銃とか野蛮ですよね!というわけで銃捨てるね!!   作:ギアっちょ

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疑念と信頼

「……んあ?」

 

 寝ようと思ったら何やら向かいの部屋が騒がしい。先生の部屋のはずだけど……ヒフミと、ハナコの声?

 

「……コハルは寝てるか」

 

 私たちとは違って規則正しく寝て偉いなあと、勝手にほっこりしながら扉を開けて、先生の部屋へ入る。

 

「———はやめた方がいいですか!?知らなくてごめんなさい間に入ってごめんなさい空気壊してごめんなさいっ……!?」

「待ってくださいヒフミちゃん、詳しく教えてください!昨晩はお二人で何をしていたんですか、今晩は何をする予定だったのですか!?ぜひ説明を、いえいっそ今から私の前で実際に再現を——」

 

 なんだこの状況。

 

「コハルが起きちゃうでしょうがッッッ」

 

 私が扉を閉めて中に入りそう言い放つと、空気が静まり返った。

 困っている様子の先生と、ものすごく焦っているヒフミと……

 

「とりあえずお前はなんで水着なの?」

「……パジャマですよ?」

「なわけあるかい、着替えてきて」

「でも…」

「早くッッ」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……退学、か」

 

 ヒフミはハナコについて。

 そしてハナコはアズサについて、それぞれ先生に相談するつもりだったらしい。

 

 そのまま話の流れで、3度の試験に合格できなかった場合、私たち全員が退学となることを知った。

 

「……ヒサギさん」

 

 体操服に着替えて、こちらを向くハナコに静かに頷く。

 

「私たちも実はこの件については怪しいなと思っていまして……おそらくこれを企てたのはナギサさん」

「合格できなかったら退学っていうのはシャーレの権利をうまい具合に利用してできる荒業。……ヒフミは私たちの監視役、みたいな感じかな」

 

 私とハナコの述べた考えに、先生とヒフミの二人が驚いたような表情をして頷く。

 

「私はそのナギサって人のことよく知らないけど……」

「随分と焦っているみたいですね。エデン条約の障害となり得そうな人物をまとめて集めて……ヒフミさんと先生にその人物を見極めさせる」

「……全員合格が必要ってあたり、最悪全員まとめて退学にしようって魂胆なのかな?すごいこと考えるなあ……」

「す、すごいですねお二人とも……」

 

 何度かハナコと夜中に二人で話をしていた。まあ向こうのほうがどうやら随分頭が回るらしく……私は答えを導いてもらったような形になっていたけれど。

 

「やっぱり私たち全員容疑者ってことか……」

「ナギサさんらしくないというか……エデン条約を前にしてというのは理解できますが、そこまでするでしょうか…」

 

 ヒフミだって退学の可能性があるってわけだ。お気に入りだって聞いていたけれど……ハナコの言う通り、そこまでするだろうか?

 

 

 

 

 そのあとはとんとん拍子に話が進み……ハナコの話したがっていたことへと変わる。

 

「こうなってくると、やはり経歴の不明瞭なアズサちゃんと……」

 

 他の3人の目が、私の方を向く。

 

「…ヒサギさん。あなたの心情は理解しますが……最低限の事情を話すことが貴方のためであり……アズサちゃんのためにもなると思います」

「……はあ」

 

 まあ、最初から妙な因果だなとは思っていた。私の中でアズサはすでに捨て去った過去で……トリニティ自警団の澪標ヒサギとして生きる私には、関係のないことだと。

 

「……分かった、話すよ。全部じゃないけど……私とアズサの関係」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぽつりぽつりと話し始めたヒサギの話は、彼女自身の経歴については隠しつつ、アズサとのことについて語っていた。

 

「アズサの出身校は、アリウス分校。私もその時はよく知らなかったけど……どうやらトリニティと因縁があるらしくて」

「……その話は私も聞いたよ」

 

 突然この合宿所を訪れたミカからアリウス分校とアズサのこと。そして「アズサを守って欲しい」と頼まれたことを思い出す。

 

「……私がトリニティに来るよりもっと前、そこでアズサと出会った」

「…ち、ちょっと待ってください。っていうことはヒサギさんも、そのアリウス分校っていうところから転校してきたってことですか?」

「……いや、私は違うとこだよ。今はもう無くなってる学園だけど……まあなんというかこう……ね?色々あったんだよ」

 

 そう言いづらそうに語るヒサギには、どうしても隠したいことがあるようで。

 

「でもまあその色々で、アリウスで少しの間過ごしてて……その間に知り合ったんだ、アズサとは。それだけの関係で……」

「やはりアリウス、ですか……」

 

 ハナコが難しそうな表情をする。ヒフミはよく分かっていないようで……私も、少し疑問を抱く。だってこれでは……

 

「…って、これじゃあ私の弁明になってないか」

「も、もちろん疑っているわけじゃありません。ヒサギさんも同じく補習授業部の仲間で、これまで一緒に頑張って来ましたから……」

「ありがとね、ヒフミ」

 

 嬉しそうに微笑むヒサギ、けれどすぐに表情が暗くなる。

 

「私本当は……キヴォトスの外から来た…っていうか」

「……外?」

 

 外、というのはキヴォトスの外の世界という意味だろうか。

 もしそうなら、ヒサギは私と同じ………

 

「ごめん、いつまでも誤魔化すのは良くないって分かってるんだけど………上手く言えなくて」

 

 外から来た、どうやって?どんな風に?

