♧月△¥日 晴れ
柴関ラーメンの朝は早い。開店前に軽く店内の掃除を行ったり、ラーメンの具材などの在庫をきらしていないかの確認を行う。そうして営業開始だ
午前中はあまり人は来ない。客足が悪いから俺も大将も基本的に暇になる、その時間を使って雑談などをしている場合がほとんどなのだ
午後になると人が訪れる。稀に誰も来ないこともあるが本当にそういうことは稀だ、お客さんはだいたい午後に来る場合がほとんどなのでこの時間帯は忙しくなる。ラーメンを作れるのが大将しか居ないから大将の負担が必然的に大きくなるので、はやく俺も料理が作れるようになりたい。そうしたら大将の負担が少しでも減るはずだから
大将は「気にすんな」って言うけど気にしない訳が無い
ラーメンの作り方は大将に教えてもらってるけどまだまだ、大将の味には遠く及ばない。大将は美味しいと言ってくれはしたがこんなものを出せるわけがない。まだまだ精進が必要だ
♧月△⊿日 やや曇り
最近風の噂で聞いたのだが、柴ラーメンには悪魔がいるらしいという話を耳にした。バカバカしいと思いながらも聞いてみて、そして調べてみて分かったのだが、どうやら俺が先週叩き潰したヘルメット団が噂の発生源らしい
店に入るなり銃で脅してきたものだから咄嗟に顔面から叩き潰して、他の奴らも真正面から拳で制裁してやったのは覚えている。銃を持った相手に勝てたのは相手が油断と慢心をしまくっていたところを突いたからだし、店内で狭かったのでこちらに分があったことが重なった出来事なだけであって決して俺自身が強いわけじゃない。一般人が普通にやり合って複数人いる銃持ちに勝てるわけ無いだろいい加減にしろ
けどその噂が誇張され尾ひれがついて、現状噂がひとり歩きしている感じだろうし、もう俺じゃどうこうする術はないので諦めて噂の件は放って置くことにした
そもそもの原因はアイツらがこっちに迷惑かけてきたからだし、これで向こうが萎縮して次がなくなるなら良い事なんじゃないか?あーだから3日前来たヘルメット団大人しかったのかな、わからないけど
♧月▢◯日 晴れ
今日、大将に買い出しを頼まれた。ペン数本とノート2冊、乾電池にボディーソープの詰め替え。そのために大将からお金を渡されたのだが、明らかに過剰だ。聞いてみるとなんでも、ついでに気になるものでもあったら俺の好きに使って買ってきても良いとのこと。つまり臨時のお小遣いだ
俺はウキウキして外に出た。そうして指定されたものを買った後に、店で一丁の拳銃を購入した
最近大将に教えてもらったのだが、ここギヴォトスでは銃を所持していない人間が全裸徘徊している人より少ない超銃社会らしい。いや何処の世紀末だよと思いつつ、納得せざる終えなかった。だってヘルメット団の連中のことずっと疑問に思ってたもん、なんでそんな堂々と重火器所持出来てんの?と。現実は銃刀法違反そのものが存在しないだけだったとは驚きだが
そうしてなんやかんやあって一丁のハンドガンを購入できた。正直いらないとは思うが、護身用として身につけるくらいはすべきだろう
そして帰る途中、あまりの暑さに参ってしまい休憩と称して残った小遣いを使いアイスを購入、近くの日陰で美味しく食べた。アビドス暑すぎだろ?流石におかしい
アビドスの異常気象どうなってるんだ、エジプトかよ(偏見マシマシ)
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♧月▢◯日 晴れ
エルが日記をつけてたから触発されて、今日から日記をつけていこうと思ってる。けどまぁ回数自体は少なめになるだろうけど
アイツを拾ってからそこそこ経った。アイツはいい子だ、真っ直ぐで思いやりがあるし、自分をしっかり持ってる。ただ少しばかり危なっかしいところもあるが、そこはご愛嬌
ただ最近密かに思うことがある。アイツの青春はこんなおっさんと一緒のラーメン屋でいいのかって。アイツはどこの学園にも所属してねぇ、そもそも身元も本人も良くわかってねぇくらいだ、当然と言えば当然なんだがどうしても思っちまう。聞けばアイツは自分の歳を「多分中学生くらいの年齢だと思う」って言ってたから、余計に
だから、アイツに少しでも与えてやりてぇ
こんな砂にまみれた場所でも、青春ってのはあるってのを教えてやりたい
その事を最近うちに通うようになった嬢ちゃんに相談したら「私に任せといてー!」って意気込んでたから、嬢ちゃんに任せようと思ってる。なんでも嬢ちゃんはアビドス高等学校の生徒会長だというが、大丈夫なのだろうか
