「という訳でエル、戦闘訓練しますよ」
「まてまてまてまてまて」
「大丈夫です、ゴム弾ですから死ぬことはありません。それに…死なない程度に殺しますから」
「それ結局死んでるのでは!?」
「頑張って〜!」
アビドスに転入してから数週間が経過した頃。俺は今、ホシノから銃口を向けられており、少し離れたところからユメ先輩が応援をしてくれている。
何をするのかと言うと、今ホシノが言った通りに戦闘訓練を行なうのだ。俺の手には何時もは使わない拳銃。だが正直俺はこの戦闘訓練をやりたくない。だってホシノ相手のタイマンはもう4ねって言われてるようなものじゃねぇか!?ホシノの目を見てみろよ、あれは絶対殺すって意思が宿ってる、あの目をしたホシノから生き延びるなんてできるわけがないだろういい加減にしろ。俺はヘルメット団の銃弾でさえ危ないんだ、ホシノが放った弾丸がゴム弾とは言え、直撃したら痛いどころの話ではない
こんな状況になったのは何故か?それは少し時間を遡ること1日前――――――
――――――――――
「あ、エルじゃないですか」
「ん、ホシノか」
「何してるんです?ってかその無駄に大きい段ボールなんですか」
ホシノは俺が持っている段ボールを指差して言った
「これか?これは防弾チョッキだ。最近買って今さっき届いた」
「防弾チョッキ?」
そう、段ボールの中身は防弾チョッキが入っている。前々から欲しいとは思ってたが金銭問題で買えなかったのだが、最近は少し…ほんの少しだけ余裕ができたからその金を使って自腹で買ったのだ
銃弾一発だけで余裕で死ねる身体だし、というか今までが対策しなさすぎだったのだ。幸いにも今の今まで銃撃戦に飛び込んでいたのにもかかわらず、銃弾による傷は一つもないのだが……これからもアビドスを護ると言うのならヘルメット団からの襲撃も増えるだろうし、身を護るには防弾チョッキの1つや2つ必要だろう
「貴方…防弾チョッキ必要ですか?そんな弱くもないでしょうし、貴方の戦闘スタイルに合わないでしょ」
「必要だよ必要、だって銃弾1つで死ねるぞ?俺。ってか戦闘スタイルは近頃変えようと思ってんだよなぁ、流石に近づいて殴り飛ばすは続けてたら死ぬ、いや死ねる。というかホシノも使ってんだし人のこと言えないだろ?」
そっかぁ…思い返すと俺、ホシノの前で戦闘する時って拳しか使ってないのか。いや今までもそうだったけど、流石にマズイ。銃持ってる奴等相手にいつまでも丸腰スタイルはおかしい、そこら中に銃売られてんだから適当に買って、そして銃で戦ったほうがいい……因みに大将も俺の戦い方に思うところがあったのか、少し前に心配された
「…は?」
「え?」
何故かホシノが目を開いて固まった。驚きと言うか、なんというか。そんな表情だ。あれ、俺なにか気に障ること言ったっけか
「エル、今なんて言いましたか?」
「いやどれ?防弾チョッキ、お前も使ってるから人のこと言えないだろーってやつ?」
「違います」
違うかー
「貴方が銃弾1つで死ぬ、というところです」
あ、そこ?
「それで?それがどうしたんだよ」
「私、初耳なんですが?」
「………あれ、言ってなかったか?」
「聞いてません」
ホシノの目つきが鋭くなる。目つきだけで人殺せそう、さながら今の俺は蛇に睨まれた蛙ってとこか?いや普通に怖い
「エル、貴方銃弾1つで死ぬのにも関わらず今まで前線で戦ってたんですか?」
「えっと、はい」
事実なので素直に肯定する。ホシノからの圧が更に重くなったのを感じ取った
「エル、この事ユメ先輩は知ってるんですか?」
「え、いやー…恐らくホシノと同じく伝え忘れてたかなーって………」
「はぁ…エル、今時間あります?ありますよね?少し説教に付き合ってもらいますよ」
「えちょまっぐえッッッ!?待っちょい待って苦しい苦しい苦しい!?離せッ………いや力強ぉ!?」
ホシノは制服の襟を掴んで俺を引き摺りながら歩き出した。俺も抵抗したがホシノの力がいつもより何倍も強く、力で勝てない
そうこうしていると、ホシノと、ホシノに引き摺られながら尚抵抗を繰り返す俺の進行方向から歩いてくる人影が見えた
「あれ?何してるのホシノちゃん」
「あぁユメ先輩」
「ユメ先輩!?助けてー!!!」
「え?え?何してるの…?いやホントに何してるの!?」
ユメ先輩の驚愕の声が響いた
――――――――――
そして現在
「ぜぇ…ぜぇ……かひゅー…かひゅー……かひゅー……ゴホッゴホッゴホッゴホゴホ」
「だ、大丈夫ー?」
「心配無いですよユメ先輩、このバカはこの程度でくたばりはしませんから」
俺は死にかけていた
いや死ぬ、死ねる、なんなら今死にかけてる!
