イヴァリースでどう生きていけるのか   作:かにしぐれ

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盗賊の砦

ダイスダーグからの命令で骸旅団の拠点の襲撃に参加することになったラムザ一行。その中には、既に侯爵救出という目的を達成したアルガスの姿があった。

 

「アルガス、本当にいいのかい? 今回の作戦は北天騎士団への命令だから、アルガスはエルムドア侯爵の側に居ても良かったのに」

 

「侯爵様を救出できたのも、ラムザ達のおかげだからな。今回の作戦が終わるまでは協力するぜ」

 

どうやら、アルガスは恩返しのつもりでついてきたようである。彼の本来の主であるエルムドア侯爵にも伺いを立てており、侯爵より許可が下りたため同行しているのだが、エルムドア侯爵自身も同様の理由で作戦に参加しようとしてダイスダーグとザルバッグに引き留められる、といった一幕もあったのだが、ここでは割愛させていただく。

 

エルムドア侯爵はどうやら骸旅団に後れを取ってしまった雪辱を果たしたいようだったが、お忍びとはいえ他領より招いた領主本人を戦場に送り出すなどベオルブ家はもちろんラーグ公としてもあり得ないので、仕方がないのである。だからエルムドア侯爵は鯉口をチャキチャキと鳴らすのはやめていただきたい。

 

そんなわけで、ラムザ達はマンダリア平原より南にあるという、骸旅団の拠点に向かうのであった。

 

 


 

 

ラムザ達が向かっている骸旅団の拠点では、女性の剣士と白魔道士たちが集まって会話をしていた。

 

「そう、本隊から帰還命令がでたのね。骸旅団は、この先どうするのかしら…」

 

「なに言っているんですか! 戦いはまだこれからじゃないですかッ!」

 

「そうですよ。やつら、貴族どもが我々に謝罪するまで続くんですッ!」

 

「兄さんは…、兄さんは何を考えているのかしら…」

 

どうやら、ウィーグラフより本隊への帰還命令が届いているようだった。女剣士はどこか疲れた様子だったが、彼女の周りはまだまだ戦意が高く、女剣士を励ましていた。だが、その時、周囲の見張りをしていた骸旅団の団員がラムザ達の接近に気づく。

 

「て、敵襲ッ!!」

 

骸旅団の運命を大きく左右する戦いが、始まった。

 

ラムザ達が襲撃したこの拠点は盗賊くずれの有象無象が詰めている拠点ではなく、元骸騎士団の面々が集う拠点だった。"砂ネズミの穴ぐら"の時はギュスタヴ他数名は元骸騎士団だったがその他大勢は盗賊に毛が生えた程度なのに対し、今回の相手はほぼ元骸騎士団で質が高いため、苦戦は必至…のはずだった。だが、これまでのラムザ達も戦闘経験を積んでおり、またサジが今回も全力でサポートに徹したため、元骸騎士団が相手でもラムザ達が優勢となっていた。

 

「いい加減に投降したらどうだッ! これ以上の抵抗は無意味だッ!」

 

その戦い方から、ここの骸旅団がウィーグラフの制御から外れているならず者の集団ではない可能性に思い当ったラムザは投降を呼びかける。だが、相手のリーダーと思われる女剣士は抵抗を続けていた。

 

「今更投降したところで殺されるだけよ! 私たちは当たり前のことを望んだだけだというのに!」

 

「殺しはしないッ! 君たちが民を相手に賊行為を働いてなければ、殺しはしないッ!!」

 

「貴族の言葉なんか信じるものか! いつも私たちを家畜扱いして! 私たちは貴族の家畜じゃない! 私たちは人間だわ! 貴方たちと同じ人間よッ!私たちと貴方たちの間にどんな差があるっていうの!?」

 

ラムザはなおも投降を呼びかけるが、女剣士は感情的に叫び続ける。

 

「生まれた家が違うだけじゃないの! ひもじい思いをしたことがある? 数ヶ月間も豆だけのスープで暮らしたことがあるの? なぜ私たちが飢えなければならない? それは貴方たち貴族が奪うからだ! 生きる権利のすべてを奪うからだッ!」

 

そんな女剣士に対して、アルガスが声を荒げて叫び返す。

 

