ラムザ一行は魔法都市ガリランドに着いたところで、ウィーグラフのもとへ向かわせていたミルウーダの部隊の斥候と合流することができた。その斥候より、ウィーグラフがティータの身柄を確認次第保護するという伝言を伝えられたディリータはひとまず安堵しつつも
「今ならあの時のアルガスの気持ちもわかるな。部下の手綱はちゃんと握っておいてくれよ…」
とこぼしていた。それを聞いた斥候やミルウーダは何とも言えない表情になる。どうやら彼らにも思う所はあるようで、
「団長は、俺たちの憧れではあるんだけどな…」
「兄さんは、色々と甘い所もあるから…」
などと言っており、他の骸旅団の捕虜たちも頷いていた。
「ティータをウィーグラフが保護してくれるとはいえ、急いで"風車小屋"まで向かわないと。兄さん達の作戦が始まってしまうかもしれないし…」
「そういえば、ジークデン砦に居る骸旅団の団員ってどういう人達なの?」
「そうね、今あそこに居るのは
ラムザの発言でジークデン砦への攻撃が秒読みなことを思い出したサジがミルウーダに尋ねると、ミルウーダは言葉を濁した。
「…もしかして、
「…ジークデン砦を任されていたのはゴラグロスなのよ」
ベオルブ邸が襲撃された時、ゴラグロスと呼ばれた団員が居たとダイスダーグ達から聞いていたラムザ達は顔を見合わせる。そして、
「じゃあ、そっちは急ぐ必要もないかもね。
サジが笑顔でジークデン砦の骸旅団は見捨ててしまおうと暗に提案する。
「いやさすがにそれは…。ティータが直接ジークデン砦まで連れていかれるかもしれないんだし…」
「俺が聞いた限りでは、ゴラグロスは団長の下に人質を連れて向かっているという話だったが」
「なら俺はサジに賛成だ」
「ディリータまで…」
ラムザは露骨に見捨てるような動きをすることは受け入れがたい様子だったが、斥候よりゴラグロスは"風車小屋"の方に向かっているとの情報が出たことで、ディリータもサジに賛同してしまう。
「ラムザ。骸旅団の大事な軍事拠点を任されていた人物と、その人に率いられていた部隊がウィーグラフさんの命令に背いて行動したんだよ。多分、骸旅団はウィーグラフさんが直接指揮を執ってる部隊と、ミルウーダさんの部隊ぐらいしか団長のコントロールが利かない集団になってしまっているんだ」
「それって、もう骸旅団は組織として崩壊寸前だってこと?」
「そう。だから、ジークデン砦の団員と話し合いで解決できるとは思えないんだ。多分、ゴラグロスとウィーグラフさんは決裂するだろうし」
そんなラムザとサジの会話を、ミルウーダは顔を口惜しさで歪ませながらも静かに聞いていた。
「否定はしきれないわ。私たちの部隊も物資が尽きる寸前だったもの。本隊から帰還命令が出るまでは、もう私たちも終わりだと思ってたわ」
ミルウーダのそんな言葉に、ミルウーダの部隊の面々も「隊長…」と声を掛けようとするも、言葉が見つからないようで項垂れるしかないようだった。そんなミルウーダ達に向けて、サジは声を掛ける。
「ウィーグラフさんも骸旅団の窮状はわかっていただろうね。…でも、方針転換を選んだのなら、ここで終わる気はないはずだよ」
「えっ?」
「ウィーグラフさんは
その言葉に顔を上げるミルウーダ。そんな彼女にサジは続けて話す。
「ウィーグラフさんは国の都合で切り捨てられた
「…もし、本当にそうなら、兄さんは大馬鹿者だわ。私たちは兄さんに守られているだけなんかじゃいられない。兄さんと共に戦う
そう宣言するミルウーダには、先ほどの弱音を吐いていた時とはまるで別人のように、覇気が戻っていた。
「まずは、兄さんに今後どうする気なのか確認するのが先ね。弱気になってる場合じゃないわ」
「君たちは無事にウィーグラフの下に戻れる気でいるんだね?」
「あら?
