イヴァリースでどう生きていけるのか   作:かにしぐれ

24 / 30
Chapter1 エピローグ

イグーロス城の執務室には、先日の骸旅団の襲撃で重傷を負ったはずのダイスダーグの姿があった。本当はまだ安静にしていた方が良い容体なのだが、仕事場に戻ってきてしまった幼馴染の姿を見て、執務室に入ってきたラーグ公は呆れたようにため息をつく。

 

「閣下、いかがなされましたか?」

 

「まったく、"いかがなされましたか”ではない。そなたは何故ここにおるのだ。ダイスダーグ卿が登城したと聞いた時は開いた口が塞がらなかったぞ」

 

「ザルバッグやラムザが己の責務を果たしたというのに、私だけ休んでいるわけにはいかんだろう…」

 

ラーグ公が()()として訪れたことを察したダイスダーグは口調を畏まったものから普段のものに戻して答える。

 

「弟君達の活躍は見事なものだったが、それとこれとは話が別であろう。骸旅団の件も落ち着いた今休まないのなら、そなたはいつ休息を取るのだ? 我が親愛なる軍師殿が無理を押して倒れました、となったら私はどうすれば良い?」

 

ザルバッグとラムザを引き合いに出して自分も働こうとしているダイスダーグに、よよよと芝居がかった泣き真似をしつつもダイスダーグの身を心配するラーグ公。そんな親友の姿を見て、ダイスダーグは執務の手を止める。

 

「…はぁ。わかった。ラムザから陳情があった件もこれで片付いたところだ。この書類を、後はそちらで承認して欲しい」

 

「わざわざ登城してまで執務をしていた理由がそれか。相変わらず身内には甘いな、我が友よ。しかし、末の弟君のラムザには驚かされる。まさか、ウィーグラフを勧誘してくるとは」

 

()()()()()()()()()()()()()は賊崩れの連中が軒並み討伐された後に残った()()()()の上澄みだ。それをゴルターナ側に先んじて取り込んだのは称賛に値するだろう」

 

「その話を聞いたとき、あの異国の青年の策かとも思ったものだ。だが、実際はラムザの発案だったというではないか。ふふ、人たらしな所も含めてますますバルバネス殿に似てきたな、そなたの弟君は」

 

「…いずれは私の跡を継いでベオルブの上に立つのだから、それで良い」

 

そう言うダイスダーグを一瞬悲しそうな目で見るが、すぐにその色を消してラーグ公は話を続ける。

 

「それで、ウィーグラフ達はラムザがアカデミーを卒業したら彼の下に配属するのだな?」

 

「あぁ、そうだ。ラムザはアカデミーを卒業後、北天騎士団の小隊長に任命する予定だったが、予定を変更してガリランドを任せることにした。使える手駒も増えたのだ、ラムザも領地経営を学んで良いだろう」

 

「安定している土地とはいえ、アカデミー卒業も間もなく名代を務めるのは難しいと思うのだがな」

 

「実務を実際に執り行うのは長年ガリランドで従事している執政官だ。ラムザがやるべきことは、彼らから領地経営について学ぶことだ。何も領地を一から運営しろと言っているわけではない」

 

「そなたがそう決めたのなら、これ以上私が何か言う方が野暮というものだな」

 

ダイスダーグがラムザを自身の後継者として育てる方針を立てている事について、ラーグ公は何か言いたげではあったがそれ以上言及することは無かった。*1

 

「それで、ウィーグラフら元骸旅団はラムザがアカデミーを卒業するまではザルバッグに任せるのだな?」

 

「それまでの間、彼らを遊ばせておくわけにもいかぬからな。サジと共に王都のザルバッグに一時預けることにした」

 

「ほう? 例の青年も王都に来るのだな。残り3か月ではあるが、アカデミーで学ばせても良かったのではないか?」

 

サジがラムザ達と一緒にアカデミーで過ごすのではなく、ウィーグラフ達と一緒にザルバッグの居る王都ルザリアに一時滞在すると聞いてラーグ公は疑問の声を上げた。彼も内心ではサジが知識面ではアカデミーに通う必要は無いだろうと考えていたが、サジがラムザ達と()()()だと見えていたため、残りの期間をアカデミーで過ごすものだと思っていた。

