"砂ネズミの穴ぐら"の中はいくつもの部屋がある入り組んだ地下室となっていた。かつてこの地に住んでいたという砂漠の民の文化なのだろうが、見慣れない構造のせいでラムザ達はエルムドア侯爵を発見できずに時間だけが過ぎていった。
そんな中、
「そこまでだ、ギュスタヴ!」
というウィーグラフの声が響いた。
「あっちの方だね。僕たちも急ごう!」
「あぁ。おそらくエルムドア侯爵もそこに居るだろう。…まったく、アルガスは何処に行ったんだ」
「まぁ、アルガスもこの声に気づくだろうし、そっちで合流できるんじゃない?」
ウィーグラフの声と剣戟の音が響いている方向へ向かうと、そこでは横たわるエルムドア侯爵の前で戦うウィーグラフと骸旅団の剣士、ギュスタヴと思われる男が戦っていた。
「どうだ、ギュスタヴ、いい加減に観念したらどうだ?」
「…貴様の革命などうまくいくものかッ!! オレたちに必要なのは思想じゃない。食いものや寝るところなんだッ! それも今すぐになッ!!」
「おまえは目先のことしか見ていない。重要なのは根本を正すことだ!」
「…貴様にそれができるというのか? 無理だよ、ウィーグラフ。貴様には絶対にできないッ! …貴様もそれがわかったからダイスダーグに着いたんだろうッ!!」
「…何だと?」
「何故そこでダイスダーグ兄さんの名前が出てくる!」
ギュスタヴから思わぬ発言が出たことで、ラムザが叫び聞き返す。
「兄さん…だと? ハハハッ! まさかウィーグラフがそこまでベオルブ家と繋がりを作っているとはな! オレは完全に嵌められたワケだ!」
「答えろ! ギュスタヴ! まさかエルムドア侯爵の誘拐にダイスダーグ兄さんが関わっているとでも言う気かッ!!」
その場にベオルブ家の者が居ることを悟ったギュスタヴが狂ったように笑いながら叫ぶが、ラムザも負けじと叫び返す。
「そうだ! そのまさかだ!! お前の兄、ダイスダーグがオレにエルムドア侯爵を誘拐するように依頼したんだよ!!」
「そんな! 嘘だッ!! ベオルブ家の者がそんな卑怯な真似をするはずがないだろう!!」
「ハッ! 弟は何も知らないようだな!! …ん? 何も知らない? 貴様たちはダイスダーグに指示されてエルムドア共々オレを始末しにきた訳ではないのか?」
狂ったように笑っていたギュスタヴが一転して冷静になりかける。その時だった。
「侯爵様!!!」
「何ッ!? ぐぅッ!」
アルガスが部屋に飛び込んでくるとギュスタヴを体当たりで吹き飛ばして、エルムドア侯爵をかばうように立ちふさがった。
「お前がギュスタヴかッ! 侯爵様を誘拐した罪と、
「近衛の生き残りかッ! クソッ! ダイスダーグの手先じゃなかったかッ!」
自分を突き飛ばした者の出自に思い当ると同時に、自身の読みが外れていたことを悟るギュスタヴ。彼がエルムドア侯爵を人質にするような動きをせずにウィーグラフと戦っていたのはエルムドア侯爵に人質としての価値が無いと考えていたからであり、それなら外の戦いで疲弊したはずのウィーグラフと正面から戦った方が生き残れると判断したからである。
なお、実際には"砂ネズミの穴ぐら"の襲撃者はエルムドア侯爵を救出する部隊だったためエルムドア侯爵には人質としての価値はあったし、外で長時間戦ってたはずのウィーグラフは手厚いサポートを受けていたのであまり疲労していないのであるが。ギュスタヴはきっと天に見放された男なのだろう。
サジは、ギュスタヴが先ほどからダイスダーグ卿の関与を叫び続けているので内心ヒヤヒヤしていたが、アルガスが乱入してきたことでそれが有耶無耶になりそうでホッとしていたところ、ラムザが改めて話を蒸し返してしまった。
「そもそもダイスダーグ兄さんがお前に依頼を出せるわけないだろう!! 兄さんはずっとイグーロスに居たんだ!!」
「ダイスダーグの使いだって言う奴がオレに依頼を持ってきたんだよ! 依頼料の前金と一緒にな!!」
