オーボンヌ修道院。海岸の崖に建てられたこの修道院は、都市の喧騒から隔離されている。また、この修道院には地下5階まである巨大な書庫が建造されており、遥か古代の書物も保管されている。
尤も、地下5階は床が浸水しており湿気がそれはすごいことになっているため、書物の保存状況についてはあまりよろしくないのかもしれないが。
そんな修道院の管理をグレバドス教会より任されている神学者シモンは、その日も地下の書庫に籠って
シモンが自身の部屋や地上階ではなく、地下でそんなことをしているのは、その
シモンが日々の日課であるその
修道院の者が自身を呼びに来たのなら、地上階へと続く階段がある方向から気配がするはずだ。だが、この気配は地下への階段がある方向から近づいてきていた。
このオーボンヌ修道院の地下に、外へとつながる抜け道など無いことは、ここに赴任してきた時にシモンは確認していた。
ならば、地下からやってきたのは一体何者なのか。いつの間にか修道院に忍び込んだ、”ただの賊”であるならば、かつては上級の異端審問官として名を馳せていたシモンなら老いた今となってもあしらうことは容易い。
だが・・・とシモンは一筋の汗を流す。よりによって、この気配は地下からやってきているのだ。そして、シモンはこの書庫の最下層に何があるかを知っている。
今のところその気配から危険なものは感じないが、万が一という可能性がある。自分の手に負えるような相手であれば良いがと思案していると、その気配が薄暗い書庫の通路から姿を現した。
はたして、それは黒髪黒目の青年だった。黒髪黒目は確か遥か東国の人間の特徴だったか、とシモンは思い返す。その青年の身なりはイヴァリースでは見かけない上着とズボンを着ており、手足につけている手甲や足甲とはちぐはぐな印象を受けた。
そして、そんな青年の腰に銃が左右に一丁ずつぶら下げてあるのを見て、シモンは警戒度を引き上げた。銃は魔法や弓よりも早く遠くの敵を攻撃できる武器てあることもそうだが、イヴァリースでは機工都市ゴーグでのみ生産されているため高価であり、それを2丁持っているということは”ただの賊”ではないということになるからだ。
シモンが想定していた最悪ではなかったものの、依然として気を抜けるような状況ではない中で、とりあえず臨戦態勢ではないその青年に声をかけようとすると、その青年の方から、
「どこから見ても怪しい者で申し訳ないのですが、ここがどこだか教えてもらってもよろしいでしょうか?」
と、非常に申し訳なさそうな様子で話しかけてきたのだった・・・
シモンはその青年から簡単に彼の状況を聞き、その結果もう少しこの地下で話をすることにした。
なんでも、この青年は地下5階に別の場所から転移してきたと言うのだ。それを聞いて、シモンはもしかすると
その青年はサジ・ホシミヤと名乗った。イヴァリースでは聞きなれない名前だったが、彼はシモンの予想通り東国の出身であるとのことだった。また、家名こそ持っているが、彼自身は平民だと言っていた。
サジの立ち振る舞いや言葉遣いからして、まったくの
問題は、その後にサジから語られたここに来るまでの道中の話だった。何でも、何処ともわからぬ廃坑の奥底から水晶の迷路に迷い込み、その果てに地下に沈んだと思われる滅びた都市を探索していたら突然転移し、このオーボンヌ修道院の地下にたどり着いたのだと言うのだ。
あまりにも荒唐無稽な話ではあるが、サジの持ち物にはその水晶の迷宮で拾ったクリスタルや、滅びた都市で金目になりそうだからと拾ったという代物を見せられては、まったくの法螺話だと切り捨てるわけにもいかなかった。
特にシモンの目を引いたのは滅びた都市で拾ったとされる物で、それらは
・・・そして、それらが事実だとすれば、シモンが検証している
全てを話し終えた後、サジと名乗った青年は
「荒唐無稽な話なので信じてもらわなくても結構なのですが、私はもう限界が近いのです・・・」
というと、盛大にお腹を鳴らした。
その音にシモンは現実に引き戻されると共に毒気も抜かれてしまい、
「どうやら大変な旅をしてきたことは本当のようですね。それでは、そろそろ夕餉の時間になりますので、ご一緒にどうでしょうか」
とへたり込んでいるサジを修道院の客人として迎え入れることにしたのだった。