 

だが、次のダイスダーグの言葉にラーグ公は驚くことになる。

 

「その、サジはどうやら20代後半だというのでな。さすがにアカデミーに通う年齢ではないと辞退されたのだ」

 

「…どう見てもラムザ達と同年代に見えたのだが、それは本当なのか?」

 

「本人の自己申告だから何とも言えん。だが、嘘を言っているようには見えなかったのでな…」

 

「強大な魔法使いは若さを保つ秘訣でも持っているのだろうな。かの大魔道士エリディブスも常人よりも高齢だったと聞くが…」

 

ちなみにサジの年齢が明かされた時、ラムザ達や骸旅団の面々に衝撃が走ったのは言うまでもない。ラムザやディリータは同年代だとずっと思っていたし、ミルウーダもサジは自身より年下だと思っていた。だが、実際はウィーグラフに近い年齢*2だったのだから皆目をむいた。

 

閑話休題、サジが王都に滞在するということでラーグ公の興味はサジに移る。

 

「しかし、あのサジという青年はとんでもない爪を隠していたものだ。砦を丸ごと焼失させてしまう魔法を使うとは。最初は何かの冗談かと思いたかったが…」

 

「私もザルバッグから報告を聞いたときは耳を疑ったものだ。だが、ジークデン砦がその姿を消しているのを見れば、本当だと認識するしかあるまい…」

 

「先ほども言ったが、まさか大魔道士エリディブスの再来と言えるような人物が出てくるなど誰が想像できようか。だが、彼をラムザが引き入れてくれたことは幸運だったな、わが友よ」

 

そのラーグ公の言葉に深く頷きながら、ダイスダーグはサジについて言葉を続ける。

 

「今回の件ではっきりしたが、サジは()で動くようだ。だが、直情的というわけではない」

 

「これで潔癖すぎる思想を持っていたら厄介だったのだが、どうやらラムザに腹芸を仕込むくらいにはその辺りについても()()があるようだ。つまり…」

 

「我々が友好的に接する限り、あの力がこちらに牙を剝くことは無いだろう」

 

サジの扱いについて、ラーグ公とダイスダーグの間では結論が出ていたようだ。要は、こちらから彼を害するような事をしない限り敵対することは無いと二人は認識していた。

 

「どれ、今度ルザリアに行ったら今一度顔でも見に行くことにしよう。彼に()()だと認識されれば、我々はより盤石になるであろうしな」

 

そう何気なく言うラーグ公だったが、彼の親友であるダイスダーグはその言葉の調子からラーグ公の真意に気が付く。

 

「…あまりサジに無茶はさせないようにな」

 

「何を言っておるのだ? 公爵として正式に呼び出すような事はせぬぞ。 余計な心労を掛けても仕方ないのでな」

 

「報告にあった()()()は古代の遺物だと聞いている。…確かお前はそういう物が好きだったと記憶しているのだが*3?」

 

「ちょっと見せて貰うくらい構わないであろう? 決して乗せてもらおうなどとは考えてはおらんよ」

 

そうラーグ公は言うが、ダイスダーグからしたら期待しているのが見え見えだったのでため息をついた。身分の割に剽軽なところがあるこの親友をエルムドアとも打ち解けていた様子だったサジが邪険にするとは思えなかった。となれば、未来は見えているようなものだ。

 

後日、ダイスダーグの予想通りにルザリアの郊外で陸上を爆走する船(報告にあったホバークラフトという名の乗り物)とそれに乗るご機嫌なラーグ公がいたという噂話がイグーロスに届き、ダイスダーグは非常に味わい深い顔をしながら唸ることになるのだった。

 

 


 

 

「それじゃ、また3か月後かな?」

 

「そうだね。…3か月後には僕がガリランドの名代かぁ」

 

 

魔法都市ガリランドの士官アカデミー前で一旦の別れの挨拶をしていたラムザ達とサジだったが、ラムザがアカデミー卒業後の進路について思う所があるようだった。

 

「なんだ、ラムザ。浮かない顔をして」

 

「僕はてっきり北天騎士団に所属すると思っていたからね。だけど、いきなり領地の一部を任されるなんて」

 

