ラムザが魔法都市ガリランドの名代に就任し、初めての経験の連続に四苦八苦しながらも業務をこなし続けて1年経ったある日の事、サジはガリランドの執務室で頭を抱えていた。
「どうしてこうなった…! 何がいけなかったというんだ!」
そう叫ぶサジを、ラムザとディリータはなんとも言えない表情で見つめるしかなかった。
「サジ、お前の不満もわからないわけではないが、仕方がないだろう」
「仕方がない? 教会の査察を切り抜けられたからいいものの、下手をすれば俺は異端者認定されてたかもしれないんだぞっ!?」
「それはダイスダーグ兄さんも考えすぎだって言ってたじゃないか」
ディリータとラムザに宥められるサジだったが、それでもまだ不満は収まらないようだった。
「確かにダイスダーグ卿はそう言っていたよ。だけど、教会は
「確かに『歓楽街の王』だけならまだしも、『
「色街の改革にはベオルブの威光を使うのが一番効率的だったんだよ! それに、ラムザもベオルブの名を前面に出すことには同意したじゃないか!」
「それで救われる人が多いのなら、僕はベオルブの名を使うことに躊躇はしないよ。だけど、好色家に見られる事になるのはさすがにね…」
「俺だって好色家じゃないよ!」
「サジ、お前が今まで発案したもの見た上でも同じ事が言えるのか?」
「なんでさ! バニーは一般性癖だよね!?」
「僕らにとっては、あの衣装ですら既に衝撃だったんだけど」
「あれだけ煽情的な衣装を考案しているだけでも充分だと思うが、他にも実績があるんだ。何か申し開きはあるか?」
「全部俺が一から考えたものじゃない! 俺の故郷にあったものを持ってきただけだ! 俺は悪くない!」
話の流れからして、何やら
ラムザがガリランドに赴任してから数か月が経ったある日の、北天騎士団によるガリランド市内の巡回にサジが同行したのが事の始まりだった。表通りの巡回が終わり裏通りの巡回となったため、当然娼館の前も通る事になる。尤も、サジは元々は現代日本を生きていた現代人のため、その建物が娼館であるとは気付かずに見ていたのだが、北天騎士団として巡回していたミルウーダが面白がってサジに声を掛けたのだ。
「あら、あなたでも
「こういうもの? …あぁ、もしかしてこの建物は娼館なのかな?」
「えぇ、そうよ。その様子だとわかってて見ていたわけではないのね」
サジはミルウーダが揶揄ってきたことで、その建物が何なのかを察したようだった。それに対して、ミルウーダはサジがあっさりとした態度だったことが期待外れだったようで、肩をすくめていた。
「故郷だとこういう佇まいでは無かったからね。でも、そうか…やっぱり、こういう所にも手を入れるべきなんだろうな」
サジは少し考え込んだ後、一人で合点したように頷いていた。
「手を入れる…って、まさか娼館を無くすつもり?」
「いや、さすがにそれは無いかな。潔癖な人は無くすべきと言うかもしれないけれど、こういう場は
「…そうね。うちにも魔法の適性があったから義勇兵として参加した娘もいるわよ。彼女たちも、魔法が使えなかったらこういう所で働くしかなかったわ」
「…それって娼館に売られるってことだよね?」
「貧しい農村では珍しい事では無いわ。…売られた娘も、家族みんなで飢えて死ぬよりはマシよ」
サジの問いかけに対して、渋い顔をしながらもはっきりとミルウーダは答えた。
「まともに運営されているのなら手を出す気は無いけれどねぇ…」
「手を出すつもりならやめた方がいいわ。兄さんですら、こういう所の裏にいる組織には手を出せなかったんだもの」
「ウィーグラフさんは、やっぱりこういう組織も不当に民を搾取する奴らとして見ていたんだね」
ミルウーダからポロッと漏らした骸旅団時代のウィーグラフの話を聞いて微笑むサジ。その後、サジは娼館について特に言及することもなくガリランドの巡回を終えた。
