銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
「よっと……やあ先生、お腹に空いた穴は大丈夫なんですか?」
瓦礫を乗り越え、ヒフミたちの元へと行く。足止めはちゃんと出来ていたようだ。
「ヒサギだって……いや、今はいいか。私は大丈夫、無事でよかったよ、二人とも」
かなり無理しているだろうに、それでもやるべきことをきちんとやってここへと辿り着いてくれた、流石だ。
「アズサちゃん……」
「……ヒフミ」
二人の尻目にハナコの元へと行く。
「ハナコ、今の状況なんだけど………え、何?」
「……病室からいなくなったって聞いてどれだけ心配したと」
「あ〜……ご、ごめんなさい…?」
「…まあそれは後でいいでしょう。現在正義実現委員会も風紀委員会も正常に稼働していて、各地に散在しているユスティナ聖徒会の対処に当たっています。そして私たちは——」
ヒフミの大きな声が響いて、ハナコの口が止まる。
「私の正体、それは………『覆面水着団』のリーダー、ファウストです!!」
「…え?」
アズサの困惑の呟きが、この場にいる全員の心情を表していた。
な、なんか急に紙袋被り始めたんだけど、頭がおかしくなったのか。
なんだその燦然と輝く「5」は。
「見てください、この恐ろしさ!アズサちゃんと並んだって、全然見劣りしないほど不気味でしょう!こっちの方が怖いと言う人だっているはずです!」
「アズサは怖くないだろーッ!」
「はぅッ!!確かに!!」
しまった意味のわからない展開に訳のわからない野次を飛ばしてしまった。いやでもこれはヒフミが悪いと思うんだけど。
ほらもうスクワッドのみんなも凄い反応してるんだけど、反応に困ってるんだけど、どうしてくれんの。凄い気まずいんだけど。
「ヒフミ、いったい何を……」
「とにかく!!!私たちは違う世界にいるなんてことはありません!同じなんです!一緒の世界にいるんだから、一緒にいられないなんてことないんです!!」
「………」
ああ、見てなかったけどきっと、アズサはヒフミに酷い言葉を投げかけたんだろうな。突き放すために。
「たとえ拒絶されてもすぐに近くに行って見せます!私は……!」
「…ありがとう、ヒフミ」
「……へ?」
ヒフミにそっと抱きつくアズサ、それを見てハナコが「あら…♡」と言いやがったので肘で突いたら「やんっ♡」って言って来やがった、しばいていい?
「あんなこと言ったのに……それでも追いかけて来てくれて、凄く嬉しい。……やっぱり私は、みんなのいるところに帰りたい」
「あ、アズサちゃん……」
「ありがとう、一緒の世界にいるって言ってくれて。……こんな紙袋まで被って、嘘までついて———」
「誰が嘘だって!?」
新手か!?
………!!?!?
「いや〜出るタイミング逃したかと思っちゃったよ」
「あの覆面、まさか…!?」
「…!?」
「っ!?」
な、なんだその覆面……ん?胸に何か……アビ、ドス……?
「………」
「………」
先生を見たら目を逸らされた。
「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……」
「ん、それが私たちのモットー」
「普段はアイドルとして活動してますが、夜になると悪人を倒す副業をしてるグループなんです♧」
「別にそれ私たちのモットーじゃないから!?あと変な設定つけないで!」
わあ……アビドスってイカれポンチの集まりだったのか……
なんかあのちっさい人めちゃくちゃすごい神秘だし……引く……
きっとみんな借金のせいで頭がおかしくなってしまったんだな、酷い世界だよここは。
「覆面水着団のリーダーであるファウストさんのご命令で、集合しました!」
………水着どこだよ。
「…あいつらは」
「……わからない。詳細なデータは無し」
でしょうね!
こんな変な集団のデータわざわざ収集してたらアリウスのこと見直しちゃうな私!
