ザルバッグ卿の指示を受けて、イグーロス城から貿易都市ドーターへ向かったラムザ一行は、魔法都市ガリランドと貿易都市ドーターの間に広がるスウィージの森の入り口まで来ていた。
「朝にガリランドを出発して今はお昼頃。野営をするにはまだ早すぎる時間なので、これから森に入らなくてはならないッ!」
「サジ、いきなりどうしたんだ?」
突然大声で何やら話し出したサジに対して怪訝な顔でツッコミを入れるディリータ。だが、それに答えることなくサジは言葉を続ける
「今から森に入ったところで、はたして日が暮れるまでに森を抜けることはできるのでしょうか! はいっ、ラムザ君の答えっ!」
「えっ、僕!? …さすがに今日は森の中で野営をすることになるかな。魔物が多い場所で危険だけど、これがドーターに一番近いルートだから今はここを進むしかないよ」
「はい、ラムザ君ご回答ありがとうございます。ですが、俺は夜の森は嫌いです!」
「嫌いだからってどうにかなるもんじゃないだろ。侯爵様を早くお救いしなければならないんだ。今更ルート変更なんて無理だぜ」
何やら森に入るのが嫌なようでおかしなテンションになっているサジに対して、ラムザとアルガスも突っ込む。
「それはわかってる! というわけで皆ちょっと集まって~」
ただ、サジは何やら考えがあるようで、アカデミー生を含めてラムザ達を集める。突拍子もない事を言い出したサジに肩をすくめながらも皆がサジの周りに集まったところで、
「お集まりいただきありがとう。『ヘイスガ』『レビテガ』よし、これで森を全速前進DA☆!」
「待て待て待て、いきなりなんだ!?」
補助魔法を全員に掛ける。いきなりの出来事にディリータが声をかける。他のメンバーも突然宙に浮いた状態になったためか驚いているようだった。
「何って、ヘイストとレビテトを全員に掛けただけだけど? これで森の中でも不自由なく歩けるし、ヘイストもかけたから日が暮れるまでには森を突破できるんじゃないかな?」
「そういうことなら事前に説明しろよっ!? だが、補助魔法ってそんなに効果が持続するものじゃないだろ?」
「レビテトが切れかけると足元の光が点滅するから、それを合図にして魔法を掛け直すから大丈夫だよ。というわけでラムザ、進行開始の宣言よろしくね」
「あはははは…」
あまりにも力技な方法で何としてでも森を突破しようとするサジにラムザ達は呆れつつも、その後森を進んでいくうちに補助魔法のありがたみをこれでもかと感じた結果、
「イヤッホオオオオウ!! …ぐえっ」
「さすがにはしゃぎ過ぎだと思うの。スピードを出し過ぎるとそうやって木に激突しちゃうから、スピード狂になるのなら森を抜けてからにしなさいっ!」
「最初はびっくりしたけど、アカデミーで行軍の訓練をした時よりもずっと楽に進めるね」
「あぁ。補助魔法に戦闘以外でもこんな使い方があるとはな」
「こんな魔法が使えるならイグーロスを出るときから使ってくれよ、サジ」
「俺も森に入るときに思い出したから仕方ないね。集団に掛けるのは初めてだったけど、魔力の消費量的にも大丈夫そうだからこのままドーターまで行っちゃおうか」
その普通ではあり得ない快適な行軍スピードにはしゃいだアカデミー生が勢い余って交通事故(物損)を起こしたりしていた。ラムザとディリータは補助魔法の効果に感心していたが、アルガスはもっと前から使えば良かったのにと不満を漏らしていた。やはり、アルガスは侯爵救出のために気が逸っているようだ。
なお、魔物の巣とも言える森の中なのに緊張感なく進んでいるのには理由があり、こんな様子のおかしい集団に対して近づこうとする魔物はごく少数だったということと、そのごく少数の魔物が進路上に出てきても
「ほいっと。わざわざ射線上に出てきてくれるから楽ちんだね」
「ボムを一撃か。その銃、相当な威力だな」
「骸旅団と戦った時も全部一発だったよね」
「遠距離の手段を持つのも悪くないな。なぁ、サジ。俺にも使えそうなものはないのか?」
「アルガスにも使えそうなのねぇ…。魔法銃しか無いけど、アルガスって魔法の素質はあるの?」
「うぐっ。そう簡単にはいかねぇか…」
サジが撃ち抜いてしまうため、本来ならば発生したであろう森の中での戦闘が起こることもなく進めてしまうからだった。
結局、ガリランドからドーターまで本来なら丸二日かかる道のりをガリランドを出発した日の日没ごろにはドーターに着いてしまったラムザ一行。一応は強行軍だったため流石に疲れもあったため、その日はドーターの宿で休み翌日からこの地で消息を絶ったという"草"の手がかりを探すことにしたのだった。
そして翌日、ザルバッグ卿から聞いているドーターの北天騎士団の拠点にラムザとディリータとアルガスは向かうこととなり、残りの人員は2人一組でそれぞれ骸旅団についての情報を集めることとなったのだが、
「はい二人組つくって~(即死魔法)で見事に一人余った私は異邦人~」
「それなら、サジも僕らと一緒に来る?」
「ちょうど一人になったから、手持ちのお宝を換金してこようかなって。ついでにこっちでも骸旅団の情報を集めてみるよ」
そういうわけでサジは、単独行動をするのだった。魔法都市ガリランド以降、ラムザ達と行動を共にしていたため実のところ出費はかなり抑えられていた、というか北天騎士団持ちになっていた。だがサジとしては流石に正規のメンバーでもないのに自身の生活費まで他のメンバーと一緒に経費で落とされているのは忍びなかったため、路銀の調達をして自身の生活費の分を清算しておきたかったのだ。
そうしてドーターにあるお店で拾ってきたトレジャーをいくつか換金した後で街角にある酒場にやってきたサジは、情報収集も兼ねて酒場のマスターから最近の骸旅団の動向などの噂話をチップを払って聞いていた。特に目立った収穫は無かったが、情報を聞くだけで失礼するのも何なので、マスターに軽い食事を注文したところで一人の剣士が酒場に入店してきた。
イヴァリースではオルダリーアとの戦争後に騎士団ごと解雇されることも少なくなかったため、騎士崩れの傭兵というのは珍しくなかったが、その剣士は騎士崩れにしてはいささか身なりが整っていた。使い込まれた鎧や腰に佩いている剣はよく手入れされており、汚らしいという印象は一切なく歴戦の勇士という雰囲気を醸し出していた。またこの剣士の見た目は短く整えられた金髪と綺麗に剃られた髭の精悍な顔をしているため、
そんな推定騎士の剣士は酒場のカウンターに座っていたサジの隣の席に座ると、マスターに骸旅団の動向について聞いていた。それに対してマスターは、そこの異国人はともかく何でアンタがと小さく呟きながらもサジに話したのと同じ内容を答えていた。
そのマスターの呟きが聞こえてしまったサジは、表面上は平静を保っていたが内心では頭を抱えていた。
(隣の剣士、ウィーグラフじゃないか! いや、原作でもラムザ達とニアミスしてたから居てもおかしくないんだけどさぁ!)
骸旅団団長ウィーグラフと図らずも邂逅してしまったサジ。この後一体どうしたかというと…
「お待たせ。協力者を連れてきたよ」
「協力者…って、そいつはウィーグラフじゃないか!?」
「ウィーグラフって骸旅団団長の!?」
「おいディリータッ! それは間違いないのか!?」
「あぁ、五十年戦争の終わり際にイグーロスで見たことがある。だが何故ここに居る!?」
とても厄介な事態を引き起こしていたのだった。