「貴族がみんな裕福な暮らしをしているとでも思っているのかッ! つくづく平民ってのはおめでたい奴らだなッ! こんな奴らのために苦労するなんて、ウィーグラフも物好きな奴だぜッ!!」

 

「ッ!? 何故そこで兄さんが出てくるのッ!」

 

女剣士は思わぬ名前が出てきたようで驚きながらも聞き返す。

 

「兄さん? ハッ、ウィーグラフは出来の悪い妹を持ったようだなッ!!」

 

「何を言うッ! 貴族が兄さんの何をわかってると言うのッ!!」

 

「おまえの兄キは平民にしてはわかってるんだよッ! おまえら平民は貴族の犠牲によって守られてるってことをなぁッ!」

 

「お前たち貴族が私たちを守ってくれたことなんてないわッ! 奪うだけよッ!」

 

アルガスとウィーグラフの妹だという女剣士の口論はさらに熱を上げていく。

 

「50年戦争で一番死んだのはオレ達貴族だッ! 当主や跡取りが騎士として戦場に出て死んでいったんだよッ!」

 

「そんなの、私たち平民だって戦ったわッ!」

 

「あぁ、骸騎士団は平民からの義勇兵だったなッ! …ウィーグラフは平民にしては見どころのある奴だったし、奴についていく意思がある奴らだったら少しはマシだと思ってたんだがなッ!!」

 

「何を…」

 

ところどころで、ウィーグラフに複雑ながらもある程度の敬意が出てしまっているアルガスに勢いが削がれてしまう女剣士。だが、アルガスは止まらない。

 

「オレ達貴族が命を張って守る分、平民はオレたち貴族に尽くさねばならないッ! オレ達の庇護下にある以上、おまえたちはオレたち貴族の家畜なんだッ!!」

 

そんなアルガスの叫びに、再び女剣士は叫び返す。

 

「誰が決めたッ!? そんな理不尽なこと、誰が決めたッ!」

 

「理不尽なものかッ! これが自然の摂理、天の意思だッ!!」

 

「天の意志? 神がそのようなことを宣うものか! 神の前では何人たりとも平等のはず! 神はそのようなことをお許しにはならない! なるはずがないッ!」

 

「家畜に神はいないッ!!」

 

「!!!!」

 

そう言い切ったアルガスに対して、怒りが振り切れてしまったのか物凄い形相をしながらも言葉が出ない女剣士。だが、まだアルガスは言葉を続ける。

 

「守って貰ってるのに、感謝するどころか文句を言う奴らなんかに神の加護があるわけがないだろうッ!!」

 

「そんな、そんな理屈ッ!!」

 

「少なくとも、おまえの兄キ、ウィーグラフは平民でありながら、自分以外の平民を守るために立ち上がったんだよッ! オレ達貴族の初代様のようになッ! だから奴には神の加護があるッ!!」

 

アルガスはウィーグラフが聖剣技を使える理由をそこに見出していたのだろう。アルガスのウィーグラフへの敬意もどうやらそこから来ているようだ。

 

「それに比べておまえ達はどうだッ! ウィーグラフの助けになるどころか足を引っ張りやがってッ!」

 

「どういう意味よッ!」

 

「あいつは騎士になれたはずなのに、それを蹴ったんだッ! おまえたちを見捨てられないからと言ってなッ!!」

 

「えっ…」

 

女剣士はどうやらウィーグラフが勧誘を受けていたことを知らなかったらしく、驚いて再び言葉に詰まってしまう。

 

「人は平等だなんだって言うのなら、まずはウィーグラフの足を引っ張らないようになってから言うんだなッ!! でないと神も呆れて見放すだろうッ!!」

 

アルガスはそう言い放つと、近くに居た骸旅団の団員に斬り掛かる。だが、今までの女剣士とアルガスのやり取りを聞いていた骸旅団の団員は女剣士も含めて戦意を失っていたようで、

 

「…もう一度言うよ。もう投降してくれないか?」

 

3度目のラムザの投降を呼びかける声に、女剣士は力なく同意するのだった。

 

 


 

 

骸旅団が投降に応じた後、ラムザ達は骸旅団を拘束していった。なお、既に死んでいた団員についてはサジが『アレイズ』によって蘇生をしたため、この拠点に居た骸旅団全員を生きたまま捕らえることとなった。

 

「サジ、何も全員を生き返らせる必要はなかったんじゃないか?」

 