 もともとキヴォトスの外にいた人間だって言うのなら、彼女が銃を扱うことに忌避感を覚えるのも理解できる。銃という道具への捉え方が他の生徒と違うことも。

 でも彼女にはヘイローがある。それは私が大人だからっていう簡単な理由かもしれないけれど……

 

「正直、私のことは信じてもらうしかない。私という存在がそもそも嘘で出来てるようなもんで……自分で何言ったって正直弁護にはならなくて」

 

 私もキヴォトスの外から来た、と言えばヒサギは安心するだろうか。そもそも彼女はそれを知らないのか?

 それでも彼女は、明らかにそれ以外のことを隠している。

 

「そっか、言えば言うほど不利になるから言いたくないのか私」

「そんなこと……」

「こればっかりはなあ……」

 

 以前彼女は私に「ヘイローが見えるか?」という問いをしてきた。私にヘイローは無く……彼女はヘイローを持っているけれど、まるで持っていないかのように銃に恐怖を抱いている。

 「自分の価値観を変えられないだけ」……その言葉の意味は。

 

「大丈夫ですヒサギさん、私にだって人に言えないことくらいありますし……」

「そうですね。少なくともあなたはそれだけ苦悩して、頑張って私たちに信じてもらおうとした。今はそれで十分です」

「……ごめん、ありがとう」

 

 怪しいけれど、裏切り者だとは思っていない。一緒に過ごしていてみんなそう感じている。

 

「あいつが……アズサがなんでトリニティに転校して来たのかは分からない。けどアリウスにいた頃より楽しそうな顔をしているのは確かで………私はその笑顔を疑いたくはない」

「……はい、それは私もです。アズサちゃんは絶対にそんな子じゃありません」

「………」

 

 

 ミカが言っていた、自分がアズサを入学させたという言葉。正直、どこまで信用すればいいか分からなくなっている自分がいた。

 

 アリウスとの橋渡しになって欲しいと思って入学させた……か。

 彼女は同じティーパーティーであるナギサが、エデン条約そのものを利用して好き勝手しようとしているんじゃないかという推論もこちらへ話して来た。

 実際にナギサはシャーレの権限を利用してまで補習授業部を作るほど、エデン条約を締結することに拘っている。でも本人も言っていた通り、それはミカからの視点の話だ。

 何かそうせざるを得ない理由があるのかもしれないし……判断するには情報が足りない。

 

 

 ヒサギのことも、謎が多い。とはいえ勝手に踏み込むような真似を……本人が話したがらないのに、私がそれを無視して調べ上げるようなことをしていいものだろうか。

 

「……今日はここまでにしようか。今はとにかくアズサとヒサギを信じて、試験に向けて頑張ろう」

「ですね。そもそも試験に合格してしまえばいい話です、コハルちゃんもアズサちゃんも確実に実力をつけていますし……私も次からはちゃんとさせていただきます」

 

 

 そこまで話して、一旦解散となった。

 

 ミカは何かしらの意図があってこちらに接触して来ていた。このことを皆んなに話しては混乱させてしまうかもしれない。

 一旦はアズサのことも、ヒサギのことも信じる。とりあえず今は試験に合格すればいい、ただそれだけ。そう話がまとまったのならそれでよしと、そう考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すごい…本当に見えてる……」

「自分、眼だけはいいので」

 

 猛烈な雨、濡れる洗濯物、着るものがなくなり最終手段で全員水着を着用し始めた。

 落ちる雷、暗闇に包まれる校舎。

 

「それだけ眼がいいなら、こんな水着一枚しか着ていない私たちの体のあんなところやこんなところも見放題、というわけですね……♡」

「バカ!先輩に何見せようとしてるのよ!!」

「あらあら、コハルちゃんだってヒサギちゃんにあんなところやこんなところも見られちゃうんですよ…?」

「そ、そんなわけないでしょ!」

 

 勉強どころではないので、電力が復旧するまで各自雑談や自由にしようということになり……なんかマグロの話とかしてたけど、あいにくそういう話題は何一つとして持ち合わせていなかったもので。

 眼が良いと言うことを話の種にして、この暗い空間でどこに何があるのかとかを言い当てることにした。割とウケがいい。

 