「ちゃんと約束は守るさ! ただ、君は僕たちの事を少しは信じてくれる気になったのかなって」
「貴族の事は今も嫌いだわ。貴族は私たちから奪うばかりだったもの。…だけど、そうじゃない
「なっ! やっぱり僕の事を
誠に遺憾であると全身で訴えるラムザを笑いながらあしらうミルウーダ。そのやり取りを見て短い間に随分と打ち解けたようだなと暢気な事を考えているサジは、ミルウーダに自分も"変な貴族"の括りで見られていることをまだ知らない。それを知った時、サジは"変な"よりも"貴族"の部分を強く否定してミルウーダよりやっぱり"変な貴族"じゃないかとより深く認識されてしまうのだが、どうでも良い未来なので放っておいてよいだろう。
"風車小屋"では、ゴラグロスとウィーグラフが対峙していた。彼に連れて来られたティータはウィーグラフの部下の女モンクに引き取られ、現在は彼女の横で座っている。ここに連れて来られた当初は怯え切っていたティータだったが、ウィーグラフからの目配せを受けてゴラグロスからティータの手を引いて引き離した女モンクより「もう大丈夫よ」と耳打ちされたことで少し落ち着きを取り戻していた。
「何故、ベオルブを襲撃した? ダイスダーグは私も気に入らないが、ベオルブは民を虐げている貴族では無いだろう」
「ベオルブは北天騎士団の元締めだろう! 骸旅団がここまで数を減らしたのも北天騎士団のせいだ! 奴らの動きを止めるにはこれしかなかったんだッ!」
「ベオルブを襲撃したところで、北天騎士団が止まるものかッ! むしろ本腰を入れて我々を殲滅しにかかるようになるだけだ!」
小屋の中で、ゴラグロスとウィーグラフが舌戦を繰り広げていた。ウィーグラフは勝手な行動をしたゴラグロスを咎めるが、ゴラグロスは今の窮状を打破するには必要だったと主張したため議論は平行線だった。
「そのために人質だ! ベオルブ家の令嬢がこちらに居れば、北天騎士団も迂闊には動けないだろう! その隙にこの包囲網から逃れることができるはずだ!」
「その人質のせいで我々の命運が尽きるかもしれんのだ! …くっ、どうすれば…!」
逃げるという選択肢を否定せず、しかし頭を抱えるウィーグラフに対してゴラグロスも冷静になって聞き返す。
「人質のせいで? どういうことだ、ウィーグラフ」
「北天騎士団の行動が早まるかもしれん」
「馬鹿なッ! 人質を、ベオルブ家の令嬢を見殺しにするのか!?」
「そうではない。北天騎士団の
「先行部隊がここまで来るのか!? だが、正面からジークデン砦を通り抜けるのは無理だろう。回り込むのならレナリア台地を通るルートだから、イグーロスから出発して4日は掛かるはずだ。時間は充分にある」
「いや、
「2日だと!? 斥候ならともかく、部隊単位での移動でそれはあり得ないだろうッ!」
「その
「身を以て? どれはどういう…」
ゴラグロスがウィーグラフの発言に疑問を持って聞き返したところで、外に居た骸旅団の団員が室内に駆け込んでくる。
「報告します!! 陸上を滑る船がこちらに突撃してきました!!」
「は…? 陸上を船が…?」
あまりにもトンチキな報告に、ゴラグロスを含めその場のほとんどの人間がポカンとする中、ウィーグラフは
「…どうやら
と苦笑しながらつぶやいた。
「まったく、まだ団員達に何も説明できていないというのに…。その
「は…? はっ! 了解しました!」
「ウィーグラフ、何を…?」
「説明は後だ。我々の命運が掛かっているからな」
状況が理解できていないゴラグロスにそれだけ言うと、ウィーグラフは"彼ら"を待つ。
「なっ! ミルウーダッ!? それにお前たちも!? 本当に無事だったのかッ!! というか何故北天騎士団と一緒にッ!? 団長は何か知っていたようだが一体何が起きているんだ!!?」
外から迎えに向かわせた団員の驚く声を聞きながら、この後の交渉をどう進めるべきかをウィーグラフは静かに考えるのだった。
前話でミルウーダ達は無事だと報告はありましたが、それを骸旅団の中で信じられる人はラムザ達を知るウィーグラフくらいなものです。なので、変な船からミルウーダ達が出てきた時は、さぞ驚いたことでしょう。
chapter1も終盤ですね…