうかすら……
「少なくとも私は……自分の理想のために進むことを諦めない。その理想が叶わないとしても……そうやって進んだ足跡に意味があったって思えるようでありたい」
「………」
「誰が言い始めたのか知らないけどさ、それ。そんなのに縛られて色々諦めちゃうのは……おかしくない?」
自分で色々やってその結論に達したのなら仕方ないと思う。けれどどこかの誰かの考えの押し付けを間に受けて……それで不幸になるのは、違う。
それに私の理想は私だけのものじゃないし。
「……君は、その理想のために決して足を止めないと?」
「諦めたら、それこそ楽園なんて無くなるよ」
「……そうか………君の答えはそうなのか…フフッ」
なんか笑われてる?
「先生にも今、同じ質問をしているんだ。並列思考はなかなかに疲れるが……興味深い結論だ」
「はあ……?」
「先生は……楽園の存在証明ではなく、ただそれを信じられるかどうかだと……そう結論付けた。君はそもそも楽園の有無に意味はなく、そこへ向けて歩み続けることこそに意味があると、そう結論付けた」
並列思考……
先生も今私と同じようなことになってるってこと?じゃあ無事ってことなのか……よかった。
「……君たちは、違うんだな」
「…そりゃあ、私は先生じゃないし」
「そうだな、君たちは違う。……解釈なんて、元よりそういうものか」
なんか満足げに笑ってる。
結局何だったんだこの人は……
「引き留めてすまなかった、君はじきに目覚める。この空間は時間軸が曖昧で、おそらく君は先生より数刻早く目覚めるだろうが……」
「なんだっていいよ、まだやることあるし」
楽園の証明……
理想を追い求めることは悪いことじゃない、それがきっと桐藤ナギサにとってのエデン条約だったんだろうなと、今になって思う。
結局みんな、必死になってるだけだ。
「なるほど……アズサに道を示したのが君だというのも、頷ける」
「……ああ」
そういえばアズサとこのセイアさんって人の間で何かあったんだっけか。詳しくは聞かなかったけど……
「君のやるべきことを、君が成し遂げられることを願っているよ。澪標ヒサギ」
「……どうも?」
「……つまり、銃を使わなくてもいい世界を作りたいってこと?」
「まあ薄々無理な気はしてるけど……そうなるかな」
「………Vanitas vanitatum et omnia vanitas」
「…虚しいって、言いたいの?」
「……さあ、どうだろう」
アズサと話す機会が増えた。
他愛のない話をし続けた、自分のことは伏せておいたけどとにかく色々話をした。
「でも、決して抵抗することをやめてはいけない。諦めてはいけない。全てが虚しいとしても……出来ることをやらなきゃいけない」
「………」
やっぱり、違うなと思った。
諦観に塗れたこの学園の中で、ただ一人……何かを渇望しているように視えた。
「……ここにいるみんなは、何のために訓練するの?」
「指示に従うため」
「その指示は…?」
「憎むべきトリニティとゲヘナへの報復」
確執があるのは、理解した。
けれどそれは……
「…アズサは、憎んでる?」
「……私は、別に。ただそうするしかないから、従っているだけ」
なら、出来ることならここから逃げ出したいと。
私と、同じだ。
「でも、同じくらいサオリたちも大切だから……」
「……そっか」
でも諦めていない。
この現状から抜け出す方法を、探し続けている。
「……傷つけるのは、もう仕方のないことなんだと思う。この世界がそうやって作られたから……人は暴力を捨てられやしないんだって」
「………ヒサギは、諦めるのか?」
「ううん。それでも諦めずに、抗い続けるつもり。虚しいなんて思わないよ」
そうやって進んだ先で何かを得られると信じてるから。
「……傷つけても、傷は治る。相手が生きてたら、仲直りはできる。でも死んじゃったら……いなくなっちゃったら、何にもならなくなる」
「………?」
「殺しちゃダメだよ。……それだけは絶対に、後戻りできなくなるから」
「………」
あの時の、ヒサギの表情がチラついて。
「……ダメだな、私は」
非情になりきれなかった。
ヘイローを破壊する爆弾を………サオリ達に使えなかった。
ヒフミを裏切って、人殺しになる決意をして、そう言い放ったくせに。
結局、普通の爆薬しかぬいぐるみに詰め込めなかった。人を殺そうとすると、あの時のヒサギの表情が頭の中に浮かんできて……
「……次、次の策を考えないと」
サオリ達は止まらない。怪我ぐらいは負ってて欲しいけれど死んではいない。
「………」
死んでいない、ということにホッとする自分がいた。
まだ、ヒフミ達の方も、サオリ達のことも、両方に期待してしまっている自分に気づいた。
「…行かないと」
全ては虚しいとしても。
抗うことを辞めてはならないから。
「やっほ、元気?」
「っ!……ヒサギ?なんで、ここに……」
「そりゃあもうしらみ潰しに視てまわって……」
「またそんな無茶を!」
「あー大丈夫大丈夫、なんかもう無理しすぎて慣れてきたから」
本当に平気そうにそう笑って見せるヒサギ。
その表情を見て……身体の力が抜けて。
せっかく立ち上がったのに、また座り込んでしまった。
「……私は、サオリ達を殺せなかった」
「そっか」
「決心したのに……殺せなかった、できなかった」
「……そっか」
これでよかったのだろうか。
私が躊躇っていなければ、私が背負っていれば、もしかしたら……
「ヒフミにも、酷いことをしてしまった。それなのにこの様だ」
「……私もだよ。先生達助けに行ったのに何一つ間に合わなくて……サオリを1発殴って、そのまま病院送りになっちゃったから」
「……何がしたいんだろうな、私は」
「………」
ヒサギが、私の隣に座った。
「アズサは誰も殺さなかった、サオリも先生を殺さずに済んでる。少なくとも私の知る限りでは、まだ誰も人殺しになってない」
「………」
「ヒフミには、謝ろう。サオリたちは、別の方法でどうにかしよう。諦めちゃダメだよ、進まないと。アズサにはまだそれができるんだから」
ヒサギは、大切な人を亡くしてしまったかのような物言いをすることがある。きっとそうなんだろう。
「先生が目覚めた、混乱は収まりつつある。……サオリたちはまた古聖堂へと向かうみたい」
「……アツコが怪我を負ったから、多分またあれをやる必要が出てきたんだと思う」
「アレ?……よく分かんないけど、事態は好転してきてるよ」
隣を見た。
ヒサギの黄色い眼が淡く光って、何かを映し出している。
「本当に、大丈夫なのか?」
「……セイアって人に夢の中で会ってさ。知ってると思うけど」
「それは…!」
「それのおかげか分からないけど……さっきから凄く眼の調子がいいんだ。だから気にしないで」
彼女には、一体何が視えているのか。
私には視えないものを視ている彼女の言葉の真意を測りかねる。
「ハナコもコハルもヒフミも……先生も。誰も、まだ諦めてなんかいない。選ぼう、私たちが最善だと思う道を」
「……道」
「ハッピーエンドじゃなきゃ、みんな笑ってくれないよ」
こっちを見て笑うヒサギの表情を見て、なんだか安堵して。
「………分かった。行こう、私たちも」
差し伸べられた手を取って、立ち上がった。