「この明るさでもそれだけ目が使えるのは羨ましいな、色々と役に立ちそうだ」

「あ、そういえばヒサギさんは自警団なんでしたよね、やっぱり暗いところでも見えると便利ですか?」

「ん〜、まあね〜」

 

 まさか銃使わずに素手でどうにかしてるなんて言うわけにもいかず、適当に流していると、コハルが私のことを心配そうに見ているのが視えた。

 

「先輩……」

「……そういえばコハルちゃんはヒサギさんにだけは敬語で先輩って呼びますよね?どうしてなんですか?」

「えっ!?あ、それは、その……」

 

 ああ、なんとなく流されていたけどやっぱり聞かれたか。

 ヒフミから見てもやっぱり気になるのだろう。コハル、結構当たり強く言うこともあるし、他のみんなには気を使うこともなく話しているから。

 

 チラチラとこちらを伺っているので、コハルの代わりに私が口を開く。

 

「私が正義実現委員会に一瞬だけいたのは何となく知ってると思うけど……その時に初めて出た戦闘で、今まで後方だったコハルも前に行きたいって言った……んだったよね?」

「……はい」

 

 私はまあ色々テストを受けて前衛向きとかそういう判定を受けて、とりあえず前に出てみようって話だったはず。

 

「廃墟に立て篭もった連中の一掃だったんだけど……戦闘の余波で建物が崩れたりして戦線がめちゃくちゃになって……」

「その時、ヒサギ先輩に危ないところを助けてもらったの」

「なるほどそれで……」

 

 近くにいたからたまたまだったけど……崩壊した建物の中で他のメンバーが埋もれてないか探していたら、コハルを見つけて。銃弾から庇って……まあそこからは今とやっていることはそう変わらない。

 

「そのあと色々あって私は正義実現委員会辞めちゃったんだけど……なんか今でも慕ってくれてるみたいで」

「もちろんです!私のこと身体を張って守ってくれて、安全なところまで連れて行ってくれて……」

 

 コハルは正義実現委員会に、そしてハスミさんに強い憧れを持っている。前に出たいって言ったのはそれの影響なんだろうと思う、本人自体は戦闘はからっきしだったみたいだけど……

 

「正直先輩はむず痒くて……せめてさん付けにしてくれた方が嬉しいんだけど」

「そ、そうですか?えっと……ヒサギさ、ん」

「……まあ別に先輩でもいいよ」

「うぅ…」

 

 正直敬語も……まあそこは本人が使いたがってるのかもしれないなあ。けど本当に一回きりだったし……その後お礼も何回もされたけれど、そのまま辞めてしまったから。

 ハスミさんにも引き留められたけど、結局。

 

「そういえば、ヒフミもハナコもヒサギをさん付けで呼んでいるな。私たちとは違う」

 

 言われてみれば確かに私だけさん付けだ。ヒフミもハナコもお互いを「ちゃん」と呼び合っているし……

 

「え、えっとその……ヒサギさんしっかりしてるので、そこまで距離を詰めづらいと言うか……」

「私は以前からの癖、ですかね」

「まあ別に距離を感じてるわけじゃないし構わないよ」

 

 私をヒサギと呼び捨てるのは、ここでは先生とアズサだけ。他は全員さん付けか……やっぱり距離を感じ……ないよ?うん。

 でも距離か……

 

 確かにヒフミだけは以前からの顔見知りというわけじゃないし、そう考えると距離を感じるっていうのも仕方ないのかもしれない。

 ……そう考えるとこの補習授業部、奇跡的な巡り合わせで私の知り合いばっかりなんだな。

 

「そう考えたら確かにヒフミとヒサギは二人とも最初から合格点は超えてるし、お互いに教えたりはないよね」

 

 静かに聞いていた先生がそう言い出す。

 

「で、でしたらやっぱりモモフレンズ!モモフレンズを一緒にどうですか?」

「え?あぁ……」

 

 私は特に何も思っていなかったけど、ヒフミは自分だけ私と距離感があるなとか感じていたのだろうか。もしそうだとしたら少し申し訳なく思える。

 

「そうだ、ヒサギもモモフレンズ仲間になろう、世界が変わるぞ」

「大袈裟な……まあ、確かにそこまで言うなら……」

「や、やった!欲しい子考えといてくださいね!」

 

 せっかく歩み寄ろうとしてくれてるんだから、拒絶する理由なんかない。相手の好きなものを知って仲良くなれるならそれに越したことはない。

 ……そういえば私、趣味とか特にないなあ。

 

「ふふっ、色々大変ですけど……やっぱりみんなに出会えてよかったって思っちゃいます。……あ、電気つきましたね」

 

 電気がつくと同時にみんなして一斉に上を向いたけれど。

 ヒフミのその言葉を聞いた時、アズサの表情が少し暗くなったような気がした。

 

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