イヴァリースでどう生きていけるのか   作:かにしぐれ

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幕間3 ベオルブの人々

天騎士バルバネスの墓参りに着いて行ったら推定ご本人(幽霊)がそこに居たという奇特な状況の中で、サジは必死にどうするかを考えていた。少なくとも、この状況では当初の目的だったバルバネスのご遺体を焼却するのはほぼ不可能である。

 

しかも、サジが冗談では済まなそうな反応をしているため、ラムザとディリータも見えないだけでバルバネスがそこに居るということをほぼ確信してしまっているので状況はさらにややこしい。そんな中でサジが出した結論はというと、

 

「ま、まぁ、天騎士バルバネスがそこに居てもいいじゃない。ちゃんとラムザとディリータの話を直接聞いてくれるってわけだし」

 

「そうかな? …そうかも?」

 

「普通ならあり得ないと言うところだが、サジの様子からして嘘だと思えないんだよな。それにサジが質の悪い冗談を言うとも思えないし」

 

何故バルバネスが現れたのかはサジにも全く見当が付かないため、考えても無駄だと全てをぶん投げることにしたのだった。ラムザやディリータからしても、今回の墓参りはバルバネスへの進路報告も兼ねているため、仮にご本人がそこに居たとしても問題は無いのだから、ご本人に対して後ろめたい事をしようとしていたサジが勝手に焦っていただけとも言える。

 

その後、ラムザとディリータは先の骸旅団の事件についてや士官アカデミーを卒業したこと、魔法都市ガリランドの名代として領地を運営することになった事など、近況から今後についてバルバネスの墓に向かって話した。それを穏やかな表情で頷きながら聞いているバルバネスを見て、いよいよサジは混乱してしまう。

 

「(もしかして、本当に末の息子たちと会うためだけに現れただけなのか? わからない…。天騎士バルバネスが何を考えているのか全然わからない…!)」

 

しかし、サジがいくら混乱していようとも時間は無情にも進んでしまう。その場の流れでサジも墓の前で黙とうを捧げつつ、ちらっとバルバネスの方を伺うとバルバネスは相変わらず穏やかな表情のままだった。もうこうなったら直接本人から話を聞くしかないと腹を括ったサジは、ラムザ達には聞こえないように「夜にまた来ます」と呟き、ラムザ達と一緒にバルバネスの墓を後にするのだった。

 

 


 

 

 

イグーロスの誰もが寝静まったと思われる深夜、サジは再びバルバネスの墓に現れた。やはり、というべきかバルバネスはそこでサジの事を待っていたようで、サジの事を真っすぐに見ていた。

 

サジは挨拶もそこそこに、バルバネスに尋ねる。

 

「貴方は死んでからずっとこの場所に居た、というわけではないでしょう。何か伝えたいことがあるのだと見受けられますが、いかがでしょうか」

 

「そう畏まらずともよい。息子たちと、ラムザとディリータのことをよく見てくれていたそうだな。その事について、まずは礼を言わせてもらおう」

 

「いえ、ラムザ達とはまだ半年程度の短い付き合いなので、礼を言われるような事では…」

 

「こういうのは付き合いの長さではないのだよ。それに、誘拐されたティータを助けてくれたとディリータが言っていたではないか。君は既に十分、私の家族の支えになっているよ」

 

「…ありがとうございます」

 

サジはバルバネスからの礼を受け取ったあと、静かにバルバネスが本題を話すのを待った。そして、バルバネスは再び口を開くと、

 

「私が見える君に、ダイスダーグへの伝言を頼みたい」

 

サジへダイスダーグへの言葉を託そうとした。しかし、バルバネスからダイスダーグへの伝言と、それに込められた想いを聞いたサジは、

 

「…ッ! そういう事は直接本人に言えッ!!」

 

と激昂した。

 

「しかし、今の私ではどうすることもできないだろう。今日もラムザ達には私が見えなかったのだから…」

 

「それについては私が何とかします。だから、その言葉はダイスダーグ卿に直接伝えてください」

 

「それが可能だったとしても、ダイスダーグが私に会おうとするだろうか」

 

「それも私が何とかします。貴方たちは、きちんとお互いに向き合って話すべきです。…本当は、生きているうちにそうすべきだったと思いますが」

 

ダイスダーグと直接会う事に及び腰なバルバネスに対して、しゃらくせぇとばかりにサジは話を進める。

 

「とにかく、明日の夜にダイスダーグ卿をここに連れてきますから。勝手にいなくなったりしないで下さいね?」

 

「…あぁ、わかった。私も腹を括るとしよう」

 

そのサジの勢いに押されて、バルバネスはダイスダーグと会うことを了承する。その返答に満足してバルバネスの墓からベオルブ邸へと戻ったサジは虚空の何者かに対して、小さな声で問いかけた。

 

「お願いがある。()()()()の力を借りることはできないかな?」

 

その後何らかの返答を得たようで、また虚空に向けてつぶやいた。

 

