イヴァリースの国教となっているグレバドス教、その総本山である聖地ミュロンドにある聖ミュロンド寺院の一室にて、二人の神殿騎士が今後の方針について打ち合わせをしていた。その内容は、今後の部隊の運用について等
「…ふむ?」
「どうかなさったのですか?」
その打ち合わせがひと段落したところで、シルバーグレイの髪を持つ壮年の神殿騎士が徐に首を傾げる。その様子を見て、もうひとりの青いローブを被った神殿騎士がどうしたのかを聞くと、壮年の神殿騎士は静かに答えた。
「"聖石"より流れ込んできた知識や力が止まったようだ」
「それは…まさか何か問題が発生したのでは?」
「いや、大分前から"聖石"より私に流れ込んでくる力や知識は少なくなってきていた。それが完全に止まったということは、私が"器"として完成したと考えて良いだろう」
「そうでしたか。…私はヴォルマルフ様から力を分け与えて貰っている身ですゆえ、力の流れについてはさっぱりでしたから」
「時は来た、というべきだろうな。やはり、我々の悲願の成就のためには、我々自身が動く必要があるだろう」
「ゴラグロスもあそこまで我々がお膳立てをしておきながら、ダイスダーグ卿を始末するには至りませんでしたからね。やはり、脆弱な人間は使えないようです」
「クククク…。そう言うな、ローファルよ。現世に顕現できているのは、私とキュクレインだけだ。まだ"器"となれる人間を探さねばならん。そのためにも、人間を使わざるを得ないのだからな」
先ほどまでの打ち合わせとは打って変わって、何やら不穏な事を話し出した神殿騎士の二人。その話しぶりからして、どうやらこの二人は既に人間ではない様子だった。
実のところ、この二人の神殿騎士は原作FFTにおいての黒幕だ。壮年の神殿騎士ヴォルマルフはルカヴィの一体である"統制者ハシュマリム"として、ルカヴィのリーダーである"聖天使アルテマ"を復活させるために、地上で大きな戦争を起こして多くの血を流させようと暗躍していた。
そして青いローブの神殿騎士ローファルは、ヴォルマルフから力を与えられたルカヴィの眷属として、ヴォルマルフと一緒にイヴァリースで暗躍していたのである。
「現国王が崩御するのも時間の問題だ。そして、国王が崩御すれば必ず両獅子が争うことになる。焦る必要は無い」
「ですが、教会の欲深い者たちは我々と違って時間に余裕が無いでしょう。我々にも何らかの指示が下されるのでは?」
「現教皇は慎重派だ。立て続けに策が潰された現状では、教会が怪しまれないようにすべきだと進言すればうるさい声を黙らせることはできるだろう」
「教皇も聖職者とは名ばかりの俗物ですが、使いようはあるのですね」
仮にも聖職者であるローファルが教皇を貶めるような発言をするも、ヴォルマルフはそれを咎めるような事は言わず無言で黙認したのだった。
神殿騎士の長であるヴォルマルフがハシュマリムに魅入られたのは50年戦争末期だった。当時は模範的な神殿騎士だったヴォルマルフだが、領民が苦しんでいるのにも関わらず戦争を続ける俗世の権力者や、清廉であるべき教会の腐敗を目にし続けた結果現世に絶望した。その絶望を、ハシュマリムに付け込まれてしまったのだ。
今の彼の胸の内にある思想はただ一つ、この腐敗しきった世界を聖天使アルテマの力によって滅ぼし、そして新たな世界を創ることだった。その思想が、ヴォルマルフ自身のものか、それともハシュマリムによって歪まされたものなのか、もはや彼自身にはわからなくなっていた。
ラムザが魔法都市ガリランドの名代に就任する日まであと一週間となったある日、サジはイグーロス城の執務室にダイスダーグから呼び出されていた。ラムザやディリータと一緒にではなく、自分だけ呼び出されたことを疑問に思いつつも執務室に向かうと、そこにはダイスダーグだけでなくラーグ公も一緒に居るのだった。
これはただ事ではないと思いつつ臣下の礼を咄嗟に取ろうとしたサジだったが、ラーグ公にやんわりと制止される。
「そう畏まらなくともよい。今日は内密な話をするためにそなたを呼び出したのだ」
「内密な話…ですか」
そう答えつつダイスダーグに目線を飛ばすサジ。対するダイスダーグは眉間に皺を寄せているわけではなかったため、今日の話はラーグ公からの無茶ぶりでは無いようだとサジは判断した。
「サジ。お前は先日、ベオルブについての
「ベオルブ家に関わる機密ですか。…
サジがそう答えると、ラーグ公は愉快そうに笑みを浮かべながらダイスダーグを見る。そして、それを鬱陶しそうにしながらもダイスダーグは話を続ける。
「ある意味そうだ、と言えるかもしれん。お前には、今後ザルバッグやラムザには頼めない案件を依頼する事になる」
「"裏"の仕事に関わらせる、ということですね。それなりの要人の暗殺の一人や二人くらいなら引き受けますし、本職よりも痕跡を残さない事には自信がありますが…」
突然物騒な事を言い出したサジに対して、ダイスダーグとラーグ公は目を丸くして慌てだす。
「いや、そういった事を頼むことは無いから安心して欲しい」
「うむ。仮に、仮にだ。ゴルターナ公の暗殺をそなたに依頼し、それが成功したとしよう。…それって、イヴァリースの誰もがそなたの気分次第でいつでも舞台から退場させられるということになるのではないか?」
「我々の心の平穏のためにも、そのような依頼はしないと誓おう」
「ダイスダーグ卿もラーグ公も、私を何だと思っているんですか…」
あまりにもぶっちゃけ過ぎな事を言う二人に対して、サジはため息をつく。
「しかも、話の流れで仮想敵が黒獅子陣営だって言いましたね?」
気を取り直してサジが先ほどのラーグ公の発言について指摘すると、ラーグ公とダイスダーグは顔を見合わせた後でニヤリと笑う。
「やはり気付くか。今回、そなたに期待しているのはその聡明さだ。そなたの
「先のオルダリーアとの戦争と違い、今回はあくまでイヴァリースの主導権をどちらが握るのかを決める戦だ」
「つまり、勝敗をつける必要はあるけれど、お互いの消耗は最小限にしたいということですね?」
サジの言葉にダイスダーグは頷く。
「そうだ。ゴルターナ公に付く貴族の中には、内戦が起こることを快く思わない者も居るだろう。そういった貴族の調略を行う予定だ」
「そこで、そなたには我々が目を付けた貴族と接触し、秘密裡に会談を行えるよう場を整えてもらいたいのだ」
「わかりました。そういう事ならお任せください」
その後は、サジとダイスダーグの間で今後の動き方についての調整を行った。その中には、サプライズラーグ公(先触れ無しでのラーグ公の訪問)は控えて欲しいというサジからの要望もあったが、それに対してダイスダーグからの返答は眉間に深く皺を寄せてからの首を横に振るものだったとだけ記載させていただく。
かくして、イヴァリースの情勢は次の段階へと移行することになるのだった。白獅子と黒獅子の政治闘争に加えて、聖天使復活のために大規模な戦争を引き起こそうと画策するルカヴィ勢力の暗躍。これらにラムザ達は立ち向かう事になる。その時、この歴史の異物であるサジはどのような決断をするのだろうか。