サジ秘蔵のベヒーモステーキが粗方犠牲となった翌日、ラムザ一行は貿易都市ドーターに向けて出発した。もはや恒例となった『ヘイスガ』と『レビテガ』の併用でドーターへと戻る途中では特に問題も起こらず、当日の昼頃には到着するのだった。
「では、私はここでお別れだな」
ドーターに着くと、ウィーグラフはラムザ達と別れて骸旅団の本拠地へと戻るようだった。
そんなウィーグラフに対してラムザは声を掛ける。
「ウィーグラフ、貴方はこの後どうするつもりなんだ?」
「まずは、各地に散っている団員達に集合命令を出す。これからの活動方針を変えるのだ。直接伝えなくてはな」
「…骸旅団の団員達からの反発もあるとは思いますが」
ウィーグラフに対して心配そうに声を掛けるサジに対して、ウィーグラフは笑いながら答える。
「ハハハ、それは覚悟の上さ。元々、私は骸旅団全員を背負いきれる器ではなかったのだ。私から離れて行ってしまうとしても、仕方がないことだ。それでも私のもとに残ってくれた者たちと再出発することにしよう」
そう語るウィーグラフはどこか吹っ切れた様子で悲壮感は一切感じられなかった。
「それでは、さらばだ!」
その言葉を最後に、ウィーグラフは去っていった。彼の背中が見えなくなったところで、
「ウィーグラフを捕まえろ、とはもう言わないんだな、アルガス」
「…どうせ
サジに揶揄われて顔を背けながらそういうアルガス。だが、わざわざ
「僕は北天騎士団の詰所に行ってくるよ。エルムドア侯爵を救出したことを早く伝えないといけないからね」
「その後はどうするの? 北天騎士団の本体が迎えに来るまでドーターで待機するとか?」
「いや、少しでも早くイグーロスまでエルムドア侯爵をお連れすべきだろう。幸い、サジが居れば移動に問題は無いからな」
「テレポで一度にみんなを移動させられたらもっと楽だったんだけどねぇ。さすがにそれは無理だし…」
「いやお前テレポも使えるのかよ…」
今後の方針を話すラムザはディリータに対して、またポロっと自身の手札を明かしてまうサジ、そしてそんなサジに突っ込むアルガス。マンダリア平原での一件以降恒例となったいつもの穏やかなやり取りがそこにはあった。これにて一件落着…とはならないのではあるが。
それはイグーロスへの帰路の途中、マンダリア平原に差し掛かった時のことだった。
「そうそう、ダイスダーグ卿からは
そのサジの発言でラムザ達に衝撃が走る。
「お叱りってなんで!?」
「何でも何も、ダイスダーグ卿からの命令は城の警備だったでしょ。なのにゼクロス砂漠まで行っちゃったんだから当たり前だって。ダイスダーグ卿からの命令を無視しているんだよ?」
「でもそれはザルバッグ兄さんに言われたからだし…」
「…ザルバッグ卿からの指示は正式な命令ではないってことか。言われてみれば、確かにそうだな」
「でも、ザルバッグ兄さんがダイスダーグ兄さんに黙って勝手に命令を出すなんて」
困惑するラムザに、冷静に状況を思い返して頭を抱えるディリータ。なおも納得できない様子のラムザに対して、サジは何故ダイスダーグ卿からお叱りを受けるのかを説明する。
「ザルバッグ卿からダイスダーグ卿に話は通してあるとは思うよ。だけど、どう言い繕っても命令違反を犯したことには変わりはないから、ダイスダーグ卿は
「ベオルブ家の当主として、俺たちの命令違反をエルムドア侯爵救出の功績で有耶無耶にするわけにはいかないってわけか。これは諦めた方が良さそうだな、ラムザ」
「うぅ…。ダイスダーグ兄さんは、怒ると怖いんだよなぁ…」
諦めて腹を括ったディリータに対して、ラムザはフニャフニャになっていた。今までは作戦行動中ということもあり気を張ってリーダーらしく振舞っていたようだが、今はひと段落したためか素の性格が出てきているようだった。
「ま、そういうわけだから、変に言い訳しないで素直に頭を下げておきなよ。ダイスダーグ卿だってさっさと終わらせたいだろうからさ」
「…何でサジはそんなに気楽そうなの?」
どこか他人事なサジに対して、恨みがましそうなジト目を向けるラムザ。
「何でって、別に今回は俺がダイスダーグ卿に会う必要は無いだろう?」
「えっ! 一緒に来ないつもりなのッ!?」
「いや、俺はそもそも外部協力者だよ? 一団の代表の一人みたいな顔をする方がおかしいでしょ」
サジが今回はダイスダーグ卿の所まで来ないつもりであることを知ると驚くラムザ。それに対して、やれやれと首を振りながらついていく方がおかしいだろうと主張するサジ。
「そういうわけだから、頑張ってくれたまえよラムザ君」
「…サジの不敬罪の件、ダイスダーグ兄さんに言っちゃおうかなぁ」
「なっ! ラムザそれはッ!」
これで話は終わりだと手をひらひらと振るサジに対して、ラムザは対サジ用の切り札を切る。
「ダイスダーグ兄さんに怒られた悲しみで、僕がポロッと言っちゃうかもしれないね?」
「いやいや、叱られた流れで言うのもおかしいし、そんなことを唐突に言われてもダイスダーグ卿だって困るだろう!」
「いや、お叱りの後は今回の詳細を報告をすることになるだろうから、サジの事を言う機会はあるぞ」
まさかのディリータもラムザを援護してきたため、サジは追い詰められてしまった。
「ぐっ…。だからと言って、何で俺まで」
「ここまで来たら一緒に行こうよ♥」
「可愛く言っても、やってることは地獄への道連れだからなラムザぁ!」
サジはその日、思い出した。ラムザは悪乗りする時はとことん悪乗りする奴だということを*1
「私も微力ながらダイスダーグ卿には口添えするから、ひどい事にはならないはずだよ」
「…すみません、エルムドア侯爵。そのあたりはよろしくお願いいたします」
「何、私は君たちに助けられた身だ。それくらいはお安い御用さ」
今のサジにとって、エルムドア侯爵が唯一の癒しだった…