「ありがとう。これで、後はダイスダーグ卿を連れていくだけか。最悪の場合は拉致するしかないけれど、それだけはできればやりたくないんだよなぁ…」

 

サジが何やら物騒な独り言を言っていたが、それに気づく人間は誰も居なかった。

 

 

 


 

 

 

そして翌日、サジはダイスダーグをバルバネスの墓に連れてくることに成功していた。あまりにも簡単に了承するダイスダーグに驚き、宇宙猫を背負ったような表情を浮かべるサジに対してダイスダーグが苦笑交じりに事情を話し出す。どうやら、ラムザ達がバルバネスの墓での一件をダイスダーグに話していたとのことだった。

 

こんな荒唐無稽な話を信じるのかとサジがダイスダーグに問うと、さんざん荒唐無稽な事を現実にやってきたお前が言えた事かとダイスダーグに返されてサジは言葉に詰まってしまう。そんなサジに対してダイスダーグは、

 

「意味のない嘘や冗談を、お前が言うとは思わん。そこに我が父上が居て私に話があると言うのなら、行かねばならんだろう」

 

と、どこか決意を固めた表情で言うのだった。

 

そうして、その日の夜にダイスダーグと共に再びバルバネスの墓へと来たサジだったが、バルバネスの姿が確認できたところで、それ以上墓へは近付かずに周囲の警戒を行うと言って立ち止まった。それは、これから行われる事はダイスダーグのバルバネスの二人だけのものにしておくべきだという判断からだった。ダイスダーグはそれを了承すると、バルバネスの下へと歩いていった。

 

それ以降、サジはダイスダーグとバルバネスがどんな会話をしていたかはわからなかった。だが、時折ダイスダーグが声を荒げていた事だけはわかった。

 

「(無理はないよね。生きている内にちゃんと話し合えれば、別の道もあったかもしれないのだから)」

 

サジがバルバネスから託されかかった伝言は、バルバネスを毒を盛って暗殺せねばならない所までダイスダーグを思い詰めさせてしまったダイスダーグへの謝罪だった。それも、当初は「苦労を掛けた。すまなかった」と二言だけで済まそうとしていたのだから、それだけでは何のことだか伝わらないかもしれないからと詳細を聞き出したサジは思わず怒ってしまったわけである。

 

バルバネスの話では、ダイスダーグが政治を行うようになってから度々意見の食い違いで衝突してきたのだという。ダイスダーグのやり方は、目的のためなら汚い手段、つまりはバルバネスの"正義"に反するような事でも平然と行っていたとのことだったが、原作を知るサジにとってもバルバネスとダイスダーグの相性が良くない事は想像に難くない事だったので、その話を聞いても「でしょうね」という感想しか浮かばなかった。

 

しかし、そこから先の話が本題だった。バルバネスは毒に侵されて臥っていた病床の中で、イヴァリースとオルダーリアの長きに渡った戦争が終わりに向かっていることと、それをダイスダーグとラーグ公が王家を巻き込んで主導していたことを知った時、自分がダイスダーグにとって、そして何より平和を望む民にとっていかに邪魔な存在になっていたかという事に気づいたのだという。

 

バルバネスはその時、この期に及んでようやく"正義"を見失っていた事に気づく自分に失望したのだとサジに語った。故に、自分はダイスダーグに今更合わせる顔などないし、されどダイスダーグが親殺しの業に苦しむことになるのなら、それを取り除いてやりたいとサジに伝言を託そうとしたとのことだった。何とも不器用な父親である。

 

バルバネスはダイスダーグが"正義"のためだけに自分を殺したと考えているようだったが、サジは原作の知識からダイスダーグがバルバネスにある種のコンプレックスを抱えていたのではないかと考えていた。原作では、ザルバッグに父殺しの件を問い詰められ、「兄上は“正義”という心を持っていないのか!!」と問い詰められた時に、ダイスダーグは「“正義”だと? そんな言葉、口に出すのも恥ずかしいわッ!!」と返している。

 

その台詞のあとに、ザルバッグがベオルブらしく振舞えるよう支えてきたのは自分だというような台詞を言うのだ。口では正義を否定しながらも、行動では自分が泥を被る代わりに弟が正義を貫けるよう場を整えていたのがダイスダーグなのだ。そこにダイスダーグのバルバネスへの複雑な思いが見え隠れしているようにサジには思えた。

 

だからこそ、サジはバルバネスとダイスダーグを直接会わせようと考え、そのために()()()()()()()()()()から力を借りれないかと()()()()()()()()()に相談し、普段は行使しないと決めている()()()としての力を全力で行使してこの場を整えたのである。

 

バルバネスとダイスダーグが話し始めてからどれだけ経っただろうか、風向きが変わったのか今まで途切れ途切れにしか聞こえなかったバルバネスの声がサジの耳にまではっきりと聞こえた。

 

「ダイスダーグよ。お前の行いを他の誰もが正義ではないと糾弾しようとも、私はそれが正義だと認めよう。胸を張れ。お前は間違いなく"ベオルブ"だ」

 

