士郎、アーチャー短編 作:晃晃
いつの記憶だろうか。映像が摩耗していく代わりに、確かな
「これはだれの物だったのだろか?」
キラキラと赤く輝くペンダント。大事だったもの。その記憶と宝石はいつまでも色褪せはしない。
ふと、あの選択を思い出す。オレがこんな姿になりはてた、その
みんなもう、外へ避難できただろうか。今ここでどれだけ時間が稼げるのやら、
「くっそ、このままだと、まだ施設に残っている人が!」
とある町で、地震があったのだ。地震の揺れで原子炉がメルトダウン。そして停電もあったためか、この近くの住人も避難が済んではいない。誰もが、「もう手遅れ――」と絶望していた。その目は幼き自分を思い出す。
「冬木大火災――」、あれは結局冬木で行われていた聖杯戦争の結果として、町全体が焼き尽くされた。覚えているのは熱かったことと、息が出来なかったことと、誰かが助けようとして、その助けようとした人も死んでいったこと。まさに正真正銘の地獄だ。
俺の養父、衛宮切嗣もその聖杯戦争に参加していたらしい。俺はそのことを第五次聖杯戦争が始まるまで知る由もなかった。
ならばこそ、自分の
そう、結局俺は初めから何を救うことが出来ないと薄々気づいていたのかもしれない。
俺はその時、路頭に迷っていた。それは正義の味方として何をすればいいのかという、
周りから見れば本当に小さなことなのかもしれない。それでも俺にとって時間のかかり過ぎる、重大であり、大切なことだった。
聖杯戦争後、結局誰かを助け、「正義の味方」という唯一の信念を果たせなかった。だからこそ、俺は冬木を出て、自分の夢を果たすため凜を切り捨てでもここへ来たのだ。
「遠坂は俺が死んだら、悲しむ、かな...」
俺は一時期、共闘関係を遠坂と共闘関係を築いたものの、聖杯を破壊後、俺の理想が歪だと理解し、その日から決別したのだ。
あの時の遠坂の顔は思い出したくもない。唯一理解されると信じていた、遠坂でさえ侮蔑し、怒って出て行ってしまった。
俺にとっての遠坂は、眩しくて、まさに自分の選択を正しく進められる。すげぇ奴。俺は彼女が好きだった。ずっと居られれば良かったが、それが叶わず、俺という存在は遠坂には相応しくなかったのかもしれない。ああ言っていたか――
「あんたがそんなに誰かを助けたいなら、もう好きにしなさい!」その声は怒りよりも、寂しさに満ちていた。
次の瞬間にはオレの頬に鈍い痛み、遠坂の拳が俺の頬を打った。彼女の目には涙が滲んでいた。俺自身も悲しさで満ちていた。
それが彼女の最後の言葉だったか。なんであそこまで怒っているのか、昔の俺は分かっていなかった。
「なんで、今遠坂のことを...?」
ああ、今は過去に浸るときではない。だと言うのに、俺は、俺は。
ほとんどこぼれたことがない一筋の涙が少年の頬を伝った。少年は大火災以降、涙などこぼれ落ちることなど、早々に無かったのだ。あらゆる感情があふれているのか、それとも無力な自分への怒りなのか、救えるものを救わなかった後悔なのか。
涙で視界は滲みながらも赤く染まり、熱で空気が揺らいでいた。今にも溜まりに溜まったエネルギーが爆発しかねない。まさに死と隣り合わせ――
いや、もう助からない。あまりにも放射線を浴び過ぎた。皮膚が焼けるように痛い。結局理想を果たせないまま、命付き耐える。この暑さとは裏腹に、そんな凍えるほどの絶望がすでにあった。もう誰も助からない。これがオレの結末か。
「なんで!オレがもっと早くこれば、助かったのかもしれない。くそっ!くそっ!」
鉄の床板に悔しさを口に嘆く。それは傍から見たら、ただの惨めで、無力なガキのままだと滑稽に思えた。いや、もうここには傍から見ている間抜けはいないな、っと自嘲してしまった。命の危機からなのか、なぜか冷静だった。
