様々な用具が並べられている薄暗い空間。木の人形のような者が椅子に座り、こちらに背を向けながら何かをキャンバスに描いている
「……………よく来たな、体現者よ」
「まぁな…あ、ここ座るぜ」
「構わない。後少しで一区切りだ、それまでは好きに寛ぐといい」
木人形はギシギシと音を立てそう言う、相変わらずこちらを見ずに筆を走らせているので俺も何も言わずに近くにあった丸椅子に座り込む
「――――――――――ふぅ」
少し経つと走らせていた筆を置き、一息つきこちらへと向き直る
「すまない、待たせてしまったか」
「いんや、別にこれくらいなら幾らでも待つよ。それで?出来栄えの程はどんな?」
「可もなく不可もなく、と言ったところか」
自嘲気味にそう答える。しかしチラッと作品を見た感じでは、素人目線でも良い絵画だなと思う出来栄えなのだが、本人が納得していないのなら何か言って称賛するのも野暮だろうと思い口を閉じる
目の前で体を軋ませているタキシード姿の木人形……もといマエストロは、部屋の奥へと向かう
「ん、どこいくんだよ」
「珈琲でも取ってこよう、折角の客人なのだから丁重に持て成すとも」
「別にいいのに………ブラックで」
「分かっているさ」
そう言い残してマエストロは奥へと消え、少し経つとコーヒーの香りが漂ってくる。俺は近くに立て掛けられた絵画や彫刻などを横目で鑑賞しながら考える
あれはそう、数週間ほど前の事だ。
――――――――――
「…ん、なんだこれ」
生徒会室、壁に先日はなかった絵画が立て掛けられている。見れば見るほどどこか惹かれるその絵画は、不思議な魅力を放っていた
「どうかしましたかエル?」
「あ、ホシノ」
ホシノも絵画を見ると頭に?を浮かばせ、2人して首を傾げる
「おはよ〜2人とも!今日もいい天気だねぇ……およ、2人ともその絵画気に入ったの?いいでしょーいいでしょー?私も気に入ってるんだーその絵画」
「この絵画、ユメ先輩のですか?」
「そう!昨日の帰りにね、歩道脇に放置されてたから…勿体なく思っちゃって持って帰ってきたんだぁ〜」
「へぇ、こんなものが捨てられてたんですか…世も末ですね。これ売ったらいくらするんだろ」
「売らないよ!」
いや本当に、この絵画売ったら相当の値段しそうな一作なのに…こんなの捨てられてるんだな、しかもこのアビドスで。普通ヘルメット団か浮浪者とかに取られてるもんだと思ったんだけどな、とするとユメ先輩が拾えたのって奇跡なのか?
そうして次の日、俺はなんとなくユメ先輩が絵画を拾ったと言った場所まで足を運んでいた
「ここねぇ…こんなところにアレが置いてたとか…もうなんかの罠って言われても違和感ないな」
「アレ…とは、一体何なのかね」
「え」
声がした方へと振り返る。そこには2つの木の人形が継ぎ合わせられた不格好な人、のようなものが立っていた
「一度手放した失敗物とは言え、それは自らが手掛けた作品の一つに過ぎない。故に見に来たが……昨日の今日とはこの事か、もう持っていかれるとは」
「えぇーと」
「あぁすまない、私はマエストロとでも呼んでくれ」
目の前の彼は自らをマエストロと称する。マエストロって確かアレか?芸術家に対しての敬称とかだった気がするが……それを自分で名乗るのって凄いな
そうして、俺はマエストロさんに話を聞いた。というか勝手に話し始めたんだけど
そんなこんなで話が終わる。今のマエストロさんの話を聞く限りはこういう事だ
どうやらあの絵画はマエストロさんの描いた作品の一つで、完成前の一工夫として1日天日干しをしていたとか。いやなんで?なんでもそういうモノだと言うが……芸術家ってわかんねぇ
「そうか、ならば持っていてくれ」
「えっ、いやでも」
「それも1つの縁だろう。幸いにも私にとっても手放して不足ない品なのでね、個人的には納得はできないがそれでも気に入ってくれた者がいるのなら作品もその者の手にあったほうが良いだろう。なに、折角の餞別というものだ、ありがたく受け取っておけ」
彼の手がけた絵画をうちの先輩が持って行った事を話すと、何事もなく絵画を譲ると言ってきた。少し申し訳ないではあったが、本人が言うからいいのだろう、ありがたく受け取っておこう
そしてその後、彼とモモトークを交換して解散した。なんでも「これも何かの縁だろう、暇なら私の工房へ来るといい。出来る限り歓迎しよう。君なら作品への良いインスピレーション、刺激をもたらすだろう」とのこと。よく分からないがまぁ良いかと思う、それにマエストロさんの作品は個人的に好きだし、それを無償で見れるというのだからこれを断る理由はない。俺って案外芸術好きだったのかも知れないな