「ここ最近の功績を認められたからでしょ。大出世じゃない」

 

「それはそうなんだけど、身の丈に合ってない気がしてならないんだ」

 

どうやら、ラムザは領地の名代という立場になることについて気後れしているようだった。

 

「別にいきなり実務を全部やれって言うわけでもないでしょ。基本的には今のガリランドの執政官にお任せしていれば良いってダイスダーグ卿も言ってたんだし」

 

「そうだな。ラムザが全部背負うわけじゃないんだ。もう少し気楽に構えていてもいいと思うんだけどな」

 

「そういうディリータも他人事じゃないんだぞ。ラムザの副官である君も一緒に鍛えるためでもあるんだからね?」

 

「う"っ…。考えないようにしてたのに…」

 

「ディリータ、君も僕と一緒だからね…」

 

サジがディリータに現実を思い出させると、ラムザが暗い笑いを浮かべながらディリータを見ていた。

 

「そもそも士官アカデミーでは領地経営の単位なんて無かったのに…!」

 

「喜べよディリータ。貴重な経験を積めるんだよ?」

 

「サジは何でそんなに気楽なんだよっ!」

 

「何でって、俺が領地経営に関わるわけないでしょ? 3か月後には正式にラムザの部下として配属はされるけどね」

 

そんな感じでお気楽に構えているサジに、ラムザの魔の手が迫る。

 

「ふふふ、サジ、まさか君が逃れられるとでも思っているのかい?」

 

「逃れるも何も、俺は外様もいいところでしょうに。領地経営とか中核に関わる方がまずいでしょ」

 

「でも、3か月後には僕に決定権があるんだよ?」

 

「いやいや、ガリランドの名代としての権限は確かにあるだろうけど…。さすがにラムザの判断で俺に権限を持たせるのはダイスダーグ卿が反対するでしょ」

 

「それについては心配ないさ。ダイスダーグ兄さんには既に許可を貰ってるよ」

 

「噓でしょ…」

 

正式に加入となったとはいえ余所者の自分が責任のある立場になるとは思っていなかったサジに、ラムザが衝撃的な事実を告げる。どうやら、この短期間でラムザは政治を担う者として必要な技術の一つである『根回し』を習得したようだった。

 

ラムザが成長していることについて喜べばいいのか、悲しめばいいのか*4、サジは複雑な気持ちを抱える事になったがこれも彼自身の行動の結果である。諦めて受け入れるしかないのである。

 

サジはラムザに()()()()()()事にため息をつくも、その口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。ラムザの横にディリータが居る。ただそれだけで、自身の行動が決して無駄ではなかったという実感がサジの胸の内にはあった。

 

 

 

 

 

かくして、イヴァリース全土を巻き込んだ骸旅団の騒動はこれにて一件落着。少し先でラムザは魔法都市ガリランドを治める名代となり、その隣には副官としてディリータとサジが、そしてウィーグラフを筆頭とした元骸旅団の面々が加わることになる。

 

だが、この平穏は長くは続かない。国王の崩御と、それに伴う内戦は個人の運命が変わろうとも必ず起きる。その時、ラムザ達はどのような選択をするだろうか。

*1
原作では、ダイスダーグには妻も子供もいないようです。公式でそれ以上の情報が無いのですが、拙作では子供ができる前に妻と死別した後、後妻を娶ることもなく独身で居続けたという事にします。ラーグ公が悲しそうな目で見るのも、亡き妻への愛を貫く友の姿に悲哀を感じたからです。

*2
ウィーグラフは処女の月1日生まれの30代前半(公式プロフィールでは32歳となっています)。おとめ座の男です。2025年7月2日時点で声優はまだ発表されていませんが、CVが中村悠一さんだとガンダム00の某上級大尉と一緒になってしまいますね…

*3
ラーグ公の捏造設定です。古代のロマンが嫌いな男の子なんていません。

*4
ダイスダーグはラムザの成長を喜んでいます。ベオルブを継ぐものとしての自覚が育ってきて一安心です。




これにてchapter1は完結です。

chapter2以降、ほぼ原作が使えなくなりましたが、頑張ります。
サブストーリーは使えるからまだなんとかなるはずです…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。