ホシノ主催で急遽開催された戦闘訓練、又の名を蹂躙。俺は情けなく地べたに横たわり過呼吸になりながらも必死に酸素を身体に取り入れていた
まぁ戦闘訓練の結果はご覧の通り、ホシノは無傷、俺は
力の差がありすぎて最早悔しいという感情も湧かない
息を整えている俺の側でユメ先輩が心配そうに声をかけてくるが、ホシノがそれを御す。ホシノが辛辣過ぎて泣けてきた、泣いてもいいか?
「はぁ…はぁ…はぁ……ホシノ…少しくらい手加減とか、なかった、のか?」
「あるわけないじゃないですか、そんな事してたらエルの為になりませんし」
ご尤も。そもそもこの戦闘訓練は、ホシノが俺のために用意したものだ。俺が思っていたよりも数十倍貧弱だと知ってから、それでも前に出て戦うという俺。そしてホシノが折れた結果、その妥協点として「ならせめて私が納得するくらいまで強くなってください」とホシノが用意した場なのだ。俺も確かにとは思った。だけどそれとこれとは話が別だと思う
「エルくん、はいお水!」
「あ、ありがとうございます…ユメ先輩」
ユメ先輩が水の入ったペットボトルを持ってきてくれた。オレはそれを受け取ると、ごくごくと勢いよく飲む
「……っはー!運動後の水は美味いな!おかげで生き返った」
「あ、先輩私にもお水あります?」
「勿論あるよ〜はい!」
「ありがとうございます」
そうして、今日の訓練は終了した
……そう、“今日の”訓練は。ホシノ曰く「納得できるまでビシバシ鍛えます」だそうだ
……俺、生きてるかな
――――――――――
「じゃあなーホシノ」
「ばいばーいホシノちゃん!」
「はい、ユメ先輩とエルもまた明日」
時間となり、各々が帰宅する。辺りはもう暗くなっており、夜風が吹き髪を揺らす。いつもの帰路、街灯もロクに整備されていない道を歩く。今日は何時もよりも疲れた
昨日知った、エルは私達より圧倒的に体が脆い。当たりどころによっては銃弾1つで死んでしまうほどの。他のヘイローを持つ一般的な生徒と比べると、エルはヘイローを持っているのに何故だが耐久性は無い、本人もよく分かっていなさそうだった。コレに私はキレた
だってそんな状態で今まで銃を構えたヘルメット団と戦闘を繰り返していたのだ。今までは運が良かったから怪我はないとエルは言っていたが、言い換えれば運が悪ければ死ぬということ。少し、いやだいぶ馬鹿だ、自分の生死をまるで考えてない。でもエルはあの性格だ、まだ付き合い自体は短いが彼の性格はよく分かった。彼はそれでも変わらない。どれだけ言ったとしても変わらないんじゃないかと思ってしまった
だから戦闘訓練としてエルを鍛えることにした。エルは強い、けれど私に比べたらだいぶ劣ってしまう。それではいけない、私は戦闘訓練を通してエルの“回避能力”を鍛えることにした。結果としては成功、最初は被弾しまくりだったのが、終盤では少しではあるが回避することができるようになっていた。これで少しは安心できる、これを続ければきっと………そう思い至ったところでふとあることを思い出す
〝「郭雲 エル、彼の監視ですよ」〟
〝「監視?なんでそんな事、それにそんなことお断りだ」〟
〝「クックック…ですが、これは両方共に利があるものですよ?」〟
〝「ふざけるな」〟
〝「私はふざけてなどはいませんが…まぁ良いでしょう。断りたいのでしたらどうぞご自由に」〟
あの時、黒服が言っていたことが頭の中で反響する。今まで私を人体実験するための契約を求められてきていたが、そんなアイツが今度はエルに視線を向けた。私だけではなく、私の周囲の人間にも被害は広がっている。それが私にはどうしようもなく看過できなくて
〝「…おい、黒服」〟
〝「はい?」〟
〝「私だけならまだいい、だけど、エルやユメ先輩達にまで手を出そうって言うのなら私はお前を許さない」〟
〝「…ふむ、あの生徒会長には興味はないのですが…彼は別ですね、ええ…私はまだ手は出しません。それに貴方にお願いしたのはあくまで“監視”ですし、こちら側としてもまだ調査途中でして接触はなるべく控えたいんですよ」〟
何故アイツが私に監視をお願いしたのか、何を調査してるのか、分からないことはいっぱいある。エルの何がアイツの琴線に触れたのか分からないから私も対策しようがないし、こんなことユメ先輩やエルに相談もできない、いらない心配をかけてしまう
だから1人で考える。でも、何も分からない。エルに何があるの?エルは何か隠し事でもしてるの?それが私やユメ先輩にも言えないようなことなの?
星空をぼんやりと眺める。いつまで経っても、その答えは出そうもなかった
ユメ先輩「そういえば、ホシノちゃんなんであんなにエルくんに怒ってたんだろう?」
またしても何も知らないユメ先輩
曇らせ要素を全然まだ出せていないというね、うん。早く曇らせさせたい!