「どこの誰なのか知らないけど、知らないよ?うちのファウストさんは怒ると怖いんだから」
「何せファウストちゃんは最終的に、カイザーコーポレーションの幹部を倒しちゃったようなものなんですよ♧」
「ひ、ヒフミ……さん?」
「ブラックマーケットの銀行だって襲える、朝飯前」
「ヒフミさん…!?」
「け、敬称はつけないでください……」
こわ……覆面水着団こわ…カイザーPMCに喧嘩売ったとか言ってる……一体アビドスで何があったんだ…先生?
「………」
目を逸らすな。
「ファウスト!ファウスト!ファウスト!ファウスト!」
もう意味わからん。
ファウストコールに恥ずかしそうに紙袋を取ったヒフミ、色んな意味で住む世界が違う気がした。
「………」
銃声が大きくなっていく。
本格的にユスティナ聖徒会との戦いが始まり……ゲヘナとトリニティがアリウスという共通敵を得て一致団結しようとしている。
けれど、アリウスだって被害者だと思う自分がいる。
マダム、か……
「…幾ら数が集まろうと、幾ら抵抗しようと無駄だ。無限に増殖するユスティナ聖徒会の前では無意味。……そう、無意味だ」
さっきのあの変な空気からよくその話に持っていけるなと、謎の関心を覚えてしまう自分を心の中で殴る。我ながら気が抜けているらしい。
「この世界の真実を……殺意と憎しみに満ちたこの世界で、あらゆる努力は無駄なのだと知れ。……足掻こうと何の意味もない、全ては無駄なのだということを!!」
あぁ、そんな世界に生きていること自体が不幸で、おかしいことなのに。それが世界だって決めつけて、型にはめてしまって、抜け出せなくなって。
私があの時、もっと何かしてやれていたら、お前たちは……
「…殺意ですとか、憎しみですとか……それが、この世界の真実で、全ては虚しいって………それでも、私は……!」
「……嫌だ」
ヒフミの言葉にアズサが重ねる。二人は顔を合わせて、頷き合った。
「それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私はそんなの好きじゃないんです!」
好きじゃない……かぁ。
「私には好きなものがあります!平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません!友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは慰めて、お友達と慰め合って……!」
綺麗事。
けれど、彼女みたいな子供が綺麗事を望めない世界なんてあってたまるか。
「苦しいことがあっても…誰もが最後は笑顔になれるような!そんなハッピーエンドが!私は好きなんです!!」
誰もがヒフミの叫びに耳を傾ける。
決して気が強くはなくて、ちょっと変なところはあるけれど平凡という枠組みから出ない……多分出ない彼女の、心からの叫びに。
「誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます!私たちの描くお話は、私たちが決めるんです!終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!」
………まだまだ、かぁ。
「私たちの物語……私たちの、青春の物語を!!」
光が差し込む。
「……晴れた」
ずっと曇って、雨が降っていた空が晴れていく。
その青い空が、私たちの頭上を覆っていく。
「ここに宣言する」
先生の声。
「私たちが新しいエデン条約機構」
「なっ……!?」
……何故か分からないけれどユスティナ聖徒会の動きがおかしい。というか、新しいエデン条約機構とは……?