死が近いのか、五感が鋭い。先程よりも空気が震えているように感じる。本当にいま目の前にある原子炉が限界に近いらしい。肌感覚で分かる。
「結局、誰も救えなかったな。」
走馬灯のように記憶が流れ込む。あの日の夜、俺は――
「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。
まかせろって、爺さんの夢は
────俺が、ちゃんと形にしてやっから」
「ああ、安心した。」
切嗣...俺が、正義の味方になるって決めたあの日か。絶対に忘れない、忘れらない俺にとって一番大事な記憶だ。じいさんの理想を引き継ぐってそう決めたんだろ。俺の唯一の願い、か。
「なあじいさん、あんたはどうしたら正義ってことになるんだ!どうやってら助けられるんだよ。」
記憶の中で、無意識に語りかけていた。死が近づいているのか、記憶に少しずつひびが入ってゆく。衛宮切嗣が取りこぼした理想。衛宮切嗣が良しとした正義の味方。それでもこの記憶はどれだけ色あせても、失わないような気がした。
走馬灯は長くも感じたが、永遠には続かない。映像が変わる。
「問おう。あなたが私のマスターか。」
今度はセイバーか。彼女の高貴な美麗は生涯忘れまい。
俺がセイバーと出会った運命の日。セイバーの抱いていた理想はまさに尊い。俺とセイバーは似ていた、と思う。セイバーは俺に信頼は置かなかったけど、俺自身セイバーに何度も助けられた。少女は一国の王の完璧な王であった。誰もが尊敬し、畏怖し、その名が知らぬものは居ないほど。しかし彼女は完璧すぎた故に、反逆の騎士と呼ばれた
完璧を求められていた少女の心を俺は救うことが出来たのかもしれないのに。どれだけ願っていても、彼女とはもう会うことはない。このあたりから、現実の残酷さを少しずつ痛感していったのかもしれない。
「…先輩。」
桜っ!俺はずっと彼女の闇に気づいていたのに、救うことが出来なかった。いや話すことで、今までの関係がくずれるのが怖かったんだ。そう、ずっと。だから俺はずっと彼女の過去については聞かなかった。一番身近な人だったのかもしれない。それでも、俺は彼女を救いたかったのに、心に蓋をして逃げていた。桜は俺にいろいろしてくれていたな。俺がケガの時は、特にそうだった。なのに、俺は彼女に返せていなかった。
沢山の記憶たちが俺の中で溜まっていたのかもしれない。ああ、俺、死ぬのか。ここでようやく終わりが来るのか。
少年は恐怖からなのか、それとも最後に大切な
「っ!?」
なんだあれは?爆発か?いや爆発したのなら、俺はもう死んでいるだろう。
「これは、地獄の門か!?」
いやこれは見たこともない人口的に捻じ曲げらた穴いや、門が開かれた。そいつはまるで、俺を見定めるかのように原子炉と俺の間に敢然とそこにあった。
地獄の門。俺とセイバーが破壊したアンリマユは、泥を吐き出すために戦争の終わりで門が現れる。まさにそれに似てるようだが、何かが違う。直観がそう言っている。
すると、契約しろと
「契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ契約しろ」
情報だけが直接脳内に入り込む。パンクしそうだ。こいつは俺が守護者として契約する代わりにここ原子炉の事故の被害者を救うと。守護者。俺にはよくわからない今となっては知る由もないが、そいつはけいやくするだけで、500人の命が助かる。俺の答えはもうとっくに決まっている。今まで正義の味方になれなかった自分、救えなかった自分のすべてを取り返すかのように、俺は
「それで誰も泣かずに済むのなら。」
一言。穴は細い光のような物体を出し、俺の体を蝕む。痛くはない。弱い肉体が、どんどん鋼へと変わっていくのが感じられて、同時に心には安らぎを感じる。まるで、世界そのものに体が取り込まれつつあった。