そうして彼と出会ってある程度経った。互いに言葉を交わし、偶に暇な時に俺がこの工房へ立ち寄ったり、共に芸術について語らったり(殆ど頷いてるだけ)と、なんやかんやで親睦を深めた。そうして少ししてマエストロから敬語を外してもいいと言われ、俺も自然と敬語を外していき、マエストロに対しフランクに接するようになっていった。マエストロもそれを気にした様子はないから良いのだろう、心が広いタイプの大人だ
それと、何故かマエストロからの最近の俺の呼び方が“体現者”なのだが、どうにかできないだろうか。アレだ、厨二病全開でカッコいいのだが、やっぱりそう言われるのは慣れない。だがマエストロが厨二心を理解していると理解した瞬間でもあるので、マエストロとの心の距離が少し縮まった気がした
――――――――――
「マエストロ………おや、彼はもう帰ってしまったのですね」
エルが帰って少しして、黒スーツを着こなした男性が工房にいるマエストロへと声を掛ける
「黒服か、そうだな。彼は既に帰った、一足遅かったな………して、その装置で来たのか」
マエストロは黒服と呼ばれた男性の持つ手のひら大の機械へと視線を向ける。幾何学模様を成して淡い光を発するそれは現代の、いやここ
「ええ、この前デカルコマニーから素材提供していただきまして、その時のオーパーツを加工して座標軸を自主選択できるようにした物です。元々はここギヴォトスという箱庭全体を模した被写体を内包する物体でしたが、今ではこうしてギヴォトス内を自由に移動できる利便性を獲得したのです!まぁ一度使用すると破損してしまい2度以降は機能しなくなるのが欠点ですが」
そう陽々と話し出す黒服。マエストロは「ほう」と一言感嘆の声を漏らし、それをまじまじと見つめる
「やはり貴殿は分野は違えどその技術力は凄まじいな、黒服よ。私の芸術に流用できそうにもないが、創造意欲に程よい刺激を与えてくれるものだ。して、ソレの量産には至っているのか?」
「ええ、なにかと便利ですし、改良の余地ありです。まぁ試作型ですかね、完成には届きませんが量産法は確立済みです。良ければ貴方もどうですマエストロ」
黒服は懐から先程の物と同一の新品を取り出し、それをマエストロは「頂こう」と受け取る
「あぁそうでした、マエストロ、マダムから
『ヘイロー破壊爆弾の在庫は残っているか、あるなら余すことなく寄越しなさい』
……との事です」
「またか?まぁ在庫はまだあるが…マダムはアレを何に使用するつもりだ。前言っていた学園統治は既に済んでいるだろうに」
「恐らく殺人兵器としての運用を考えているのかと、それの予備の補充とかでしょう」
「物騒な、まぁ私の認知する事柄では無いが」
「随分と無責任な……あぁいや、製作者に使用方法について問うのはお門違いでしたか」
「そうだな、例え話になるが………ナイフを作った者がいるとする。その者からナイフを買った者が、そのナイフで殺人を犯す。果たしてそのナイフを作った者は罪に問われるか?と問われるとNOだろう。同じく、私も私の作品の使い方に関してどうこう言われる筋合いなど何処にもない」
「ご尤もですね」
「……………」
「……………」
一区切り話し終わった二人の間に、少ない沈黙が流れる。それは気まずいだとか会話のネタが無くなったとかでは無い。それは双方理解している
「それで……彼はどうでしたか?マエストロ」
黒服が口を開き、本題へ移る
「そうだな、今のところはそこらの生徒達となんら変わりはしない平凡だな。その身の丈に合わない腕力と生徒に在るまじき肉体強度のなさに目を瞑ればだが」
「あれは?」
「機能したさ、しっかりと。そうして分かった、
「!」
「おかしなものだな、あの性質は。
「……………そうですか、これで確定と言ってもいいのではないでしょうかね、彼の本質。かの厄災を差し置いて尚前面に現れるテクスチャ、その人間性……その中身」
「あぁ、だがまだだ、まだ様子を見たほうが良いだろう。それに彼の者は私の芸術を理解はできなくとも己の見解を広げる者として真摯に向き合う」
「それはまた…彼は貴方の芸術、貴方自身の目指す崇高にとっても有益と言う訳ですか」
マエストロは静かに頷く。それに対し黒服とどこか納得した様子を見せる
「では此方からは以上だ」
「そうですね、では彼の話はここで区切るとしましょう。ではそうですね………私が今主体として行なっている研究なのですが――
――――――――――
「………ん?あれ、ユメ先輩また拾ってきたんですか?」
「え?いや、私知らないよ?」
「あ、ユメ先輩が持ち帰ってきた絵画の元の持ち主から貰いましたソレ」
「「え?」」
その日、我が生徒会室に絵画がもう一つ増えた
過去編はさっさと終わらせたいぜ、ということで巻きで行きます
それとしてマエストロのエミュムズくないですか???