銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!! 作:ギアっちょ
候補としてはいくつかあった。何も政治色に塗れたトリニティじゃなくたって、ただ入学するだけなら他にも選択肢は色々あった。なんか馴染み深い百鬼夜行、肌には合わないと思うけど楽しそうなミレニアム……他にもまあ、色々。
その中でもトリニティを選んだのは、あの時のあの言葉が理由で。
——私、お嬢様っていうの憧れてるんだよね——
薄暗い部屋の中でも、楽しそうに語るあの表情が、声が、言葉が焼き付いて、消えなくて。爛れた記憶の中でも輝くそれが消えなくて、消えなくて。
なんとなく選んでしまった、そこを。
まあでもきっと、どこに行ってもイマイチ馴染めなかったかなとは思う。私こんなだし、多分私が向いていないのはトリニティがどうとかじゃなくて………
この
「………」
「あら…こんにちはヒサギさん」
一糸纏わぬ、という言葉が意味をするのは、まさしくすっぽんぽん。
下着すらも己を縛る枷だと脱ぎ捨て、この世の全てから解き放たれようとするその目の前の変質者に出くわすのは、これで2度目だった。
「……何してたの?」
「少し、水浴びを」
「噴水でぇ?あんまり綺麗な水じゃないと思うけど…」
「ふふ、ご心配はいりません。戻ったらシャワーを浴びますので」
「じゃあシャワーで水浴びしなよ」
「開放感を…感じたくって……」
恍惚とした表情でそのでっけぇメロンをブルンブルン揺らしながら私にそう言ってくる。
「……どうせスク水くらい持ってるんでしょ?せめてそれ着てよ」
「フフッ、はあい」
頭のおかしい奴は何人も見てきたけど、私の知る限りだと露出癖があるのはこいつくらいだ。いやそもそもこいつは露出癖以外もえぐいものを持ってるが……
「ヒサギさんもすっかり慣れましたね♡」
「2回目なんですけど」
「素質アリ、ですね……♡」
「勘弁してください」
なんかこの、こいつの喋り方。
語尾に変なマークついてそうな気がしてすごくムカついてくる、別に見えるものでもないんだけどこう、無性に腹が立つ。
「初めて会った時なんて驚いて叫びながら私の胸にビンタを…」
「思い出させないでもらえる?」
「私は気持ちよかったですよ♡」
「分かったもう一回ビンタしてやるよ、顔面に」
「それはそれで……♡」
くそっ、無敵かこいつは。
あの時は……つい手が出てしまった。
「それはそうと…私はいつものですけれど、ヒサギさんは何故こんな夜更けに?」
「変態に言う必要ある〜?」
「実銃を携帯しない方も私と同じくらいのへんたいさんだと思いますけれど…」
一緒にしないでほしい、切実に。
「ハァ……別に、空見たかっただけだよ」
「空、ですか?」
そう言って一緒にキヴォトスの夜空を眺める。
「フフッ、意外とロマンチックなところあるんですね」
「そんなんじゃないよ」
「私ともロマンチックな雰囲気、なってみますか?」
「変態と仲良くするつもりはないよ」
「へんたいさん同士蜜月関係になれると思うのですが…」
「心にもないことを……」
この世界にはちゃんと電気が通っている。暗い場所もあるけれど基本夜でも街は明るいし、銃声だって鳴る時は鳴る。
「……良く星が見えるよね、ここの夜空」
「星、ですか?」
「これだけ大きな都市だと街の明るさで、星が見えなくなると思うんだけど……どう思う?」
「さあ……私はここ以外の夜空を知りませんから」
キヴォトスの空には大きな光輪がある。あれが何なのかは知らないけれど、多分意味なく存在するものじゃない。
私は確かに目がいいけれど、ずっとそうしているわけじゃない。疲れるから。その眼を開いて空を見て見ても、映る星空は変わらない。暗くて見えない星なんてのは存在しない。
「見えるものが全てっていうのも、面白くないと思わない?」
「……私はそれほど目が良くありませんから」
「目を背けているだけなんじゃなくて?」
「……あらあら」
変態行為に目が眩みそうになるが、こいつの……浦和ハナコの話は私も何度も聞いたことがある。えーとなんだったっけ…次期ティーパーティー候補と持て囃されたとか、なんとか。
それがまあこうなるもんだから、分からないもんだと思う。
「まあ、見ないフリしてるのはこっちもなんだけどさ」
「……でしたら、やっぱり私たちは似たもの同士なのかもしれませんね」
「脱がないぞ」
「それは残念」
正直言うと、トリニティはさほど好きでもない。あの時の言葉のようにお嬢様として振る舞えるわけでもない。確かに喧騒は少ないけれど……別の何かが蠢いているのを感じる。
派閥争いとか普通にあるし。まあ他の地域に比べたら飛び交う弾丸が少ないのは確かだと思う。
「……って、私はさっきまで全裸だったやつに何話してんだろう私は」
「猥談がお望みですか?」
「トリニティ七不思議、全裸で徘徊する女」
「あらあら、怪談にされてしまいましたね」
