銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!!   作:ギアっちょ

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期限

「また、会いましたね」

「そっちが呼んだんだろうに」

「大変な時でしょうに、わざわざここへ足を運んでくださったこと、嬉しく思います」

「………」

 

 黒服。

 カイザーと裏で繋がっていたゲマトリアの一人で、ホシノを使って実験をしようとしていた。

 

「アリウスをいいようにしているのは……」

「それは私ではありません、誤解無きように。……怪我はいいのですか?」

「よくないけど……これを理由に動くのを辞めたら、先生失格だからね」

 

 私のその言葉をどう受け取ったのか、黒服は数秒間沈黙する。相変わらず表情が読めない。

 

「……澪標ヒサギは、よくやっているようですね。独断で行動を起こしているようですが……心配ではないのですか?」

「アズサに会いに行くってメッセージは残してくれたからね」

「…余程信頼しているらしい。……今日は彼女のことで話がありまして」

 

 カルティスト。

 ヒサギの話では既にいなくなったらしいけれど……ヒサギは黒服とは面識があるようだったけれど、あれは……

 

「彼女が恐らく話そうとしないことを一つ、お伝えしようかと」

「……何故、あの子のことを気にかける?」

「………」

 

 沈黙する黒服。

 

「カルティストが事故で死んだって言ったけど………もしかしたら、それはあなたが手引きしたものなんじゃないかな」

「推測で物事を語るのは感心しませんね、先生」

「あの子のこと、心配しているんじゃないの?」

「実験対象に過ぎませんよ」

 

 真意はわからない。ゲマトリアがどういった組織なのかすらよく分かっておらず……今こうして黒服と話しているのも今は使われていない廃墟で。

 

「…確かに、カルティストは行き過ぎた思考を持っていました。色彩への迎合、融合……それによる破滅を」

「……色彩?」

「先生は、彼女の眼のことを詳しく知っていますか?」

 

 首を横に張る。

 神眼と呼ばれていて……不思議な力を使うことができるくらいしか。

 

「義眼、神眼、天眼……様々な呼び名を与えられて来ましたが、我々の間では()()()とする説が有力なのですよ」

「……覗き穴?」

「この世界の枠組みを超えた何か……全ての観測者が、この世の事象を観測するために人に与えた、神の叡智」

 

 話している内容がよくわからないけれど……誰かが、ヒサギの目を通して世界を見ている、ということ?

 

「あの眼は、特別なのですよ。やりようによっては、色彩を観測できる程度には」

「………」

「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。……カルティストはあの眼を使い、色彩との接触を図ろうとしたのです。危険な思想を持つ彼の消滅はゲマトリアの総意。……それだけの話ですよ」

 

 カルティストを消したのはヒサギのためではなく、ゲマトリアのため。黒服はそう言っているら、

 

「……なら、その後彼女を放置しなかったのは」

「素晴らしい神秘であり、眼であることは変わりません。私はそれを失わないで済むようにとしただけです。結果として彼女は施設を脱走して行きましたが……」

「ヒサギがトリニティへ転入できるように細工したのは、あなたじゃないの?」

 

 ナギサにも聞いたけれど、あまりにも書類に不審な点が多かったと。何故これで通ったのかが不思議なくらい……と。

 

 私の言葉に、黒服はまた数秒の沈黙の後口を開いた。

 

「私を善人にしようとしたところで、あなたには何の徳も生まれないはずですが、先生」

「………ヒサギは、あなたを憎んでいるようには見えなかった」

「本題に入りましょう」

 

 話を逸らされた。

 

「恐らく彼女はあなたには話そうとしないでしょうから」

「………」

「澪標ヒサギの、期限について」

「…期限?」

 

 思わず聞き返してしまう。

 

「確かに、素材としては最適と言えたでしょう。しかし、ただそれだけの理由で本当に完全な神秘の移植に成功すると思いますか?」

「何を……」

「目の色の変化。あれは移植によって眼に変化が起きたということ。本来の澪標ヒサギの銃弾への耐久力はなかなかのものでしたが、今の彼女は並程度にまで落ちている」

 

 本題に入る、なんて言っておきながらなかなか話が見えてこない。

 

