飛鳥馬トキの姉なる者   作:てれととん

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性格白ひげだけど主人公に人の心はありません


人の心がない人

 姉さん 飛鳥馬シオンは強い人だ。

 腕っ節も私ほどではないが立つし、何よりも心が強い。折れるということを知らない人、負けを認めることはあっても最後まで足掻くのを辞めない人だ。

 

 そして目的達成の為ならば努力を惜しまず、使えるものは何でも利用する執念深さを持つ人でもある。

 一緒に手を取り合いながら生きてきて10年と少し。長い人生の中でまだまだ序章も序章でありながら散々体感してきたその感想を、私は今再び痛感させられていた。

 

「どうか……どうか私を助けてくださいっ! ほんの少し、ほんの少しのお情けをッ!!」

 

 車椅子の上で姉さんが声を張る。

 口の中を本気で噛んだ痛みで溢れさせた涙をボロボロと流し、失った手足の代わりとなる義手義足を装着して右目を眼帯で覆う自分の肉体を晒して街頭募金を募っている。

 

 私たちがトリニティ総合学園で事故に巻き込まれたというニュースは、姉さん退院した頃には既にミレニアムサイエンススクールの自治区内外で広まっていた。

 

「私は以前のように歩きたい! 私の可愛い妹の手を煩わせることなく横並びで、同じ歩幅で歩みたいんです! 歩みながらしっかりと妹の手を握りたいのです! だからどうかっ、どうかお願いします!」

 

 普段の強気な姉さんらしからぬ懇願する姿は痛々しくて見るに堪えないものがある。

 

 私は知っている。姉さんは芝居をし、街ゆく人々の善意を利用してお金を集めている。

 ウソは吐いていない。私の手を煩わせたくないのも、私と一緒に歩きたいのも、私の手を握りたいのも姉さんの紛れもない本心だ。

 

 だから尚更タチが悪い。本心を本気で訴えているのだから、街ゆく人々の足を止める気迫と善意を煽る悲壮さが嘘偽りなく振りまかれている。

 

「こんな歳若い子が苦労しているのに俺たちは見て見ぬふりをするのか!! それがミレニアム自治区に住まう俺たちに許される行為か!!」

 

「そんな訳ないわ! 私たち大人が子供の苦しむ姿を無視するなんてこと、あってはならないと思わないの!」

 

 感化された人達もチラホラと現れ出しており、いつの間にか姉さんの周りには顔も知らない人々が集まって大声を張り上げるようになっていた。

 

 それを姉さんは涙ながらに感謝の言葉を伝えて頭を下げているが、思惑を知っている私としてはあまり心中穏やかではない。

 

(姉さんのことを良く知りもしないで都合の良い人達ですね)

 

 子供が苦しんでいるのを助けたい、その心意気は立派だと褒められるべきものではある。

 だからこそ、その心意気に怒りを覚える。()()()()()()()()()()()()()()()()()()として姉さんを扱われているように思えてしまうから。

 

「妹さん、私たちが貴方のお姉さんを助けてあげるから大丈夫よ!」

 

 気弱そうな通りすがりの女性が、姉さんの座る車椅子の後ろに立っている私に向けて優しくて耳障りな言葉を投げかけてくる。

 

 何が助けてあげる、だ。

 自分たちの内に今しがた芽生えた正義感や普段の生活で積もり積もった不満を吐き出す為に、私の姉さんを利用しているだけで腹立たしいのに助けてあげるだ?

 

 冗談はそのツラだけにしてくださいと怒鳴りたくなった。

 握った拳を振り上げたくなった。

 

 ここまで誰かにイラつかされたのは、それこそずっと初恋中の相手である姉さんに対するアプローチを総スカンされ続けている時以来だ。

 

「嬢ちゃん、しっかりな! 辛くても負けないでくれよ!」

 

 男性から投げかけられた暖かいような言葉は、その実生ぬるくてドブにも勝る悪臭を帯びている。

 姉さんの引き締められている肉体に対して向けているその下卑た視線、私が気付かないとでも?

