"風車小屋"に着いたラムザ達は、ミルウーダを連れてウィーグラフの待つ小屋へ入っていった。小屋の中に入ると、ディリータはウィーグラフの部下と思われる女モンクや女騎士達の間に座っているティータの姿を見つける。それと同時に、ティータもディリータに気づいたようで、声を上げる。
「兄さん!」
「ティータ! 無事だったか!」
「彼女はラムザ、君の妹じゃなくてディリータの妹だったのか」
その様子を見て、ウィーグラフはゴラグロスが攫ってきた少女がベオルブの人間ではないことに気づく。
「あぁ、そうだ。ティータはディリータの妹だ。だけど、幼いころから一緒に過ごしてきたから僕にとっても妹も同然だ」
ラムザはウィーグラフの言葉を肯定しつつも、ティータも血は繋がっていないが家族だと主張する。それに対し、ラムザの認識だけでなくベオルブ邸で暮らしていたという事実から、ティータやディリータがベオルブ家の一員として受け入れられていた事をウィーグラフは察するのだった。
「…そうか。君たちは本当に家族同然だったのだな」
ウィーグラフは周りに聞こえない小声でそうつぶやいた。その後、ラムザ達に目を向けると何やら疲弊した様子で薬をがぶ飲みしているサジが目に入ったため、
「ところで、その…彼は大丈夫なのか?」
「
「何か目がすごく怖いことになっている*1けど、本当に大丈夫?」
「その薬、まさか違法な薬物じゃないよな?」
「何を失礼な! ちゃんとしたエリクサーだよ!」
などとウィーグラフにとっては数日前に見慣れた光景となったやり取りがラムザ達によって繰り広げられていた。サジの話す内容に
その光景に目を細めながらも、それはそれとしてとウィーグラフは咳払いをして本題に入る。
「見ての通り、ティータという娘は無事だ。連れて帰るといい。…すまなかった」
「おい、ウィーグラフ! なんでそんなあっさりと!」
「ミルウーダ達を無事に返してくれた彼らには、誠意を見せなくてはならんだろう」
ティータを返すと言い出したウィーグラフに対して正気に戻ったゴラグロスが食って掛かる。それに対して、ミルウーダの件もあるため当然だとウィーグラフは返す。
「先ほどは彼らが到着したから聞きそびれたが、改めて問おう。なぜ、ベオルブを襲撃した?」
「…そうか、そういうことか」
ウィーグラフはゴラグロスに独断で動いた件も含めて問い詰めようとしたが、ゴラグロスは突然そうつぶやきながら頷いた。
「ウィーグラフ、お前は理想を追い求め過ぎるきらいがあった。だから、骸旅団が劣勢になろうとも、命と引き換えに一人でも多くの貴族を道連れにしろとか言い出すものだと思っていたが…」
「何が言いたい、ゴラグロス」
「まさか、北天騎士団と話をつけていたとはな」
「私が北天騎士団と? なんの話だ?」
「しらばっくれるなよ。そこのお坊ちゃんはベオルブの人間なんだろう? しかもどうやらお互いに知己のようじゃないか」
「彼らとはギュスタヴの件で共闘した時に知り合ったのだ」
「まさかギュスタヴを追ってた時に偶然出会ったとでも? そんな都合の良い話があるか!」
ゴラグロスはラムザ達とウィーグラフが知り合いだったことについて、何やら勘ぐっているようだった。その勘ぐりを否定するウィーグラフだったが、ゴラグロスはそれを信じない。
「仮に、私がベオルブの人間と前から知り合いだったとして、それとお前の勝手な行動に何の関係があるというのだ!」
「関係はあるさッ! 今回のベオルブ襲撃は
「なんだって!?」
突然のゴラグロスの暴露に思わず声を上げるラムザ。それを一瞥してゴラグロスは続ける。
「あんたは貴族が嫌いなようだが、もう骸旅団は限界なんだ! だからオレは黒獅子側に、オレ達の保護を条件を飲ませることで依頼を引き受けたんだッ!!」
「そんなッ! ゴルターナ公がベオルブを害するような依頼をするはずがない! 共に国のために戦った仲間じゃないか!!」
ラムザは"黒獅子"ことゴルターナ公の陣営がそんなことをするはずが無いと否定する。だが、ゴラグロスはそんなラムザを鼻で笑う。
「ハッ! これだから何も知らない坊ちゃんは! …まぁ、天騎士バルバネスは
「どういう意味だッ! 先の戦争で国が疲弊しているというのに国を割るようなことをゴルターナ公もするものか!」
「