アビドス高等学校には在校生は2人しかいないと聞いた、借金もあるらしいし心配だ
どうかこのアビドスが、少しでも子どもたちが笑える場所になれるように願うばかりである
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「でさでさ〜、うちの後輩が可愛いのなんの!」
「そうなんですねぇ、それはそうとラーメン早く食べないと伸びちゃいますよ?」
「それでねぇそれでねぇ――」
「駄目だ聞いちゃいねぇ」
俺は悪態をついてカウンターに座る少女に目を向ける。しかし目の前の少女は楽しそうに俺の声が届いていないように次々に聞いていないことを語りだす。俺としては折角の柴関ラーメンが伸びてしまうので早めに召し上がってほしいところなのだが、興奮したように嬉々として喋り続けるこの少女には俺の望みは届かないようだ
彼女の名前は梔子 ユメ。水色のロングヘアーでとても立派なおp………胸部装甲を兼ね備えている、ほわほわした少女。(恐らく)年上らしいのだが接している限りはどうしてもそうは思えない、しかし一応年上ということなのでユメ先輩と呼ぶことにしている。本人は「後輩が増えた!!」と喜んでいた
ユメ先輩はここ最近ちょくちょく来るようになったお客さんであり、こうして俺に対して聞いてもいないのに自慢げに後輩のことを話してくることが多い。来るのは良いのだが、俺としては会話よりしっかりラーメンを味わってほしいのが本音である
「でね〜、もう一人でやってくしか無い!って思ってたときに来てくれてね〜、その時すっごく嬉しくて嬉しくて!思わず抱きついちゃったんだよね!!それでねそれでね――」
「いいから早く食べてくれません?折角のラーメン伸びるんですけど?食べないなら追い出しますよ」
「ひぃん!エルくんが冷たい!!」
少し声を大きく脅すような声色でそう言うと、ユメ先輩はいそいそと食べ始める。ユメ先輩と会ってから数週間、早くもこの流れがテンプレとなりつつあるかもしれない。まったく…悪い人じゃないし、少し好きなことに夢中になっちゃうだけで善人だとは思うんだけど………これが残念美人というやつなのか?いや違うな、これはただ阿呆なだけだ
そんな感じで勝手に頭の中での考えに一区切りつかせたところで、ユメ先輩が麺をすすりながら、こちらに言葉を投げかけてくる
「いや〜明日は忙しくなるかもね〜」
「ん?なにかありました?」
「エルくんの歓迎パーティーだよ!」
「歓迎?」
頭の上に疑問符を浮かべる。歓迎パーティー?誰の?………俺の?
「そう、我が校の転入生、エルくんの歓迎パーティー!これで全校生徒三名になるよー!!!」
「………え?なにそれ聞いてないんですけど」
「…あれ?言ってなかったっけ?」
聞いてない、そんな重大なこと。俺は反射的に大将の方を向く、大将は俺達の会話を聞いていたようで親指を立てていい笑顔をした
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「はぁ…まさかなぁ……」
俺は軽くため息を付く。新しい新品の制服に袖を通し、ネクタイを締める。アビドスの校章が刻まれた少し大きめのロングコートを羽織り、寝癖を少し整える。俺の知らないところで俺の転入先の受け入れ準備が着々と進んでいたことに気づいてから一日が経過した。今日がアビドス高等学校の初日登校になる。展開早すぎだろ
この俺が着けてる制服類は大将が前々から用意していたものらしい。元々俺が着ていた制服はもうボロボロで着れたもんじゃないしな、わざわざありがたい。更に俺が目覚めたときに身に着けていた黒いバックもクリーニングに出してくれていたらしく、朝キレイな状態で手渡された
アビドス高等学校………一昔前は生徒の溢れるマンモス校だったが、砂嵐などの異常気象のせいで生徒や住民が離れていったと聞く……ユメ先輩はともかくとして、ユメ先輩が常々話してた後輩はどうしてそんな高校に進学したのだろうか
ちなみにその後輩と俺は同じ一年生らしい
「おいおい!コレ、忘れもんだぜ」
出かけようとした矢先、大将が一枚のカードをポケットから取り出して渡してくる。見ればそれは学生証であった。大将とユメ先輩でどうにかこうにか用意をしたらしい
これでようやく、俺にも自分を証明できるものができたとのこと。なんだかしみじみとしてしまう
「行ってきます大将!」
「行ってこい、エル!」
元気よく大将に背中を押されて、俺は店を出る。照りつけるような強い日差しの中一歩、また一歩とアビドス高等学校へ歩き始めたのだった