 

 姉さんも姉さんだ。その視線に気付いていながらも演技を続け、下品な欲望の的として見られている事を良しとしている。

 妹としてはガツンと「その(自主規制)叩き潰してやろうか!」くらい言って欲しいものだが、泣きながら「ありがとうございます! 頑張ります!」と売り込みをしている。

 

「どうかSNSにも拡散してください! 私が妹と以前のような生活を送る為には、どうしてもお金が必要なのです!」

 

 姉さんは正義感やストレスの捌け口にされることも、下品な欲望の的として見られることも、当初からそうなる事を含めて今回の行動に出ている。

 

 涙ながらに感謝を伝えている姉さんだがその胸の中では笑っているのだ。これで資金調達がしやすくなる、と。

 いや、もっと心無い表現をしていただろうか。

 病室のベッドの上で計画について語っていた時の姉さんを思い出すと、我が姉ながら人の心が無いと呆れとも感動とも取れる感想を抱かせられる。

 

(金策ですか……流石は姉さん、人の心が無いです)

 


 

 数日間に渡る街頭募金活動によって、それはもうかなりの額の金額は集まった。中等部の生徒が持ち歩くには多過ぎるくらいであり、何ヶ月遊び呆けられるかの概算も出せないほどだ。

 

 私としてはこれでもう十分なのではないかとも思っていたが、姉さんは止まらなかった。人の心なんてなかった。

 

『よぉお前らァ。今日も俺のリハビリライブに付き合ってもらって悪ぃな。どうにも俺ァ飽き性でよ、見てくれるヤツがいねェと身が入らねぇんだわ!』

 

 動画配信サイトでライブ配信をし、元々得意だったピアノやギターを義手で演奏するリハビリライブなるものを開催。

 腕を失った歳若い子が皆にリハビリを努力している姿を見届けてもらう。視聴者の気持ちを鷲掴むにはうってつけで、すぱちゃとやらがバンバン飛び交っていた。

 

 それを聞いて現れるのが、自身の障害をネタして金を巻き上げているのではないかというアンチと呼ばれる方々。

 ID等から住所を割り出して襲撃してやろうかと思ったが、そのアンチに対して姉さんはしれっと言ってのけた。

 

「障害持ってる奴が自分をネタしてメシ食って悪ぃか!! こちとら障害を武器にして生活してんだよ! それに文句あんなら(自主規制)のデカさを武器にしている△▽男優とか(自主規制)の柔らかさ自慢している△▽女優にも文句言えやァごるぁ!」

 

 姉さんは病室でも言っていた。

 

 障害は見方と心構えによっちゃあ武器になる。

 聞いた時は実感なんて湧かなかったが、その通りだった。姉さんは見事に武器にして、義肢開発の資金を調達して見せた。

 

 それを持って私たちはミレニアムサイエンススクールのエンジニア部を訪れ、高等部の先輩方と話し込んでいる。

 最初は荒々しい喋り方をする姉さんを毛嫌いしている様子はあったものの、持ち込まれた義手義足の制作依頼やどのような物を望んでいるかを聞くうちに皆は乗り気になっていった。

 

「軸としての役割と普段使いとしての役割を兼任する義手義足か……つまりは殻構造義肢に別の殻構造義肢を被せると。面白いことを考えるね、キミ」

 

「それにそっちの方がロマンってやつがあるだろ? 俺も思い付いた時はマグマにみぞおちぶち抜かれたみたいな衝撃を受けたぜ」

「それ、雷に打たれたような衝撃と間違えてない?」

 

 姉さんは換装と言っていたが、実際には義手義足を様々な状況に合わせて丸ごと取り替えるのでは無い。

 

 状況に応じた義肢を一々制作していては時間もコストもかかる。何よりも取り替えるのにも時間と手間をかけてしまうことになり、整備性にも難がある。

 

 それ等を解決する為に、普段使い用としても軸としても作用する頑丈な殻構造義肢とロボット義肢を組み合わせたもの A義肢を最初に制作。

 これに外装パーツとなる別の殻構造義肢を接続する為のソケット等を組み込み、その上から人工皮膚を被せることで見た目を整えて接続部も保護してしまえば良いというのが姉さんの考えだった。

 

 後は必要に合わせて普段使いの義肢から人工皮膚を剥がして軸義肢に変化させて、適宜パーツ分けしておいた別の殻構造義肢 B義肢群を外装パーツとして取り付ける。

 

「ロボット義肢の技術も組み込めば頑丈で意のままに動く最先端で最新鋭の義肢が作れる……どうだ? 面白くねェか?」

 