「何事も、摩耗はするのですよ」

「……何が言いたい」

 

 なんとなく、予想はついているけれど。

 その予想がくつがえされることを願って言葉を返した。

 

「——1年、それが澪標ヒサギの耐用年数」

「………っ」

「彼女は、卒業を待たずに自壊する。それがカルティストの出した結論です」

 

 実験が行われた時から1年とするなら、今の彼女に残された時間は……

 

「…何か方法は」

「見つかっていません。それこそ新しく、全く同じ神秘を移植でもするくらいでなければ」

 

 彼女はこのことを……きっと、知っているんだろうな。

 どこかいつも急いでいるような、焦っているような。何かに迫られるような雰囲気をしていたのは、これのせいなんだろうか。

 

「……どうして、私に」

「あなたは先生なのでしょう?……知っておくべきだろうと、そう思いまして」

 

 相変わらず、真意は読めない。けれど……

 

「アレにはあなたのような役割がありませんから。……よろしくお願いします、先生」

 

 そう言って、黒服は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………また、来たのか」

 

 眼で先回りして、サオリ達を待ち構える。

 

「私はサオリ達を止めなきゃならない。そのためなら何だってする」

「ヘイローを破壊する爆弾すら使えない臆病者に、できると思うのか?……あぁ、そうだな。聞きたいことがあったんだ」

 

 静かな怒りの裏に、何か別のものを抱えている様子のサオリ。

 

「何故、使わなかった?百合園セイアに使わなかったのであれば処分していない限り残っているはずだ。何故それを——」

「殺したくなかったから」

 

 アズサの言葉を聞いて、サオリが握った拳を震わせる。

 

「お前たちは……つくづく甘いな。そんな甘さで……そんな卑怯者に、私たちの怒りに、憎しみに、恨みに!耐えれられると思うのか!!」

「……それは、本当にお前たちのもので……本当に、私たちに向けるべきものなの?」

「…何?」

 

 節々が痛む身体を無理やり引きずってここまで来た。サオリともう一度話をするために。

 たとえ届かないとしても……

 

「分かっているはず。その憎しみが誰のものなのか……誰に植え付けられたものなのか」

「トリニティとゲヘナに虐げられて来た私たちアリウスの——」

「私たちは、民族じゃない」

「………は?」

 

 そもそも民族だとして、それを恨むのも……お門違いだと思うけれど。

 あの環境で、そう教え込まれて。そうすることでしか生きれなくさせられて……戦わされて、殺しまでさせられそうになって。

 

 恨む相手が、トリニティとゲヘナっていう……学園。

 

「私たちはみんなただの子供だよ。翼が生えてようがツノが生えてようが、変な耳ついてようが……子供に過ぎない」

「……だからなんだ」

「アリウスの存在なんか知らない奴らだって沢山いて……そんな奴らに過去のトリニティとアリウスがどうとか関係なくって、ただ生きてるだけ。そいつらのこと傷つけて、お前達は満足する?」

「……黙れ」

 

 分かっているはずなんだ、本当は。

 気づいているはずなのに、見てないフリをしなきゃいけないんだ、サオリは。

 

「少なくとも聖園ミカは……アリウスと仲良くしようとしてたよ」

「黙れ」

「よく思い出せよ。お前たちにその憎しみを植え付けたのは?そうしないと生きられないように選択肢を奪ったのは——」

「黙れ!!」

 

 怒りか、それとも別の何かで震えた銃口が私の方を向く。

 

「お前に……お前に何が分かる」

「分かって欲しけりゃ銃を下ろして口を使ってみろよ。……言わなくたって、分かるだろ」

「っ………」

 

 選択肢がない中で苦悩しているのは知っている。だから私がこうやって話に来ている。

 少なくとも私は、敵とは思っていない。

 

「……お前のそういう夢見がちなところが嫌いだった。現実も見ずに、叶いもしない理想を振り撒いて……何故、全てが虚しいと分からない?」

「………もし、全てが虚しいとしても…」

「それは諦める理由にはならない」

 

 私の言葉にアズサが続ける。

 

「……もういい。そこをどいてもらう」

「通さない、サオリたちのためにも」

 