それは静かだが力強い宣言だった。それに対して、ダイスダーグがバルバネスに何と言ったのかは聞こえなかった。だが、バルバネスとの対話が終わり、サジを呼ぶダイスダーグの表情には暗い物が無く憑き物が落ちたようだった事から、バルバネスのその言葉はダイスダーグにとって悪いものでは無かったのだろう。

 

ダイスダーグに呼ばれてバルバネスの墓の前で来たサジは、ダイスダーグより地中にあるバルバネスの遺体の焼却を依頼された。サジとしてもそれが本来の目的だったので願っても無い事ではあったのだが、バルバネスも見ている前で依頼されるとは思わなかったため、思いっきり動揺してしまう。

 

「いや、その、事情を知ればバルバネス卿の遺体を焼却しないといけないというのはわかりますけどね。()()()の前で言われると、その…」

 

「私からも頼む。私がベオルブの未来に影を落とす原因にはなりたくないのでな」

 

「被害者本人が承諾する証拠隠滅に加担するこっちの気持ちも考えて欲しいですねぇ…!」

 

バルバネスからも頼まれてしまったので、結局サジは地中に埋まっているバルバネスの遺体をその場で焼却することになった。本人(本霊)が見ている前で地中の棺を焼却するというなんともシュールな儀式を終えた後、ダイスダーグとサジはその場を去ることにした。

 

その際に、サジはバルバネスに何もしなければ今日の明け方まで存在できるけれど、今すぐ成仏させることも可能だがどうするかと聞いたところ、バルバネスが朝までこのまま居ると返答したため、バルバネスをその場で成仏させることはしなかった。

 

そうして、誰も居なくなったはずのバルバネスの墓にザルバッグが現れた。ダイスダーグやサジは気付いていなかったが、どうやら墓の近くに隠れていたようだ。

 

ザルバッグは神妙な面持ちでバルバネスの側まで歩いていく。

 

「父上…」

 

「…ダイスダーグの事は、許せぬか?」

 

何を言えばいいのかわからず言葉が詰まってしまうザルバッグに、バルバネスは問いかける。それに対し、少しの間沈黙した後ザルバッグは俯いたまま答える。

 

「オレは…今まで何も知りませんでした。兄上が抱えているものを、何も…」

 

「それは私も同じだ。私も気づくのがあまりにも遅すぎた。父親失格だな」

 

「そんな! 父上は何もッ!」

 

「その結果、ダイスダーグに親殺しの業を負わせてしまったのだ。これは私の罪だ」

 

そう言うバルバネスに対し、ザルバッグは何も言えなかった。

 

「私が健在であれば今も鴎国との戦争は続いていたであろう。シドは引き際を見計らっていたようだが、私はそうでは無かった。ベオルブとして"正義"を掲げていながら、私は民を苦しめる選択をしようとしていたのだ」

 

「……」

 

「ダイスダーグはそんな私を止めるために、私を殺したのだ。あやつは私怨もあるなどと言っていたが、その根底には間違いなく"正義"があった。私が見失っていた"正義"が」

 

「父上…」

 

「これから先も、ダイスダーグは己の"正義"のために泥を被り続けるだろう。その先にベオルブと、そして民の繁栄があると信じてな」

 

そこまで語ったバルバネスは一息おくと、ザルバッグを真っすぐに見据える。

 

「ザルバッグよ、頼みがある。ダイスダーグを、どうか支えてやってくれ。あやつは、未来のための犠牲になろうとするだろう。だが、私は…お前たちには"正義"を胸に()()()()()()のであって、"正義"に()()()()()()のではないのだ」

 

そうバルバネスに頼まれたザルバッグは、しっかりとバルバネスと目を合わせると

 

「確かに承りました、父上」

 

と力強く返答するのだった。

 

「ところで、父上はラムザとは話さなくて良いのですか?」

 

「あぁ。ラムザは昨日、ここに来て近況を話してくれたのでな。…あやつはもう、一人前として歩み始めている。共に歩む者たちも居る。今、私が何か言葉を掛ける必要はないだろう。それに…」

 

「それに?」

 

「もし必要ならば、あの青年に声を掛ければなんとでもなるのだからな」

 

そんな事を茶目っ気たっぷりに言いだしたバルバネスに対して、

 

「また化けて出るつもりですか、父上…」

 

と呆れながら返すしかないザルバッグだった。そんなザルバッグを見て朗らかに笑いながら、バルバネスは別れの言葉を告げる。

 

「息災でな、ザルバッグよ」

 

「はい、父上。オレも、父上がまた化けて出てくる必要がないように頑張ります」

 

冗談を交えて返すザルバッグに再び朗らかに笑うバルバネスだった。

 

 

 

 

朝日が昇る頃、バルバネスの姿は光に溶けるように消えていった。彼が消える瞬間、穏やかな表情だったことから、もう未練は残っていないようだ。きっと、ベオルブの未来も明るいものになるだろう。

 

 

 

 

 

 

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