だが、ギュスタヴがダイスダーグ卿と直接会ったわけでは無いことを明かしたため、サジは言い訳を思いつく。
「それがなんで本当にダイスダーグ卿からの依頼だって判断したわけ?」
「は? 何で…って」
「封蝋した手紙とか、その
「いや、そんなものは無かったが…だが、北天騎士団の恰好をしていたぞ!」
「それだけじゃ、別の陣営の誰かが成りすましててもおかしくないんじゃない? だいたい、こっちはザルバッグ卿の命を受けてエルムドア侯爵を助けに来てるのだけど」
「何だとッ!?」
「普通に考えて、
「そうだ! ダイスダーグ兄さんがこんなことをするはずがない!! 兄さんを、ベオルブを騙る奴が居るはずだ!」
ゆっくりと歩きながら会話を回してダイスダーグ卿黒幕説を薄めようとするサジ。それに乗っかってくれたラムザを尻目にアルガスの横までたどり着いたところで、小声でアルガスに尋ねる。
「仇を討つために、命を張る覚悟はある?」
「当たり前だッ! …何か策があるんだな?」
小声で叫ぶという器用なことをしつつアルガスは答える。
「実はゴリ押ししか無いんだよねぇ。だから『ブレイブ』『ヘイスト』『プロテス』『リジェネ』『バブル』『リレイズ』…これで頑張ってくれ」
「ヘッ! 上等だ!」
サジが現状で掛けられるありったけの補助魔法をアルガスに掛けると、アルガスがそれを受けてギュスタヴに斬りかかる。
「さっきからゴチャゴチャうるせぇんだよッ! そっちから来ないなら、オレから行くぜッ!!」
「舐めるなよガキがッ!! ウィーグラフならともかく貴様なんぞにやられるかッ!!」
ギュスタヴは腐ってもかつては骸騎士団の副団長も務めていた騎士である。素行不良だったため他の騎士団から骸騎士団に転籍させられたものの実力は分相応のもの持っている。そのため、最大の支援を受けたアルガスでもギュスタヴには一歩及ばなかった。
「ソイツから何やら魔法を掛けてもらったらしいが、それでこの程度かッ! 所詮はまだ見習いのガキだなッ!!」
「クソッ! 舐めるなぁ!!」
ギュスタヴからの挑発に
「それがガキだって言うんだよッ!!」
半身を引いて躱すと同時にアルガスを剣で貫くギュスタヴ。
「アルガス!!」
その光景に思わずラムザが叫ぶが、
「ヘヘッ! 捕まえたぜぇ…!!」
「何ッ!? ぐわッ!!」
アルガスは魔法で強化された膂力に任せてギュスタヴの心臓を狙って剣を突き立てた。アルガスを貫いたままだったギュスタヴは当然避けることができずに、心臓をアルガスに貫かれてしまう。
「オレの勝ちだッ! オラァッ!!」
ダメ押しとばかりにアルガスはギュスタヴを蹴り飛ばすと、ギュスタブは壁に激突してずり落ちた。
「アルガスッ! 大丈夫か! サジ! すぐにアルガスの回復を!!」
ラムザがアルガスに駆け寄って叫ぶが、
「サジ! オレよりも侯爵様を先に頼む!」
「…わかった!」
アルガスは身体に刺さった剣を抜いて口にたまった血をペッと吐き出しつつ叫んだ。
サジはエルムドア侯爵の横で屈むと、『ケアルダ』と唱える。すると、エルムドア侯爵の意識が戻った。
「う…うう……」
「侯爵様! ご無事ですか!」
その様子を見てすぐに駆け寄るアルガス。ラムザとディリータもそれに続いてエルムドア侯爵の周りに集まる。その一方で、
「クソッ…オレはこんなところで終わるのか…」
「それがお前のやった事の報いだ。…侯爵殿誘拐以外にも、付近の村で略奪や強姦をやったこともわかっている」
「…どのみち、俺は貴様に粛清される運命だったって訳か」
「…そうだな」
「…どうせなら殺されるなら、貴様と一騎打ちでと思ってたのに、まさかあんなガキに負けるなんて…情けねぇな…ぐはっ…」
ギュスタヴはその言葉を最後に息を引き取った。ウィーグラフはかつての同志を、静かに見下ろしたままだった。
デコイとリバースは、さすがにFFTではバランスブレイカーですから…
これを戦略に組み込まないと勝てないボスが居るFF12ていうゲームがあるらしいですよ(すっとぼけ)