ハナコとは、歩く猥褻物でなければ気が合っただろうなという気はする。問題はそれなんだけども。
「私にも後輩ちゃんみたいに親しくしてくれてもいいんですよ?」
「同じ二年生じゃん」
「あら、私は生まれたままの姿になりますよ?」
「赤ちゃんって言いたいの?」
「ばぶばぶ♡」
「やめろホント」
というかどこで私とレイサのやり取り見てたんだこいつ。
「私はヒサギさんとも仲良くしたいんですけどねぇ、仮面を被ってる者同士」
「私のどこが仮面被ってるって?」
「何となく、ですが」
「………ふぅん」
こっちに出てきて自分の身の上について明かしたことはない。めちゃくちゃ頑張って調査したら分かるのかもしれないけど……この変態が私のためにそこまでしたとは思えない。
となれば、勘だろうか。
「その変態なところ直したら考えてやらないこともないよ」
「それは私の性分ですので」
「……まあ好きにしなよ。じゃあ私はもう行くから、風邪引かないように」
「フフ、お気遣いありがとうございます」
「………」
私が急に夜中に寮を抜け出してきたのは、本当に夜空が見たいだなんていうおセンチな理由ではなくて。
何となく寝れなかったから、それなら行きたい場所があったから。夜行バスとか駆使して、何とかやってきた。
「流石に廃墟かあ」
その学園はとっくに閉鎖されていて、取り壊されることもなく寂れたまま放置されている。立ち入り禁止のテープを飛び越えて中に入って見てもそれは変わらない。
アビドスどうこうと聞いて調べて見たけど、どうやら借金がどうとかでかなりギリギリではあるものの、10人にも満たない生徒数でどうにかやりくりしているらしい。
それだけ学園愛の強い奴がいるなら、シャーレに救援を要請するっていうのもまあ分からなくもない。猫の手も借りたいとかそういうアレだったのかもしれないし。
「まあここはそんなこともない、か」
みんな学園から出て行って、誰もいなくなって。残ろうとした生徒たちも学園を運営することはできなくて、そのまま。
「分かってて来たとはいえ……流石に寂しいなあ」
キヴォトスには数百数千の学園があるらしい。ここもそのうちの一つに過ぎなかったと、それだけの話。
「……感情にひたってる場合じゃないか」
誰かに見つかっても厄介なことになるしと、さっさと校舎の中に入る。記憶を頼りに進んでいき、目当ての教室へとたどり着く。
「埃っぽ〜……」
元々狭い学園だったが、トリニティと比べてしまうと教室一つとっても狭いし汚いし埃っぽいし、とても貧相な感じがする。
「ここには……ないか」
色々と放置されたままのものがある。教科書とか制服とか……爆薬や銃弾まで放置されているのを見かけた時は流石に肝が冷えた。
しばらく探索してみて、荷物が乱雑に積まれた生徒会室でそれを見つけた。
「記憶とは随分違うとこにあったな…」
何とかその一丁の狙撃銃を取り出して背負う。手入れはまあ、帰って寮でやればいいだろうし。
「……使う予定はないけどさ、一応もらっていくよ」
誰に訊かせるでもなく、強いていうなら自分にそう言って学園を出た。
これはまあ、個人的なケジメのようなもので。いつかやらなきゃやらなきゃと思っていたことを、なんか寝れないしついでにやってしまおうと、ただそれだけの簡単な話。
カバンの底から生徒証を取り出す。D.U.であのキリノって言うお巡りさんに見せたのとは別の、トリニティではない校章が描かれた生徒証。
それを思いっきり、空気で跳ね返ってこないように遠くに、学園の方に向けて投げた。
「……これでよし」
信条的に、この銃は私には必要ない。でもこんな世界だから、話し合いじゃどうにもならなくて、戦わなくちゃいけない時。ほんとのほんとにもうダメって思った時のために、これを持っておこう。
エデン条約、トリニティゲヘナ間の不可侵条約であり……まあ、締結されれば両学園のこれまでの在り方そのものが大きく変わるのであろう条約のこと。
ティーパーティーとゲヘナの万魔殿が勝手に話を進めているらしくて、連邦生徒会長が失踪したから空中分解になったと聞いたら気づけばもうすぐ締結するとか言い始めている。
理想とは違うけれど、平和になるのならそれはそれでいいんだろうなと初めて聞いたとき思った。
一緒に一抹の不安も感じて……
この銃はあくまで最終手段で、私の耐久的にもそう何回もやれるものではない。本当の意味での『奥の手』……使う事態にならなけりゃいいけど。
「……まあ、何か起こってもなんやかんやで解決するか」
私はこの世界のことをよく知らない。それはきっとこの世界に生きる誰もがそうで、そしてみんなそれを当然のことと受け入れる。
この世界に浮かぶ光輪も、私たちの頭の上に浮かぶ光輪も。
私は一体どうしたいんだろうか、どう思っているのだろうか。
自分のことなのに、自分のことじゃないみたいに自分のことがわからない。
「時間そんなにないのになぁ……」
いつもと変わらない夜空を見上げて、そう呟いた。