それから数日後、娼館を経営している組織の犯罪行為についての情報がラムザの下に入ったため北天騎士団による強制捜査が行われる事になった。だが、北天騎士団が犯罪組織のアジトに踏み込んだ時には、既に組織は何者かによって制圧された後であり、縄で縛られて気絶している構成員が転がっていたのであった。
なお、意識を取り戻した構成員の証言によれば、仮面で顔を隠した集団に襲撃されたとのこと。そして、その仮面の集団の内の一人が誰にも剣が届かない場所で剣を空振ると何故か自分たちが切り刻まれていたとのことだった。
その手口の鮮やかさと北天騎士団に連絡を入れて捕まえさせたことから、ラムザはサジ(と剣技の件からウィーグラフ)の関与を疑ったが、当のサジはラムザに問いただされるとテヘぺろを披露しつつガリランド内の娼館の再建と運営プランを提出してきたため、ラムザは深いため息を吐いてからそれを受け取ったのだった。
こうして、魔法都市ガリランドの娼館の運営はヤクザ者の組織から名目上はベオルブ家に移ることになるのだった。その結果、娼館の衛生環境や労働条件などは劇的に改善されることになり、娼館に売られた娘たちは正当な稼ぎを得る事ができるようになった。
さて、ここまでの話であればサジはヤクザ者の組織を壊滅させて娼館で行われていた搾取を止めさせただけであり、冒頭のような渾名で呼ばれるような事にはならないはずである。つまり、ここからの行動がまずかったのだ。
サジは娼館の運営の健全化と一緒に、とある施設の運営も新たに行うプランをラムザに提出していた。それは飲食店だったのだが、そこで従業員が着せられる衣装が大問題だった。そう、冒頭でもポロッとサジが言っていたバニーガールだったのである。
サジの当初の考えは半官半民で飲食店を運営するというプランだった。というのも、娼館に売られた娘たちの中には、やっぱり"身体を売る"という行為自体に忌避感がある人もいるだろうから、別の形で働ける場所を用意する必要があるとサジは考えていた。
幸いにも、飲食店で提供する料理についての案はサジにはあった。そして、それに必要な日本人にとって馴染み深い調味料も貿易都市で比較的容易に手に入れられることがわかっていた。
しかし、提供される料理の美味しさや物珍しさだけで商売が上手くいくとは楽観できなかったサジは、結局色気で釣るのが一番だよねという結論に至った結果、バニーガールを提案してしまったのだ。ラムザへのプレゼン資料の作成を短期間で書き上げた代償(徹夜明けのテンション)で生まれたトンチキなアイデアだった。
そんな案が承認されてしまったのは、その資料を読んだラムザが"健全な飲食店"ではなく"従来の娼館とは異なる新しい娼館"のプランとして認識したからであった。全ては添付されたバニーガールの衣装イメージ図が悪かった*1。
そしてサジが正気に戻った時には既に事業にGOサインが出た後であり、自身のやらかしに気が付いたサジは娼館から救い出した娘たちにバニーガール衣装の試作品を見せて「こんな破廉恥な衣装を着て接客するのは嫌だよね?」と問いかけて"彼女ら自身の要望により方向性を変更した"という大義名分を得ようとした。
だが、彼女たちからの返答は「それくらいの覚悟は元からできている(意訳)」というものだったため、あえなくバニーガールによる接客がされる飲食店がオープンすることになってしまったのだった。
かくしてイヴァリース基準でも大変DSKB…もとい叡智な制服の飲食店*2が爆誕し、その噂は瞬く間にイヴァリース全土に広がり大繁盛となる。最初は衣装に釣られた客がほとんどだったが、提供される料理にもファンが付いて評判になったのはサジにとって僅かな救いにはなったと信じたいところである。
魔法都市ガリランドは学術都市としてだけでなく歓楽街としても名を馳せるようになった結果、多くの教会からのお客さんが