「まぁ、ウィーグラフにとって信用できる人たちを減らすのもどうかと思ってね」

 

「こいつらが役に立つのかは怪しいと思うぜ、オレは」

 

アルガスは若干不満そうだったが、それ以上何も言うことはなかった。

 

「何故、私たちを生かすの? …それと、兄さんとはどういう関係なの?」

 

ミルウーダと名乗ったウィーグラフの妹だという女剣士は、まだ警戒しているものの戦闘時よりも敵愾心を抑えてラムザ達に問いかけていた。

 

「何故っていわれても、君たちは民への略奪行為はしていないんだろう?」

 

「そうだけど、それが何だっていうの?」

 

「俺たちはエルムドア侯爵がギュスタヴに誘拐された時、侯爵救出の任務を遂行していたんだが、そこでウィーグラフと共闘したんだ」

 

「何ですって?」

 

ディリータがウィーグラフと知り合った経緯を話すと、ミルウーダはその事件自体を知らなかったようで思わず聞き返す。それから、エルムドア侯爵救出の顛末や、そこでウィーグラフと話した内容についても伝えると、

 

「そう…。だから兄さんから召集命令が出たのね…」

 

と納得したように呟いていた。

 

「ん? もしかして、ウィーグラフさんの所まで撤退する予定でした?」

 

「今日中には出発する予定だったわ…」

 

ミルウーダの呟きを拾って聞き返したサジは、あちゃあと手を額に当てた。

 

「タイミングが悪すぎというかなんというか…」

 

「ここの担当が僕らでよかったね…」

 

「どういうこと?」

 

天を仰ぐサジと、ほっと胸をなでおろすラムザを怪訝に思うミルウーダだったが、今回ラムザ達が来たのは北天騎士団による骸旅団殲滅作戦がついに決行されたからだということを聞くとなんとも言えない表情になるのだった。

 

「けッ! 悪運の強い奴らだぜ…」

 

アルガスは悪態をついた後、今後の方針をラムザに尋ねる。

 

「で、この後どうするんだ?」

 

「骸旅団側に北天騎士団の捕虜が居るのなら、捕虜交換の交渉かな」

 

「ダイスダーグ卿にはどう説明するんだ? 拠点を制圧したけど何もありませんでした、だとまたお叱りを受けるかもしれないぞ?」

 

「うっ…、とりあえず、装備品が証拠にはなるから、それで報告すればなんとかなるかな?」

 

アルガスからの指摘に頭を抱えるラムザ。とりあえず思いついた案をサジに確認すると、

 

「…死体は衛生観念上の問題がありましたから魔法で焼きました、って報告すればいいかな」

 

俺の攻撃魔法の手札を明かすことになるけどね~と気が乗らなさそうではあるが、その案でいこうとサジは頷いた。

 

「とりあえず、ウィーグラフさんに連絡を取りたいんだけど…、これは誰か一人を解放してウィーグラフさんまで伝令を頼むしかないかなぁ…」

 

もう一つの懸念事項である、ウィーグラフとの連絡方法に頭を悩ませるサジ。それに対して、先ほどの骸旅団の拠点で見張りをしていた団員が名乗り出る。

 

「…それなら俺が行こう。骸騎士団の時から斥候をやっていたからな」

 

「えぇ、彼なら兄さんとも面識があるからすぐに話が通るはずよ」

 

それにミルウーダも同意したため、その団員に伝令を頼むことにしたのだが…

 

「これ持って行ってね。道中で使ってほしいから」

 

「…これは宝石か? 路銀にでもしろということか?」

 

「これね、赤いのがヘイストが掛けられる奴で、白っぽいのがレビテトを掛けられる奴ね」

 

「…は?」

 

サジより理解の外の物を渡されたため困惑する斥候の男。その後、魔片の使い方などを詳しく説明された後出発していったのだが、

 

「北天騎士団ってああいう道具も利用するのね…」

 

「いや、あれはサジだけというか…」

 

「サジがおかしいだけだから、あれを標準にしないでくれ」

 

感心するミルウーダに対してサジを基準にしないでくれというラムザとディリータであった。

ともかく、ラムザ一行はミルウーダ以下骸旅団の捕虜を連れてイグーロスへの帰路に就いたのだが、その頃イグーロスのベオルブ邸にて()()()()が起きているのだった…

 

 

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