 アズサが一歩前に出て、それより前に私が出る。

 

「私が先に前出るよ」

「……分かった」

「じゃ、行こうか」

 

 二人同時に駆け出した、私に撃っても当たらないと踏んでいるからか、アズサの方にばかり撃っているサオリ。爆発物は避けようがないので狙撃銃をミサキの方へ構えつつヒヨリを警戒する。

 

「絶対撃たせないからなこの野郎」

「っ……」

 

 アズサを狙ってようが私を狙っていようが、ミサキだけは常に視界に入れていつでも牽制できるようにする。撃とうとした瞬間にランチャーに弾丸をぶち込んで妨害。

 

「お前らは邪魔だから全員消えろ!」

 

 ユスティナ聖徒会…だっけか。

 よく分からないしなんか湧いて出て来て邪魔なので、全員混交(シャッフル)で無力化させておく。心なしか数が少ないけれど……

 

「っと」

 

 サオリに近寄ろうとしたところをヒヨリに撃たれる。

 

 セイアさんに会ってから、眼が何かおかしい。

 私にも視えないものはあって、そのうちの一つが未来で。

 

 けれどそれはあの人には見ることができた。

 あの時、私はあの人と同じ視座に立っていた。それの影響か……もし私の、自分に対する神秘の解釈が変わったんだとしたら。

 

「っ!」

「な、なんか避け方が一層上手になってません!?」

 

 視える。

 ほんの少しだけ……1秒にも満たないほんの少しだけだけど、先が。

 

 不確定な因果を捉えるだなんていう大それたものじゃないけれど、予知というより直感に近いそれが私の頭に流れ込んでくる。

 

「2度も同じ手を——」

 

 スタングレネードを空に投げて、気を逸らしたところをサオリに接近する。ピンは抜いていない、本当にただ投げただけだけれど。近づくには十分で。

 

 反応して反撃してくるサオリの予備動作を先読みして、伸びて来た腕を掴んで体を捻って踏み込み、そのまま腕を引っ張って背負い投げをした。

 

「くぅっ!」

 

 そこで生まれた隙をすかさずアズサが撃ち抜く。軽い身のこなしで遮蔽を上手く使ってやりすごすアズサの動きの方が私より余程利口だとは思うけれど。

 

「ふぅ……」

 

 ここでユスティナにかけていた混交が消える。聖園ミカの一件の時より体感負担が少ないとはいえ、流石にずっとかけるのも厳しい。

 

「……やれると思っているのか、本当に。たった二人で」

「…ん〜?」

「銃も使わずに……私たちを殺さずに。状況が好転すると……そんなやり方で、世界が変わるとでも?変えられるわけがない……変わらない」

「………」

 

 立ち上がるサオリを、アズサと一緒に黙って見つめる。

 

「そんなもので世界が……この何の希望もないただ虚しいだけの世界が変わるものかッ!!」

「だから世界を壊すの?そこにいるたくさんの人達の想いを踏み躙って?」

「サオリたちのやり方は、私たちには認められない。………この世界を壊すほど、私は希望が一つも見えていないわけじゃない」

「っ………」

 

 そもそも世界を変えるのは誰かじゃなくて、みんななんだから。

 

「……星の位置は変えられない。けれど私たちは星のつなぎ方を考えて、そこにある形を見出すことができる」

 

 この空は私の知っている空じゃないけれど、でも私がいるのはこの空の下なわけで。

 だったら足掻くしかない、どうにかして。

 

「…少なくとも、状況は好転するよ」

「……何?」

「ちゃんと周り見た方がいいよ?」

 

 走ってここに向かっているヒフミたちの姿が、私の眼には映っている。

 

「誰とも関わらずに生きていくなんてムリなんだからさ。それだったらできるだけ沢山の人と仲良くしたいじゃん」

「いつまでも、浅はかなことを……」

「浅はかで結構綺麗事で結構。……じゃなきゃやってらんないよ」

 

 これだけ示しても、きっと届かない。

 でも、届かなくたって……私以外の誰かが、彼女たちを変えてくれるかもしれないから。

 

 戦場にやって来たヒフミたちの顔を見て、自然と笑みが溢れた。

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