「そんなッ! そんなことしても民がさらに疲弊するだけじゃないか! ラーグ公もゴルターナ公もそんな愚かな真似をするわけがない!!」
ゴラグロスは"白獅子"ラーグ公と"黒獅子"ゴルターナ公のイヴァリースを代表する2大貴族が戦後の主導権を握るための争いをしていると言うが、ラムザはそれを信じられないと否定する。ゴラグロスはこれ以上ラムザと話しても埒が明かない思ったのか、ウィーグラフに向き直ると彼に向けて話し出す。
「ウィーグラフ、あんたは貴族の力を借りるなんて認めないだろうがオレはオレなりに骸旅団の未来を考えて行動したんだ。…たとえ団を割ることになっても、オレに着いてくる団員は守れるようにな」
「ゴラグロス…」
ベオルブ襲撃は骸旅団を救うためだったと話すゴラグロスに、ウィーグラフは言葉を詰まらせる。そんなウィーグラフに、だがとゴラグロスは声を荒げて続ける。
「だが、それもどうやら無駄だったようだけどな! 北天騎士団と
「だから私は北天騎士団とは何もない!」
「じゃあ何でベオルブの坊ちゃんと親しげなんだッ! その坊ちゃんだってあんたの事を随分と信頼しているみたいだしな!」
「待ってくれ! 僕がウィーグラフと知り合ったのは先日のドーターからだ! それまでは名前しか知らなかったんだ!」
ラムザのその発言に、この甘ちゃんそうな坊ちゃんがそう言うのなら本当に
「じゃあなんだ。本当にタイミングが
そう叫ぶや否や、ティータに向かって突進する。意表を突かれたため、ティータの両脇に居たウィーグラフの部下はティータを守るために前に出ようとするが、
「どけッ!!」
直前まで身構えていなかったためか、ゴラグロスの体当たりによって簡単に弾き飛ばされてしまう。
「ティータ!!」
「ゴラグロス! 何をする!!」
「俺は行動しちまったんだ! ウィーグラフ、あんたが北天騎士団と話がつけられたとしてもオレはもうそっちには行けない! この娘を傷つけられたくなければ、オレをこのままジークデン砦まで行かせろッ!!」
そう言ってティータの腕を掴もうとするゴラグロス。
「来ないで!」
「何だッ! うわッ!!」
しかし、ティータが叫ぶと同時に突如ティータを中心として凄まじい風が巻き起こり、その風によってゴラグロスは空いていた窓から外へと吹き飛ばされてしまった。突然のことに小屋の中に居た全員があっけに取られていたが、外からグエッというゴラグロスの悲鳴と、重いものが落ちる音がしたため、その様子を確認しにウィーグラフとミルウーダ他骸旅団の団員数名とラムザ達は
外にはマントがビリビリに破れているが、それ以外は無事そうなゴラグロスが忌まわしそうにこちらを睨んでいた。
「…それで、どうする気だ、ゴラグロス」
「…人質はもういらない! オレ達はジークデン砦まで引かせてもらう! いくぞ、お前ら!!」
しかめっ面のまま問いかけるウィーグラフに対して、顔を真っ赤にしたまま去っていくゴラグロス。そんな彼に、おそらくベオルブ邸襲撃に参加したであろう十名弱の団員もついて行ってしまう。そんなゴラグロスの一団を
「せっかく運よく命が助かったのに、わざわざその命を捨てるようなことをするなんて…」
サジがポツリとつぶやいたその一言に、
「ハッハッハッ!! いや、笑いごとではっ…! 笑いごとではないのだがっ…!」
ウィーグラフを筆頭に笑い出してしまう。…まぁ、仕方がないことである。ゴラグロスは小屋から外へ吹っ飛ばされたあと木にぶつかり、マントが木の枝に引っかかった結果マントを破きながらゆっくりと地面に着陸したのだから。
決して笑えるような状況ではなかったのだが、笑ってはいけない状況だからこそ醸成されてしまう笑いがあるのも事実。ウィーグラフ達はその光景を意識の外に追いやるために敢えて触れずにいたし、ゴラグロスの顔が真っ赤だったのも自身が醜態を晒したのをわかっていたからだろう。
だが、敢えて意識の外に追いやった
緊張していた空気が一気に弛緩してしまったが、まだジークデン砦のゴラグロス一派という問題が残っている。残っているのではあるが、ウィーグラフの一団もラムザ達も、とりあえず一休みに入るのであった。
真面目な文も書きたいですが、おバカなやり取りも書きたいジレンマ
それでもchapter1のラストは迫ってきます。