 A義肢はパターン認識アルゴリズムを使用して個々の筋肉がどのように命令を伝達しているのか、頻度や程度はどのくらいか等を認識し、その信号をロボット義手に伝達して実際に「動き」を作り出す……

 

 高等部の先輩方と姉さんは難しそうな内容の話を、それはもう楽しそうに語っていた。

 

 私は身体能力や戦闘能力では姉さんより強いが、頭脳の出来の良さで比べれば姉さんには遠く及ばない。

 そんな姉さんが頭をフル回転させて設計した義肢ともなれば凄いものが出来上がるのであろうという感想は、機械系統の知識に疎い私でも想像出来た。

 

「面白そうだけど……最初の製作コストがなぁ。いくらミレニアムサイエンススクールが最新鋭の技術を取り揃えているとはいえ、お金に関してはどうにも」

 

「確かに俺らが持ち込んだ金もぜんっぜん足りてねェわな……も大丈夫だ、トリニティが金くれてっからさ」

 

 金銭面での問題も解決している。

 

 他校の生徒に迷惑をかけてしまったお詫びとしてトリニティ総合学園の生徒会 ティーパーティーが資金提供を約束してくれている。

 自分の支配領域内で他校の生徒に一生モノの障害を与えてしまったとなっては、多額の資金提供でもしなければメンツが丸潰れとなるからだというのが容易く読み取れた。

 

「問題は他にもあるよ。これだけの機能を詰め込んだとなると義肢の重量も相当なものになる。軽量かつ頑丈なマグネシウム合金を用いることになるけど、それでもかなりの重さが見込まれる」

 

「そこなんだがよ……俺さ、空飛びてェんだわ」

「なんか薬物キメてる?」「脳内アドレナリンキメてる」

 

 金銭面での問題もクリア。重量に関しての問題もマグネシウム合金なる素材を用いてどうにかする目処を付けているらしい。

 

 専門的なやり取りが繰り広げられるようになり知識の乏しい私は仲間外れ感があったが、姉さんはとても盛り上がっている話を中断してまで私を気にかけてくれた。

 

「退屈かも知んねェけど、もうちっと我慢してくれな。今日はカレー作っちゃるからよ」

 

「甘々カレーでお願いします」「任せなァ」

 

 私に似ず凶暴で荒々しい、親しくない者を利用することに躊躇いのない人の心をどこかに置いてきたような人と称されることもある姉さんだが、私はそんな姉さんが好きだ。

 

 血の繋がりがあろうがなかろうが、性別が同じだろうが異なろうが、それ等は全て些末な問題に過ぎない。

 私は姉さんが好きだ。大好きだ。愛している。

 

 どこがどう好きなのか、具体的に答えられないくらいに私は姉さんに頭をやられている。

 

 にぃっと緋色の左目を細めて笑ってくれた姉さんの顔を見ると、私の頭のやられ具合を怖いくらいに痛感させられた。

 

「よぉしテメェ等ァ! よぉく聞け! 金はある! 物資もある! 知識もあって技術もある! やる気と気合と根性と狂気もメーター振り切れッちまうくらいにゃパンパンだァ!」

 

 姉さんが声を張り上げる。右義肢を頭上へと突き上げて、皆の視線を掻き集める。

 

 皆、目付きが本気だ。

 姉さんの持ち込んだお金が視覚的に気分を高揚させて、姉さんの持ち込んだ提案が好奇心を掻き立て、姉さんの張り上げた声と突き上げた右義肢がそれ等を1つの感情へと、情熱へと作り替えている。

 

 姉さんは頭が回る。人間の機微や感情を察知して、それを上手いこと誘導したり煽り立て、都合良く操ることに長けている。

 

 成程。確かにこうして考えると姉さんには人の心が無いのかもしれない。

 人の心をよく知っているからこそ、それを都合よく使えてしまう。人の心が無いと言われても仕方ないことだ。

 

「思い付いたモンは全部試そうぜ! 開発したモンは俺がジャンジャン使って長短全部割り出してやッからビビんな! どんな馬鹿げたモンでも使ってやる!

 だから全部出せ! 全部振り絞れ! テメェ等の絞り出せるモン絞り出して、全部俺に寄越せ! 良いなァ!?」

 

 鼓膜が破れるのではないかと思うほどの大轟音と化した雄叫びが、エンジニア部の部室にこだました。

 

 

 

 




飛鳥馬シオンの名前の元ネタ……一体どこのジオン星人なんだ…
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