…サオリの説明聞いておけばよかったかなあ。
「っ、ふざけるな!!ハッピーエンドだと!?そんな言葉で、世界が変わるとでも!!?それだけでこの憎しみが、不信の世界が変わるとでも!?」
「……サオリ」
サオリの叫びにアズサが応える。
「私は、サオリたちにもハッピーエンドを迎えて欲しいと思ってる」
「……っ!」
「できるはずなんだ。私たちは。一緒の世界に生きているんだから」
「黙れぇッ!!」
その叫びに応じるように、引き金が引かれ戦いが始まった。
「……ふぅ」
こうなると私にできることはない、後ろに下がって眼と身体を休ませる。流石に眼の調子が落ちてきて、少し視界がぼやける。
「アズサのこと、見ててくれてたんだね」
「……私が行かなくたって、なんとかなってたよ」
「本当は私が行かなきゃだったのに……ごめんね、不甲斐ない先生で」
「腹に穴あけられたのにこうやって頑張ってる人を不甲斐ないだなんて、ねぇ……」
先生には役割がある、この世界にとって大事な役割が。
死ななくてよかった、本当に。サオリたちを人殺しにさせなくてよかった、本当に。
戦闘指揮を取りながら時折手元のタブレット端末のような何かを操作している先生を見つめる。
「終わったら、話をしよう。二人で……ゆっくり」
「……何で急に口説いてきたんです?」
「そんなんじゃないけれど……」
「いいですよ、話でも何でもしてあげますよ」
短い人生、少しは青春っぽいことをしたいな……しなきゃなと、自分が本当にしたいことも分からないままズルズルと生きてきて。
人間、どうしても嫌な思い出の方が強く頭に残ってしまうから。今もあの日々の記憶が頭にこびりついて離れない。
それこそ今目の前で、この周りで繰り広げられている戦いだって……子供が銃を取って戦う、私の理想とは程遠い光景。
それでも……それでも、きっとそんなに悪くない光景なんだろうな。今ならそう思うことができる。
違う見方で、この世界を見ることができる。
私は、自分の納得できる結論に到達できるだろうか。
「……ユスティナが増えてきた、か?」
多分もうひと踏ん張り……頑張るか。
「
「黒服、そなたも私の作品に興味があるのか?」
「えぇ、是非見物させてもらおうと思いまして」
「下らない建前を。本音は見え透いているぞ」
「………」
興奮している様子のマエストロの言葉に肩をすくめる黒服。
「余程アレがお気に入りらしいな」
サオリたちアリウススクワッドは実質的な敗走、それを追うアズサとシャーレの先生。サオリとアズサの一騎打ちとなり……アズサの勝利に終わる。
そこでマエストロがヒエロニムスを投入した。
「見ろアレを、あのカードを。人生を、時間を代償として得られる力……その根源も限界も、私たちですら理解できない不可解なもの……!!」
先生が取り出したカードを見据え興奮しているマエストロを、黒服は静かに見つめる。
「嗚呼、見せてくれたまえ先生。そなたの払ってきた代価を……そうして手に入れたものの輝きを———なんだ?」
異常な何かを観測する。
黒服もそれを見つけ、彼の特徴的な笑みをこぼす。
「どうやら貴方の望むものは見られないようです、マエストロ」
「……なるほど、貴様の作品というわけか」
「作品と呼べるほど高尚なものではありませんが……」
澪標ヒサギが、高所から銃口をヒエロニムスへと向けていた。
そのヘイローが異常なほど発光し、変形し続けている。
「アレはなんだ」
「彼女はこの世界の誰よりも自身の神秘を理解している。……言ってしまえば、ある程度までは自在に己の神秘を変質させることができる」
「逸脱しているな」
「えぇ、その通り。少しでも間違えれば己のヘイローを砕きかねない荒技……それを彼女はあの眼を使って可能にしたのです」
自身の神秘について意識的であれ無意識であれ、認識するということがその存在を確固たるものにする。その神眼によって自身だけではなく他者のヘイローまでも見抜くことが出来る彼女は、本来の生徒の枠組みから逸脱した行為に走ることができる。
それは、元が自身のヘイローではなかったから。
「カルティストの遺作……そしてそなたが継いだ作品と、私の作品………良いだろう、講評と行こうではないか!」
「………」
この時、シッテムの箱に澪標ヒサギのアイコンが表示された。これまで指揮下には入っておらず、シッテムの箱による神秘への干渉も受けなかったものが、今初めて。
「見せてみろ!そなたたちの『崇高』を!!」
閃光が、ヒエロニムスの頭部を貫いた。
周囲に響き渡る轟音、衝撃、地響き。
「……そうしたのですか、貴女は」
実験施設にいた時、カルティストに神秘の操作の実験受けていた彼女は、自身の神秘の操作の術……感覚を身につけた。
しかしそれは、自身の耐用年数を大きく減らしかねない事。それをするに値すると、彼女は判断したわけだ。
「……一撃だと」
「クックックッ……未完成品には少々荷が重かったようですね」
「…そうか、そういうことか」
そう言ってマエストロは去っていった。
頭部を撃ち抜かれたヒエロニムスは力無く倒れ、その身体を崩壊させていく。
「…作品などではありませんよ、彼女は」