そして、そう一時間もかからないうちに原子炉は跡形もなく消えた。アイツのおかげで助かったのだった。体が抑止力に蝕まれて行く。存在そのものが記録されるかのように。どうやら、契約は死後も続くというものだった。だからこそ、この体を欲していたのだろう。後悔はない。ここにいた命に比べれば安いものだ。
そう、俺はここから始まったのだ。このとき、少年の運命が大きく変わり、自分の理想に絶望するこなぞまだ誰も知らない。だが、、少年がその理想を抱き続ける限り、その少年はいつか必ず理想に追いつき、絶望し、この世を侮蔑してしまう。他人のために戦い続けた男の幕開けに過ぎなかった。
翌朝、俺は突入した救助隊に助けられ、一命を取り留めた。
「うっ...こ、ここは?」
知らない天井が見える。背中にやわらかい感触と、痛みを感じる。横をみると、点滴が釣られていて、体の至るところに包帯を巻かれているのが分かった。
「ここは病院か...?」
どうやら、あのとき契約したおかげでなんとか命は保てている。そんな感じだろう。俺が生きてこの病院にいるのはまさに奇跡。
窓から温かな春の風が入り込む。カーテンが靡き、日が差し込む。ぼっーと外を眺めていた。外には見慣れた新都の町が一望できる。下には病院敷設の野原とベンチがあり、あの災害のときに入院していた病院だと気付いた。
「またここか。」
また焼き尽くされた街を思い出す。熱さ。息苦しさ。悲鳴。心地のいい天気なのに、いつもよりも火災のことを肌に感じる。
「士郎はどっちがいいかな?孤児院に引き取られるか、おじさんと暮らすか。」
あのときの切嗣はやつれていた。病院で、ちゃんとじいさんと話したんだっけ。それを思い出すと少し懐かしい。
「じいさん、俺、どうしたら正義の味方になれるのかな。」
独り言をつい口にした。もし切嗣がいたのなら、俺は正義の味方になれるのだろうか。思うところがありながらまたぼっーと外を見ると、
「しん、じ?慎二か!?」
病院に入ってくる間桐慎二がそこには見えた。
数分のかからぬ内に病室へと彼は入ってきた。ダン!!っと扉を強く叩き、殴りこんで来た。
「おい!衛宮!心配したぞ、こっちは!!」
「おい、慎二、落ちつけ。落ち着け。俺は無事だぞ。」
本当に勢いが強くこっちにぶつかる。こっちはけが人なんだぞ。
「落ち着けるもんか!」
息を荒げ、見下ろす。涙を流しているように見えた。どうやら本当に心配だったらしい。そして俺は今までのことをすべて慎二に話した。昨日の原子炉のこと、遠坂のこと、最近のことも。慎二は俺が話すたびにイライラが溜まっているのが分かった。
「衛宮ぁ。おまえさ、自分がどれだけ迷惑かけたか分かってる?わざわざ僕が見舞いまで来たんだぜ。何かかける言葉があるだろう?」
キレ顔ながらも、心配だったことなのは確かだろう。プライドの高い慎二だから、そんな直球には言わないだけだけど。
「すまん。こんなときにも来てくれるのは流石慎二だ。助かる。」
「俺が来た理由は遠坂からの伝言。『もっと自分を大事にしろ』だってよ。まったく、なんで衛宮がさ、そんな心配されてんだよ。遠坂は寂しい目をして衛宮にそう言ってたぞ。あと、『もう二度と会いたくない』ってよ。」
痛いことを言われた。その通りだと思う。遠坂凜は正しい。自分を大切にするなど、至極当たり前のことだ。でも、俺はそれが出来ないんだと思う。
「慎二。ありがとう。遠坂に『心配してくれてありがとう』って伝えておいてくれ。」
また声を荒げ、
「なんで俺がまた言伝を頼まれなくちゃいけないんだよ!お前が言えよ!」
そう言って、怒った慎二は病室を出て行ってしまった。また外を眺める。外にはいつもの町が確かにあるが、俺の目にはやはり炎で焼き尽くされた世界が瞳に映ってしまう。ああ、いつまでこれを繰り返すのだろう。